ヒロインはディスプレイを超えて_5

エピローグ


「はあぁ??人違い?!!!」

壇上で会場の面々に向かって宣言し、カメラを通してヒロイン役として全国に通達され…異を唱える間を与えてもらえずイベントが終了。

そこでようやく発覚した人違い。
それにギルベルトがキレた。



「冗談じゃねえっ!!俺様のアリアはこいつだけだっ!!
彼女がアリアじゃねえんならこの役降りるぞっ!!!」

やっとみつけた理想の恋人アリアなのだ。
引き離されてたまるかとぎゅうぎゅうと抱きしめられて動揺するアーサー。

しかし言うべき事は言っておかなければ…とおそるおそる口を開く。

「…彼女…じゃない……」
「は?」
「彼…が正しい…」

「ええええええーーーー?!!!!!!」
その場にいる全員が絶叫した。


「嘘……だろ?」
一番動揺したのはギルベルトだ。

「本当だ……なんなら脱ぐか?」
と、アーサーがドレスを脱ごうとすると、わあああーーーーー!!!!とギルベルトは慌てて自分のマントを脱いではだけたアーサーの肩を包む。

「…男だから問題はない」
「ダメだっ!!ぜぇえええ~~ったいにダメだっ!!!」

真っ赤になってそう言うギルベルトに困ってアーサーはため息を一つ。
仕方なしに言う。

「サークル塩じゃけの本田菊を呼んでもらえないか?」





「…じゃあ本当の本当に…?」
「ええ、男性です」

こうして呼ばれた菊に断言されて、ギルベルトは頭を抱えてしゃがみこんだ。

なんてことだ…
ようやく見つけた理想の女性がよりによって男だった……


それはなかなか衝撃的な事実だった。
脳内の金屏風が遠ざかって行く…。

「何落ち込んでんのよ、らしくないっ!」
と、そこにゴンと軽く蹴りが入った。

「…お前……なんでこんなとこにいんだよ?」
と、その声に上目遣いに睨みつければ、同じ事務所の幼馴染、エリザベータが立っている。
今回の映画に関わってはいなかったはず…と思って言えば、エリザは軽く肩をすくめて

「あたしはカイアリではないけど、一応『エルサイア・オデッセイ』でも活動してんのよ。
で、菊ちゃんとは作家仲間だから……」
と、知りたくもない事実を告げてくれる。
そしてさらに続けた。

「良いじゃない。あんたどうせオタクのおもしろアイドルとして名を馳せてるんだから今さらでしょ?
たまたま惚れた相手がアニメの中に生きてるに比べれば、たまたま惚れた相手が男だったの方が触れられるだけマシじゃない?」

ギルベルトは本来異性愛者のはずなのだが、たぶんショックで色々抜けていたのだと思う。
エリザのこの理屈をそうかも…と思ってしまった。

「…そう…か?」
と聞くギルベルトにエリザが
「そうよっ。おおぉ~~きな進歩じゃないっ!」
と力強く頷いてくれたあたりで、何かが吹っ切れてしまう。


「とりあえずね、こんな大事なイベントをすっぽかすなんてローラは論外よ。
この子で行った方が良いんじゃないかしら。
話題性もあるし、そもそもこれがヒロインが人違いでしたとか、初っ端からケチつくのも宜しくないと思うわ」
「ん~~私は良いと思うわよ?
元々ローラにアリアって乗り気じゃなかったのよね。
話題性って言うならいっそのこと謎の美少女って事で正体不明にしたら面白いと思うわ」
「ですねっ!さすが姫原桜子先生っ!」

実はギルベルト達が所属する大手事務所の専務の娘なエリザが提案すれば、原作者である少女漫画界の重鎮である姫原桜子が乗ってくる。

実はこの二人、秘かに裏でBL同人作家仲間として繋がっているのを知っているのは2人自身と本田菊のみである。

「羽村監督はいかが?」
と、その2人に詰め寄られ、監督はコホンと一つ咳払い。

「まあ…やむを得ない事情ならとにかく、大事な最初のイベントに寝坊で遅刻する女優よりは…な」
と、それを承諾。

「じゃ、そういうことで。
あとは事務所の皆が頑張ってね」
と、事後処理は任せたわよっ!と言うエリザのにこやかな宣言で全てが決まった。

人気俳優ギルベルト・バイルシュミットの最愛の謎の美少女モデル兼女優アリアはこの時ここに誕生したのだった。


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