オンラインゲーム殺人事件第四章_なりすましメール(10日目)

謎が謎を呼んでいて犯人はまだ捕まってないわけだが、その日はゴッドセイバーが殺されて以来久々によく眠れて、アーサーはすっきり目を覚ました。

ギルが守ってくれると言っている事もあるし、昨日ログアウトしてしまったメグにメルアドの一件を聞けばなんとなく犯人が割れるのかもなどと少し光が見えてきた気がする。



寝室の窓のペパーミントグリーンのカーテンを開けてみると、そんな状況を彩るように晴れやかな良い天気だ。

そういえばここ数日まるで引きこもりのようにカーテン閉め切った部屋に引きこもってたので、久々に買い物でも行こうかな、などという気分になる。

せっかく10万も臨時収入はいったわけだし、美味しいケーキでも買って可愛いティーカップやヌイグルミなどが多く置いてある近場の街の雑貨屋でも覗こうか…。

こんな時に一緒に出かける相手でもいれば……
アーサーはふと思った。

もしネットのイメージがそのままだとしたら、フェリならそのあたりを一緒に楽しんでくれそうだ。

二人でお揃いか色違いのティディでも買って、可愛いカフェでお茶。
そういう店は男1人だとなんとなく気恥ずかしいが、可愛いフェリとだったら美味しそうなパフェでも可愛らしいケーキでも全く問題なく食べられそうだ


ギルなら…そういう系に興味があるようには見えないが、自分に興味がなくても楽しそうに付き合ってくれそうな気がする。
道を歩く時も当たり前に車道側で荷物も持ってくれたりとか……

(いやいや、リアルじゃ別にレディでもなければ可愛くもないDKなんだぞ、俺)

と、そこで、ゲームのキャラのままのスラリとした…しかしつくところにはきっちりと筋肉のついた体躯の銀髪赤目のイケメンと街を歩いている図を想像したアーサーはハッと我に返って首を横に振った、


自分がもし可愛い女の子だったら…とそこでさらに想像してみたが、おそらくあれだけ頭が良さそうでコミュニケーション能力も高いギルのことだ。
彼女なんて当然いるだろうし、そうじゃなくてもこんな性格じゃ相手にされないだろう。

その点、男同士で友人なら彼女のように1人きりでなくても良いわけだし、末席くらいには加えてもらえるだろうか…。




そんな想像に没頭してたら、いきなりメールの着信音。
例のフリーメールのメルアドにメールが届いてる。

フェリからだ。

『おはよう♪
なんだか色々怖い事ばかり起こって大変な時だけど、天気も良い事し気晴らしに一緒に買い物しない?
都合がよければ11時頃吉祥寺の駅ビルアトレ内2階の切符売り場のあたりで○○っていう雑誌を持って待ってるからきてね♪
やっぱり怖いから念のため人通りが多い所で人が多い場所を選択してみたよっ。
アーサーも目印教えてね♪
これから外に出ちゃうから、携帯のメルアドの方に連絡お願い♪
俺、ガラケーでPCのメルアド見られないからっ(>_<)』

という事で携帯メールのメルアドが添えられている。

なんていう偶然。
フェリも一緒に買い物したいと思っていたなんて、やっぱりフェリとは気が合うんだろうか。

嬉しくなったアーサーはすぐ自分の目印を添えて了承のメールをフェリの携帯に送った。



友人と出かけるなんて機会はめったにないので、とても楽しみだ。

特に指摘もなかったから異性ではないのだろうが、あのキャラのままだったとしたら同性でもかなり可愛い系だ。
格好によっては女の子にも見えてしまうのではないだろうか…。

そんな可愛いフェリと並ぶと自分の冴えなさ加減がさらに際立ってしまうのだろうが、それでもせめてフェリが並んで不快にならない程度には…と、アーサーは鏡の中の自分とにらめっこしながら服を選ぶ。

そうしてああでもないこうでもないと取っ替え引っ替えしてるとあっという間に時間が過ぎて大急ぎで家を飛び出す事になった。



吉祥寺まで電車で一本。
時間は……11時ジャスト!ギリギリセーフ!
フェリらしき子は……まだ来てない…ように思われる。
11時"頃"と言っていたから…と、少し手持ち無沙汰に本を読みながら待った。



………
11時半…まだフェリは来ない。
遅い…何かあったのだろうか……

時期が時期なので少し心配になって教えてもらった携帯のメルアドにメールを入れようとした瞬間、メールの着信音が鳴った。

フェリからだ。


『ごめんっ(>_<)
急に熱出しちゃって、連絡遅れちゃった。
ちょっとさすがに行けそうにないから、ホントにドタキャンで申し訳ないけど、今日キャンセルさせてっ』

うあああ…と思いながら即了承の旨を伝えるメールを返す。


このところの騒ぎでフェリも体調崩してしまっていたのだろう。
たいした事ないと良いけど…と思いつつ、なんとなくぶらつく気分でもなくなってしまって、アーサーはそのまま家へ直帰してまた引きこもりもどき。

残念だけどしかたないよなと肩を落とすが、まあゲームが終わった後なら安全にもなるし、会ってくれる気はあるのだからその時には今度はギルとルートも一緒に会えば良いだろう、と、気を取り直した。



そしてもうほとんど習慣で意味もなくテレビをつけると、ニュースでまた高校生殺人事件が…
被害者は…赤坂めぐみ…めぐみ…メグ…???
まさか…な…と、嫌な考えがぞわりと心のうちに広がりそうになる。
が、考えてもどうしようもない…というか考えたくない…考えるのよそうと、アーサーはブチっとテレビの電源を切る。

朝はあんなに爽やかで楽しい気分だったのに、また鬱々とした嫌な気分になった。



まあ…それでも昨日ほどの恐怖心はない。
ギルに任せておけばなんとかしてくれるのだから。

やる事がなくなって、アーサーは仕方なしにまたいつものように参考書をめくりながら夜を待った。







そして8時。
もう習慣通りにゲームにログインする。

今日はアーサーがのんびりしてたせいか、ギルとルートだけではなく、フェリももうインしてた。

熱…大丈夫なのか?


『よぉ!』
『Guten Abend!』
『ばわ~(^^』

ギルに誘われてパーティに加わると3人がそれぞれ挨拶をしてくる。

『Good evening』

それに挨拶を返したあと、アーサーは気になってフェリに声をかけた。

『フェリ、身体もう大丈夫なのか?無理しないで休んでた方が良くないか?』
アーサーの言葉にルートが振り返った。

『どこか悪いのか?なら無理はするな。ログアウトして早く寝ておけ。
レベル開くの嫌なら今日はレベル上げ行かず金策でもしながら待ってるから。』
『そうだぜ、先は長いんだしな。無理すんなよ?
まあ…それでも色々あったし不安だったりとかして一人嫌なら、街でまったりおしゃべりでもしてるか?』

ギルも言うが、フェリはハテナマークを振りまきながらアーサー達3人の周りをクルクル回った。

『えっと…俺どこも悪くないよ?』
『え?だって今日熱出したって……』
『…?…なんの話???』
『え?メールくれただろ?今朝一緒に買い物をって』
『ええ??俺が??送ってないよぉ??』
『え?だってフェリのメルアドからメールきたぞ?』
『えええ???俺ホントにぜんっぜん覚えがないんだけど…』

一体どうなってるんだ?とは思うものの、いくらフェリだって今朝の出来事をもう忘れるとかはないだろうし、かといって嘘をついているようにも思えない。

『お前達!二人で話進めるなっ!』
悩んでいる間にルートがキレた。

ピョンと一歩とびのくフェリ。
その反応にルートが語尾を和らげる。

『すまない…怒ってるわけじゃなくて…。
確かに俺には話にくいのかもしれんが体調悪いとか隠されると心配になるだろう。
なにかあるなら言ってくれ。時間調整をして無理させないようにしたい。』

『何かあるも何も…俺には何もないんだよ?』
と、またフェリがトテトテとルートの側に寄って来て自分より頭一つ高いルートの顔を見あげた。


そしてしばらく沈黙…

『なあ…つまりこういう事か?』
と、口を開いたのは、それまで黙って考え込んでいたギルだ。

『今日お姫さんの所にフェリちゃんのメアドから一緒に買い物をしようってメールが届いた。
でもフェリちゃんはそれを送った覚えがねえって?』

『まあ…そう言う事になるな。なんなら受信箱のスクショ見せるか?』
とアーサーはギル、ルート、フェリのメルアドにそれぞれスクショを送る。

『うあ~ほんとだ。俺から来てる』
『うむ…確かに…』
『でも俺送ってないよ?俺も送信履歴送るね?』
と、今度はフェリから送信履歴が送られてきた。

もちろんフェリ自身が消してしまっていたら残ってないと言う可能性もあるが、フェリにそんな事をする理由はないだろうと、パーティ全員が納得する。

『あー…分かった気がする。フェリちゃんが細工してないという前提で話すけど、これはなりすましメールだ』
『なりすましメール?』

ギルの口から出た聞き慣れない言葉にアーサーとフェリが揃って小首をかしげた。


『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺様が送ったのに、送られた側の方にはルッツのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のルッツのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、ルッツの側のメールには送信履歴とかも残らない。
今回で言えば…誰かわからない第三者がフェリちゃんのアドレスを使ってフェリちゃんになりすましてお姫さんにメールを送ったってことだ。』

『兄さん…それは大変な事になっているのではないか?』
そこで一旦言葉を切るギルに今度はルートが大きくため息をついた。

『大変なこと?』
きょとんと小首をかしげるフェリにルートはパーン!!という効果音付きで怒涛の勢いで口を開く

『ここで問題だっ!!
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
今現在殺人事件が多発しているこのゲームの参加者の誰かが、わざわざ騙してアーサーを呼び出したと言う事だっ!!
なんのためにっ?!!!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』

う…あああああっ!!!!!
今日…犯人があの場にいたってことか???
すぐ側に??!!!
アーサーは全身が総毛立った。
マウスを握る手がカタカタ震えてる。

『とりあえず、またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にすっぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな。』

と、そこでギルが淡々と続けた。
他人事だから…というよりは、本当に元々冷静な性質なのだろう。
飽くまで動揺しないギルにアーサーの方も少し落ち着いてくる。



それからそれぞれウィスで互いに対する暗号を送ると、ギルは

『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、ルッツ、お前はフェリちゃんと一緒に今日は素材集めな。
俺様はちょっとお姫さんに話があるから。
パーティは分けとくぞ。
お姫さんもいったんパーティ抜けて俺様と二人パーティな?』
と、ルートとフェリを素材狩りへと送りだし、自分がまずパーティを離脱する。
そうして今度はアーサーをパーティに誘ってきた。





こうしてギルと二人パーティーとなってまず、無駄な手間をかけさせている…そんな申し訳なさに身がすくむ思いで
『ごめん…注意されてたのに……フェリだったから………』
とじわりと滲む涙を拭いながらまず謝ると、ギルはいつものようにアーサーの頭を軽く撫でた。

『いや、俺様がパーティのメンバーでもってつけなかったのが悪かった。
怖い思いさせてごめんな。
で、とりあえず今お姫さん一つだけ確認してきてくれ。
家中の鍵かかってるか?窓とかもあけてたら閉めて鍵かけてくれ』

言われてアーサーは慌てて確認をする。
…と言っても1人暮らしの小さなマンションなので、玄関と今いる部屋、そしてキッチンくらいなのだが…。

『今確認した。大丈夫。かかってた』
言われるまま確認後そう報告すると、ギルは頷いて、そして少し考えこんで
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。

『携帯は常に充電して、手元においておいてくれ。
何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来たほうがいい。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、家族なり友人なりについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使って…』
と、さらなる指示が来た時点で
『…当分家からでない様にするから…』
と、もうそれこそ命には変えられないのでそう言うアーサーに、今度はギルの方が無言になった。

矢継ぎ早に責められたり怒られたりすると思いきや全く非難の言葉はない。
しかしここであまりに続いた沈黙にアーサーも不安になってくる。

言う事聞かなかったから…見捨てられた…のか…。
と、鍵を確認した時に精神安定用にと持って来たティディベアを抱きしめながら震えていると、

『お姫さん…ちょっと無理言って良いか?』
と、ようやくギルの言葉が流れ始めた。

『…無理?』
『ああ、これから言う事は強制じゃねえ。
単なる俺様の願望だ』

ギルの…願望……

まさか巻き込まないためにパーティを抜けてくれとか、そういう類の事だろうか…
そう思いあたるも、再三注意されていたにも関わらず飛び出して行ってしまってこれなのだから文句は言えない。

『ああ…わかった』
と答えたものの、その後の言葉が怖くて手どころか体中が震えた。

『さんきゅ』
と短く言って、また軽く頭を撫でるギル。

見限るなら優しくしないでくれれば良いのに…
そんな風に優しくされると余計に辛くなる…と、堪えていた涙があふれ出した。

しかしながら、少し待って続いたギルの言葉は意外なものだった。

『090-○○○○-××××』
『???』
『これ、俺様の携帯な。
お姫さんの無事とかすぐ確認してえ。
だからこいつに電話かけてくれると嬉しい。
ああ、もちろんお姫さんの側が番号とか知られるの怖いとかあるだろうし、それなら番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはお姫さんの番号が表示されない非通知設定になるから。
お姫さんが怖くて嫌だと思ったら、今後かけなければいい。
俺にはお姫さんの番号わからないまま終わるから大丈夫。
今回だけでもお姫さんが無事なのをリアルに実感したい。
…でないと心配すぎて…本気で落ちつかねえ』

!!!!!!!
抱き締めすぎてクマの腹がふにゃんと凹む。
なんなんだ、このイケメンはっ!!!
実は、アーサーが秘かに愛読している乙女チックな恋愛小説の中のイケメン達の1人なんじゃないだろうか…と思うレベルの台詞が自然に出て来るあたりで、アーサーの脳内はプシュプシュ音をたてて沸騰した。

うあ~うあ~うあ~~~!!!とクマを抱きしめながらぷるぷると首を振り、世の中にあんな物語のような人間が本当に存在するんだ…と、さきほどまでの危機感や不安はどこへやら、頭の中に花が舞う。

恋愛小説はすごく好きでも女に生まれたかったと思った事はなかったが、今生まれて初めて自分が女じゃない事を残念に思った。
これ、自分が女の子だったら絶対にここから恋始まっちゃうよなっ…などと本気で思う。

そんな風にアーサーがディスプレイの向こうでクマのぬいぐるみを抱きしめながらはしゃいでいるとは夢にも思ってはいないのだろう。

『あー……やっぱあんなことがあった後にこんな事言われても怖えよな…。
悪い。気にしないでくれ』
そう言ってゲーム内で並んで座っていたベンチからギルが立ち上がりかけるのを見て、アーサーは慌てて言った。
『違うっ!怖くないっ!かけるっ!』
『いや、無理しないでいいぜ』
『無理じゃないっ!ちょっと待っててくれ』
と、アーサーは慌てて携帯を手にすると、ログに表示されていた番号に電話をかけた。

ぷるるるる…とワンコールで繋がる電話。

『…お姫さん?』
と、初めて聞く男の声がした。

聞こえてくる声はどこか気遣わしげで優しくて、ギル…なんだ…と思う。

『お姫さん?…大丈夫か?』
と、さらに言葉のでないアーサーを心配するような、柔らかい声音。

「うん」
とアーサーが答えると、しかし一瞬の沈黙の後、今度は困ったような声。

『もしかして…184つけんの忘れたか?』

うああああーーーー!!!!忘れてたっ!!!!
慌ててかけたからすっかり忘れていたっ!!
「あ…忘れてた……」
と言うと、電話の向こうでやっぱり困ったような笑い。

『ほんとに…危なっかしいな。お姫さんは。
頼むから俺様以外には無防備に電話すんなよ?』

呆れられた可能性はあるが、怒ったり見限ったりはしている様子はない。
変わらずに優しい笑いを含んだ声音にホッとする。

「…ごめん」

『いや、元はと言えば俺様が言うべきじゃない事言いだしたからだしな。
でも本当に…危なっかしくて放っておけねえっつーか…。
ま、とりあえずさっきの話の続きなんだけどな、お姫さん落ち着いて聞いてくれ』
和やかな声音から一転、そこでギルの声音が少し固くなった。

『さっきお姫さんは家から出ないから良いって言ったけどな、もうそういう問題じゃねえんだ』
「え?」
『わざわざ人が多くて殺せない場所を指定してきたっつ~ことはな、犯人の目的は今日呼び出した場所でお姫さんを殺す事じゃない。
たぶん…待ち合わせ場所にきたお姫さんの後を尾行してお姫さんの身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだと思う。
要は……家にいても安全じゃない。
だからこその防犯ベルだし、携帯だ』

……うそだろ……
アーサーは思わず悲鳴をあげそうになったが時間を考えてあわてて飲み込んだ。
これまでの少し浮かれた気分が一気に消えて、す~っと目の前が暗くなる。
恐怖のあまり目からボロボロ涙がこぼれた。
ガタガタ震えながら思わず周りを見回す。
こうしてる間にもすぐ後ろに犯人が隠れてるような錯覚に襲われ目眩がしてきた。
ふぅ…っと一瞬遠のきかける意識は、しかしギルの声で引き戻される。

『お姫さんっ?!大丈夫かっ?!』
「…だ…大丈夫じゃないっ……」
震えながら半泣きで答えるアーサーにギルはまた穏やかな声音でなだめるように言った。

『ん…わかった。俺様が大丈夫にするから泣くな』
その声があまりに優しくて、でもどうやったら大丈夫になるのかわからずアーサーは泣き続ける。
「だ…いじょ…ぶって……どうやっ…て?
俺…家族海外…で……こんなとき…頼れるともだちも…いな……」
『え?お姫さん、親海外旅行中か?』
と、電話の向こうで少し驚いた声。
「…じゃ…なくて…海外在…住……」
『マジか……』
と、そこでまたしばらく無言。

『お姫さん…俺様、制服で行くからさ、それで身分証明っつ~ことでお姫さんの最寄駅で待ち合わせできねえ?
やっぱ本当に1人だと危ねえし、心配だしな』
「…え……?」
『自宅から駅まではタクシー呼んで、俺様とは駅で待ち合わせて一緒に防犯グッズ買ってって感じで。
お姫さんの方は目印とか言わねえで良い。俺様の方だけ言うから、怪しいと思ったら見るだけ見て帰ってくれてもかまわねえ』

何故そこまで?と思う。
今ギルが言っている事はアーサーがされたことと全く逆な事で…それこそアーサーが悪意を持っていたらギル自身が危険になると言う事ではないのか?
「…ギル…なん…で?」
シャクリをあげながら問うと、
『ん~。俺様がお姫さん心配すぎて落ちつかねえから…か?』
と、穏やかで優しい声が返ってきた。

もうお前は勇者か王子様か?と言いたい。
本当に言いたい。

そこでさらに、

『ごめんな~。お姫さんが嫌でも俺様がお姫さん守りたいんだわ』
まで言われてしまうと、もう拒絶なんて出来るわけがない。



「…○×線の△○駅……」
『…へ?』
「最寄駅…○×線の△○駅」
と、もう一度繰り返すと、
『了解っ!明日午前11時に○×線の△○駅の西口改札で良いか?』
と、少し嬉しそうな声が返ってきた。

『俺様、私立海陽学園の制服着て待ってっから。
見た目はまあゲームのこのキャラに似てる。制服はわかんなきゃ悪いけどネットで調べてくれ』
「ええ??!!ギル海陽なのかっ?!!」

T大進学率ナンバーワン、日本一賢いと言われているその学校名にひたすら驚いていると、電話の向こうでギルが

『おう!日本一賢い学校の元トップ、生徒会長様だから大船に乗ったつもりで安心してくれ』
とさらに驚くべき事実を告げて笑った。


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