主人公は運命は自分の手で掴むものっ!
「みんな、今日は来てくれてありがとな~。
これからまあ俺らのストーリーのプロモーションてやつをやるらしいんだが、皆も俺様も心の底から思っている通り、『エルサイア・オデッセイ』は俺様カインがいれば成り立つってモンじゃねえ。
ローゼンやヴァンとか仲間はもちろんだが、そいつがいねえともう全部なんも意味ねえよって人間が1人いるだろ?
さて、誰だ?!」
最初の笑いが一通りおさまったあと、ギルベルトはそこはまず台本通りに問いかける。
当然その問いかけには
――アリアーーー!!!
と返事が返ってきて、ギルベルトは満足げに頷いたが、そのあと内心焦った。
本当ならここで会場からオカリナが聞こえてきて、ギルベルトは壇上から降りて彼女を抱き上げて壇上に戻り紹介する…そういう段取りのはずなのだが、オカリナの音が聞こえない。
おかしい……。
「そうだよなぁ~!
俺様はアリアのあの澄んだオカリナの音が聞こえたらいつでもどこでも例え火の中水の中だ」
と、もしかして忘れているのかも?と思いつつオカリナを吹くように秘かに促してみるものの聞こえない。
どうする?どうする?
もしかして会場の賑やかさにオカリナの音が紛れてしまっているのか?
「今もアリアを探してんだが、どうにも雑音が多くて聞こえねえ。
皆も耳を澄まして探してみてくれ…」
と、暗に会場に向かって静かにしてもらえるように誘導してみると、皆シン…と口をつぐんで耳をすませる。
聞こえたっ!!
――ピルルルル~
と、思ったよりも遥か離れたところからオカリナの音。
会場内と言っていた気がしたのだが、それは特設会場じゃなく、このオタクのイベント会場全体の事だったのか?!
それでもその音色を捉えた事にギルベルトはホッとした。
会場の皆にも聞こえたらしく、その音色までまっすぐ何も言わずに皆が道をあけてくれたので、ギルベルトは壇上から飛び降りて一路音色に向かって走り出す。
どうせ役のために適当に吹くのだろうと思っていたが、思いのほか澄んだ楽しげな音色で、原作とアニメのファンとしてギルベルトはホッとした。
少なくとも人気があるだけのクソいい加減な奴を選んだわけではなかったらしい。
そうして特設会場を出て10mほど。
――そこに彼女はいた…
…アリア………
まるで二次元の世界から飛び出してきたような、ディスプレイの向こうの彼女をそのまま立体化したような少女。
ふんわりとしたヴェールの下、真っ白な肌に吸い込まれそうに大きなグリーンアイ。
それもアニメの時そのままの精巧な細工のオカリナに触れるピンク色の唇はまるで桜の花びらのようだ。
細く白い首から肩にかけてのラインは繊細にして美しく、その本当に内臓が詰まっているのだろうか…と思うほど薄い身体を包むドレスは美しいドレープを描いている。
まあ…あれだ。
マニアックだとは思うが、原作通り貧乳なのもポイントが高いと思う。
とにかく清楚さ、儚さ、可憐さの化身がそこにいた。
あまりに“アリア”すぎて一瞬諸々が消し飛んだが、ギルベルトもそこはプロ。
瞬時に言うべき台詞、やるべきことを思い出した。
「アリアっ!…やっと…取り戻した……」
と、その小さな身体を抱きしめ、
「さあ行くぞ。皆が待っているっ!」
と、その羽のように軽い身体を抱き上げて、今度は特設会場の舞台に向かって疾走する。
気分は上々。
天にも昇る心地だ。
神様、監督様、ありがとうっ!!
俺様、この映画の撮影終わったら金屏風をバックにインタビューなんてする事になっちゃうんじゃね?
「え?ええっ??カインっ??」
とアリアが動揺してワタワタと小さな抵抗を始めるが、そんな可愛い抵抗で揺らぐギルベルトではない。
自慢ではないがアクション系の役をスタントを使わないで全部自分で出来る程度には日々身体は鍛えている。
ああ、演技なんだろうが動揺しすぎて涙目になるアリアは可愛すぎだ。
台本にはないが、
「大丈夫。何があっても俺様が守ってやるから。
大人しくしてろ」
と、しっかりと抱え直して額に口づけを落としてやると、真っ赤になって固まるのも清純な感じがして良いっ!
ああ、アリアだっ!
これはギルベルトが初めて『エルサイア・オデッセイ』で出会って以来、5年間待ち続けたギルベルトのためのアリアだ。
そして台本通りの言葉を、しかしながら万感の思いを込めて本気で宣言する。
――みんな、これが俺様のアリアだ。何度離れ離れになってもこうして絶対に腕の中に取り戻してみせるから、みんなも映画期待しててくれっ!!
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