天使な悪魔 第六章 _4(終)

――アルト、調子に乗って走りすぎると病院に逆戻りだからなっ

中央ライン地域の北部。
もっと北に行けばのどかな農村地帯だが、北部でも中央に近い地域は大きな庭園や城の多い観光地である。



その一角にある薔薇園で有名な自然公園。
車を降りた少年は初めてみる広大な花園に目を輝かせて走り出した。
それを慌てて追うのは銀色の髪に赤い目の青年。

2人は薬指にお揃いの指輪をしている。


そう、あれから1年。

あの事件から驚くほど容態が落ち着いて、ギルベルトの熱心な求婚で5カ月後に入籍。
その1カ月後にした手術は成功。

全て健常者と同様に…とはいかないものの、即命に別状がと言う事はなくなって、それでも大事を取って6カ月たった季節の良い日に、2人は少し遅い新婚旅行がてら、アーサーが行きたがっていたライン地域の中央北部へと旅行に来ている。

もちろん2人きりというわけにはさすがに行かず、少し離れたところで護衛がてら見守りながらも自分達もまったり楽しむのは悪友2人。

「坊ちゃんもすっかり元気になって良かったねぇ」
と、しみじみ言うフランシス。

「そりゃあ危ない橋渡ったしなぁ」
と、それを受けてアントーニョが楽しそうに笑う。

「んーでもルートの許可ありだったし?」
「せやけど…あんまおおやけになったら、まずいことやん?」
「そうだけど…」

2人は1年前に想いを馳せた。


実際それは精密な計算と多大な協力者がいないと実現不可能な計画だった。
なにしろスパイを泳がせた上で上級将校の宿舎へ誘導などという無茶な計画だったのだから。

アントーニョから計画を聞いた時フランシスが出した条件は、総帥であるルートの許可と協力を得る事であった。
それがないと下手すれば自分達だけではない。
アーサーまで連座させる可能性もでてくる。

だからアントーニョと2人、ルートに事情説明をして協力を求めに行った。

目的は、アーサーに自分がギルベルトが生きて行くのに絶対不可欠な存在であると言う事を認めさせること。
もちろんルートにしてもそんな無謀な計画をはいそうですかと許可はしてくれない。
そもそもルート自身だってアーサーがギルベルトに必要などと言う事を信じてはいないのだから。

居なくなったらギルベルトも死んでしまうだろうと言うレベルで必要なのだと信じさせるのはもちろん容易ではない。

だからアントーニョの出した条件は、アーサーが死んだと思った状況でギルベルトが立ち直れるような様なら、アントーニョ自身が入隊時に出した《ギルベルトの指揮下以外では作戦に参加しない》という条件の撤廃と、自分とフランシスの降格。

ハッキリ言って普通ならやってみるまでわからないようなものを認めてはもらえないが、そこは覇王のお孫様だ。

アントーニョが作戦に参加するというだけで味方の士気はあがり敵の士気は下がるというだけに、いつでも好きな時に出動させられるというのは、そのリスクに見合う条件といえる。

こうして作戦は開始された。


まず日中、アントーニョがアーサーに睡眠導入剤だから寝る前に飲むようにと念を押してカプセルで効果時間を遅くした仮死状態になる薬を渡す。

そして夜、フランシスがまずスパイにさりげなく情報を流し、上級将校の宿舎の非常電源まで切らせてギルベルトの部屋へと侵入させた。

アーサーを人質にするのは計画通り。

そこで第一の選択。
目を覚ましたアーサーがどう行動するか…。
ギルベルトがアーサーを助けようとするのは確実だが、アーサーの方はどうだろうか…

明らかにスパイに協力するような様子を見せるようであれば、仮死状態から覚めた時点でギルベルトに現実を突きつけなければならない。
そうでなければ作戦は続行だ。


結局目を覚ましたアーサーはギルベルトを庇おうとする。
発作が起きるまでは目を瞑る。
が、本当に危険になる前に救出。

腕を少し銃弾がかすってしまったのは想定外だったが、まあ本当にかすり傷なので良しとした。

その後、カプセルが融けて薬が効いてアーサーが死んだように見せかけた時にギルベルトがどういう行動に出るか……

これを全て隠しカメラに収めて最終的にアーサーに見せようと言うのが今回の行動の一番の趣旨だ。

こうして葬式までで終了。

棺桶のアーサーに気を取られている間にギルベルトに後ろから睡眠薬を投与。
その後、仮死状態から覚めたアーサーに全てを見せて全てを説明して、ギルベルトには途中から夢を見ていたという事で納得させた。

案の定…というか、思った以上にギルベルトが壊れていって内心少し心配にもなったが、自分が死んだらギルベルトはここまで壊れるのだとわかったら、さすがにアーサーでも自分がいなくても大丈夫とは思わないでくれるだろうと思った。

実際アーサーもさすがに何故自分にそこまで価値があるのかわからないと言いながらも、壮絶に納得してくれたようで、めでたしめでたしだ。

ついでに…ルートも途中ずっと壊れて行くギルベルトを目の当たりにして蒼褪めていた。
理性的で何でも出来る自分の兄にも支えは必要なのだ…と、怯えながらも納得してくれたらしい。

今後アーサーの保護に全力を尽くすと約束してくれた。

結局アーサーが実際に記憶を失っているのか違うのか、草なのかどうなのかなど、諸々確認しようもないしわからないままなのだ。
が、どういう境遇であれギリギリの状況でギルベルトの命を優先しようとするくらいには無害なのだし、ルートの一声があればたいていの事は握りつぶせるので問題なしだとアントーニョは言う。

「結局な、体制とかそんなんどうでもええねん。
大事なのは人それぞれの気持ちやで?
東の生まれでも西の生まれでも好きやったら一緒におったらええねん。
規則守るために人間がおるわけやなくて、人間が幸せに暮らすために規則作るんやからな。
不幸にする規則やったらほかしたれ。
人間幸せになるために生きとるんやから」

「うん。まあお前の言う事やる事いつでも無茶苦茶だけど、真理だよね」

世の中は白と黒ではなくグレーで動いている。
理屈なんていつだってはっきり出来るものばかりではない。

それでも…青い空の下、幸せそうに笑う恋人達を見れば、それでも良いじゃないか…と、フランシスも思うのである。

人は幸せになるために生きている。
それが一番なのだから。


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