蜂蜜の海・わたあめの雲_2

馬鹿っぷる誕生


男のくせに可愛らしいほど柔らかい震える唇。
スペインがソッと自らの唇を触れさせると、ドン!と肩を押された。

「…嫌なん?」

熱のせいで潤んだ瞳、真っ赤な顔…嫌だと言われても可愛らしすぎて我慢できそうにないが一応聞いてみると、イギリスは心底困った顔でぎゅっと目をつむる。

うん…煽られとるん?と、スペインが思わずため息をつくと、小さな小さな声で

「……感染るから……」
というイギリス。

なんや、そんな事か~と、スペインは笑う。

「感染るんならむしろ歓迎や。アーティーがしんどいより親分が熱出たほうがよっぽどええわ。感染したって?」

耳元でそう囁くと、ひゃっと肩をすくめるのが初々しくも愛らしい。

クスクス笑いながらそのままチュッと耳にくちづけた後、

「どうせなら水分取ろうか~」
と、ミネラルウォータを口に含むと、スペインはそれを口移しでイギリスの唇に流し込んだ。

それには抵抗もせずコクコク飲み込むイギリスの様子に、心が満たされていく。

「どないしたん?」

全てを飲み込んだ後、ぼ~っと考え込んでいるイギリスにそう声をかけると、イギリスはまんまるの目でスペインを見上げて、邪気のない様子で言った。

「いや…口移しって…唇は温かいのに水は冷たいんだなって…」

この子は~~~~!!!!
スペインはその場にへたり込んだ。

なんでこう…無意識に自分の心の弱い部分を鷲掴みにするようなセリフを吐くのだろうか…。

可愛すぎて襲いたい気持ちと、可愛すぎて邪なもの全てから守ってやらなければ…という気持ち…2つの気持ちがせめぎ合う。

しばしの葛藤…。

いや…少なくとも治るまでは襲ったらあかんやろ……と、なんとか気持ちを立て直して食事をさせた。

弱っているせいか抵抗が無駄だと思っているのか、自分が運ぶスプーンをパクンパクンと口にする様子は、小動物の赤ん坊に餌をやっているようで、めちゃくちゃ楽しい。

食器を片付けて来ようとすると、ジ~っと澄んだペリドットが自分の姿を追ってくるのが可愛らしすぎて、それを後にして、薬が効いてイギリスが眠ってしまうまで側についていて、寝入った後にソッと片付けに行く。

とりあえず…来月早々のヨーロッパ会議までは特に大きな仕事もない。

スペインは仕事を全て自宅でする旨を上司に連絡し、仕事道具を寝室へと運び込んで、イギリスが寝ているうちにと仕事をする。


「…スペイン……」

明かりを少し落とした部屋の小テーブルで書類に向かっていると、小さな声がして、白い手が伸びてくる。

「ああ、眩しかったか?堪忍な。」

スペインがペンを置くと、イギリスはフルフルと首を横に振った。

「仕事あるのに時間取らせてゴメンな…。俺…明日には帰るから…」

熱で少し掠れた声の弱々しさに、スペインは

「そんな事言わんといて」
と、完全に書類を置いて、イギリスに目を向ける。

「親分今仕事しとるんは、アーティーが起きとる時は一緒に過ごしたいからなんやから。
アーティーがイギリスに帰る言うんなら親分もついてくで?」

「でも…」
ポロリとまたペリドットの瞳から涙がこぼれた。

「こんなことしてたらお前も疲れて俺の事嫌になる…」
「ならへんよ」
「なる。俺はそれでなくても気持ちが重いから…」

「アーティー…」

シャクリを上げ始めるイギリスを半身起こさせて、スペインはぎゅっと抱きしめた。

「あのな~、親分な、ホンマはアーティーの事、この家から出したないんやで?
親分以外見せたないし、親分の事以外考えさせたない。
他に気ぃ取られて離れたいなんて言われたら、相手きっと殺してまうわ。
アーティーが嫌や言うても、もう絶対に放したれへん。
自慢やないけど、気持ちの重さやったら誰にも負けへん自信あるで?」

思わずそう言い募ったら、イギリスが硬直した。

しもたっ!引かれたっ!と、焦ったスペインが腕の中に目をやると、ふるふると震えながら、イギリスが顔をあげる。

きゅっとスペインのシャツの胸元を掴んで、上目遣いに見つめる目は潤んでいて、もう…どないしよ…と思うくらい可愛いわけだが……。

「…ホントか?」
「へ?」
スペインが思わず間抜けな返事を返すと、

「…別に……離したくないなら離されないでやってもいい…けど…」
と、真っ赤になってうつむく。

うあぁあ~~そうくるんかぁ~~~!!!!

後に…そのことを某ヒゲの悪友に話したら

『なに、それっ!こっわぁ~~~~!!!
お兄さんなら絶対に無理っ!引くわっ!!ありえないっ!!!!
坊ちゃんで良かったねェェ~~~~!!!!』
と、思い切り引かれて、腹がたってボコることになったわけだが……


とりあえず引かれないどころか他に言うと確実に引かれるレベルの重い愛情を素直に喜んでもらえた事に、スペインは心が満たされていく。

可愛くて優しい自分だけの愛しい子。

「親分…自分の事めっちゃ大事にするからな。何でもしたる。せやからずっと側におってな?」

うつむいたため見える可愛らしいつむじに口付けると、腕の中の愛し子はきゅうっとスペインの背中に手を回して抱きついた。



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