ヒロインはディスプレイを超えて_3

カイン、巫女姫を捕まえる


「アリアさん、お疲れ様です。
ずっと座りっぱなしで疲れたでしょう?
今ならあちらのギルベルトさんのイベントの方にだいぶ人が流れているので、若干人も途切れますし、少し身体を動かしていらっしゃいますか?」



オタクの祭典というものを正直舐めていた。
すごい熱気、そして菊が人気サークルというのもあり、すごい忙しさだ。

入院中に知り合って意気投合した菊はいわゆるオタクという種類の人間で、人気アニメ『エルサイア・オデッセイ』の二次創作漫画を描いて人気を博している同人作家でもある。

このアニメ自体はアーサーも菊に熱心に勧められて原作の漫画からアニメ全話まで全て読みつくしたのだが、よく出来ていると思う。

悪の帝国に狙われる巫女姫アリアを放浪の騎士カインが仲間達とともに助け守りながら、打倒帝国を目指すという、ストーリー的にはよくあるものだが、キャラクタが実に良い。

特に主人公のカインはよくヒーロー系にあるいわゆる熱血な感じではなく、能力はとてつもなく高いモノの表面上はクールで、しかしアリアと運命的な出会いを遂げてからはどんな困難な状況でも逃げず命をかけてアリアを守り通すのが良い。
それこそアリアが帝国に拉致されて帝国の首都の城に連れて行かれても諦めずに単身助けに行こうとする場面では、そんな風に何があっても想ってもらえるアリアは心底幸せだと思った。
(まあ結局は1人で行こうとするのを仲間に止められて全員で作戦をたてて救出するのだが…)

始めは菊に勧められて見始めたそれに、いつのまにかアーサーも夢中になっていったのは秘密である。

今回も菊が難しい国家資格試験に合格したと聞いて祝いに何でもやると言ったが、時期的にコスプレを頼まれたりするんじゃないか…と思わなかったかと言うと嘘になる。
まあ絶対に他には言えないが、アーサーは可愛いモノ綺麗なモノが大好きで、アリアの衣装も良いなぁと思ってはいたので渡りに船。
渋々といった体裁を取りながら、実はご機嫌で身に着けていたりした。

(菊は本当に器用だよなぁ……)

アーサーは休憩がてら少し周りをみてみようと菊のサークルを離れて歩きつつ、アリアの衣装の重要な小道具のオカリナをマジマジと眺めた。

それは普通の市販のオカリナに綺麗な細工を施したもので、作中のアリアが吹いているオカリナそのものである。

(これ…実際に吹けるのかな?)

一応コスプレをするとなった時にそういう事を求められたらとアーサーもこっそりオカリナを買ってアリアが吹いている曲は練習はしたのだが、この劇の小道具のようなオカリナは果たして本当に楽器としての機能を有しているのかと気になった。
そして唇を近づける。
すると普通のオカリナと同様に綺麗な音色が響き渡った。

――おお~~!!!本当に吹けるっ!!!
そう感動しつつ楽しくなってそのまま吹いていると、何故かアーサーの前の人混みがざ~っとモーゼの海割りのように左右に引いていく。

――…へ??
こくん…と首をかしげながら、もしかして自分も何か左右に避けた方が良いのだろうか…と迷っていると、前方から黒い影がマントを翻して疾走してくる。

――アリアっ!…やっと…取り戻した……

避ける間もなく筋肉質な腕に抱き締められた。

――え?ええっ??
驚きすぎて固まっていると

「さあ行くぞ。皆が待っているっ!」
と、実にキラキラしい笑顔で軽々と横抱きに抱えあげられた。

銀色の髪に身体にぴったりとフィットした革のシャツにパンツ。
そして黒いマント。

考えるまでもなく『エルサイア・オデッセイ』の主人公カインだ。

ああ、やっぱりカッコいいな。
イケメンだし細身のくせにしっかりと筋肉質な男らしい体躯をしている。

あまりに現実感がなさすぎてそんな風に現実逃避をしている間に、アーサーはカインに抱きかかえられたままあれよあれよと言う間に舞台の上。

わ~っと割れるような歓声にようやく我に返って

「え?ええっ??カインっ??」
とワタワタと抵抗を始めるが、しっかりと抱き抱えたその腕はびくともせず、
「大丈夫。何があっても俺様が守ってやるから。
大人しくしてろ」
と、返って強く抱き寄せられ、なんと愛おしげに額に唇を落とされた。

――えっ?えええぇえぇ~~~~?!!!!!
頭の中はもう真っ白だ。
何だ?一体何が起こっている?!!
そして宣言される。

――みんな、これが俺様のアリアだ。何度離れ離れになってもこうして絶対に腕の中に取り戻してみせるから、みんなも映画期待しててくれっ!!




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