フェリは帰還命令で桜の乗ってきた車で帰ったため、アントーニョの運転で後部座席にアーサーと2人乗りこんだ桜のつぶやきに、アントーニョは、
「なん?」
と聞き返す。
「アントーニョさんの瞳の色にしては少し薄いですよね?」
それまで険悪とも思えるような会話しか交わしていない桜との普通の会話に、アントーニョは少しホッとする。
「ああ、これ親の形見なんや。元々は兄弟で一つずつ持っとったんやけど、弟死んでしもうたから…。うちのおとんがうちのばあちゃんから受け継いで、うちの母親に贈った物らしくて…そう考えると俺がつけてんのも変な感じやけどな。弟が好きな奴おるから贈りたいって言った時にやったら良かったなぁって今更ながら思うわ。」
「…好きな…人?」
コクンと首をかしげる桜に、アントーニョは少し迷うが、結局話す。
「俺んとこの弟、極東支部配属のフリーダムやってん。でな、アーサーと仲良うしとったんや。もうメールとかで毎日アーサーの話聞いとったわ、当時。で、瞳の色がこのピアスみたいに綺麗なペリドットの色やから贈りたい言うてたんやけど…一応親の形見やから郵送で事故言うのも嫌やし取りに来る言うてて、取りに来る前に死んでしもたから…。」
そこでアントーニョは少し言葉を失って…それからぽつりと続ける。
「兄弟やなぁってな、思うんや。俺も同じことしたいなぁって思うてんけど…あいつがやりたいって言っててできひんかった事を俺がそのまんまやるのって、卑怯な気がしてできひん…」
このヘタレがっ…と、舌打ちと共に吐き捨てるような小さなつぶやきが聞こえたのはきっと気のせいだ。
後ろには気を失っているアーサーと、大和撫子な少女、桜しかいないのだから。
こうして3人が帰還した時には本部はまだ激戦の真っ最中だった。
「アーサーさんをお願いしますねっ!」
と、怪我人が多そうなあたりに走り去っていく桜。
それを見送ってアントーニョは医務室まで急ぐ。
途中…アーサーを横抱きにして走るアントーニョの耳にパシャリパシャリと音がしたのは気のせいだと思っておこう。
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