スペイン親分の幸せな日々
結局イギリスは風邪を引いたらしい。
朝…スペインは抱え込んだまま寝たイギリスの身体が熱い事に気づいた。
高いというほどではないが熱があるようで、少し顔が赤く、目が潤んでいる。
コンコンと軽く咳き込むイギリスに
「堪忍な。親分がちゃんと最初からこっちに連れて来たったら良かったな。」
と言いつつ、スペインは食欲のないイギリスのためにリンゴをすりおろしたり、喉の通りの良いような物を取り揃えながら、甲斐甲斐しく世話をやく。
「起きたらあかんで~。何でも親分がやったるからな。」
と、食べさせるのはもちろん、着替えや汗をかいた身体を拭くのも全ていっさいがっさい面倒を見るのだ。
意外な事にイギリスはそれに対して最初は戸惑っていたが
「病気の時は甘えるもんやで。自分で色々しようとしたらあかんねん。よおならんで?」
とスペインが言うと、それをあっさり信じて、それ以後は特に抵抗もしなければ嫌がる事もしない。
ただ、たまに少し眉尻をさげて
「それでなくても面倒かけてるのに…よけいに手間かけてごめんな…。」
と、申し訳なさそうに泣きそうな声で言うのがスペイン的になんともたまらない気分にさせられる。
可愛くて可愛くて仕方ない。
「ええんやで~。むしろ可愛えアーティーが他のモンとこや一人の時に体調崩したりせんで良かったわ。体調悪い時は親分、自分で面倒みたりたいもん。」
満面の笑顔で言うスペインは本当に本当に幸せそうだ。
こんな風に無条件に誰かが自分の世話を受け入れてくれたのはどのくらいぶりだろうか…。
ベルとも割合と最近までスペインといたロマーノとも関係は悪くはない。
というか、むしろ良いほうだった。
が、その可愛い子分達もある程度大きくなってからは子どものように世話を焼かれるのを嫌がるようになっていった。
ところが今のイギリスはそれを無条件どころか感謝してくれて、さらにスペインが食器を片づけたり着替えを取りにいったりなどで少し離れると、とても心細げにしてくれるのだ。
「大丈夫やで。食器片しに行ってくるだけやからな。すぐ戻ってくるさかい待っといてな?」
と、頭を撫でながら言うと、大きな目ですがるようにスペインを見上げ、全身に人恋しさを漂わせながら、子どものようにコックリとうなづくのだ。
ああ…なんて甘やかな幸せなんだろうか…。
本当にこんな風に自分を必要とし、頼ってくれる相手をもうどのくらいの間持っていなかったのだろうと思うと夢のようだ。
かつて南イタリア防衛に情熱を傾けすぎて国庫を真っ赤にした頃のように、今は目の前のこの子のためならどんな犠牲でも払ってやれるような気分になる。
スペインはどこまでも頼られて世話を焼かされる事に幸せを感じる、親分なのだ。
そんなスペインの満たされない心の隙間を温かいモノが埋めていく。
ベッドの脇に椅子を置いて額のタオルを取り替え、または少し汗ばんだ身体を清潔なタオルで拭いてやり、柔らかな髪をなでているうちに眠ってしまったイギリスの手は、しっかりとスペインのシャツの袖口を握っていて、あまりの可愛さ、愛おしさにスペインは泣きそうになった。
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