青い大地の果てにあるもの6章_6

「西門と南門の第一次防衛設備破壊されましたっ!どちらに先に作業員送りますか?!」
「あ、えっ…えと…」
「どちらですか?!」
「あ、じゃあ西に…」
「万が一南突破されると、食料貯蔵庫の方がダメになる可能性ありますが…」
「ああ、じゃあ南だっ」
「西だと移動設備関係が…」
「えっ?えと…」
「どちらですかっ?!」

本部長不在のブレイン本部は混乱をきたしていた。
これまで全ての指示は本部長一点に集中していたため、代わりになる人間がいない。
みなが本部長であるローマと同じような事をロヴィーノに求めるが、ロヴィーノとてこれまではただ従う側だったのだ。
状況がわかっていてフォローを入れてくれる補佐すらなく、こなせるわけがない。

オロオロとするロヴィーノに周りが苛立っている気がして、ロヴィーノはますます動揺した。

「副本部長っ!!指示下さいっ!!」

実際、本部襲撃などという初の自体もあって、部員みんな不安で苛立っているのだろう。
最後は怒鳴られて、ロヴィーノは涙目になる。

逃げたい…ただその事しか頭になくなってくるが、それでも逃げるわけにもいかず、ほとんど突きあげのように周りに怒鳴られていると、誰かが肩をポンとたたいた。

「まあ落ち着け」
と、祖父よりは随分と若い声がして、ロヴィーノの横で的確に指示が出されて行く。

「西が先だ。西の防衛設備を優先的に修復しろ!
そのかわり南にはエリザとベルを送りこんで、万が一、第三次防衛ライン突破されて敵が流れ込んできたら殲滅させる。
移動なんざどうせ戦闘中は逃げられやしねえし、あとで修復すればいいが、食料に何かあったら全部終わる。
まだ無事な北の備えはルッツが、東はフェリちゃんがしてるから、西には万が一間に合わなかった時の時間稼ぎのために多めにフリーダムが待機。突破されたら南捨ててエリザとベルを西に送って食料確保だ。」

「了解っ!西に作業員集中させますっ!」

主任達がその指示に従って、忙しく…それでもホッとしたように動き出した。
それまでこちらを心配そうに見ていたオペレータ達も危機は去ったとばかりにディスプレイに向かってそれぞれの作業へ戻っていく。

あれほど集まっていたブレイン部員達は蜘蛛の子が散るように散っていき、ロヴィーノとフリーダム本部長、ギルベルトのみが残された。

「お前なぁ……ああ、まあいい。話はあとだな。俺はフリーダム本部に戻る。」
何か言いかけてやめたギルベルトもロヴィーノを返答を待たずに去っていく。

おそらく祖父が負傷して回らなくなったブレインに焦れて自らやってきたのだろう。
同じ年代のはずのフリーダム本部長は自分とはまったく違っていた。

自分は毎日一体何をしてきたのだろう…と、何もすることのなくなったロヴィーノはブレイン副本部長のデスクへと戻って、書類を取りだす。

いつか…守勢のみでなく攻勢をかけるため敵地に乗り込む事もあるかもしれない…その時には長距離遠征になるだろうから今のようにジャスティス本人達に運転させることはせず、むしろ移動中はゆっくり休めるようにと考えて設計した私室やバス、トイレ、キッチンなどが備え付けられた超大型の陸空両用の車。
敵が攻めてきた時に防衛を一方向に集中できるように、重要施設を一方向に集めた基地など大きなものから、ダメージは与えられなくても普通の人間が敵の侵攻を少しでも遅らせる事ができるようにと敵の攻撃をかなり軽減させる超軽量の化学物質を重ね合わせて作った防具などの小さな小物まで…実績のない若造としては提案する事もできなかった発明品の設計図の数々だ。

「こんなの…思いついてもなんの役にも立たねえよな…」
と、ロヴィーノは舌打ちして大事にデスクに保管していたそれを、乱暴にカバンに放り込んだ。

なさけなさに涙が浮かぶ。

そうこうしているうちに、どうやら治癒系ジャスティスの桜が戻ってローマの怪我が治ったらしい。
ブレイン本部に本部長が戻ってきて、ますますやる事がなくなった。

そして本部長が戻ってきたという事で、初めて報告が上がってきたのだが、どうやら豪州支部を壊滅させた強力なイヴィルはアントーニョ達外組ジャスティスが壊滅させたらしい。

それによって一気に形勢は逆転。
数時間後にはなんとか基地を襲撃した敵も壊滅させた。

初の基地襲撃で非常に厳しい戦いではあったが、その分勝利の喜びはひとしおならしく、みんなが大はしゃぎで、ブレイン本部でも事後処理組と一部の作業担当者以外は盛大に祝杯をあげている。

そんな中、ロヴィーノはいたたまれなくなってソッと本部を抜け出すと、食堂の隣に併設されている小さなバーカウンターに足を運んだ。

そこはセルフサービスでひっそりと飲むような場所で、皆がそれぞれ仲間と喜びを分かち合う中、数人入ればいっぱいになってしまうようなそんな基地の片隅にあるバーに足を運ぶ者もいない。

ロヴィーノは普段はあまり飲む事はないのだが、さすがに飲みたい気分になってカウンター奥の棚からワインを出そうとして、自分の片手がふさがっている事に始めて気付いた。

「ああ…持ってきちまったか…、こんなもんっ!」
と、乱暴に床にそれまで大事に温めていた設計図の入った茶封筒を放り出すと、あらためて奥からワインの瓶とグラスを出してきて、一人飲み始めた。

「俺…結局何もできねえし…要らねえよな…」
元々強くない上に何も食べずに一気に瓶の半分くらいを開けたせいで、だいぶ酔いが回ったあたりで、コトリとロヴィーノの前に皿が置かれた。



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