オンラインゲーム殺人事件第三章_3_ルートヴィヒの独白

「今日も俺様のお姫さん可愛いぜ~」

午後8時。
俺と兄は最近リビングで二人並んで例のオンラインゲームをしている。

最初は二人でやっていたゲームだが今はバードのフェリとプリーストのアーサーを加えて4人。
兄が『俺様のお姫さん』と呼んでいるのは、このプリーストの方だ。



正直俺には兄の趣味がわからなかった。

画面の向こうにキャラを操っている人間がいるとしても外見的にはデジタルデータで、仕草や言動も現実の人格と必ずしも一致しないと言う可能性が多々ある。

そういうことを別にして目に見えているキャラがイコールその人物だとしても、どこか他人と一線を引いているようなアーサーよりは、人懐っこいフェリの方が一般的には好まれるのではないだろうか…。

いや、断じて俺がフェリをとても好ましいと思っているわけではないぞ。
飽くまで一般的には…だ。

そこで兄の気を悪くさせないように…と気遣いながらも俺がそれを聞いてみると、兄はきょとんと俺に視線を向けた。

「え?この人慣れない感じが可愛くね?
確かにフェリちゃんも人懐っこくて可愛いけどな。
なんつ~か、アイドルっつ~の?
可愛いし一緒にいて楽しいとは思うけど、飽くまでアイドルだからな。
見て楽しいだけで独占したいとは思わねえ。
でもお姫さんはなんつ~か…世慣れてない分、俺様自身が助けて守ってやらねえとって気になんだよなぁ。
ま、好みの問題っちゃあそうなんだろうけど」

「ふむ…愛を振りまくアイドルと、愛をそそがれる姫か…」

「そそ。俺様は愛情を注ぎたい方だからな。
お姫さんがいい。
あ~もう、本当に俺様達が高校生じゃなくて社会人だったら迎えに行っちまうんだがなぁ…」
と、兄はソファの上でクッションを抱きしめて足をバタバタさせている。

まあ、重要なところでは非常に有能で頭の回転の速い冷静な人だが、プライベートだとこんな風に、しばしば子どものように感情的な行動をとる人間味にあふれた人だ。

そのあたりが四角四面で仏頂面で近寄りがたいと言われる俺と違って、兄が他人に馴染まれる要因ではあるのだろう。
俺よりよほど全てを見通して理解し尽くしているくせに、必要のないところでは他人を緊張させないというのは、実にうらやましい。


そう、そんな兄の恐ろしく怜悧な部分を垣間見せる一言……

「る~っつ」
「なんだ?兄さん」
「フェリちゃんに会いに行くならな、最初は制服で行けよ?
制服ならそれ自体がある種身分証明になるし、私服よか相手も相手の家族も安心するからな?」

兄の突然の言葉に俺は口にしたコーヒーを吹きだしかけて、慌てて飲み込んだら思い切りむせた。

「な、何故それっ!!」
「ん~やっぱ図星か?なんかな~、あんな事があったわりにフェリちゃん動揺してなかったし?逆にお前はどことなく落ち付かなかったし?
2対2に分かれた時にそんな話があったのかと思った」

当たり前に言う兄。
本当に…これだから兄は恐ろしい。
隠しごとなど絶対にできやしない。

俺は冷や汗を拭う。


確かに…今回兄が参加当初から危惧していたように、賞金を巡ってらしい殺人事件が起きて、プレイヤーの1人が殺害されたので、自分達の仲間に危害が及ばないようにと2対2になって注意を与えることになった。

元々の関係と、あとは俺がそんな気なしにアーサーを怒らせてしまったらしいこともあり、兄がアーサーに、俺がフェリにという組み合わせになったので、一足先にアーサーを連れて移動した兄を見送ったあと、俺はフェリを待ってその場で事情説明と注意事項を伝えたのだが、そこで一瞬の沈黙。

その後…
『フェリシアーノ・ヴァルガス、東京都○○区……私立清水学園高等学校……090-○○○○-××××…』
だだ~っと流れる個人情報。

『ちょ、ちょっと待てっ!フェリ??何を言っているのだっ!!!!』
と俺が慌てたのはおかしくないと思う。
なにしろ直前に個人情報を漏らすのは危険極まりないし絶対にNGだと念押しをしたところだったのだ。

しかし慌てる俺にフェリはきっぱり
『俺、明日から補講で学校行かなきゃダメなんだよ』
『いや、だから??』
『ルート、お迎えお願いっ(>_<)』
『はあ???』

アーサーもわからないが、フェリはもっとわからない…。
こいつは俺の話を全くきいてなかったんだろうか……。

『…フェリ……』
『うん?』
『言っても今更なんだが……俺が危険な奴だったらどうするのだ?』
もうため息しか出ない。

『大丈夫っ。ルートだから』
信頼…されてるのか危機感が限りなく0に近いのかわからないが…これを放置したら明日は川に浮いてる事必至だと思った。
これを断って、他の…それこそ犯人でもこれをやられたらと思うと背筋が寒くなる。

『もう…わかった。負けた。迎えに行くがそのかわり一つだけ絶対に約束しろ』
本気で泣きそうだ。
『うん?』
『さっき言った3点、絶対に守ってくれ。本当に危ないから。あともう一つ付け足しておく。お前は絶対に事態が落ち着くまで一人で外出歩くな。呼んでくれたら護衛に行くから…』
『うん♪ありがと~(^-^』

………ということがあり…しかしなんとなく兄には言いにくくて言えなかったのだが、ばれていたのかと、その洞察力が恐ろしいと思わないでもないが、ホッともする。

これが俺が兄ならリアルを明かすな明かさせるなという方向で動いていたところにいきなりこれをやられたら激怒するところだが、兄はそのあたりが驚くほど柔軟だ。

「まあフェリちゃんは放っておくと暴走しそうだしな。
その代わり、お前と会う事自体がイレギュラーであって、他に同じようにしていいってわけじゃねえってことは言い聞かせた上で、フェリちゃんのリアル情報はお前がきっちり守れよ?」

とそれはいつになく真剣な顔で言って、俺が頷くとすぐ、
「じゃ、そういうことでな」
と、ディスプレイの中の“俺のお姫さん”に注意を戻していく。


――お姫さん、可愛いなぁ、ちくしょ~!!
と、いつものように呟きながら自キャラを操作する兄。

いつか…それこそ殺人犯が捕まったなら、兄が“お姫さん”にリアルで猛アタックをする日がきたりするのだろうか…

そんな事を考えながら、俺もディスプレイの中へと注意を戻していった。


Before <<<     >>> 4章へ


0 件のコメント :

コメントを投稿