イギリスさんを誘拐しました
「ええ子やな、その辺に座っといて。今ショコラータいれたるわ。」
スペインがそれからまず行ったのは、イギリスをスペインの自宅へ連れ帰ることだった。
自分のせいでイギリスが頭を打って記憶を失ったらしい…そんなことが周りにばれたらなんて考えるだに恐ろしい。
まずさきほど人を射殺せそうな目で見てきた超大国が黙っちゃいない。
それからおそらく超大国が思っているような理由からではないが、意外にイギリスのことを可愛がっている隣国のヒゲ。
英連邦はもちろんのこと、イギリスと仲良しの東の島国も地味に恐ろしい。
あれはあくまで事故なのだが、その前の会議でのやりとりが記憶に新しい以上、故意に何かしたと思われかねない。
そして…何をいちゃモンつけとるんじゃ、ボケ!とそれを蹴散らせる時代はとうに過ぎて久しい。
言葉で説得できる自信がない以上、記憶が戻るまで隠すしかない。
ということで、会議の休み時間にイギリスが秘書に強制的に1週間も休みを取らされたとフランス相手にぼやいていたのを幸いに、自宅で1週間ほど記憶が戻るのを待つことにしたのだ。
幸いにしてイギリスは人名、アーサー・カークランドのパスポートを持っていたし、本人にもそれを見せて自分がアーサー・カークランドというイギリス人であると伝えた。
全くの嘘ではないからいいだろう。
「お…お前はもしかして、俺の友達なのか?」
キラキラとした長い金色のまつげに縁取られた子どものようにまん丸の大きな目でおそるおそる…と言った感じにそう聞かれて、違うとも言えず、
「あ~…すごいちっこい頃には、よお膝に乗せてお菓子食わしてやったりしたもんやで」
と、遥か昔、まだそう仲が悪くなかった頃の事を語ってお茶を濁すスペイン。
単に明らかに嘘という言葉を吐いて、思い出した時に色々言われたくないための苦し紛れの言葉だったのだが、なんだかその話は友達という以上に彼に安心感を与えたらしい。
「そっか。あれだなっ、じゃあ友達っていうより兄さんみたいな感じだったのか。」
ほわんという擬音がぴったりくるような、本当に信頼しきったような親しみのこもった笑みを浮かべられて、
「えっと……」
と、思わず戸惑うスペインの様子に、こんどは、へにょんとまるで途方にくれたような目で
「ち、違うのか…そうか…そうだよな…ごめん」
と、肩を落としてうつむかれると、もうだめだった。
「違わへんよ~。全然違わへんっ。自分は親分の可愛え弟みたいなもんやでっ」
と、慌てて抱きしめてやると、くすんくすんと鼻を鳴らしながら、キゅぅっと抱きしめ返してくる。
(もう、なんなんや、この可愛え生き物はっ!)
自分が知っているイギリスとはまるで違う。
というか…本当は見かけが似ているただの別人なんじゃないだろうか…と疑ってみたくなるが、確かに他人の空似ではない、イギリスだ。
「とりあえずな、自分いまこんな状態やし、一人でおっても困るやろ。
遠慮する仲でもないし、親分の家においで」
というと、あっさりついてきた。
あかん…この子あかんわ…。
誘拐もどきに家に連れてきた俺が心配するのもおかしいんやけど、ホンマ、放っておいたら簡単に誘拐されるんちゃう?
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