諦める愛、諦めない愛
「アーティー、しっかりしいや。親分がついとるからなっ。」
再度熱を出して眠っているイギリスにポロポロ泣きながらそう語りかける旧友を、今、フランスは信じられない思いで見守っていた。
色々驚く事ばかりで、フランス自身にも考える時間が必要だった。
お玉で殴られた衝撃から早々に立ち直ったフランスが見たのは、来客用の寝室の前ですごい形相でハルバードを振りかざしているスペインで…止めなければっ!と慌てて駆け寄った瞬間、ドアをそれでかち割ったスペインがそのままハルバードを投げ出したため、あやうくフランスもドアと同じ運命をたどりかけて、悲鳴を上げて避けることになった。
何が起こっているのかよくわからず、それでもさらにスペインを追って部屋に入ると、バルコニーから飛び降りようとしているイギリスと、悲鳴を上げてそれを止めようと駆け寄るスペインが目に入った。
落ちるイギリスとそれを追うように落ちていくスペイン。
フランスが慌ててバルコニーに出て下を覗くと、どうやらスペインは自分が下敷きになってイギリスをかばったらしい。
信じられない事だが、とっさにそういう行動に出るほど、少なくともスペインの側には何かイギリスに好意を抱く出来事があったのだろうと、さすがにフランスも思う。
「おい…大丈夫かっ?!」
と、バルコニーの上から声をかけると、
「うっさいわっ!大丈夫やないっ!!自分あとで潰すから覚えときっ!!!」
と、怒鳴り返してくるところを見ると、見た目のズタボロさの割りには大丈夫そうだ。
「えっと…坊ちゃんどこ寝かすの?!」
まあドアが粉砕されていてもベッドは無事だからこの客間でもいいのかもしれないが、何故か使われている気配がないので、使うなら準備をと思って聞くと、
「俺の部屋に寝かすから放っておいてやっ!」
と、答えが返ってきた。
うん…お前ら一体どうなってるの?と、そこで改めて思った言葉はとりあえず飲み込んでおく。
こうしてフランスはスペインの寝室へと移動した。
「ね、少し食べておいたら?」
フランスはスペインが作っておいた食事を温めて持ってくるが、スペインは
「要らんわっ!」
とかぶりをふる。
スペインの言葉をそのまま信じるなら、イギリスは頭を打って記憶を失って、さらにここ数日風邪で寝込んでいたとのことだ。
そして国としての記憶を全部取っ払ったイギリスは思いのほか可愛らしく、すっかりほだされてしまったと、そういう事らしい。
元々感情だけで生きているような男だ。
更に言うなら与えるのが大好きで頼られるのも大好きで…そんな男が記憶を失って頼るものもなく心細げにしている愛情に飢えたイギリスから甘えられたら、そりゃあメロメロになるだろう。
おまけにスペインが大好きな童顔だ。
絆されない方がおかしい。
おまけに付け加えられた恨み言いわく…元々はこんなに可愛らしいイギリスがあんなに素直じゃない態度をとるようになったのは、寄ってたかって傷つけ裏切った実兄やフランス達から自衛せざるを得ない状況に追い込まれたのが原因だという。
うん…まあいいか。今更それ言われてもお兄さん痛くも痒くもないよ。
と、フランスは安堵とともに思う。
それでこの可哀想な幼馴染の痛々しいまでに切ない初恋が叶うなら、お兄さんいくらでも悪者になってあげるよ…と、心の中で苦笑した。
自分と違って一度懐の中に入れて守ると決めた相手には色々を度外視で全ての愛情をドバドバとはた迷惑なほど注ぎこむこの男なら、きっと愛情に飢えきったイギリスの心も満たしてくれるだろう。
そして…幼い頃から愛情を渇望し続けて与えられなかったがゆえに底なしに求めるイギリスなら、普通の人間なら窒息しそうな勢いで溢れ出るスペインの愛情を受け入れてやれる。
まあ…愛が重い者同士、お似合いだ。
二人とも愛が重いならむしろ普通の者より深く長くハッピーエンドだ。
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