世紀の馬鹿っぷる誕生まであと少し…
「ね、スペイン。お前さ、坊ちゃんの記憶が戻ったらどうする?
また素直じゃない態度になるかもしれないけど?」
フランスは最後になるかもと思いながら、おせっかいを焼いておく。
そして…
「そんなん、甘やかすに決まっとるやん。
親分、何百年素直やないロマの世話しとったと思うん?
本質がこんなんやってわかったらもう思い切り甘やかしたるわ」
うん…まあスペインはそうだろうね…と、納得する。
問題は…今また熱を出して寝込んでいる坊ちゃんの方で……
「とりあえずは自分が言うた事が誤解やって、親分はホンマにアーティーが可愛えんやって事伝えて、信じてもろて…」
「一度裏切られたと思っちゃったものを信じると思う?」
そう…フランスは結局信じさせることができなかったわけだが…
「信じるまで言い続けるに決まっとるやん。
やって、それ信じさせたらな、この子ずっと傷ついたままやで?
なかなか信じてもらえへんでも、罵られても、言い続けなあかんわ」
当たり前にそう断言し、おそらく本当にそういう行動を取れるのであろうスペインが少し羨ましい。
同じように大陸で同じようにローマ爺の元で同じように他国に囲まれて育ったのに、一体どこで違ってしまったのだろうか……。
フランスには…たとえそれが最終的に本人のためになるかもしれなくても、耳を塞ぐ手を無理矢理はがして伝え続ける事など出来ない。
いつか自分から手を外して耳を傾けてくれるかも…そんな僅かな可能性に期待してソッと寄り添い続ける事しかできないだろう…。
しかし長い時間放置されていい加減固まってしまった不信感を払拭するにはきっとそんなことではダメなのだ。
スマートでなくても美しく飾り立てる事もなくとも、ただひたすらにがむしゃらに思っているそのままを伝えて行く…そんな部分が必要なのかもしれない。
結局イギリスが目を覚ましたのは丸一日後。
ぽやぁ~っとイギリスがその目を開けた瞬間、スペインは安堵に号泣した。
その勢いに一気に意識が覚醒したらしく硬直するイギリスを抱きしめる。
「もうやめたってなっ。飛び降りるなんてやめたってっ!
そのくらいなら親分の事殴ったって刺したってかまへんからっ!!
自分傷つける真似なんか絶対にアカンっ!」
約束したってっ!!とすごい勢いで迫られて、勢いに押されてコクコクうなづくイギリス。
どうなっているのかわからない…と思い切り顔に描いてあって、さらに傍らのフランスに気づくと、(説明しろっ!)と、目線を送ってくるところを見ると、どうやら記憶は戻っているらしい。
フランスが自分が知るかぎりの事情を説明してやった後に、
「ところで坊ちゃん…今記憶戻ってる?」
と聞くと、案の定うなづいた。
「じゃ、もう大丈夫だよね?お兄さん帰るわ…」
「ああ…じゃあ俺も…」
立ち上がるフランスのコートの裾を掴むイギリス。
ちょ…坊ちゃん何やってんの?!と叫ぶ余裕もなく、ザン!!とフランスのコートの後ろ部分がいつのまにか復活したハルバードで無残になくなった。
背中すれすれで綺麗に破れている布の切れ端がイギリスの手の中に残っている。
一気に下る室温。
「アーティー、まだ熱下がってへんのやから、寝てなあかんよ?」
と、しかしそれだけは慈愛に満ちた声音で告げられて、硬直したイギリスの手から元フランスのコートだった布が取り上げられる。
そして…当然抵抗など出来ないまま再びベッドに横たわらされるイギリス。
「ちょっとだけ大人しゅう寝とってな?今、ゴミ出しついでに食事温めてきたるからな」
飽くまで優しくにこやかに言うイギリスに対する言葉。
そしてクルリとフランスを振り返った時には一変して鬼の形相だ。
そうだ…こいつはこういう奴だった。
懐に入れた相手には惜しみなく限りない愛情を注ぐ愛情深い男だが、それと同時に恐ろしく嫉妬深い…独占欲の塊のような奴でもある。
「お…お兄さん帰りたいなっ。帰るねっ」
(置いていくなっ!あとで殴るぞっ!)
と訴えるイギリスの視線なんか可愛いものだ。
(無理っ!お兄さんコートと同じ運命たどりたくないっ!)
と、首を横に振って耳を塞ぎながらフランスはスペイン宅を飛び出した。
あとはほら、そうだよ、スペインがなんとかするよっ!
わかってくれるまで言い続けるって言ってたし?
スペインがこうと思った瞬間、もう絶対に折れない馬鹿っぷる誕生のフラグが立っているのだ。
あとはもう時間の問題。
フランスが関わろうと関わるまいとなるようにしかならない…。
それでも怖いので戻って部下に怒られながらも長期休暇を取って日本の家に駆け込んでオタ充したフランスが、事情を知った日本に首根っこを掴まれて馬鹿っぷるの巣と化したスペイン宅へと一緒に連れて行かれたのはそれからさらに1週間後。
しっかり馬鹿っぷるハッピーエンドだったのにイギリスには、あの時自分だけ逃げやがってと殴られて、スペインには情熱的に燃え尽くすような嫉妬をされて、さらに砂糖を吐きそうな甘さを避けるためにキッチンで自分を虐げるカップルのために料理を作り続ける事になり、
『馬鹿っぷるの犠牲者、可哀想なお兄さんに、誰か愛の手を!!』
そうスペイン宅からブログに書いたなら……いつのまにか切れていた携帯の電源を入れた瞬間、某超大国から鬼のような勢いでメールが入っていて……フランスは黙ってまた携帯を切って、今度は可愛いセーシェルにでも癒されようと自宅に帰らずに南の島へのチケットを取った。
そこで次回のヨーロッパ会議で何故か某超大国に乱入されるのはまた別の話。
フランス兄ちゃんの受難はまだまだ続くのであった。
0 件のコメント :
コメントを投稿