元軍国プロイセン。
人名はギルベルト・バイルシュミット。
黙っていれば非常に整った容姿のイケメン。
現在はEUの中心にもなったドイツを欧州の国々が群雄割拠する中で守り育てあげた男である。
年も明けて1月の初旬。
彼は一つの難題を抱えていた。
それは…半月ほどのちにくる自身の誕生日1月18日に、いかに想い人と過ごすか…という、ここ数年…ドイツに国の実権を開け渡してからは最大にして最難関のミッションである。
なにしろ相手は強敵だ。
元覇権国家。
七つの海を征した男。
ちっちゃなちっちゃな島国のくせに、本当にありえないほど強かった。
先の大戦だって彼が最後に踏みとどまらなければ確実に自分達が勝っていたと思う。
そのくせ思わず目を見張ってしまうくらい童顔で可愛らしい顔立ち。
身体だってその国土に見合うくらいに華奢で薄い。
国策となると欠片も本心が伺えない見事なくらいのポーカーフェイスを見せるくせに、プライベートだと不器用で、大きく澄んだ丸いグリーンアイをすぐ潤ませる泣き虫な面がある。
まあなんというか…プロイセンの想い人であるイギリスは、そんな風に可愛いくせにカッコいいという反則な男なのだ。
そんな男だからライバルはヤマといる。
元々イギリスと隣国で非常に古くから付き合いのある自称世界のお兄さんで内々にはイギリスのお兄さんを名乗っているフランス
同じく古くから付き合いのある童顔大好きペドのスペイン
イギリスに一人前の男として見て欲しくて独立した超大国アメリカ
その他もう数えきれないほどの国々が狙っているのだが、皆、思いを成就させられずに手をこまねいていた。
理由は…自分は絶対に周りに好かれていないと頑なに思いこんでいるイギリスのフラグクラッシャー度によるものだ。
もう好意的な事を言おうものなら
『何を企んでいるんだ?!』
と返ってくるものだから、好意がこじれにこじれて、挙句に好きなはずが暴言を吐いてしまって玉砕中の国が続出。
そして暴言を吐かれればもうイギリスはそいつの好意を信じないおまけつきだ。
ギルベルトはそんな面々の失敗を見ながら研究に研究を重ね…そして禁断の大技に出た。
秘義!食物兵器摂取!!
そう…イギリスは料理が好きでよくスコーン…と称するダークマターを量産している。
アメリカがあれだけイギリスに暴言を吐いてもまだ完全に見限られないのは、幼少時にそれを美味しいと食べ続けたからというのが理由の一因だ。
それはまずい…というレベルではない。
文字通り兵器。
普通の人間なら殺せるレベルだが……プロイセンは食べたっ!
最初…口にして飲み込んだ瞬間に気を失った。
意識が戻った時、意識を失くしている間にフリッツの親父に会った記憶が残っていた。
そのくらい強烈なそれを、プロイセンは文字通り恋のために命がけで食べ続けた。
もちろん死んでは元も子もないので、食べたあとは必ずそれが次回は少しでも食べても大丈夫なモノになるようにアドバイスをする。
ギルベルト自身は流浪の騎士団を経て知略の限りを尽くして戦い土地を得て過酷な状況の中で国を築いてきた男なので、それほど美食家ではない。
もちろん美味い物を美味いとは感じるが、食べ物を二分化するなら、美味い不味いよりは、食える物と食えない物という感覚だ。
しかしそれでも味覚が破壊されそうなそれ…。
食べてアドバイス食べてアドバイスを繰り返すうちに、ギルベルトの身体が丈夫になったのか食物兵器が暗黒物質くらいには進化をしたのかはもう謎ではあるが、食べてもなんとか意識を保つ事が出来る程度にはなってきた。
そしてその頃には週末にイギリスを訪ねる事もイギリスにとっても当たり前の感覚になってきていて、先日はイギリス邸に滞在中に遅くなったので
『もう遅いから泊まって行くか?』
などと言う言葉まで引き出す事に成功していた。
頑張ったっ!頑張った、俺様っ!!
ここまでくればもう一段階、『特別な日を一緒に過ごす』にチャレンジをしても良い頃だ。
幸いにして誕生日の前日までは元弟子である日本の家で世界会議である。
そこで弟のドイツに同行すれば、何かにかこつけて翌日の誕生日に一緒に過ごすという事も夢じゃない。
「ヴェスト、次の会議、俺様も同行するからな」
と弟に声をかければ、弟の方ももうそのあたりは見抜いていて
「わかっている。
もうそのつもりで手配をすませている」
と苦笑する。
察しの良い弟で何よりだ。
まあ基本的に仕事に関しては真面目なイギリスに対してはドイツもそう悪い感情は持っていない。
むしろいつもわけのわからない意見で周りを混乱させる元弟の超大国を暴言を吐かれてもたしなめ続ける姿勢には好感を持っていると言っても良い。
だからプロイセンがイギリスにずっと片思いをしている事も知っていて応援してくれている。
「上手くイギリスを誘えると良いな」
とプロイセンが焼いたパンケーキをテーブルに運びながら言う弟に、同じくコーヒーのマグを運びながら
「ダンケ。まあまず他の奴らをなんとかしねえとな」
と答えるプロイセン。
休日の和やかな朝に相応しい旨そうな朝食を前に、ああ、イギリスにもこんな飯食わしてやりてえなぁ…とプロイセンが思った瞬間、振動する携帯。
来たメールの発信元に目を落とすと、なんとイギリスだ。
「わりい、ルッツ!先食べててくれ」
の言葉で返事を待たずにメールを開くと、信じられない事が書いてある。
From:イギリス
件名:1月18日前後について
本文:
突然すまない。
お前の誕生日の17日の会議後か19日あたり、贈り物を渡したいので2人きりになれる時間を取ってもらえないだろうか?
「うおおおぉぉーーー!!!やったぞぉおおーーー!!!」
一瞬見間違いかと思って見直してもやっぱり誕生日のお誘いのメールで、プロイセンは驚きの目を向ける弟に、あとでな、と目くばせすると、すさまじい早さで返事を送る。
イギリスの気が変わったら大変だ。
From:プロイセン
件名:re:1月18日前後について
本文:
いつでもいいぜーー!!!
なんなら17日から19日までずっとでもいいっ!!
めっちゃ時間空けておくっ!!!
と打って送信を押したあと、プロイセンはテーブルの正面に座る弟に携帯を見せた。
ドイツもこれには驚いたらしい。
「やったなっ!兄さんっ!!」
と、それでも笑顔で言ってくれる出来た弟に、プロイセンは礼を言って、わくわくと返信を待っていると、来た返信は
From:イギリス
件名:re:re:1月18日前後について
本文:
いや…ドイツと祝う時間もあるだろうし、そちらを優先してもらって構わない。
俺は空いてる時間で良い。
本当に気を使わないでくれて良いから。
家族を大切にするイギリスらしい気づかいだが、今回は無用なのだ。
ドイツも賛成してくれている。
さて、それをどう説明しようかと悩んでいると、
「どうしたんだ?」
と、ドイツが携帯を覗き込んできて、
「そう言う事か、任せてくれ」
と、小さく笑って自分の携帯を出して何やら打ち始めた。
そして打ち終わって送信ボタンを押すと、これでいいだろう?とプロイセンに携帯をみせる。
From:ドイツ
件名:1月18日前後について
本文:
突然すまないな。
兄からメールについて聞かされた。
俺はいつでも会えるし、兄がイギリスと過ごすのを非常に楽しみにしていて今度の申し出もとても喜んでいる。
なのでイギリスの都合が良ければ誕生日当日の1月18日に一緒に祝ってやってくれないだろうか?
「ヴェストーー!!!優しい弟を持って俺様ほんと幸せだぜーー!!!」
叫んでプロイセンがドイツを抱きしめた瞬間、くる返事。
結局1月の17日の会議後から18日まで一緒に過ごす約束を取り付けて、兄弟はコーヒーで乾杯をする事になった。
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