天使な悪魔 第六章 _3

…ト……ギル……ト


チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。
眩しい……



え??!!!
目を覚ましたギルベルトがガバっと身を起こすと、寝ていたらしいベッドの脇には見慣れた顔。

「良かった~、ギルちゃん倒れたまま二日も目を覚まさないからお兄さん心配しちゃった」

ほぉ~っと柔らかな笑みを浮かべるフランシス。
その和やかな表情にギルベルトは一瞬いまの状況がわからなくなって、しかしすぐに思い出した。

確か自分はアーサーの葬式に出て……

「アルトはっ?!!もう埋めちまったのかっ?!!!」
ベッドから飛び出ると、フランシスがびっくりしたように飛びずさる。

「え?埋めたって何を?!!
坊ちゃんなら隣の部屋だけど??」

きょとんとした目で言うフランシス。

心底わけがわからないといった感じのその表情に、ギルベルトもわけがわからなくなって、自分の目で見た方が早いとばかりに続き部屋のドアを開けて隣の部屋へと飛び込んだ。


部屋に入ってまず目に入ったのはベッドの上。
相変わらず淡い灰色の毛並みのクマを抱きしめながら半身を起してアントーニョとこちらも和やかな雰囲気の中で談笑しているアーサー。

まるで何事もなかったかのように…いや、よくよく見れば肩口に包帯が巻かれているようなので、何事かはあったのだろうが…

「……え…?」

突然ドアが開いて入ってきたかと思えばそのまま立ちすくむギルベルトに、中の2人は驚きの目を向けた。

3人が3様に固まっている中、最初に口を開いたのはアーサーだった。

「ギル、もう仕事は大丈夫なのか?」
と、当たり前に聞かれて、ギルベルトは口ごもった。

そこでようやく我に返ったようにアントーニョが駈け寄ってくる。

「ギルちゃん、ちょお事後処理どうなったか聞かせてくれへん?
あーフラン、アーティの様子みといてーー」

と、そこで強引にギルベルトを連れ出そうとするが、そこに生きて動いて話しているアーサーがいるのだ。
連れ出されてたまるかと、ギルベルトはそれを振り切ってアーサーに駆け寄った。

「…ギル?どうしたんだ?」
きょとんと小首をかしげるアーサー。

大きな淡いグリーンの瞳が見あげてくるのを見て、涙があふれた。

――…生きてる……のか……


さきほどまでと今とどちらが夢なのかわからない。
でも…こうして生きているアーサーと一緒に居られるならずっと夢の中でも構わないと思った。

傷に触らないようにそっと…それでもしっかりとアーサーを抱きしめてその体温を感じると、心の奥底から温かいモノがこみあげてくる。

「…アルト……頼むから…側にいてくれ…」
しゃくりをあげるギルベルトをアーサーがそっと抱きしめ返した。

「…心配かけてごめん……
でも…あの時はギルが殺されると思ったから…」
と、正確にとは言わないまでもギルベルトが泣いている理由を断片的には理解しているらしくアーサーが困ったように言う。

「俺様は平気だから…
アルト守るためなら死んでも生き返るから…
だからもう二度と危ねえ真似はしないでくれ……」

半分本当で半分嘘。

死ぬ時は死ぬだろうが…それでもアーサーに必要になれば、自分はたとえ死んでも幽霊になってでも助けにくるだろうと、それは本気で思う。

これは自分が生きている理由じゃない。存在している理由である。
生きていても死んでいても、自分はアーサーを守るために存在しているのだ。
それは断言できる。

アーサーを守る必要性がある限り、自分は死んでも自分の存在は消えないし、アーサーがいなくなれば例え肉体が生命活動を続けていたとしても、自分の存在など消えてなくなったも同然なのだ。
ギルベルトは心の底からそう思った。



結局…その後思い切りアーサーが生きて存在している事を確認して満足したあと、少し離れた部屋の隅でアントーニョからこっそり説明を受けた。

侵入者に襲われてアーサーが怪我をして処置室に運び込まれたところまでは現実。

アントーニョの銃が敵の銃口を大きくそらしたためアーサーの怪我もほんのかすり傷で発作もすぐおさまったのだが、自分はどうやらアーサーが処置室に運びこまれてドアが閉められたあたりで気を失っていたらしい。

そして…なんとその後まる2日意識を取り戻さなかったという。

もちろんアーサーには心配をかけるし本当の事は言えない。
だからギルベルトは侵入者があった事の事情説明や事後処理に追われていて忙しくて会いにこれないのだと伝えていたらしい。

つまり…アーサーが処置室に入ったあとの事は全て夢だったということだ。
あまりにリアルすぎてギルベルトとしたら夢なんて思えないのだが……

でもまあいっか…逆よりずっといい。
アルトが生きてるならもう何でもいい…

心の底からそう思う。

もっとも…アーサーの容態が好転しているわけではないので、手術ができるくらいに回復しないとあの全身が引きちぎられるような喪失感をまた味わう事になるわけなのだが……

まだ時間はある。
努力はできる。
治してみせる。

あんなふうな絶望感にさいなまれる事になるくらいなら、自分にとってどれだけアーサーが大切でどれだけアーサーを必要としているか、毎日毎日わかってもらえるまで伝えるのだ。

まずは…早急に基地内の安全を確保、そして一緒にでかけるところから…と思っていたが、そんな悠長な事はしていられない。

もう…籍いれるか…

自分の人生にしっかりと刻み込まれて、いなくなったら人生が大きく欠けるのだ…とわかってもらうには、それが一番良い形かもしれない。

「なあ、フラン、ちょっと宝飾品買いてえんだけど、相談に乗ってくれ」

まずは形から…と、ギルベルトは指輪を購入するため、フランシスに声をかけた。

――給料3カ月分の指輪とか買いてえんだけど……

そしてアドバイスをもらうのだ。

――無理…じゃないけど、お前の給料のってことならよほどデカイ石とかついてんじゃないと無理よ?普段からはめるつもりなら、せめて1日分くらいにしておきなさい。

…と。


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