アーサーさんが頭を打ちました-後編_1

お兄さんは心配性


「今日で4日か…」

フランスがそう言ってため息をついているのは自宅ではない。
ロンドンにあるイギリスの自宅。

この家は不思議な事に鍵らしい物は見当たらず、訪問者の事をどうやってか自動認識してドアが開く。

ロンドンの世界会議後…おそらく落ち込んでいるのではないかと、フランスはイギリスが落ち着くのを一晩ホテルで待って、翌日、菓子の材料を持ってイギリス邸を訪ねた。
ドアは当たり前に開かれた。

家主が帰った気配のないイギリス邸で、フランスはイギリスが好きな菓子を焼きながら、どうせどこかでヤケ酒でも飲んでパブっているのだろうとイギリスの帰宅を待つ。

しかし家主は帰宅すること無く早4日。
さすがに心配になってくる。

大英帝国として一時代を築いたイギリス…元ヤンなどと称され強いように言われているが――実際まあ強いわけではあるが―― 意外にメンタルが弱いということに気づく人間は少ない。

が、弱いのだ。
その弱さときたらそのヘタレっぷりからヘタリアと揶揄されるイタリアと比べてすら、劣るくらいに…

そのくせ弱みを徹底して見せないため助けの手を伸ばされない。
…そう…赤ん坊の頃からその本質を見続けてきたフランス以外からは……

「やけになってないといいんだけど…」
と、家主のいない家でハラハラとしてフランスは待ち続けた。





あの日の会議は本当にタイミングが悪かった。

イギリスが主催の世界会議。
その前にEU内のアチコチの国々との会議続きで、ドイツは疲れていた。

普段なら若干諦めもあってそこまで追求しないスペインの会議中の内職が非常に気に触ったようだ。
最終的にこれ以上そういう態度を取るならスペインとの関係を考えるとまで言い始めた。

正直、現在EU全体的にも言えることだが、スペインの経済もまた宜しくない。
EUを引っ張っているドイツに見限られればかなり大変な事になる。

ゆえに…イギリスが主催国として動いた。

それ以上ドイツに言わせる前にスペインの内職道具を取り上げ、会議終了後まで自分が預かる旨を宣言することで、ドイツをなだめる。

自分が怒っている相手に対してしかるべきペナルティが与えられた事でドイツの気も収まったのか、それ以上の追求及びペナルティは避けられた。

あの速やかな行動がなければ、もっとおおごとになっていたと思う。
実に適切で冷静な行動だった。

…相手が他の国ならば……





もう…色々相手が悪かったとしか言いようがない。

よりによってイギリスを嫌っている…そしてイギリスの方は逆に秘かに想いを寄せている相手、スペイン。

案の定スペインの不満は原因を作った自分を省みる事なく、そして機嫌の悪さからいつもよりキツく追求したドイツでもなく…よりによってスペインの身を慮って行動したイギリスに向けられる。

素知らぬフリをしていたが、あれはイギリスにしてもキツかっただろう。

素直に慰められてはくれないだろうが、せめてヤケ酒くらいは付き合ってやろうと会議後探したのだが見つからなかった。

諦めて一旦帰りかけ、でもふと思いついてアメリカに電話をかけてみる。

イギリスが落ち込んでいる時にわざわざアメリカに声をかけるとは思えないが、イギリス大好きっ子のアメリカが空気を全く気にせずイギリスをディナーに誘っている可能性はある。

そして…どんなに自分が落ち込んでいようとも、独立後もずっとアメリカを溺愛しているイギリスがアメリカの誘いを断るということはまずないと言っていい。

こうして電話をかけてイギリスについて聞いてみると、アメリカは不機嫌に他国と仕事の話の最中だったから誘えなかったと言う。

どこの国かと聞いてみると、アメリカは不機嫌に
『俺じゃない事は確かだよ』
と、不機嫌にズズ~っとシェイクをすする音と共に答えて、それからボソリと
『スペインだよ』
とだけ言って電話を切った。

自分大好きなアメリカの事だ、本当に相手の国の顔を覚えていない可能性もあるな…と、思ったわけだが、そこまでじゃなかったらしい。

まあアメリカは仕事といっていたが、たぶん内職の道具を返していただけだろうと、それ以上の追求は諦めて、フランスはイギリスの自宅で待つことに決めたのだった。





0 件のコメント :

コメントを投稿