オンラインゲーム殺人事件第五章_3_ミッション4(11日目)

「兄さん、遅かったな。
もう準備しておいたぞ」

息を切らして自宅のドアを開け、廊下を駆け抜けリビングに飛び込むと、そこには準備の良い事に弟がローテーブルにちゃんとギルベルトの分までノートPCを出してネットにつないでおいてくれている。
本当にありがたい。
出来た弟だと心から感謝する。



「ダンケ、ルッツ。
でも俺様が今日戻らないとか思わなかったのか?」
と、まあPCまではとにかくとして、その横に淹れたての熱いコーヒーのカップまで用意してあると聞いてみたくもなった。

その兄の質問に対して、弟は淡々と述べていく。
「まず兄さんの帰宅が遅れる理由として…
兄さんはいい加減なように見えて時間は守る性質だから、普通に遅れる事はありえないだろう。
乗り物に関しては事故の情報などは入ってきてないのでこれもなし。
普通に暴漢に襲われたり事故にあったりしたら、警察から連絡が来る。
アーサーに引き留められたりしても連絡の一本くらいは寄越すだろう。
万が一、アーサーが何か怪しい人物だったとしても遅れをとるような兄さんではない。
あとは…その…女性だった場合で…盛り上がって連絡が取れないような状況に…という可能性は……皆無ではないとは言わないが、兄さんならそのあたりはきちんと手順を踏んで、交際後、プロポーズ、双方の親の顔合わせなど、きちんと手順を踏んでからだと信じている。以上」

最後だけは真っ赤になってしどろもどろに言うので、ギルベルトまで赤くなってしまう。
いや、別に自分がそこまですごい手順を踏まなければと思っているわけではなく…弟がどこまで考えていたのか想像するとなかなか恥ずかしいというだけだ。

盛り上がって連絡が取れないような状況?お姫さんと?
(ありえねえ…)
と、それは心の中で思い切り否定する。

全ての相手に対してそう思っているわけではないが、少なくともお姫さんは会ってその日に軽々しく手を出して良いとか言う相手ではない。



結局デパ地下で思い切り色々買って一緒に帰ったお姫さんの自宅マンション。
1人暮らしと言うだけあってすごく広いわけではないが、一面可愛らしいタペストリがかざってあって、ソファの上にもパッチワークや刺繍のクッション。
それが全てお姫さん自身の手作りだというから驚きだ。

部屋のあちこちには来訪者を観察でもしているかのようにチラチラお目見えするヌイグルミ達。
女性であるはずの従姉妹のエリザの部屋より…いや、今までみたどの女子の部屋より可愛らしい。

さらに驚いた事にテーブルにかかっている繊細なレースのテーブルクロスまで手作りだというから、もうその女子力の高さには言葉もない。

そのくせ料理だけはダメだということで、冷凍庫にはレンチンできるプレートの食事がつまっていて、冷蔵庫には逆に飲み物とプリン以外何もない。

しかしとりあえず…と出されたアイスティはこれまで口にした事もないほど香り高く絶品だったため、もしかしたら料理がダメと言うのも謙遜か、もしくはダメでないと思うレベルがとてつもなく高いのかもしれない。

それでもそれなら自分が作るから一緒に…と、翌日の昼食作りを口実にまた訪ねる約束をして、一緒に食事をしたあと大急ぎで家に帰って来たのだ。

もう家も本人もやんごとなさ満載で、しかも内気で人見知りなお姫さんを会ったその日に押し倒すなんてとんでもない。

いや、老若男女イケる某悪友くらいの男ならやってのけるかもしれないが、そんな事しやがった日には鞭うちの刑だ。

そんな事を考えながらギルベルトはコーヒーをすすりながら画面に注意を向けた。



今日の予定はミッション4をクリアする事で、いつものように少し遅刻気味のフェリを待ちながら、ウィスでお姫さんと会話。
まるでカップルじゃね?とかご機嫌でいると、そこに割り込むように珍しいウィスが入ってきた。

ウィスの送り主はエドガー。
前回イヴが怪しいと主張していたウィザードだ。


(突然ごめん。僕の長年培われてきた洞察力だと、君が一番人間性的にも理性的にも信用できる気がしたんで相談したい)
と褒め殺しから入ってくるのに、

(あ~、まあなんつ~か、信用できるかどうかは別にして、言いたい事あったらどうぞ?)
と、軽く流しておく。

思い切り何か期待されても困るし、でも情報はなんでも集めておきたいのでそう返しておくと、エドガーは続けた。

(頭も…良いらしいね。安心した。最初に言っておくけど、僕の事は君の他の仲間にも言わないで欲しい。)
(あ~、はいはい。エドガーの名前出さなきゃ情報はもらしてもいいか?
例えば…俺らがショウが秋本翔太って知らなくてエドガーがそれ知ってて俺にショウ=秋本翔太だと言ったとして、それをある筋から知ったんだけどショウ=秋本翔太らしいぞ、って感じで)
(ああ、それはいいよ。漏らして欲しくない事の時はその都度僕の方がそれを付け加えるから。)
(らじゃらじゃ。んで?相談て?)
(それを証明する術は本当にないんだけど、僕は今回の殺人には一切関与してないし、君もそうだと僕は確信してる。
というか…僕の判断で一番犯人だという可能性が少ないのが君だと思ってるんだ。
で、僕は誰が犯人なのかを突き止めて行きたいと思ってるんだけど、個人で動いてるあたりはともかくとして固定パーティーだと人物像を把握しにくいんで、できれば君の仲間がどんな感じの人物なのかとか教えてもらえるとありがたい。
もちろん別に君の仲間を特に疑ってるとかじゃなくて、とにかく集められるだけの情報を集めて、その中から必要な情報と不必要な情報を取捨選択して推理を進めていきたいんだ)

ん~~どうするかねぇ…とギルベルトは天井を仰ぐ。
まあ…流す情報はこちらで選択できるわけだから個人情報とかをもらさなければいいだけだが、問題はそれを他に隠してという事がバレたらこんな疑心暗鬼になりやすい状況なだけに仲間の信頼を失いかねない。

しかし向こうからも有益な情報がくる可能性もあるわけだし…。

ルートは弟だし事情を話せば問題なし。
フェリは気にしないと思う。
問題は…非常に悲観的な方向に考えるお姫さんだ…
隠しごとをしているのがバレて信用を失って暴走されるのは怖い。

(ちょっと考えさせてくれ。
俺様は俺様の仲間を全面的に信じてるから、万が一にでもその仲間から信用をなくすのは怖い。こういう状況だから余計にな)
とりあえずそう返しておく。

(もっともな話だね。一応…僕が言いだした事だし僕の方からは随時情報が入り次第送らせてもらうよ。)
幸いエドガーはそれを好意的に取ってくれたらしく、もめずに終わった。




そんなやりとりをしているうちにフェリがインしてきて、いよいよミッション4に出発だ。

ミッションも3までは正直ソロでも出来た。
というか、そこまでは他のメンバーに素材狩りなどで暇をつぶさせている間に情報を集めるためソロ特攻&クリア。
その後メンバーを連れてクリアさせた。

その感覚で4も覗いて来たのだがこれは無理だった。

やる事はやっぱり中ボス退治。
街を出て海岸とは反対方向に進んだ山の中。
一番最初のミッションで麓の兵隊に手紙を渡したあの山の上だ。

山の中腹に敵が1体。
ドアの向こうに1体目の敵。
しかしドアを開けると奥にいる敵も襲ってくるしかけだ。

一体ずつやろうと思うと奥の敵からやらないとだが、ドアを開けずに奥の敵の所に行くには一定のタイミングで炎が吹き出したり落とし穴が移動する脇道を通らなくてはならない。

これ…お姫さんやフェリちゃんには無理だな…とは思うものの、奥の敵は状態異常がひどすぎてプリーストがいないとソロで倒せない。
これが一番の問題だ。

最善は…ドアを開けずに俺様が脇道通ってドアの近くまで持ってきて皆で叩いて、その後ドアを開けて沸いた敵を全員叩く…だな、とギルベルトは結論づけて、全員に作戦を説明した。





今日もギルがカッコいい…。

リアルでまるでゲーム内そのままに色々知っていて容姿も周りが振り返るほどカッコいいギルと夢のような一日を過ごしたあと、アーサーは今度はゲームの中でギルに会う。

今日の予定はミッション4のクリア。
いつものように城の花園で合流して、全員で最初のミッションで行った山のさらに上、中腹のあたりに移動。
そこでミッションの説明を受けた。

ミッションについてはどこに行って何をしてくれくらいの本当に必要最低限の情報しか与えられないのだが、いつもギルがあらかじめ調査して作戦をたてて皆に教えてくれてクリアという感じで進んでいる。

今回もただ山の中腹の門の奥に怪しい気配を感じるので調査してきて欲しいという情報だけで、出てくる敵や出てくる状況、敵の攻撃まで全部1人で調べ上げてこれるギルはただ者ではないと思った。

ギルがいなければきっとフェリと二人、ミッション1の山の麓へのお使いすら落とし穴にはまったことで挫折していたかもしれない。

頭が良いだけじゃない。
今回は門をあけると敵が沸いて門の奥の敵と同時に襲ってくるからと、炎が転々と沸いてくる脇道で器用に炎を避けて奥まで行って奥の敵を釣ってくるという、ありえない反射神経が必要な役もギル自らが引き受けていた。

『今回の敵は麻痺の状態異常があるから、お姫さんはルッツの状態回復だけは最優先で頼むな。
あとは皆いつも通りで良いからな?
門を開けるボタンさえ絶対に触らないでくれれば、あとは俺様がくるまでは何しててくれても構わねえから』
と、炎の脇道を通って奥へ向かうギルを見送ると、アーサーはリアルでほぅっとため息をついた。

今日一日、本当に夢のような時間だった。
楽しかった…幸せだった…
明日も家に来てくれると言う事は、自分みたいにつまらない反応しか出来ない人間と一緒でもギルも少しは楽しいと思ってくれたんだろうか…。

PCを置いてある机の上には今日ギルにゲームセンターでとってもらったウサギ、ギー君が鎮座している。
ギルにもらったギルと同じ赤い目のウサギだからギー君。
ウサギのくせに少しツリ目がちなところもギルに似ている気がした。
今度、ギルが着ていた海陽の制服でも作って着せてやろうか…と、ふふっと笑ってその長い耳を指先でつついた瞬間、PCからパーン!!!というゲーム内の警告音と共に、

『フェリーー!!!何をしているんだあぁあああーー!!!!!』
と言う、ルートの絶叫が画面にデカデカと表示された。

え??
気づけば目の前に巨人。
ディスプレイの向こうのアーサーにまさに腕を振りおろしかけていたそれは、即座にルートがプロヴォでタゲを取ってくれた。

『兄さん、すまんっ!!巨人を沸かせたっ!
アーサーは離席はしてないなっ?!』
ギルへの報告と自分への確認。

『ああ、いる。大丈夫』
と、アーサーが答えると、今度はギルから

『門開いてるならそっちから向かう。
お姫さんはそれまではルッツの回復。
俺が着いたら俺がこのままこっちの麻痺ある大蛇をキープするから、俺の麻痺回復だけ優先しつつ、余裕があったらルッツのHP回復してやってくれ』
と、指示が飛ぶ。

『わかった』
と返事をしてとりあえずルートに徐々にHPが回復するリジェネレーションだけかけてアーサーはギルを待つことにした。

『ヴェ、ごめんねっ。この赤いの何かな~って思って俺つい……』
と、オロオロするフェリにも
『わからないものに触るなっ、この愚か者っ!そもそもさきほどの説明を聞いてなかったのかっ』
と怒るルートとは違い
『あー大丈夫っ。まあこういうハプニングもオンゲーの醍醐味だからっ。
ピンチになるとみなぎるぜ~~!!』
と楽しそうにフォローを入れてくるあたりが余裕だと思う。

ギル格好いい、本当に格好いい…。

脳内で今日リアルで会ったばかりのギルの姿が再生される。
もう気遣いが凄かった。
ナチュラルに居心地が悪くならないように先回りされている気がした。

思えば人と話したりすることが苦手なはずの自分が随分と色々話せた気がする。
緊張させない。リラックスさせてくれる。

普通なら側にいるのも申し訳ないくらいのイケメンなのに、性格も良く気遣いも出来て頭が良いってなんだそれはっ!と本気で思った。

『ちょっと門についたら本格的にタゲ取るから俺様へのアクションは待ってな』
と言う言葉があって少しして、ギルが無傷で門へ到達する。

そしてシーフの必殺技、ポイズンストリームを一発。
紫の竜巻が敵の周りをグルリと回って消えていく。

『お姫さん、俺様が万が一当たって麻痺くらった時だけ回復頼むな。
他の毒やHPなら薬で回復するから俺様には手ぇ出さないでくれ。
お姫さんにヘイト移ったら怖いから』
と、言いつつそこから即回避装備に着替えて回避アビを発動。

さらにルートとフェリには
『俺様こいつ引きつけながらそっちの攻撃参加するから、ルッツもフェリちゃんも俺様の側には来ないでくれ。
出来ればそっちの巨人挟んで俺様と反対側な』
と、指示。

そこでルートも落ち着いてきたようだ。

『了解した。
取り乱してすまなかった。
こちらは兄さんの位置から斜め左後方を向かせるから、アーサーとフェリは斜め右後方で頼む』

『ナイスだ、ルッツ。
ってわけで、乗り越えて笑おうぜ』

冷静になった盾役ルートの的確な誘導とシーフのジョブ特性で4倍、フェリの歌で倍、さらにアビリティでその倍と、通常の16倍になったギルの回避力。
そして時の運…だろうか。
なんと全員死ぬこともなく巨人、大蛇と倒しきった。

『おおーーー!!!』
と思わず歓声をあげる4人。

『達成感ぱねえなっ!』
『うんうん(♡´▽`♡)し』
『まあ全員無事で良かった』
『そうだな、あとは報告するだけだ』

などと話しながら足取り軽く下山を始めた時だった。
突然画面に表示されるウィスの紫の文字。

(アーサー、今どこ?一緒に遊びに行かない?)

その文面は普通ならそんなに怯えるようなものでも驚くようなものでもない……が、相手があのアゾット主導の集合の時に追いかけ回されたオスカーだと言う事もあって、アーサーは硬直する。

返事なんて返す余裕は当然なくそのまま無言でいるとさらに
(アーサーってさ、恋人いるの?)
(もしかしたら今フリーだったりする?)
と続く。

恋人どころか友人さえいねえよ、悪かったなっ!ばかあっ!
…と返せたらどんなに良いだろう。

今じゃなくても生まれてから今までの年齢=フリーの期間だ、悪いかっ!
…とも思う。

が、心の中で思っているだけで黙っていたら、質問はさらにエスカレートして

(いないならさ…溜まった時って自分でしてるの?)
(週何回くらい?)
(その時どんな相手を想像してやってる?)

泣いた。
正直リアルで怖くて泣いた。
そうしたら電話が鳴る。

ビクッと身をすくめて丁度ギ―君の手前あたりに転がっていた電話に手を伸ばすとギルからで、アーサーは慌てて電話に出た。

『お姫さん?動きおかしいけど大丈夫か?』
との声にディスプレイに目をやれば、どうやら突然立ち止まったアーサーに、表では回線の調子が悪いのかも?などと話しつつも、ギルが何度も大丈夫か?とウィスをくれている。

ああ、動揺しすぎていて気付かなかった。
みんなに迷惑をかけて申し訳ないと思いつつ、
「…ごめ…だいじょぶ……」
と嗚咽をこらえながら言うと、電話の向こうでは少し息を飲む音。

『何かあったのか?無事か?』
と、すぐ焦ったような声が返ってくる。

『ああ、色々言わなくて良い。一つだけYesかNoで答えてくれ。
今現在、即何か物理的に身に危険が迫ってたりするか?』

混乱しているアーサーの状況をわかってくれているのだろう。
出来る事だけをピックアップしてくれるのがありがたい。

「Noだ」
と、涙を拭き拭き言うと、電話の向こうのギルは、心底安堵したように大きく息をついている。
心配をかけてごめん…と言いたいが、嗚咽で言葉にならない。

『じゃ、とりあえず街までは戻れるな?』
「…うん」
『俺様に追尾して良いから』
「…うん」
『街戻ってミッション達成の報告して、話はそれからな?』
「…うん」
『それまでは…電話繋ぎっぱなしにしておくから。
どうしてもダメそうな時は無理って言ってくれよ?』
「…うん」

こうして二人してゲームに戻って行く。
アーサーが止まった理由はとりあえず回線の調子が悪かったと言う事にして、その後普通に街に戻って城で報告した。




お姫さんの様子がおかしくなったのは、色々トラブルはあったものの結局死人も出さずに無事ミッションをクリアして、あとは報告をしに街に帰ろうと帰路についた時だった。

道のり自体はたいして強い敵が出てくるあたりでもなく、弱い敵は出ても勝手に逃げていくので、ただただ街への帰り道をたどれば良いだけだったのだが、山の麓のあたりでお姫さんがいきなり立ち止まったまま動かなくなったのだ。

最初は回線の調子が悪いのかも…と思ったが、それにしては回線落ちをしそうな様子もなく時間だけが経って行き、ギルベルトはふと今の状況を思い出した。

お姫さんは犯人に身元がバレている!!
そう思い立った瞬間に携帯をひっつかみ、焦ってお姫さんに電話をかけた。

(頼む…出てくれ…っ!!!)
祈るような気持ちでコール音を聞いていると、意外に早く繋がった電話。
それにホッとするも、電話の向こうで聞こえる涙声にまた焦る気持ちが蘇る。

しかし言葉で語るのがあまり得意ではないお姫さんの事だ。
多くを聞いても戸惑わせるだろう。
だから一番知りたい事を一つだけ…
『YesかNoで答えてくれ。
今現在、即何か物理的に身に危険が迫ってたりするか?』
と聞くと、Noとの返事が返ってきたので、今度こそ本気で安堵の息を吐きだした。

こうして身辺の無事を確認できた時点で、落ち付かない状態で聞くよりはひと段落してからの方が良いだろうと城に戻り報告を終え、あらためて事情を聞いたギルに、お姫さんが打ち明けた事は……

――オスカーから…変なウィスが来て……

それからざ~っとその内容がゲーム内のウィスで送られてくる。

なんだ…これっ!!!
怒りで一瞬頭が真っ白になる。
こんなに人慣れないやんごとないお姫さんにセクハラっ?!!
『あー、こういう馬鹿な悪戯するやつっているんだよな。
お姫さん、これからこういうの来たら全部俺様んとこに送っておいてくれ。
俺様が話つけるから。大丈夫。今からちょっと注意してくる。
お姫さんはなんにも心配しないでいいぜ』

腸が煮えくり返りそうな気分だが、お姫さんには心配させないように何事でもないように言って、ギルはゲーム内でオスカーが今インをしている事を確認。
ウィスを送ることにした。

(お前…うちのお姫さんに変なモン送らないでくれねえ?
あまりしつこいと運営に通報するぞ)

こういうのは出来れば運営を通した方が良いが、とりあえずはそこまで大げさにする前に本人に注意をと思ったのだが、返ってきた返事は

(運営…動かないんじゃないかな?これだけ色々起こっていて何もないわけだし?
それよりお姫様可愛いよね。そう思ってるの俺だけじゃないかも?)
と、随分挑発的で、ギルベルトは怒りに叫び出しそうになって、慌てて口をつぐんだ。

冷静になれ…冷静になれ…と、脳内でお題目のように唱えていて無言だったのをどうとったのか、オスカーはさらに
(リアルでも可愛いのかな?悪い男に…狙われないといいね、色々な意味で…)
と、煽るような事を言って来る。

しかしそこで時間終了だった。
無情にも時計は0時1分前を指し示し、運営側からログアウトの警告メッセージが流れてそれ以外の行動が出来なくなる。

「兄さん?ログアウトしないのか?時間だぞ?」
と、固まったままのギルベルトを見てルートが声をかけてくる。

クソッ!!と思いながらもギルベルトは頷いてログアウト。
そうするしかないのだが、オスカーの行動と言葉にクルクルと色々な想像が脳内を駆け巡る。

一体どうなっているんだ?
オスカーは何かを知っているのか、もしくは犯人の関係者なのか…。

『お姫さん、俺様今日これからそっちに行きてえんだけど。
良いか?』
とにかく居てもたっても居られずにお姫さんに聞くと、不思議そうにしながらも心細いのもあったのだろう、即許可が下りた。

「ちょっとな、ルッツ、俺様お姫さん心配だから今日泊まってくるわ。
一応ノート持って行く。
お前は1人で大丈夫だな?」
と、ガタガタとノートPCをしまい始めるギルベルトに、

「止めても行くのだろう?アーサーの方がより危険な状況だしな。
兄さんも気をつけろよ?
まああなたは強いから大丈夫だと思うが、人質になりかねない相手がいるとまた違うだろうし」
と、ルートはそんな兄の突拍子のない行動にも慣れたもので、
「急ぐのだろう?兄さんは最低限の着替えを用意しろ。俺は洗面用具を用意してくる」
と、荷物をまとめるのを手伝ってくれた。

出来た弟だ…と、そこにはギルベルトは感謝しつつ心の中で手を合わせる。

こうして電話でタクシーを呼んで、ギルベルトは日付が変わった真夜中に、お姫さんのマンションへとまた戻って行ったのだった。




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