青い大地の果てにあるもの5章_3

「とりあえず現地つく前におさらいして、作戦でもねっておこか~」
出口のある第八区から車に乗って外に出ると、アントーニョはつとめてのんびりした口調で切り出した。
崩れるとしたらルートがいない事で緊張しすぎたフェリシアーノからだと思う。
そこにあまり負担をかけないようにしなければ…と思うのだが、

「作戦も何もなくないか?
敵はイヴィル2体、うち1体は強力なやつで…あとは豹の魔道生物が大量に…だろ?
で、こっちは範囲攻撃可能なのが俺だけだから盾なしで多少のやり残しは目をつむって俺が範囲魔法で雑魚は大方せん滅。
で、その間にポチとフェリでイヴィル一体ずつ。
強力な方は当然ポチな。
通常イヴィルだったら後衛でも一人で殺れるだろ。
で、そのあとポチの方に俺がフォロー入ってフェリは殺り残した雑魚を掃除。
ポチの方のイヴィルは下手すればジャスティス二人分と基地防衛設備に匹敵する奴だから、俺とフェリがそれぞれ雑魚と通常イヴィルを殺るまでは倒すと言うより極力致命傷避けて時間稼ぐ感じで。
で、3人がかりで特別仕様のイヴィルに向かってみて、ダメそうなら撤退。
それ以外に選択肢ってないだろ?」

と、当たり前に言うアーサーの言葉に反論の材料がない。

「俺…一人でイヴィルなんて無理だよぉ~」
と、言葉のないアントーニョの代わりに、フェリシアーノがヴェーといつものように謎の言葉を発しながら訴え出た。

「相手は普通のイヴィルだ。タイミング計って外さなきゃ危険はない。」
と、それにドきっぱり返すアーサー。

それでもへにゃんとへこむフェリシアーノに、アーサーは小さく息を吐きだして
「俺も手の届く範囲にいるから。とりあえず雑魚に一撃加えたら、盾モードになってフォロー入ってやる。」
と、フェリシアーノの肩にポンと手を置いた。

「盾モード?」
そこで恐怖や不安より好奇心が勝ったフェリシアーノがまた顔をあげて聞くと、正式な盾ではないけどな、と、アーサーは一言添えた上で説明を始めた。

「俺のアームジュエリーの第二段階はローズウィップっていう薔薇の鞭なんだ。
威力はそうあるわけじゃないけど、雑魚くらいなら倒せるし、自在に動く上に花びらが散るから目くらまし効果がある。だから…盾のように受け止めるというより、目くらましを使って避ける形で敵の攻撃を防ぐんだ。
ま、極東では支援、回復のみの桜と二人だったからあまり使う事もなかったけどな。」

「わぁ…要は…花びらヒラヒラ振りまきながら戦うんだねぇ。すごいやぁ」
パチパチと手を叩くフェリシアーノ。
アーサーは何故か恥ずかしい気がしてくるのは何故なんだろうか…と思いつつ、フェリシアーノ相手に怒る気も起きず、仕方なしに話題を変えた。

「フェリは第一段階弓って聞いてるけど…第二段階はなんなんだ?」
「へ?第二段階とかって何?」
「な、何って…」
当たり前に話していたのにいきなりのその質問に戸惑うアーサーに、アントーニョはプッと噴き出した。

「あ~、フェリちゃん感覚でしゃべっとるとこあるからな。気になるポイント以外は聞いてへんねん。」
と、とりあえずアーサーに対してフォローを入れ、その後フェリシアーノに向かってフォローを入れた。

「あんな、俺の武器、カットラスになったりハルバードになったりするやろ?あれの事や。訓練すればアームジュエリーは3種類まで形変わんねんで」
「へ~、じゃあ俺のも変わるんだねっ。
それ振れば皆攻撃止めてくれる白旗とかだといいなっ♪」

ゆる~い会話にぽか~んとするアーサー。
どうもフェリシアーノが話すと力が抜ける。

当たり前に連日の出動を断ろうとするアントーニョといい、本部は随分のんびりしていて、極東とはまるで正反対だ。
ここでこうしていると、まるで極東での厳しい生活が遠い世界の事のように思える。

自分はよく、もしいつかレッドムーンが壊滅してジャスティスが必要とされなくなったら、どうやって生きていくんだろうか…と馬鹿げた空想をしてみたりしていたが、アントーニョもフェリシアーノも普通に一般の生活になじめそうだな…と、アーサーは少し疎外感を感じた。

「タマ??」
いきなり押し黙ったアーサーに気付いて、アントーニョが少し気遣わしげにアーサーの顔を覗き込む。
それに、いや、なんでもない、と応えて、アーサーは窓の外に目をむけた。
単なる感傷で今おそらくいっぱいいっぱいであろうアントーニョやフェリシアーノに要らない心配をかけるべきではない。

それでも思わず漏れたため息に、
「タマ~言うてくれへんの寂しいわ~。」
とアントーニョが運転席から言うと、隣ではフェリがハグ~と抱きついてきた。
「ね、やっぱりアーサーも怖いよねっ」
と、少し発想が反対方向に飛んでいる気もするが、心配はしてくれているらしい。
「…まあ…怖いと言えば怖いな…」
つぶやくアーサーにアントーニョが不意に車を止めた。

「…?」
不思議に思って運転席のアントーニョに目を向けると、完全にエンジンを止めたアントーニョはシートベルトをはずして後部座席を振り返る。
「…なんだよ?」
いぶかしげにアーサーが眉を寄せると、アントーニョはニッコリと微笑んだ。
「…逃げてもええで?」
「はあ??」
「せやから、怖かったら逃げてもええんやで?」
前から手を伸ばして頭をなでるアントーニョの手を思わず払いのけて、アーサーは
「馬鹿か?」
とつぶやいた。

「タマ~他人に馬鹿言うたらあかんて言うたやん」
と言うアントーニョに、突っ込むとこがちげえよ、と、アーサーは呆れたようにつぶやくと、大きくため息をつく。

「敵や戦いが怖いわけじゃねえよ。怖いのは…自分。普通に連日任務に文句たれるポチや敵や戦闘が怖い逃げたいって言うフェリがなんとなく人間ぽいよなと思って。そんな中で妙に人間味がない自分が怖いっていうか…」

「怖くないなら怖くないに越した事ないんじゃない?俺だって怖くなくなりたいよ。」
またヴェーと奇声を発しながら言うフェリシアーノに、アーサーは苦笑した。

たぶん自分のこの感覚は人生が楽しくて生きたくて生きてきたフェリシアーノには一生わからないだろう。
戦い以外何もない…役に立つ存在でいる事が前提で生きている事をかろうじて許容されているなんて境遇は想像もできないだろうと思う。

戦いがなくなれば要らない存在…。
許容されるために、存在するために戦いを必要とする自分は決して正義ではないと思う。むしろ悪に近いのではないだろうか…。

そんな自分がこの善意の人間の中に身を置いているのがひどく恐ろしい気がした。

「…とりあえず…帰ったらよく話しよか…」
これからの戦闘が怖いと言う事でなければ、とりあえず行くかと、アントーニョはまた前を向いてシートベルトをつけた。

なんとなく…アーサーが考えている事は漠然とわかる気はするのだが、不用意な形でそれに触れれば取り返しのつかない事になる気がする。
だからとにかくゆっくり考え、ゆっくり話がしたいが、このままだとそれもできない。
アントーニョの頭からいつのまにか戦闘に対する不安がすっぽり抜け落ちた。
すでに脳内にはちゃっちゃと戦闘を終わらせて、アーサーと話をする事しかない。

なんとなくそんなこんなで現場近くについたらしく、車が止まった。



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