ゲームが原因の可能性は高いが、軽率そうな人間にも見えたし、リアルで何かやらかしてたとか通り魔とかいう可能性も0ではないのでは?とアーサーは思う。
それでも身近な人間が殺された事は確かだ。
情報でもないかと思い、一日中ニュースを流しっぱなしにしていたら、速報。
高校生がまた誰か殺されたらしい。
秋本翔太…もし今回のゲームのプレイヤーでありえそうなのは名前からすると“ショウ”あたりか。
一応チェックくらいはしておくかと、アーサーはその名前だけは脳内に留めて置いた。
殺人も二度目で、しかもギルが全面的に守ってくれるらしいという安心感のため、前回ほどの動揺はない。
ただ、ひたすらに早くゲームにインしてギルと話をしたいとだけ思う。
そして夜。
もう思い切り時計とにらめっこをして20時になると同時にイン。
いつものように当たり前にギルとルートが待っていてパーティに誘ってくれる。
これもまたいつものように即Yesを選択すると、ギルベルトが駈け寄って来てクルリとアーサーの周りを一周。
その後、これも日々よくするように、ギルベルトはアーサーの頭を撫で、そして言った。
『今日もなんだか誰か殺されたみてえだから、お姫さんの無事を確認出来て嬉しいぜ。
ま、色々注意したのも昨日の今日だしな、俺様のお利口さんなお姫さんがまさかヘタ打つとは思ってねえけど、一応な、世の中には100%って事はねえから心配した』
もう冗談なのか本気なのかわからない。
嬉しい…けど、恥ずかしい。
『ギルが…いつも一緒だから、ヘタを打ちようがないだろ』
と、恥ずかしさのあまりリアルで顔を真っ赤にして言うと、ギルはデジタルデータなのにどこか嬉しそうに
『ま、そうだな』
などと笑う。
空気が妙に甘い……
そう思ったのはアーサーだけではなかったらしい。
『兄さん…あなたは二人きりじゃないと言う事を少し意識して発言してくれ』
と、コホンと咳払いしてルートが言うと、今度はいつのまにやらインしてパーティに入って来ていたフェリが
『ルートがいるから黙認はしてあげるけど…アーサーの一番の友達は俺だからね?』
と、何を黙認なのかはわからないが、さらりとギルとアーサーの間に入ってきて、アーサーの腕を取った。
ルートとフェリの言う事については半分くらいはわからないが、こうやって友人に囲まれてじゃれつかれる事などリアルではなかったため、とても幸せだ。
そんなやりとりをしながらも、一行は城を出て街から外へ出ようと城門へ向かっていたが、そこでまたメッセージが来た。
今度は…アゾット。
『アゾットって…男プリーストだったよね?』
とフェリが言うということは、今度も全員にメッセが来ているらしい。
『だな。いかにもヒーラーって感じのあたりが柔らかい奴だった気がする。』
とギルが答えてしばらく無言。
おそらくメッセージに目を通しているのだろうと、アーサーもそのメッセに目を通す。
【こんばんは。参加者のアゾットです。
なんとなく気にしていらっしゃる方もいるとは思いますが、今日の昼過ぎに秋本翔太君という高校生が殺害されたというニュースが放映されました。
参加者の一人、イヴさんによると、殺された秋本君は元このゲームの参加者のショウさんらしいです。
親しかった相手が二人とも殺害された事でイヴさんも非常にショックを受けていますし、犯人の男の次のターゲットが自分なのではと、とても怯えてもいます。
もちろん、僕を含めて全ての参加者がそのターゲットになりうるわけですから誰しもが他人事ではありません。
そこで下手に相手の事を知らないまま不安を抱えるよりは、一度全員街の広場に集まってどういう参加者がいるか顔合わせをしませんか?
現在僕はイヴさんと共に街の広場の噴水前にいます。
来られる皆さんはぜひ、噴水前までお願いします】
アーサーはメッセージを全て読み終わって、まず、やはり秋本翔太=ショウだったのか…と納得。
そしてこのゲームで二人まで殺されている事に戦慄する。
そこでどうやらメッセージを読み終わったルートがどこか重々しい様子で
『戻るか?』
とギルにお伺いをたてると、
『そうだな。』
という答えがギルから返ってきたので、全員で広場の方へと戻る事にした。
…不安…だよな、イヴも…
と、色々トラブルもあったが相手はレディと言う事もあり、アーサーは気の毒に思った。
特に今自分には頼れる仲間がいて不安が随分減った事もあり、頼れるはずの仲間が次々殺されて一人ぼっちになってしまったイヴに、なまじ1人の寂しさや心細さを知っているだけに心底同情する。
(お姫さん、どうした?)
と、そんな事を考えている間もアーサーの事はギルが心配してくれるのだ。
本当に今までの人生を振り返ると、こんなトラブルの渦中だと言うのにこれほど幸せな立場だった事があるだろうか…。
そんな思いのまま
(いや…仲間がみんな殺されて一人ぼっちになってしまったイヴと比べて、俺は本当に幸せなんだなと思って…)
と、勢いで打って、それから少し迷ったあげく、
(その…守ってくれるギルがいるしな)
と、付け足すと、ピタッと動きを止めるギル。
え?なんか悪い事言ったか?
もしかして重かったか??と、それにリアルでまた涙目になったアーサーだったが、そんな二人のやりとりを知らないフェリが
『ギル?どうしたの?』
と、いきなり立ち止まったギルを不思議そうに見あげると、ギルは謎のガッツポーズ。
『ちょっと俺様不覚にも萌え死にそうになってた』
と、これもアーサーにはよくわからない言葉。
ただルートには兄弟だけにわかるらしい。
『兄さん、わかったから行くぞ』
と、ギルの横を通り越して、先に立って歩き始める。
そして何故か珍しくそのルートから来るウィス。
(兄がすまない。頭が良すぎて少々変わったところのある人なんだ。何かやらかしてたとしても気にしないで欲しい)
と、謎のフォローがされたのだった。
こうしてアーサー達が広場に戻ると、そこにはイヴが立っていた。
そしてその隣にはアーサーと同じく十字架模様の入ったふんわりとした服を着た優しげな男プリースト、アゾット。
それと黒いロングコートの、格好からしてたぶんウィザードであろうエドガー。
あとは大きな弓を背負った見るからにアーチャーなオスカーが集まっている。
そこにアーサー達4人を入れて8人ということは、亡くなった二人を抜かしても二人足りない。
それに
『例のメルアド主催者のメグとメルアドスルーのヨイチが来てないな』
と、横でギルがつぶやく。
よくそんなにすぐ思い浮かぶな、やっぱり頭の出来が違うんだろうか……リアル絶対に賢い学校だよな…と、そんなギルにアーサーはまたも尊敬の念を感じた。
そこに嵐が訪れる。
「やあっ!君達いつも一緒にいるよね。仲いいの?」
それは唐突にして突然だった。
いきなりそう言って近づいてきたオスカーは、何故かぴたりとアーサーの横に寄りそうように立つ。
まあ横に立つというのはそれほど気にするような事ではないとは思うのだが、何故か0距離と言っていいほどの距離感で、しかも腰まで抱いてくるあたりで、アーサーはぞわわっと背筋に嫌なモノが走った。
非常に不本意だがリアルでも体格が良くないせいか、たまにおかしな性癖を持った同性に絡まれたりする事もあるので、心底気持ちが悪い。
思わずスっと即一歩引いて距離を取るが、するとまたオスカーは一歩近づいてくるので、またアーサーは距離を取る。
しばらく二人でそんなやりとりを繰り返してると、ザっとギルがアーサーとオスカーの間に割って入った。
そして
「悪いけど…うちのお姫さんに手ぇ出さねえようにな?」
と、ギルが言えば、
「俺の仲良しだからね?怖がらせちゃ嫌だよ?」
と、さらに隙間を埋めるようにギルと並んで立ってニコリと微笑むフェリ。
そしてトドメは
「嫌がっているものを無理に追いまわすのは感心しないな」
と、ルートが威圧感を前面に出して、いつもの盾役の時と同じく最前面に立った。
3人に言われてオスカーは一瞬沈黙。
ちょっとショック受けてるか…と思えば、またいきなり
「なるほどっ!みんなのお姫様なんだなっ!素晴らしいっ!」
と、なんだか嬉しそうにはしゃぎ始めた。
なんだか絶対に変だ!!
「リアルもさ、そんな感じ?可愛い系?服とかどんなの好き?
体格は?やっぱり華奢なのかな?
制服は学ラン?ブレザー?アーサーのイメージだとブレザーって感じだね。
寝る時ってさ、パジャマ?Tシャツ?それとも着ないで寝ちゃったりとか?
あ~、そだ、トランクス派?ブリーフ派?…………」
すごい勢いでば~っと通常会話がスクロールしていく。
わけがわからない…が、何かギラギラしていて怖い。
思わずスリリっとさらにギルの真後ろに隠れると、ギルがルートを押しのけ前に出る。
そして
「お前…いい加減にしとけよっ!これ以上しつこくしたら主催者に通報すんぞっ!」
そこまで言ってようやくオスカーはギルが本気で怒っているとわかったらしく、肩をすくめて離れて行った。
何がなんだかわからないが、本当に嵐のように現れ、去って行った男オスカー。
そこでようやく落ち着いてふと視線を他に移してみると、怯えきったイヴを一生懸命慰めてるアゾットが目に入る。
ふわりとしたジョブ装束はアーサーと一緒だが、アーサーより若干良い体格のせいで、優しげな癒し系という感じがするのは一緒だが、姫というより貴族様といった雰囲気だ。
そんな王子様然とした雰囲気のアゾットが
「みんな…みんな殺されちゃった…。」
と、あるいはリアルでも泣いているのかもしれないイヴのキャラにぴったりと寄り添って
「大丈夫…これからは僕が出来る限り側にいて君を守るから。なんでも相談して?」
と言う図は非常に絵になる。
これほだされるよなぁ。
なんていうか…前の二人は女王様イヴの従者って感じだったけど、アゾットはイヴ姫のナイトって感じで、少しロマンティックな感じがする…
と、実は少女趣味なところのあるアーサーはそれを微笑ましく見つめた。
そんなその二人の隣にはエドガー。
「ゴッドセイバーの場合…確かに実名言いふらしてたらしいからわかるんだけど…
ショウは…どうして殺されたんだろうね?実名知ってたのイヴだけじゃないのかな?」
非常に冷静な口調でつぶやく彼に、アゾットは
「色々聞きたいのはわかるんだけど、彼女も本当に今日起こった出来事ですごく傷ついてるんだ。
せめて今日一日はそっとしておいてあげてくれないか?」
とイヴをかばうように二人の間に入った。
「でもさ、彼はメルアドすら教えてないんだよね?」
と、それでもさらに食い下がるエドガーに、イヴがアゾットの後ろから顔を出す。
「えと…ね、それに関してなんだけど…気になる事が…」
無理しないでいいよ、というアゾットに、
「大丈夫、今はみんなそのために集まってるんだし…」
と気丈な様子で答えて話しだすイヴ。
けなげだなぁ…と、アーサーは彼女のそんな様子に好感を持った。
「彼ね…メグちゃんにメルアド送ったって言ってたの。辞めるって話もしてないって。
なのに私の所にきたメッセージでは彼は辞める事になってたから、びっくりしてたわ。
他の誰かと間違えたか何か勘違いしたのかもしれないしメグちゃんに一度確認のメッセージ送ったから返事待ちって言ってた…」
え……
それを聞いてアゾットもエドガーも一瞬固まる。
「確かに…エドガー君が二人と仲良くて色々聞いてた私を疑うのももっともだと思う。
…でもね…私もホントに今怖くて怖くて震えが止まらないの…信じてもらえないかもだけど…」
そこでイヴの言葉は途切れた。
そんなイヴをかばうようにアゾットがまた彼女を後ろに隠してエドガーの前に立ちはだかった。
「仮に…僕が犯人だとしたら、真っ先に自分が疑われる様な殺し方はしないと思うな。
君もそう思わないか?」
まあ…それは確かに……と、これにはアーサーもリアルで頷いた。
ゴッドセイバーはともかくとして、ショウは実名とか言いふらしたりしてはいないわけだから、普通は仲良くしててリアルの事も知ってる可能性が高いイヴが疑われるのは必至だろうし、犯人だってそんな風に自分が疑われるような事しないだろう。
その言葉にエドガーもさすがにちょっと黙り込んで、それからあたりを見回した。
「キーパーソンはメグって事かな。彼女に事情を聞けば少しは状況が見えるかも。
だけど…来てないな」
エドガーの言葉にアゾットはちょっと困った様にため息をついた。
「僕がインした時には確かにいたんだけどね…。何故だかログアウトしちゃったみたいだ。
送ったメッセージが届かない。明日事情を聞くしかないね」
確信を握るキーパーソンのメグが来ていないので事情はまだ霧の中だが、とりあえずそれぞれの人物像はわかってきた。
生き残ってるのは12人中10人。
アーサー達4人を除くと、殺された二人と仲の良かった渦中の人イヴ。
メルアド交換を申し出たまま姿を消したメグ。
怯えてるイヴを慰めてる癒し系の男プリーストのアゾット。
なんだかハイテンションでアーサーを追い回してくるアーチャーのオスカー。
周りから情報を聞きまくって犯人を特定しようとしているらしい男ウィザードのエドガー。
そして……このゲームを始めて以来、他人と一切連絡を取ろうとせずメルアド交換すら
スルーしてる謎のアーチャー、ヨイチ……
その日はとりあえずアゾットが音頭をとって、それぞれ自己紹介をして解散したが、みんなが微妙に全員を警戒している嫌な雰囲気だった。
ショウを殺した犯人がゴッドセイバーを殺した犯人と同一人物だとすると犯人は男でおそらくこの中にいるのだ…
いったい誰なのだろうか……
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