アーサーさんが頭を打ちました-前編_3

イギリスさんは打ち所が悪かったようです


「ありがとう……お前、いい奴だな。」

しばらく落ち着くまで背中をさすっていると、イギリスは驚いたことにそう言ってへにゃりと笑みを浮かべた。

泣きすぎて赤くなった目と頬…それに鼻の頭。
いつもはキリっとしている太すぎる眉尻をさげて笑うと随分と幼い印象を受ける。

(あかんっ…騙されたらあかんで、俺っ!こいつは“あの”イギリスやでっ!)

心の中でそう何度も繰り返すものの、何故かイギリスのピヨピヨとひよこのように跳ねた金色の髪をなでている自分の手。

それを振り払うこともなくされるままになっているイギリスもイギリスだと、自分の事を棚にあげて思ってはみるが、安心しきったような目で小さく笑みを浮かべる様子は…

(あかん…かわええ…)

もうとりあえず撫でるのはタダやからええかぁ…と思ってしまう。


「せやけど…自分なんやの?アメリカと喧嘩でもしとるん?」

普段なら仲の悪い自分が聞いてもどうせ答えやしないとここで放置なはずなのだが、相変わらずイギリスの頭をなでながら子どもに話すような口調で話しかけている自分はどうかしていると思う。

しかしイギリスのどうかしてる度は、もしかして自分の比ではなかったようだ…。

なんと、

「アメリカ?なんだ?それ。」
と、言うではないかっ!
「いや、だからいつもやったらさっきアメリカに誘われた時点でついていってるやろ?」
慌てるスペインにイギリスはコクンと首をかしげる。

「さっきの怖い奴のことか?」
という口調はスペインをからかっているようにも思えない。

もしかして…何か企んでいる?と疑ってはみたものの、今そんなことでスペインを騙したところで、何も出てこない気がする。

イギリスは演技が上手くても、アメリカにそんな腹芸ができるわけがない。

そしてアメリカを騙して怒らせてまでイギリスが自分を騙す意味なんて、それこそ何も無いだろう。

考えたくないがこれは…打ち所が悪かったのか?
「あのな、ええ子やから親分に名前言うてみて?」
にこりとそう促してみると、イギリスはきょとんと子どもじみた様子で考え込み…そしてしばらくしてようやく止まっていた涙が、また大きな目のふちにじんわりとたまり始めた。

ああ…あかんっ…

と思うまでもなくぽろぽろと白い頬を伝い、零れ落ちる涙。

「…わからない…どうしよう……」

ああ…どないしよ……

目の前で動揺して泣いている本人以上にスペインは動揺して、頭を抱えたくなった。


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