馬鹿っぷるのクリスマス-混ぜるな!危険!_2

お兄さんのクリスマス終了のお知らせ


ああ、なんでお兄さん、クリスマス前のこの忙しい時に男の来客ばかりなんだろう…。
それこそ素敵なマドモワゼルの誘いを断ってまで……


クリスマス前、12月24日と言えば、例年ならゴキゲンでクリスマスのデートの準備をしている時期である。

今年も店の予約は相手によって変えられるように何件か入れているし、花とプレゼントも準備万端だ。

なのに、クリスマス当日の時間だけでは会いきれないお嬢さんのための予備日である24日の朝から某腐れ縁の惚気なんだか相談なんだかわからないものにつきあっている。

「で?坊ちゃん一体何が聞きたいのよ?」
大きなボストンバッグを手にいきなり駆け込んできた腐れ縁を居間に通しながら、フランスは冷えた身体が温まるようにとカフェオレを出してやる。

そしてフランス自身も自分の分のカップを手にイギリスが座っている正面のソファに座った。

出来れば…午前中いっぱいにこれを終わらせて、一人でも多くのお嬢さんに愛の国の美青年サンタとして愛のプレゼントを届けたいと思いつつそう切り出すと、不安げに揺れていたイギリスの大きな瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。

うあぁああ~~

「ちょ、坊ちゃん、タンマっ!泣くのやめてっ!お前の怖い怖い恋人様がお兄さんのクリスマスを血まみれにしにきてくれちゃうからっ!」

そう…恐ろしく過保護で独占欲が強く嫉妬深いイギリスの恋人スペインは、実はイギリスがこうやって何かあるとフランスに相談にくるのを快く思ってない。

というか…スペイン視点ではフランスの方がイギリスにちょっかいをかけていると言うことになっている。

非常に不条理だ。
だが、不条理さを訴えると10倍のダメージとして返ってくるのがわかっているので黙っている。

とにかく早急に泣き止ませないとクリスマスが命日になりかねない。

フランスは慌ててハンカチと共にイギリスが大好きなマカロンを差し出した。

イギリスはその両方を受け取ると

「食って欲しいなら食ってやる」
と、可愛げのない言葉を吐きながら、ハンカチでゴシゴシと目をこすって涙を拭うと黙ってマカロンを食べ始める。

うん…昔から泣いてても甘いものあげると泣き止む子だったよね、お前…と、フランスは遠い目で昔々、まだ金色毛虫だった頃のイギリスを想う。

とりあえずその時代から少したった頃から片思いし続けていたスペインと最近両想いになって、さあ子守と昔だまくらかしてもしかしたら性格変えちゃったかもしれない罪滅ぼしは終了…と、浮かれていたのだが、そう簡単には行かなかったらしい。

楽しいはずの付き合い始めて最初のクリスマスですでに何を挫折してるやら…と、黙ってイギリスの言葉を待っていると、3つ目のマカロンを食べ終わってカフェオレを飲んで落ち着いたらしいイギリスは、

「喜べ、ヒゲ。相談してやる。」
と、非常に上から目線でのたまわった。

うん…まあ上から目線はいつもの事だからいいんだ。
でもお兄さん、ちょっと前に坊ちゃんからこれと同じ言葉を言われてひどい目にあったような気がするんだけど…きのせい?
確か前回は愛の営みを求めるスペインに経験がないままだと嫌われるのでは?と何故か思ってしまったイギリスが練習させろと迫ってきて…もみ合っている間に当の恋人様登場。

誤解して激怒したスペインにあやうくお兄さん、お姉さんにされるとこだったね……と、フランスは視線を泳がせる。

そんなフランスの心の葛藤を今回は的確に読み取ったらしいイギリスは気まずそうに

「安心しろ。今回は文字通り口頭で教えて欲しいだけだ…」
と、付け足した。

一応あれは非常にまずかったと、フランスだけじゃなくて本人も何か思い知らされたのかもしれない。

「うん、安心したよ。
お兄さん世界のマドモワゼル達のためにもまだお姉さんになるわけにはいかないからさ…」
と、いうと、何故か自惚れるなと殴られた。

でもやはり意識を失われたら相談出来ないからか、微妙に力の調整をしているのが心憎い。

「で?何よ。」
と、促すと、イギリスは持参したカバンの中から大きな袋を取り出してフランスにおしつけた。

「とりあえず…これやる。」

「うん?なに?」
と、袋を開けてみると、見事な編みこみのセーター。

複雑な編みこみの黒いセーターで、襟元に小さなトマト。
普通ならトマト?と思うところだが、どことなくオシャレなアクセントになっている。

うん…すごく…お姉さんの危機再びな気がしてきたよお兄さん…と、フランスは心の中で涙した。


「坊ちゃん…これってさ…もしかしなくてもスペインにあげるモノじゃないの?」

もうそれ以外のなにものでもない気がするが、一応聞いてみると、再びイギリスの目にじわっと涙が浮かんできた。

「そのつもりだったんだけど…」
「だけど?喧嘩でもして渡しづらくなっちゃった?」
「喧嘩なんかしてねえよっ!」
「ですよね~」

自分で聞いておいて愚問だったと反省するフランス。

実は…スペインにとってはイギリスは何をしても可愛い最愛の天使だ。


そう…例え照れ隠しに殴られようと、

「もうな、あの真っ赤な恥ずかしそうな顔が可愛えねんっ!
あの白い綺麗なほっそい手ぇで親分の事殴ったりしたら、折れてまうんやないかって心配になったんやけど…。
あ、フランス、自分もしあの子にそんな事させて怪我でもさせたらいてもうたるからな☆」

と、何故かフランスに惚気なんだか脅しなんだかわからない電話をかけてくるくらいだ。


イギリスのえげつないほどの三枚舌外交にしても

「あの子にあんな嘘とか言わせて可哀想やわぁ…。
フランス、なんで自分代わりに騙したらへんの?
自分やったらえげつない嘘くらい平気でつけるやろ?」

と、何故イギリスの国益のためにフランスが嘘をつかないと行けないのかわからないが、まるでフランスがイギリスに対して理不尽な扱いをしているがごとく文句を言ってくる。


何をしてもアーティー可愛え、天使や~、あの子と一緒におれるなんて親分それだけで楽園や~と、もう毎日のように惚気電話をかけ続けているのだ。

きっとイギリスが何か本来なら怒らせるような事をやったとしても、スペインの脳内ではそれはイギリスの本意ではなく、フランスの差金くらいのすり替えがされかねない。

そんなわけでスペインがイギリスと喧嘩するなどということはありえないのだ。

イギリスが喧嘩売る気まんまんだったとしても無理だと断言できる。

「じゃあどうして?」
と、そんな当たり前の事を思い出してフランスがさらに聞くと、イギリスは小さな小さな声でぽつりと

「……手編みのセーターとか重いって……だから何か今から用意できる他のプレゼント考えろ……」
と、つぶやいた。

「えええ~~~!!!!!それまさかスペインが言ったのっ?!!!!!」

ありえないっ!絶対にありえないっ!!!!!
天と地がひっくり返ってもそれはありえないよっ?!!!
お兄さん断言できますっ!!と、フランスがいうと、イギリスは

「…この前遊びに行った日本の家の雑誌でそう書いてあって……」
と、下を向いて涙ぐむ。


うん…それでそれを自分に当てはめちゃうのが坊ちゃんだよね…と、フランスはため息をつく。

「大丈夫…これね、スペインにあげたらあいつ小躍りするから。
それでなくても坊ちゃん手先は器用だし、普通の市販品よりよっぽど良く出来てるよ。」

フランスはセーターを手に立ち上がってイギリスの隣に座ると、ポンポンと肩を叩いてやる。

そこにヒヤリとした空気…。

「フランス…自分何やっとるん?」
太陽の国のくせに背筋が寒くなるような全てを凍りつかせるような声…。

うん、お兄さんに言わせれば、お前こそお兄さんの家でいきなり何やってるのかな?って言いたいわけなんだけど…それを言ったらクリスマスを前にお兄さんのお葬式出ちゃうから言わないでおく。

代わりにグイっと手に持ったセーターをスペインに押し付けた。

「なん?」
と、一瞬気温があがる。

「えとね…坊ちゃんがお前のために編んだセーター。
手編みなんて重くないかってお兄さんのとこに相談にきただけ。
お兄さんは重くないから安心してあげなさいってアドバイスしただけだからっ!」

…というフランスの言葉はすでに誰も聞いてない。

「ア~ティ~!!!!これ親分のために編んでくれたん?!
アーティーが親分の事思いながら一目一目編んでくれたなんて、親分めっちゃ感動やっ!!!
嬉しいわ~!!!大事に着させてもらうなっ!!!」

隣で真っ赤になって硬直するイギリスに何度もキスをするスペイン。
そのうちくちづけが深くなってきて、重ねた唇の合間から濡れた音が漏れ始め、フランスは嫌~な予感に冷や汗をかく。

まさか…ここで始めたりしないよね?
どうしてもなら客室貸してあげるからソファーはやめてっ!!!
そう叫びたいところではあるが、命は惜しい。

フランスが悩んでいると、どうやら腰が抜けてしまったらしいイギリスがグッタリと膝から崩れ落ちそうになったところで、スペインがようやく唇を放して、イギリスをまたソファに座らせた。

そしておもむろに上に着ていたセーターを脱ぎ始める。

「ちょ、ここではやめて~~!!!客室貸すからっ!!!!」

ソファをアレで汚されたり、居間がアレ臭くなったりするのはさすがに勘弁だ。

思わず悲鳴をあげるフランスを
「何言うてるん。着替えるだけや」
で、スルーしたスペインはそのままイギリス作のセーターを身に着けて、ソファにへたり込んでいるフランスを見下ろして、フフンと鼻で笑う。

うん…別にお兄さんは坊ちゃんのセーターが欲しいとか思ってないから…勝ち誇られても…と思うものの、それも空気を読んで黙っておく。

「フランス、自分なに勘違いしとるん?
あの時のアーティーの可愛え姿をそうそう他のやつに見せられるわけないやん。」

という言葉にも、勘違いしてるのはお前の方です!という言葉を心の中でだけ返しておいた。

もうこれで仲直りして帰ってくれるならどうでもいいや、お兄さん。
そう思っていると、イギリスのまさかのデレ。

「まあ…今回は感謝しておいてやる…」

ってそこでいきなり真っ赤な顔でお兄さんの服の裾をつかんでデレないでぇっ!坊ちゃんっ!!!
感謝してるなら彼氏の前ではお兄さんの存在は忘れてちょうだいっ!お願いしますっ!!
とのフランスの心の叫びはとどかず、せっかく機嫌の良かったスペインの表情が少し黒くなっていく…。

「やっぱ一発だけ殴らせてなっ☆」
黒い笑みでポキポキ指を慣らす帝国様。

これはもう一発は覚悟するしか…と思っていると、こぶしを握るスペインの腕を、なんとイギリスがソッと掴んで止めた。

やっぱり坊ちゃんもさすがにお兄さんのありがたさにきづいたのね…とフランスが思った一瞬後、その口から出てきた言葉は…

「せっかくのセーターがフランスの血で汚れるのは…悲しいかもしれない…」

うん、わかってましたよ、この子の思考性は。

「あ~、せやな。フランス殴るごときで大事なセーター汚してまうとこやった。
危ない、危ない。アーティー止めてくれておおきにな。」

と、とたんにデレーっとした表情でまた今度はイギリスの額に口付けるスペイン。

お願い、さっさと帰って、この馬鹿っぷるっ!!!
と、その心の声は神様に届いたのか、二人は
「じゃ、アーティーの家で一緒にクリスマス祝おうか~」
と、帰って行く。

ああ、それでもこれでお兄さん、あの馬鹿っぷるから開放されて可愛いマドモワゼル達と楽しいクリスマス送れるんだね…と、ホッと一息ついたのは甘かった……とフランスが気づくのは、その直後

「あ~、なるほどねっ!あれが噂のストーカーなんだねっ。
イギリスは馬鹿だからストーカーされてるなんて全然気づいてないから、気付かせてあげないとねっ☆
フランス、君も協力するんだぞっ。」

と、お前も何故ここにいるの?お前はイギリスのストーカーじゃないの?とツッコミをいれるしかない超大国がドアの向こうから顔をのぞかせた時だった。

お兄さんの楽しいクリスマスはまだまだ始まらない。



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