オンラインゲーム殺人事件第六章_5_第4の殺人(20日目)

あれから1週間ほどがたつ。
ギルはルートが普段昼間はいなくて暇だし、犯人に身元が割れているアーサーが1人で買い物に行ったりするのは危険だからと、毎日のように買い物をして訪ねて来ては、料理や勉強をおしえてくれている。



「卵はな、水からゆでて半熟なら沸騰して8,9分、固茹ででも13,4分も茹でれば大丈夫だから」
と、教えられるまま、とりあえず茹で卵からたまごサンドまでは作れるようになった。

その他冷凍保存しておけば焼けば食べられると言う事で、各種スパイスに5日ほど漬け込んだ豚ブロックを燻して手作りベーコンを作ってくれたり、パスタを茹でてかければいいだけと、トマトソースやホワイトソースを作って小分けにして冷凍などなど、来れない時用にも色々用意して行ってくれる。

もちろんそれを1人で作れるように、ベーコンの焼き方、パスタのゆで方なども一緒につきっきりで教えてくれた。

今まで誰も…親でさえそんな風にアーサーに時間を使ってくれた事はない。

どんなに簡単な事でも、一つ達成するたびに
『お、出来たな。良い子だ』
と頭を撫でてくれた事も……

成績が上がってもコンテストで入賞しても、父はそんな風には褒めてはくれなかったし、母はいない。

だからそんなギルにとっては当たり前かもしれないやりとりが、アーサーにとっては泣きそうに慕わしいモノだった。

そんな優しい日々が続いたある日…アーサーはギルと家でニュースを見ていた。
普段はギルが居る時にわざわざ見たりはしないのだが、その日ニュースを確認していたのには理由がある。

顔見せの時に犯人を特定しようとしていたウィザード、エドガー。

彼はギルに個人的に情報交換をしないかと持ちかけてきていて、時折り自分の方の情報を流してくれていたらしいのだが、前日

『やあ、ギル。
今まで色々聞かせてくれてありがとう。
おかげでようやく犯人が割れたよ。
んで、すぐ糾弾したいところなんだけど、
実はそうと知らずに犯人と行動を共に
してる人がいるんだ。
追いつめられた犯人がその人物に危害加えない
とも限らないから、とりあえず先にその人物に....
事情を話して距離を取る様に忠告して、距離を
取ったのを確認したあと、主催にとりあえず
連絡をいれると共に、みんながいるところで
僕の推理を披露しようと思う。
まあ楽しみにしていてくれ。
それでは夜にまた。
エドガー@芳賀耕助』
というメールを寄越したまま、その日の夜にインしてこなかった。

たいてい行動を起こしたり起こそうとしてインして来ない時には何かがある。
だから嫌な予感にかられながらニュースをみていたら、案の定だった。

久しぶり…というにはあまりに短い期間ではあるが、2,3日おきくらいに死人が出ていた最近にしては1週間という日が開いているのは久しぶりと言えるだろう。
第4の犠牲者が今テレビで流されている。

都内在住の高校生…芳賀耕助。
…エドガーだ……

しばらく死人が出ていなかったので、なんとなくもう誰かが魔王を倒すまでは犠牲者は出ないような気になっていたのだが違うようだ。

「…大丈夫、大丈夫だ。
お姫さんは俺様がちゃんとガードしてるだろ」

蒼褪めた顔をしていたのだろう。
プツっとテレビが消されると同時に、ギルに抱き締められて力が抜けて行く。
そうだ…大丈夫…
自分達にはギルがいる……

いつだってギルはアーサーが一番欲しい言葉をくれて、欲しい事をしてくれた。
絶対にまもると言ってくれたのだ。

「…うん…そうだよな」
せめて信じているという意思表示くらいはしなくては…と、こわばった口を頑張って動かしてみると、
「おう、大船に乗ったつもりでまかせてくれ」
と、ギルはいつものように自信に満ちた笑みを浮かべ、それを見ているうちにだんだんと恐怖と不安が薄れて行った。



そうして二人で一緒にキッチンに立って昼食を作り、一緒に食べて洗い物をしていると、ギルに一本の電話がかかってきた。

「ちょっと生徒会関係の電話な」
と、軽く手をあわせてアーサーに洗い物を任せてリビングへと向かう。

生徒会長という肩書には“元”がつくらしいが、今でも生徒会副会長ではあるらしい。
ギルは優秀だから色々頼られているのだろう。

そんな忙しい優秀なギルが自分のようにぼっちのつまらない人間にこんなにかまってくれるなんて本当に嘘みたいだ。
アーサーは食器を洗い終えて食器棚にしまうと、エプロンで手を拭きながらリビングに行く。

「ああ?!今は無理っ!ざけんなっ!ちょっ!!切んなっ!ちきしょー!!」

キッチンから顔を覗かせると、ギルが今までアーサーが聞いた事もないような苛立った声音で乱暴な言い方をしていて、アーサーは驚いて目を丸くした。

気配に聡いギルはそれに気づいたらしい。
「あ、お姫さん、なんでもねえから…」
と、電話口を塞いでアーサーに言いつつ、また電話に戻ったが、どうやら相手は用件を言って切ってしまったらしい。
ギルは深々とため息をついて肩を落とした。

「わりい。ちょっとな…今日中に会長か副会長のサインが必要なモンがあるらしくて、ルッツは出かけてるし、もう一人の副会長もどうしても掴まんないみてえなんだ。
で、今からちょっとだけ学校行って来るわ。
お姫さん心細いとは思うけど、1時間半で絶対に戻るから待っててくれ」

と心底申し訳なさそうに言われれば否とは言えない。
というか本来アーサーにはギルを引きとめる権限などあるわけではないので、

「大丈夫。家で問題集でもやってるから」
と言うと、気をつけて…とギルを送りだした。




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