青い大地の果てにあるもの5章_4

「敵は前方300から半径約15mの範囲に雑魚豹35、イヴィル2。左側が多分強力な方だ」
車を降りて即状況を分析し、淡々と報告をするアーサーに、フェリシアーノは緊張したようにギュッと手を胸元にやる。

「ほな俺がまず突っ込んで、フェリちゃんとアーサーは後方から攻撃って言うのはいつもの通りな。
フェリちゃんは攻撃するイヴィル間違えんといてな。
片方は一撃で倒せんと後衛側に来よる可能性高いからな。
近接に持ち込まれたらかなわんし。」

「う…うんっ。頑張るよ。」
緊張した面持ちでカタカタ震えるフェリシアーノの肩をアーサーがポン!と叩いた。
「まあ…最悪弱い方のイヴィルだったら来ても俺がなんとかするから。肩の力抜け」
そう言いつつ、アーサーはチラリとアントーニョに視線を送る。

(…最悪は…二人で殲滅やな…)
と、アントーニョもそれにアイコンタクトで応えて、

「ほな、行こか~」
とわざとのんびりした口調で促して、
「情熱のピジョンブラッド!モディフィケーション!」
と、胸元のルビーに手を置いて唱える。

しゅわりとカットラスに変形して褐色の大きな手にピタっと収まるアームジュエリーをブンと一振り、
「ちゃっちゃと行くで~」
とのアントーニョの声に呼応して、アーサーも胸元に手をやった。

「闇に輝く退魔の光。モディフィケーション」
キラリと淡いグリーンの光が踊り、それは繊細なグリーンのロッドに形を変え、アーサーの白い手に握られる。

「フェリちゃん?」
それを確認後、アントーニョは最後に硬直しているフェリシアーノを促した。

「う…うん」
すでに涙目のフェリシアーノは、それでもおずおずと胸元に手を当て、一度ぎゅっと固く目をつむる。
「海を越える崇高な力。モディフィケーション」
フェリシアーノの手の中でラピスラズリの青がクルクル回り、弓と矢へと形を変えた。


「この距離なら一っ飛び5秒で着くさかい、そのタイミング以降に着弾する感じでやってな。」

「わかった。」
「う、うん。」
二人がそれぞれうなづくと、アントーニョは

「ほな行くで!」
と、一気に跳躍。
それに合わせてアーサーは詠唱を始める。

時間にすれば本当に一瞬の事だった。

跳躍して半分くらいの距離を行くアントーニョの横を、青い矢が物凄い早さで通りぬけていく。

(あかんっ!!)

まだ敵にアントーニョが認識される前に…しかも何故か作戦にあった通常イヴィルではなく、強い方の特殊なイヴィルに向かう矢。

アントーニョは一瞬でこの先を予測した。

矢を当然のごとく避けた特殊イヴィルはまっすぐ後衛に向かうだろうし、自分がそれを追うと言う事は通常イヴィルと多数の豹型魔道生物に背を見せる事になり、一瞬で全滅だ。

終わった…と頭が真っ白になる。

「ポチっ!残った方のを殺れっ!!」
と、そこで即、後方からアーサーの指示が飛んだ。

アントーニョは考える間もなくそれに従って、自分の横を通り過ぎていく特殊なイヴィルを放置で、もう片方の普通のイヴィルに向かう。
それはほとんど条件反射のようなものだった。

そして向かい始めてからふと、雑魚豹はどうするか…と一瞬頭をよぎったが、そこはぬかりなく豹の足元は薄く凍っていて、動きを止められている。

どうやら特殊イヴィルが来ると一瞬で判断したアーサーが、詠唱時間のかかる殲滅用の魔法から一瞬で詠唱が終わる足止め用の魔法に切り替えて豹を足止めしてくれたらしい。

もちろん魔道生物は一般人と違って力も強いしそう長くは持たないが、普通のイヴィルを一対一で倒す時間くらいは持つだろう。

本当に一瞬で見事な思考の切り替え、見事な判断力だ…と、アントーニョは舌を巻く。

さすがに長年自分以外頼れるモノのない、フォローの全く入らない過酷な環境で戦ってきただけある。

そう言う意味では本当に自分はまだまだだ…と、アントーニョは思い知った。
フェリシアーノのありえないミスに動揺して一瞬頭が真っ白になって思考を止めた。
しかしそんな反省はあとだ。

今はともかく目の前の敵を倒して早く特殊イヴィルに向かわねばならない…

「殲滅速度の最速記録作らなっ」
アントーニョはそう呟いて、イヴィルに向かってカットラスを構えた。



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