青い大地の果てにあるもの6章_5

「あ、トーニョ、おかえり~。
お前が帰ってきたって事はもしかして桜ちゃんも帰ってきてるよね?」
アントーニョが医務室のドアをくぐると、フランシスが心底ほっとした顔で出迎えた。

その言葉にアントーニョはイラっとした感情を隠す様子もなく、いきなりそれかいっと吐き出した。

「あ、アントーニョさんおかえりなさい。
アーサーさん、桜ちゃんが応急処置はしてるんですよね?
ちゃんと診ますので、こちらに運んで頂けますか?」
と、そこですかさず空気を読んでゆうりがついたてに囲まれたベッドへと誘導する。

「自分…部下見習った方がええんちゃう?」
まだ何か言い足りなさそうにそう言葉を投げつけるアントーニョに、ゆうりは
「すみません。今回私たちが桜ちゃん勝手に行かせてしまったことで、今ブレインと医療班でもめてるので。」
と、フォローを入れた。

「あ~でも桜ちゃんが行ってなおその状態だと、やっぱり行かせて正解だったんだよ、ホント。さすがお兄さんのお嬢さん達。ナイスな判断だったね~」
と、それにフランシスがかぶせると、
「自分やなくて部下がな」
と、アントーニョが言う。

どうやらアントーニョにしては珍しく不機嫌らしく、自分はへそを曲げさせてしまったらしい…と判断したフランシスは

「じゃ、お兄さん桜ちゃん迎えに行って、じいさんの治療お願いしてくるわ。
ゆうりちゃんあと宜しくっ」
と、場を外すことにした。

「はい。いってらっしゃい。」
と、アーサーのシャツを脱がしながら言うゆうりに見送られて、フランシスは医務室をあとにする。


「…八つ当たり…やな。」
フランシスが出ていくと、アントーニョはアーサーが寝かされているベッド脇の椅子に腰をかけて両手に顔をうずめると、は~っとため息をついた。

「あかんわ…ほんま鍛えなおさな…。」

小さなつぶやき。

アントーニョは飄々としているように見えて、実は意外に真面目で身内思いだ。
常に年下の後輩に囲まれてきたせいか、エリザと共に多少自分が無理をしても他は守ろうとするし、実際にそうしてきた。
それがここに来て…守り切れず、しかも自分がほぼ無傷なのがショックなのだろう。

それにどう声をかけていいかわからず、ゆうりが黙々と手当てをしていると、
「失礼します。」
と、声をかけてついたての中に入ってきた藍が、どうぞ、と、アントーニョにアイスコーヒーのグラスを渡した。

「おおきに。さっきは騒々しくして堪忍な」
と、少し笑みを浮かべてアントーニョはカップを受け取り、そう言えば喉が渇いていた事に気付いてグラスの中身を一気に飲み干して一息ついた……と思ったら動きを止める。

そこですかさず藍が止まっているアントーニョの手からグラスをサッと取ると、アントーニョはしばらく舟をこいでは頭を振っていたが、やがて崩れ落ちるようにベッドに突っ伏した。

「え~っと…藍ちゃん?」
手当てをするアーサーの肩口からは視線を放さず、ゆうりは少しひきつった笑顔で問いかけた。

「はい♪即効性の睡眠薬入りです♪」
と、案の定笑顔でそういう藍。

こ…懲りないっ…!と、思うモノの、確かにいまだ続く戦闘に戦力はあったほうがいいかもしれないが、この状態のアントーニョを行かせても怪我人が増えるだけかもしれない…と、少し考え直す。

それでも…一応ね…と、ゆうりはいったん手当の手を止めて、フランシスに報告の電話を入れた。





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