長期休暇を取って遊びに行った先の日本で、スペインとイギリスの関係を知った日本にスペインの自宅へと逆戻りさせられたフランスを待っていたのは、ボキボキと怖い笑顔で指を慣らすイギリス。
スペインが先に立って日本を居間に案内して取り残された玄関先で、元ヤン時代さながらのパンチをくらい、さらに襟首を掴まれていると、慌てて玄関先に戻ってきたスペイン。
「アーティー、日本にアーティーの美味しい紅茶淹れたってくれる?」
と、もうドロドロに甘い声でイギリスを奥へと促した。
その様子に助けてもらえるかとホッとしたフランスだったが、奥に消えていったイギリスを見送ったあと振り向いたスペインの顔が怖い。
「自分…親分のアーティーに何しとったん?」
地の底から聞こえてくるような低い声。
「いやいや、ちょっと待ってっ!どう考えてもお兄さんが殴られていただけでしょっ?!」
「はぁ?!自分がアーティーにちょっかいかけよったから、あの子が自衛のために殴ったんやろうがっ!可哀想にっ!親分、目ェ放すんやなかったわっ!」
「おいおいおいっ!!お前どんだけ坊ちゃんに夢みてんのよっ?!」
「ああ゛~?!あの子はもうどう見ても夢の国から来た天使やろがっ!!」
「へ?」
「へ?じゃないわっ!!自分のその目は節穴かっ?!そんな節穴みたいな目やったら要らんやんな?!」
ボキボキと指を慣らす元祖元ヤン。
単純な腕力ならどう考えてもイギリスよりは強い。
まだイギリスにもう一発殴られた方がマシかもしれない。
「ちょ、待ったっ!!坊ちゃんヘルプ~~!!!!」
パタパタと慌てて居間に逃げるフランスと追いかけるスペイン。
丁度日本に紅茶の入ったティーカップを渡そうとしていたイギリスは、それを見て呆然とカップを落とす。
その目からポロリと涙が溢れ出すのを見て、スペインが慌てた。
「堪忍っ!びっくりさせてもうて堪忍な~」
と、フランスの存在など忘れ去ったような様子でイギリスを抱き寄せる。
しかしそのスペインの胸板をイギリスはこぶしで叩いた。
「なんでフランス追いかけてんだよ、ばかぁ!」
え?そこ?突っ込むのはそこだったの?坊ちゃん??
ぽか~んとするスペインとフランス。
しかしすぐ我に返ってスペインは嬉しそうな顔でイギリスを更に強く抱きしめる。
「誤解やで。単にあのボケがアーティーに悪さしたのかと思うてどついてやろうとしててん。可愛えアーティーがおるのに、あんなんに手ぇ出すわけ無いやん」
と、もうそこにフランスや日本がいるのを忘れたかのように、イギリスの額、頬、鼻先、唇と、顔中にキスを降らせるスペインと、
「くすぐったいっ。やめろよ、ばかぁ!」
と言葉では言いつつも、クスクス笑うイギリス。
もうお兄さんやだ…帰りたい…帰ろうよ、日本…と、フランスは視線を送るも、日本はその馬鹿っぷるをキラキラした目で観察しながら、写真を取りつつノートにペンを走らせている。
「スペイン…キッチン借りるね?」
と、一応声をかけてこの異様に甘い空気から逃げ出すことにしたフランスの背中に
「あ、ヒゲ、俺マカロンがいい!」
と、そこだけは聞いていたらしいイギリスからのリクエスト。
そして…無言だが刺すような殺気を含んだスペインの視線。
うん…今度スペインに作り方を教えておくから…お願い、お兄さん巻き込まないで。
お兄さんのHPはすでに0よ…。
いちゃつく馬鹿っぷるとそれを楽しく見物する日本。
そんな3人を放置でキッチンにこもるフランス。
マカロンを作る片手間に、せめてもの気晴らしをと、スマホで馬鹿っぷるに虐げられるお兄さんに愛の手を…と、ブログに書いてため息をつく。
そこで…さらにプロイセンにでも愚痴ろうかと切っておいた極々私的な知り合いにしか教えてない携帯の電源を入れた瞬間…ピロピロピロピロすごい勢いで鳴り響くメールの着信音。
え?何?なんなの??
と、メールを開いてフランスは即携帯の電源を切った。
『from:アルフレッド title:一体どういう事だい?! 』
『from:アルフレッド title:ちょっと今君どこいるの?! 』
『from:アルフレッド title:冗談だよね?! 』
『from:アルフレッド title:ありえないんだぞっ! 』
『from:アルフレッド title:返事するんだぞっ! 』
『from:アルフレッド title:状況しだいでは俺にも考えがあるんだぞ! 』
以下数十通…同じ人物からだんだん殺気じみてくるタイトルのメールが並んでいて、フランスは青くなって頭を抱えた。
一体お兄さんが何をしたっていうの?!
次の会議は半月後ヨーロッパ会議だし、その後、1か月後にある世界会議まではプーちゃんの所にでも転がり込もうか…。
ドイツの家ならEUの仕事の打ち合わせもできるしね…
ということで、次の会議まで身を隠そう…うん…どうせなら可愛いあたりに癒されたいね…。
遠い目をしたフランスの指はよどみなく南の島の少女の元へ行くチケットを予約している。
超大国が押しかけてくるまでに…と、大急ぎでマカロンを焼きつつレシピをメモり、フランスはソッとスペイン宅を脱出して南の島へ。
幸せな半月後、よもやヨーロッパ会議が暴風雨になる事は、さすがにフランスもこの時はまだ知るよしもなかった。
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