そこについた時なぞは解けた。
宿を兼ねた冒険者の酒場。
そこでプロイセン達はよく見知った顔を再度見る事になる。
「くっそー!!!もうちょっとだったんだぞっ!!
明日また行くからね、日本っ!」
と、店に入った瞬間に響き渡る超大国の声。
それに対して
「…ちょっとではないと思いますが…ええ、まいどまいどアメリカさんを抱えて撤退するにはじいの腰もそろそろ厳しく……」
とそれに続いて聞こえる低い声は、若干いらだちを含んでいる気がする。
「…せっかく不意をつくつもりだったのに、あとから来た誰かさん達が台無しにしてくれて、僕らまで撤退する羽目になっちゃったの、責任取って欲しいよね…コルコルコルコル……」
と、さらにプロイセンが少々苦手な国の声の影で
「魔王を倒したら兄さんと結婚…結婚…結婚…」
と、ぶつぶつと呟く少女の声がして、ロシアは悲鳴をあげ、
「君…実はここで大人しく待ってた方が安全なんじゃないのかい?」
と、その悲鳴にアメリカが呆れたようなため息をついた。
ああ…入りたくねえ…とプロイセンは思うものの、宿はここ一軒しかない。
自分だけなら迷う事なく街の外で野宿だが、体力のなくなっているイギリスに負担を与えたくない。
…というか、中から
「あーあ、魔王城の宝って現実に持ち帰れねえのかよ」
という呟きが聞こえて来た時点で、止める間もなく
「ロマー!!!無事やったんやねっ!親分やで~~!!!!」
と、スペインが中に飛び込んでしまっている。
「仕方ないね。俺らも行こうか」
と、苦笑して続くフランスと、そのあとにさらに続くトリック。
大勢の知人がいるその酒場に入るのをちょっと躊躇するイギリスに気づくとプロイセンは
「大丈夫。フランスにすらバレなかったんだ。バレやしねえし、万が一バレても最初に言ったろ?
俺様のせいにしてもらって構わねえし、何か言われたって俺様が絶対に守ってやる」
と、その肩を抱いて一緒に酒場に足を踏み入れた。
酒場内には案の定、先日の会議に参加していた主だった顔ぶれがそろっている。
おそらくプロイセン達はアリスが熱を出して1週間ほど休んでいたので到着はかなり遅い方だったのだろう。
それでもまだ魔王が倒されていないと言う事は、かなり難敵なのだろうか…。
ざわりとざわめく酒場内。
自分達の他にはあまり現地人とパーティを組んでいる国はいなさそうだ。
「旦那、このあたりまとめて空いてますぜ」
と、それなりににぎわっている酒場でまるまる空いている大きな丸テーブルをみつけて、フランスをひっぱっていくトラックにまず自然が集まり、しかし、大勢がそちらに気を取られている隙に…と、酒場を通り抜けて宿の方へと向かおうとしたプロイセンの前に、ハート形のくるんを揺らしながら、両イタリアが駈けだしてきた。
「ベッラッ!可愛いっ、可愛いベッラっ!ギルベルトの連れ?
ちゃおちゃお、俺、フェリシアーノっ!ギルベルトの友達で、パスタとピッツァが好きなおちゃめさんだよっ!よろしくねっ!!」
と、パタパタと手を振りながら言うイタリアの後頭部を
「この馬鹿弟っ!ベッラは疲れてんだから休ませてさしあげろっ!」
と、ガコン!と殴り、南イタリアは
「初めまして、お嬢さん。俺はロマーノ。
良ければこちらの席に…。
飲み物でも奢らせくれ」
と、胸に手をあててお辞儀をすると、自分達のテーブルの空いている席の椅子を引いた。
それに対してプロイセンのマントをぎゅっと掴む気配。
こちらにいる間はもうどうせ色々力がないのだしと、諸々をプロイセンに任せてしまう事にしたらしいイギリス。
可愛い…。
「お姫さん、色々あって若干知らない人間が苦手になってるんだ。
俺様も一緒でいいか?お兄様」
と、その無言の要請を受けてプロイセンが問えば、普段なら色々言うのであろうロマーノもレディの前だと態度が違う。
「仕方ねえな」
と、あっさりと頷いた。
そして…さきほど先に入っていったスペインはというと、プロイセン達が店に入ってから微妙な位置に立っている。
アリスとプロイセンが席につくとまた立ち位置を変えて……。
「お前は何してんだよ?座らねえのか?」
とロマーノが問えば、
「親分はええねん」
と、別の方向を見ながら、相変わらず立ち続けているので気にしない事にした。
「可愛いね、可愛いね、ベッラ。
何食べる?
ここはね、これが美味しいんだよ」
と、にこにことメニューの説明をし始めるイタリアと、
「とりあえず飲み物だな。
ノンアルコールだよな?
飲めない物あるか?」
と聞いて、ないと答えると適当に注文をするロマーノ。
どちらもある意味ヘタレと言われるくらいには力がないだけに緊張をさせないので、イギリスもなんだか楽しそうだ。
「ギル、ギルは何が好き?」
と、自分に振ってくるその目は美味しい食べ物飲み物と楽しさにキラキラしている。
そう言えばイギリスはフランスに育てられただけに料理の腕はアレだが意外に美味しい物は大好きだ。
更に言うなら、美食の国イタリア兄弟が勧める食べ物飲み物は確かに美味いので、楽しくもなるだろう。
プロイセンがイギリスが美味しい食べ物を目の前にしているのを目にする時はたいていイギリスに色々言ってくる他国が一緒なので、ただただ美味しい物を素直に楽しめるような所を見る事はなかったが、はしゃぎながらイタリアとイギリスが食べさせあっている図は本当にどちらも愛らしく、スペイン風に言うと楽園だ。
ここは天使達のいる天国だったのか?とおおげさじゃなく思う。
そんな光景を目にしながら、ああ、またイギリスの可愛いところを発見しちまったぜ!とにやにやしていると、後ろから大きな影。
「フェリシアーノっ!お前武器の手入れもしないで……っと…、兄さん、着いてたのか」
怒鳴りかけて同席しているプロイセンに気づいたらしい。
「おう、お前もお疲れさん。
まあ座れよ。過ごさない程度に飲もうぜ?
ついでにそっちの近況報告しとけ」
と、プロイセンがイギリスと反対側の隣の椅子を引いてやると、すまない、と、ドイツは素直にそこに座って、ビールを注文した。
ドイツは最初の街でまずイタリアを探したらしい。
しかし最初の街にいたのは自分だけだったので、隣町へ。
そこでようやくロマーノと一緒にいたイタリアを回収して、それからこの魔王の城へ一番近い街を目指して3人で旅をしてきたという事だ。
一応シーフと詩人ではあるものの、戦闘ではほぼ戦わない2人を連れているので、極力無駄な事はせず、ひたすらに獣を狩ってそれを売り、それで旅をする事20日。
なんとこの街に1番乗りをしたらしいが、魔王を倒す気などさらさらないイタリア兄弟が連れなので、日本かプロイセンを待とうと思って待っていたのだが、日本はアメリカに同行。
なのでプロイセンを待っていたと言う事である。
「そう言えばさっきアメリカがまたダメだったとか言ってたけど…手ごわいのか?」
ファンタジーの世界なのにちゃんとビールがあるのは素晴らしい。
そして…揚げた芋も美味い。
弟と2人、飽くまで元の世界とたいして変わらない物を飲み食いしながら話すプロイセン。
それに対してドイツはちらりとイタリア兄弟に視線を向けた。
「ああ、イタリア達が兄貴達が来るのを待てと強固に言うので待っていたのだが……」
との弟の言葉にひっかかりを覚えてプロイセンは眉を寄せる。
脳内を色々がクルクル回り、そして結論。
「悪い、ヴェスト、俺様席を外したいからその間お姫さんの事、任せていいか?
出来れば他がちょっかいかけてこないように死ぬ気で守って欲しいんだけど……」
「あ、ああ?
わかった…が?」
「ああ。ちょっとな。フェリちゃんに確認してえ事があって…
でもお姫さん、ちょっとあちこちで狙われたり誘拐されたりしてっから」
「そういうことか。
わかった。安心してくれ、天地天命にかけて守ろう」
「ダンケ。それでこそ俺様の弟だ」
と、プロイセンはこの世の誰よりも信頼している弟の肩にポンと手を置くと、ちょっとごめんな?と、イギリスとイタリアの間に割り込んだ。
「フェリちゃん、ちょっと確認してえことがある」
と暗に場所を変えようとイタリアの腕を取ると、それも予測をしていたのだろうか。
「うん、いいよ。じゃ、アリスちょっと待っててね」
と、イギリスに微笑みかけて、プロイセンにうながされるまま、廊下へとついて行った。
こうして2人で薄暗く人気のない廊下の隅。
壁にもたれかかるようにして
「で?俺に何を聞きたいの?プロイセン」
というイタリアは、さきほどまでアリスの横で浮かべていたほわんほわんとした天使の笑みから一転、その笑みにはチラチラと毒薬と陰謀渦巻くイタリアの闇の顔が見え隠れする。
それを見てプロイセンは、あ~やっぱりか…と、両手を腰にあて、俯き加減に息を吐き出した。
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