「ああ。アーサー・カークランド。魔術遠隔系ジャスティスだ。よろしく」
車の中でにこやかに挨拶を交わすベルとアーサー。
やけに和やかな光景だ。
「なあ…なんでベル相手やとそんな愛想ええん?」
親分の時とえらい差やんと、アントーニョが膨れて見せると、アーサーはきっぱり
「ストーカーに振りまく愛想はないっ!」
と断言する。
「ええ~?ストーカーってなに?」
「いきなり遠目でみかけただけの奴をこっそりつけまわして、挙句が他人の部屋こっそりのぞいてやがった誰かの事だよ」
アーサーがピシッとアントーニョを指さして言うと、ベルが叫ぶ。
「ええ~?!!いくらペド言われてても本当に行動しはったら犯罪ですよ、親分。」
「そういう誤解受ける情報与えるのは、やめてんか~!」
ストーカーだのペドだの言われてなさけない声をあげるアントーニョ。
「まあ…変態なのはよくわかった」
アーサーがきっぱり言うのに、アントーニョはがっくり肩を落とすが、そこでベルは両手で対して自分と大きさの変わらぬアーサーの両手を握りしめる。
「でも悪い人じゃないんですわ。仕事も料理もできはるし、マメやし、お買い得物件ですよ。
ほんまいつまでもフラフラ渡り歩いてて妹分としては心配してたんですけど、アーサーさんの事はえらい気にいってはるみたいやし、よろしゅうお願いします。
これ逃したら世界の警察言われてるブルーアースの中から犯罪者出しかねませんし、うちも身内が性犯罪者になったりとかはかなり嫌ですねん」
断る事なんか許されない、かなり迫力のある真剣な表情で迫られて、思わず首を縦に振るアーサー。
「よかったぁ~。じゃ、ほんまよろしゅうお願いしますわぁ」
と途端にコロっと笑顔になるあたりが、人が良さそうに見えても女は怖い。
「ところで戦闘についてなんだが…」
と、もうそれについては触れまいとアーサーは話題を変えた。
「範囲攻撃は能力発動まで時間かかるし、その間敵に攻撃受けると発動中断するんで、ある程度敵を防いで時間稼いで欲しいんだが…」
「あ~ええよ~。任せときっ。どんくらい引きつけておけばええん?」
アントーニョの言葉にアーサーは考え込む。
「ん~。10秒…くらい持たせてもらえればありがたいか…。
無理なら多少こっちに向かうリスクもあるけど5秒。
それがぎりぎりだと思う。」
「10秒か…まあ…最高20秒までならなんとかするから、確実にしとめや。」
アントーニョの言葉にアーサーは。
「20秒ってすごいな。」
と素直に感嘆の言葉を贈った。
「俺は本来防御手段を持たない攻撃特化やからそのくらいが限界やけど、ルートなら1分くらいは持たせるで、たぶん。」
「ふ~ん…さすが本部は人材豊富だな」
「俺らずっとこんなんやからわからへんけど、極東は後衛二人で大変やったみたいやな」
アントーニョが言うと、アーサーは
「主に…フリーダムの連中が…だな」
と、フイっと視線をそらした。
そんな話をしているうちに、車は現場にたどりつく。
「…そろそろやな。この辺で車降りるで。」
アントーニョが車を止めてドアを開ける。
「タマ、感知できる?」
全員出ると、アントーニョはアーサーに聞いた。
基本的には遠距離型の人間が一番感知能力に優れている。
アーサーがいない頃は敵の位置を測るのはフェリシアーノの仕事だった。
「ん…直立歩行型なんだな、トカゲ。
500mくらい先から20mくらいの範囲に10~20匹。大きさはたぶん1.5mくらい?
そのさらに5mくらい先に人影、これがイヴィル。」
「んで…タマの力の効果範囲は?」
「ん~~~10mってとこ?」
「んじゃ、ここからまっすぐ510mにつっこむからその地点を中心に範囲頼むわ。
ベルはトカゲの感知範囲外から迂回してイヴィルに向かい?」
「了解やっ」
アントーニョの言葉に敬礼するベル。
それに対し、アーサーは眉をひそめて言う。
「あのな…いまさら言いにくいんだけど、俺の攻撃って敵味方関係なくくらうぞ?
まともに食らったらポチもやばいと思う。…発動地点もう少しずらそう」
「ああ、まあそのあたりはなんとかするから気にせんでええわ。
自分は確実にしとめるために攻撃にだけ集中し。」
「いや、まぢやばいって。
極東のフリーダムが毎回結構死んでるのって敵にってのもあるが、俺の範囲くらうの前提で足止めしてたからって言うのもあるんだぞ。」
「大丈夫、時間ないから行くで。」
「いや、ちょっと待った!」
踏み込みかけるアントーニョの腕をアーサーがつかむ。
「悪い…ちと1分でいい。心の準備させてくれ。」
アーサーが思い詰めたような目で言うのに、アントーニョは足を止め
「準備出来たら言うてな。まあ、大抵の事は俺がなんとかするから、そんなにきばらんと肩の力抜いてこ」
と、笑みを浮かべてポンポンと軽くアーサーの薄い肩をたたいた。
そこでアーサーはつかんでいたアントーニョの腕を放して右手を胸にあてて目をつぶる。
「おっけー、大丈夫だ。」
しばらくしてアーサーはそう言って
「闇に輝く退魔の光。モディフィケーション」
とペンダントに手を当てて唱えた。
それを合図にアントーニョもベルも能力を発動させる。
「んじゃ、行くで~。」
アントーニョがタッっと駆け出しながら曲刀に手をかざし
「ミラージュっ!」
と唱えると、何本もの曲刀がグルリとアントーニョの周りを取り囲んだ。
そのまま一気に跳躍してアーサーの位置から丁度510mの位置に着地する。
その瞬間、突如現れた敵にトカゲが殺到した。
四方から向けられる攻撃をアントーニョはできるだけ避け、避け切れない分は周りを取り囲んだ刀に吸収させる。
吸収した分、1本、2本と周りを取り囲む刀が減っていくが、アントーニョは時間を数えつつその場にとどまってアーサーの攻撃を待った。
アントーニョが駆け出した瞬間、アーサーは左手に持ったロッドを前方に向け、スッと右手をその上にかざした。
「万物を氷つかせる冷気よ、今刃となって我が敵を滅せよ!フリーズ!」
アーサーの声に応じて杖の先から白い冷気が渦となって前方に走る。
途中の大気をも凍りつかせて白い風は一直線にアントーニョのいる地点に走ると、その場でパァ~ッと円状に広がり、まるでドミノ倒しのようにトカゲは中心に近い位置から円の端に向かって順番にピキピキっと固まった後、ガラガラっと崩れ落ちた。
アーサーはその様子を息をのんで見守る。
白い冷気の霧が晴れると、そこには粉々になった氷がキラキラ光っていた。
しばらくその場に立ち止まったままアーサーはその中に目をこらす。
「さっすがアーサーさん、すごいですよねぇ…」
アーサーがその場で硬直していると、ベルがアーサーの目の前にストンとジャンプしてきた。
「この前のミミズもアーサーさんいたら一瞬やったのに。」
と、前回思い切り気持ちの悪い思いをしたミミズ退治を思い出してしみじみ言うベル。
「こんなにすごい攻撃、うち初めてみましたわ~」
そんな無邪気な様子のベルにアーサーは苦い笑いを浮かべる。
「まあ…俺の力は犠牲つきだから。あと、さんはいらない。呼び捨てでいいから。」
「ああ、さっきのフリーダムの話ですか?でももうその心配もありませんし。ん、ほなアーサーって呼ばせてもらいますわ。うちも気軽にベルって呼んだって下さい。」
ベルがそう言った瞬間、二人の前にキキ~っと車が止まった。
「二人とも帰るで~」
と、中からアントーニョが声をかけると、
「は~い♪」
と、ベルがドアを開けて乗り込む。
「あ…え~っと…」
アーサーはぽか~んと呆けた。
「どうないしたん?」
その場に立ち竦むアーサーをアントーニョはいぶかしげな目で見る。
「いや…お前何してたんだ?」
「なにて?今車取ってきたんやけど?」
「いや…そうじゃなくて…今までどこにいたんだよ?」
「?」
アントーニョは眉をひそめ、ああ、と合点がいったように口を開いた。
「タマの攻撃が来るの確認して、そのまま上飛んだ勢いでベルのフォローに入って、イヴィル倒してすぐ車取りに行ったんや。」
「そう…だったのか。」
「いいから早く帰ろ。疲れたやろ」
ぼ~っとするアーサーをアントーニョがうながすと、
「ああ。悪い。」
とアントーニョも車に乗り込んだ。
「でも、アーサーの攻撃まじすごかったなぁ。下手するとエリザ姐さんでも火力では敵わないんとちゃう?あんなにたくさんの敵が一瞬ってホンマすごいわぁ」
ベルは帰りの車の中で興奮気味に話す。
「ああ、確かに…正直びびったわ。ちまちま刀振ってるのが馬鹿馬鹿しくなるなぁ。」
ベルの言葉にアントーニョもうなづいた。
「俺は…アントーニョの方に驚いたけどな…」
二人の言葉にまだ半分ぼ~っとしながらアーサーがつぶやく。
「正直…俺の力は発動が遅いし避けられたら終わるからな。
攻撃当たるまでに敵を一定範囲にひきつけておいてもらわんと駄目なんだけど、それやると大抵の奴は巻き込まれて死ぬから。
一人であれだけの時間ひきつけておいて、攻撃当たるぎりぎりで攻撃のほぼ中心地点から脱出なんて芸当できる奴いると思わなかった。」
「そんなの当たり前や、親分やもん」
アーサーの言葉にベルが軽い調子で言った。
「だからローマ本部長も親分入れはったんやし。ルートならひきつける事は余裕やけど、跳躍力ないから脱出できはれへんし。」
ベルの言葉に、アーサーはまだ若干うつろな目を彼女に向けて問いかける。
「…他は?」
「ん~~~、たぶん脱出できる跳躍力あるのはうちと親分かな?エリザさんも手ぶらやったらいけるけど、武器が重いさかいな。うちはひきつけてる間に死にますわ。それにそこまでシビアに脱出するタイミング量れへん。フェリちゃんは両方だめやね。
唯一火力、移動力、防御力が揃ってるから、何か不確定要素ある時は親分入れはるんですわ、ローマ本部長。」
ベルがそうしめくくったところで車はブルースター本部についた。
今回は3人でフリーダムに帰還報告を終えた後、ブレイン本部に向かう。
受付でアントーニョが報告書を受け取ると、参加ジャスティス名、敵の数、種類、殲滅手段等、必要事項を記入して、それを手にローマの元へ向かった。
「おかえり、3人とも。無事で何よりだ。」
ローマはいつもの笑顔でアントーニョから報告書を受け取って言う。
そして報告書に目を通し、
「ま、大方は報告書でわかったが…ちょっと話も聞きたいからかけてくれ。
ベルは戻ってていいぞ。」
と、アントーニョとアーサーに席を勧めた。
「さて、と。この火力はすげえな。20体あまりを全部一掃できるなんて本当にすごい。」
ベルが下がるとローマはまずアーサーの能力を賞賛した。
そしてその後少し間をあけて、チラっと二人を見比べる。
「しかし…限定条件がなかなか厳しいよな。攻撃発動まで要する時間が約10秒。効果範囲10m。
さらに範囲内のもの全部に攻撃が及ぶってぇことは…敵の分散範囲が10m以上の時は10mの範囲に敵をひきつけて、10秒以上の時間持たせて、さらに敵に気づかれないように攻撃が及ぶぎりぎりに効果範囲外に脱出できる囮が必要になるって事になる。
これは…トーニョ必須だなぁ。他のやつらじゃ余裕で死ぬな」
「…そういう事になりますね。」
ローマの言葉にアーサーがうなづいた。
「ってことは…アーサーが出勤の時はトーニョをベースで、あと必要に応じて足すって感じか。
まあ…二人組ませると火力が鉄板なんで、エリザは別チーム。これも決定だな。
そういうわけで、これからは基本的にアーサーとトーニョ+αのチームはできる限り重い任務の時にでてもらう感じで行く事になるから。軽めの任務は他の面々でな。わかったな?」
「任せたって!」
「了解」
ローマの言葉に二人がそれぞれ了承する。
「んじゃ、そういう事で。お前らも休んでいいぞ。」
最終的にローマのその言葉で二人はブレイン本部を後にした。
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