オンラインゲーム殺人事件第三章_1_第一の殺人(7~8日目)

今日でゲームを始めて一週間。
最近昼間から夜を心待ちにしている自分がいる。


8時から0時なんてケチくさい制限をつけないで昼からやらせてくれれば良いのに…などと考えつつ、テレビを流しながら参考書をこなしていたアーサーは、特報のピンコンピンコ~ンと言う音で、視線をテレビに移した。

『臨時ニュースをお知らせします。本日午前5時過ぎ、東京都○○区のマンション駐車場で刺殺された男性の遺体が発見されました。
殺された男性は都内在住の高校生、鈴木大輔さん17歳………』

え??
確か以前広場の噴水前でゴッドセイバーが名乗っていた名だ。
これって………まさかゴッドセイバーじゃないのかっ??
うそだろう?!
まあすごく珍しい名前ではないのだが、都内で高校生でと言ったら限られる気がする。
絶対に100%本人とは言い切れないが、その可能性は限りなく高い。

そんな風に思ってアーサーはあわててゲームに入ろうとPCに駈け寄りかけて、ハッとした。
そうだ…レジェンドオブイルヴィスには20時になるまでアクセスが出来ない……

そうしてどうしよう…とオロオロしてるうちにニュースは終わってしまっていたのでネットで調べてみる。
そこにはテレビで放映してるよりもっと詳しい情報が載っていた。

被害者は都内在住、都立S高2年の鈴木大輔。
学校まで同じとなれば、さすがにこれはもうドンピシャだろう。
死因は刺殺。
本日0時半頃に友人と会ってくると家を出てそのまま戻ってこなかったらしいが、普段から外泊する事もなくはなかったので家族も気にしてなかったそうだ。
そして5時過ぎ。
ランニング中の男性が駐車場から走り去る不審な若い男を目撃して駐車場の方をチラ見したら、血まみれの死体を発見したとのことである。
おそらく走り去った男が犯人と思われるが、後ろ姿だったので特定は難しいという事で〆られている。

もしかして……今回のゲームと何か関係あるのか……

宝くじに当たって殺されたなどと言う話は以前に聞いた事がある気がする。
自分自身は友人がいないという事が珍しく幸いして誰にも今回の事を言う機会がなかったので、そういう意味では大丈夫だが…

と、アーサーは恐ろしさとは別に、今の自分の環境を思ってやや自虐的な気分になった。

本当に…学校がないとあまりに会話をする相手がいない。
ああ、ヌイグルミ達はいるが、彼らには一方的に話すだけで返事は当然返っては来ないし、家族は海外で用件がない限り電話すらかけてこないので、見事なまでにボッチだ。

だから自分に関しては大丈夫なのだが、パーティの皆は大丈夫なのだろうか……
不安な気持ちを抱えたまま、それでも8時を待って飛びつく様にアクセスする。

今日もいつもの通り景色が読み込まれてアーサーのキャラが表示されるやいなや、無言でパーティーに誘われた。
そのまま入るを選択すると、これもいつものようにギルとルートが待っている。

『ギル…ニュース聞いたよな?』
と、真っ先に声をかけると、
『ああ。兄さんなら今離席中だ』
と、ルートから返事が返ってきた

フェリはまだ来ていない。
まあ…彼は鈴木大輔=ゴッドセイバーということを知らないので当たり前かもしれないが…


実はアーサーはあまりルートと会話をした事がない。
もちろん口を聞いたことがないというレベルではなく、必要以上に雑談のようなものをした事がないという意味だ。

元々よくしゃべるギルと違ってルートは無口で必要以上の事を言わないが、フェリなどは人懐っこくじゃれついては面倒をみられたりたまにたしなめられたりしているようだ。

だが人見知りの激しいアーサーはそんな行動に出る勇気はなく、さらにルートと会話をしなくてもギルがいればそれで事が足りてしまうということがあって、本当に接点がない。

なので今日のようにギルやフェリがいないところでルートと二人と言うのは本当に話す事がなくて気まずい。
なので、
『あれってさ…このゲームが原因かな?』
と、これ幸いにと今日気になっていた件を口にしたのだが、
『だろうな。』
と短く応えられて、会話が終わった。

重い重い沈黙。

あちらは気にしてないと言うか、アーサーになど興味はないのかもしれないが、アーサーの側は気になる。

何か話さなければ…と、そこで
『ゴッドセイバーの名前とかはギルに?』
『ああ、兄さんから聞いている』
と、そこまではテンポ良く話せたのだが、その後…

『やっぱり……あれだよな、宝くじ当たったとか言って殺されちゃったりするのと同じかもな。
あいつはしゃいで周り中に1億もらえるかもとか言いふらしちゃってそうだし。
俺は夏休み中で誰にも会う機会がなかったから、まだ誰にも言ってないんだ。ルートは?』
と、続いて聞いたのがまずかった。

アーサーの言葉にルートは沈黙…。

………まさか、な。
ルートは無口そうだし、ギルに限ってあちこち言いふらす様な不用意な事は………
でもこの沈黙はなんだ?
と、思いつつ、

『まさか…ルート…あちこちに言ってるとか?』
おそるおそる聞いてみると、ルートはため息をついた。

そう、ため息をつくとか、膝をつくとか、そういうのは操作であるのだ、このゲームには。
…とか説明してる場合ではなくて…

『お前……馬鹿…だな』
と、思い切り呆れられたらしい。

ディスプレイの中のアーサーのキャラにリアルで呆れた目を向けているルートの姿が目に浮かぶようだ。

『一億円て手にできる確率12分の1だぞ。』
『ああ、だから?』
『まだ受け取ってもいない金のために身近な人間殺す愚か者がどこにいるんだ?
被害者が現物持ってないってことは、殺してもそれ奪える訳じゃないんだぞ。
宝くじの場合は大金を手にしたからだろう?殺すのは』
『…あ……』

確かにそうだ…
しかし何故だろうか…
ギルに同じ事を言われたら素直にそうだったと思うのだが、ルートに言われると焦ると言うか…怒られているような気分になる。

いや、アーサーがそう思っているとかではなく、沈黙を勘違いして今回の事を言いふらしてしまっているのか?などと言ってしまったので、本当に怒っているんじゃないだろうか…。

その後続く沈黙。
沈黙……
沈黙。

ああ、これは完全に怒っているかも…と、アーサーはリアルで涙目になった。

『悪い。今日はちょっとやりたい事があるんだ』
と、きまずさに耐えきれずにそう言うと、ルートの返事も待たずにパーティを抜けた。


そのまま気まずさのあまりダッシュで走り去ろうとしたところに、
「ちょ、お姫さん、待てっ!」
と、飛んでくるギルからのパーティの誘い。

(今日はこみいった話になるからルッツにはフェリちゃんに今回の事の注意点とか話させるし2対2な?
やりたい事あるなら、話をした後に付きあうから時間貰えねえ?)
とウィスが来て、二人きりと言う事に安心してパーティに入る。

そして自分のHPバーの下に表示されるギルの名とHPバー。

ギルがいる…それだけでホッとはするが、自分のおかしな行動はおそらく怒ったルートから伝わっているだろうと思うと、それはそれでいたたまれない。

しかしそんなアーサーの気まずさを払しょくするように、ギルは駈け寄って来て
『待たせてごめんな~。
あとルッツが悪い。あいつもなんつ~か…不器用で、何か話さねえとと思ってグルグルしてて、お姫さんが話かけてくれた事でてんぱっちまって、俺が戻った時に、なんだかお姫さん怒らせたって青くなってたんだけど、なんかやらかしたか?』
と、当たり前に背に腕をまわして、城内へと誘導をする。

へ?と思う。
怒っていたのはルートの方ではなかったのか??
『あの…ルートの方が怒ってたみたいだったから、気まずくて、つい…』
と、ギルの気軽さにつられてついつい白状すると、ギルは、あ~、と、アーサーの背に回していない方の手を額に当てて天井を仰いだ。

『またか。ほんっと悪い。あいつは無愛想だから素でよく怒ってると勘違いされんだ。
フェリちゃんみたいに気にしないでじゃれてくれる子の方がレアでな。
だからここだけの話、あいつフェリちゃん大好きだしw
でも態度だけ見てると迷惑そうだろ?ww』

確かに…。
フェリの方はルート好き好き大好きオーラを出してじゃれついているが、ルートの方はどちらかというと仕方なくというか、どこか困ったような様子に見える。

そうか…大好きな相手にアレなのか…と思うと、自分とのやりとりも彼にしたらスタンダードなものなのだろうと納得出来た。

『あそこは一方的にフェリがルート気に入ってたのかと思った。』
『いやいや、フェリちゃんは元々人懐っこいしな?
俺様から見ると、あそこはたぶんルッツ→→→←フェリちゃんくらいでルッツの方がフェリちゃん好きだと思う』
『そんなにっ?!』
『ああ。そんなにだw』

笑いながらそんな話をするギルに気まずさはいつのまにか薄れ始めた。
びっくりするやら面白いやらで、アーサーはリアルで小さく笑みを浮かべている自分に気づく。

そして、本当に…ギルはすごいと思った。
人づきあいが下手な人間には弟のルートで慣れているせいだろうか。
アーサーみたいに付きあいにくいであろう人間でも当たり前に楽しい気分にさせてくれる。

そんな風に楽しく話をしながらギルはアーサーを連れて
『せっかくだから今日は二人で街中まわるかぁ。』
と、観光ガイドよろしく街中を案内して回る。

ここは~ができる所、ここは景色がいい所、など、ギルはまだそれでも気持ちの整理のつかないアーサーの返事を求める事もなく説明して回り、一通り街中をぶらついた後、最後に町外れの教会に入っていった。

そこはこのゲームの光の神イルスを奉っていて、普通の教会みたいに長椅子があり、座って祈れるような感じになっている。
真っ白な建物に色とりどりのステンドグラスから光が差し込んでいるのが美しい、ロマンティックでしかも静かに話が出来る場所の5指にはいるような所だ。

物理的に便利な場所だけではなく、こんな風にファンタジーらしい雰囲気のある場所まで全てチェックをしているのがギルのすごいところだとアーサーはまたさらに感心する。

『よっし、そろそろ休憩。座るか~』
ギルは言って奥に座るとアーサーにも隣の席を勧めた。
アーサーもそれに従って隣に腰をかける。

『そろそろ落ち着いたか?』
アーサーが座ると、ギルが静かに切り出した。

確かに…黙って街を歩き回っている間に涙も完全に乾いていて、
『で、本題、話しても大丈夫か?』
と言う言葉で、アーサーはギルがおそらく気がたかぶっているアーサーを気遣って、街を歩き回ることで時間をおいてくれた事に気付いた。

本当に…どこまでも気が回る人間だと思う。
これでアーサーより一つ年上なだけというのが本当に驚きだ。
しかしさらに驚いたのはそのあとだった。

『あのな、これからちょっともしかしたら不安にさせるような事言うかもしれねえけど、きちんと注意するところを注意して行けば大丈夫だし、必要だと思ったら俺様達も出来る限りフォロー入れるつもりではあるから、とりあえず話を聞いてくれ』

そんな風に、まるで大人が子どもに、先生が生徒にいうような調子でギルベルトは話し始める。

『以前な、俺様、お姫さんにリアル明かしたらすごい危ないって注意しただろ。
あの時に実は今回の殺人事件みたいな事が起こる可能性も考えてたんだ。
一億ってなぁ、すごい大金だからな。
何をしてもそれこそ人を殺しても確実に自分の物にしたいって参加者が出てきてもおかしくはねえ。』

『そ…それって…まさか?』
そこまで聞いてアーサーはようやく今回の諸々が見えてきてリアルでゴクリとつばを飲み込む。

『ああ。今回の殺人事件の犯人…一億円を手にしたいゲームの参加者なんじゃないかって俺様は考えてる』
ギルベルトのその言葉にアーサーは顔から血の気がさ~っとひいていった。

『つまりは…俺達もターゲットになる可能性があるってことか?』

ただ楽しく同年代の人間と交流を持てれば良いだけだった。
別に一億取ろうなどとは考えた事もない。
だから考えてもみなかったのだが、そんな自分でも狙われる側に入ってしまうのかっ?!
あまりのショックに茫然としていると、ギルが、大丈夫大丈夫とでも言うようにアーサーを抱き寄せて頭をわしゃわしゃ撫でて来た。

『ちゃんと情報は情報として整理して、自己管理しっかりしてたら大丈夫だ。
大事なのはパニック起こさない事だな。
とりあえず…以前も言ったけど絶対にリアルの身元割れるような話は口にするなよ。
住所とか名前はもちろんだが、最寄り駅とか、よく遊びにいく場所とか、直接関係なさそうな情報も、いくつか集まれば範囲絞り込まれたりするからな。
あと周りにもこのゲームの話はNGだ。
全然関係ないあたりでも、そこからまわりまわってとんでもない所に情報流れたりするからな。
あとは…主催とかを名乗る奴から呼び出しとか受けても慌てて飛び出さないようにな。
自分から会社の方へちゃんと確認いれろよ?』

などなどギルは具体的な注意もしてくれるが、全部の注意をきちんと守りきれるのだろうか?
殺人犯が迫ってきた時、1人暮らしのアーサーには守ってくれるような家族もいない。

もし何か一つでも間違ってしまったら……



『あ~、もういい』
色々悪い想像がクルクルと回りすぎてアーサーがパニックをおこしかけていると、それまでつらつらと注意点をあげていたギルが突然一言そう言った。

そして
『不安にさせて悪い』
と、ぎゅっとアーサーを抱き締め、そして続ける。

『お姫さんは俺様が守るから。
3つだけ約束な?
一つはリアルについて絶対に他人に話さない事。普通の状況でも危ないから。
次に呼び出しは受けない事。例え誰から呼び出されても絶対に行くなよ。
最後は…俺様がいないところで他の参加者と話をしない事。これはな…お姫さんうっかり誘導尋問とかでリアルに抵触する事言っちゃまずいから。
以上3点をしっかり守ってくれれば絶対に危険はない。
俺様が全部フォローする』

いつもいつも頼りになる人間だったが、今回ほどギルが頼もしく思えた事はない。
アーサーがコクコクと頷くと、
『よし、そろそろ向こうも説明終わってるだろうから、合流すっか』
と、ギルはもう一度アーサーの頭を撫でて立ち上がった。




ギルが連絡をいれて確認したところによると、ルートとフェリはあのまま城の中の庭園で歓談中とのことだったので、アーサー達も再度そちらへと足を向けた。

バラの花に囲まれたベンチで並んで座る可愛らしい感じのフェリとガチガチの重鎧を着込んだいかにも硬質な雰囲気のルート。
二人の見た目のギャップがすごい。

「お~い、合流すっぞ~」
ギルがそうルートに声をかけると、アーサー達に気付いたフェリがふわりと立ち上がってアーサーの周りをクルクル回った。

「アーサー、ちゃお♪」
嬉しそうに言ったあと、クルリとルートを振り返る。

そして
「ルートっ…」
と何かうながすように声をかけた。

「…あ、ああ。」
ルートも立ち上がってアーサーの前に立つ。

ズオォォォ~と振りまかれる威圧感。

「ど…どしたんだ?」
若干引き気味に…というか、もうギルの後ろに隠れそうな勢いでアーサーが無言で立ち尽くすルートを見上げると、ルートの口からは思いがけない言葉がこぼれた。

「ごめんね♪(@_@。」

「…へ???」
思わず間抜けな返事を返すアーサー。

なに?何が起こってる???
シュールな図すぎて反応に困って硬直する。

そして吹きだすギル。

それを合図に

「フェリーーー!!!!」
と、叫ぶルートと、
「だって~、ルート絶対にアーサーに怖がられてるもん。
こんな風に可愛くすれば怖くないかと思ってっ」
と悪びれずにぴょんぴょん飛び跳ねるフェリ。

「怒っちゃ嫌だよ?
俺は大好きなアーサーと大好きなルートに仲良くなって欲しいだけだもん」
と、天使の笑顔で言われれば、もう誰も反論などできはしない。

「うむ…俺も少し言葉に気をつけようとは思う」
と、ルートが
「俺の方こそごめん。
別にルートは怒ってるわけじゃないんだってギルから聞いたから、大丈夫」
とアーサーがそれぞれ言いつつなんとなく和解をして、4人はめでたく合流した。




そんなことをしているうちに、いきなりゲーム内だけで見られるメールにあたる物、メッセージが来た。

送信者は…メグ。どんな相手だったかどうにも思い出せないので、とりあえず開いてみる。

【こんばんは。参加者の一人、ウィザードのメグです。
このメッセージは全員に送っています。
知らない方もいるかもしれませんが、今日同じく参加者の一人だったゴッドセイバー君が誰かに殺されました。
原因は断言はできませんけど、このゲーム絡みの可能性が高いと思います。
もしそうだとすると今後残った参加者にも危険が及ぶ可能性は充分あると思います。
そこで皆さん、8時~0時以外でも情報交換等ができるようにメールアドレスを交換しあいませんか?了承して下さる方は私までメッセージでメルアドを送って下さい。
一応明日21時までにメルアドを教えて下さった方には、私を含めた送って下さった方々全員のメルアドをお送りします。】

『メッセ…来たか?』
しばらく全員メッセージに目を通してたらしく無言だったが、ギルが最初に沈黙を破った。
『ああ、俺のところには来ている』
『俺の所にもきてるよ~』
『俺のとこも…』
全員に送ってると言うのは本当らしい。


『やっぱ…これもダメ…なのか?』
さきほどのギルの注意からすると、当然これもリアル情報に含まれるからNGなのだろうが、アーサーとしては全員に教えなくても良いが、パーティのメンバーとは夜の8時以前にも連絡が取れると嬉しい。
本当に一人ぼっちの身としては何か起きても8時までは一人でモンモンとしていないとならないのはつらい。

しかしてっきりやめとけと答えを返してくると思ってたギルは、あっさり期待を裏切ってくれた。
『ん~、これはいい。』
『ええ??さっきまで個人情報駄目って……』
思わず言い返すアーサーに、ギルはただし…と付け足した。

『携帯とか普段使ってるメルアドは教えるのはNGな。
適当なフリーメールとかでこのゲーム関係の連絡用にしか使わないいつでも捨てられるようなメルアド取ればいい。いわゆる捨てアドってやつな。
情報交換や連絡だけならこのゲームやってる間だけだし、それで充分。
あ、当たり前だけどメルアドに自分の名前もじっていれるような真似はしないでくれよ。』

なるほど…。それなら大丈夫なのか…と、アーサーはホッとした。

『って事で今日ログアウトしたら全員捨てアド用意して、明日こいつのところに連絡な。
で、一応こいつからメルアド書いたメッセきたら、ちゃんとホントにメルアド配ってんのか4人で自分のメルアド言って確認するぞ。』

本当に…ギルは抜け目ないがないというか、頼りになる男だ。
なんだかギルの言う通りにしてたら大丈夫な気がしてくる。

その日はそれからログアウトすると、すぐ適当なフリーメールのメルアドを取った。



翌日、そのメルアドをメグの所に送る。
そして4人でレベルあげには出かけずに締め切りの21時を待った。
30分後…メグからまたメッセージが送られてくる。

ドキドキしながら開くと、9人分のメルアドと共にメグからの結果報告。

【こんばんは。今回は私の提案に賛同して頂いてありがとうございます。
8人の皆さんが送って下さったので、私のを合わせて9人分のメルアドを送らせてもらいます。
一応21時を待って返答の無かったショウさん、ヨイチさんに声をかけてみたのですがショウさんは今回の事で怖くなったのでゲーム自体をやめるから参加しないとの事でヨイチさんは全く無反応なので、参加の意志なしと考えさせてもらうことにしました。
一応間違いないとは思うのですが、各自ご自身のメルアドを確認の上、間違いがありましたらメグまでまたメッセージをお願いします。】

とりあえずメグのメッセージに目を通して、4人でそれぞれ自分のメルアドを確認した。
アーサー達のパーティの4人に関しては確かに全員のメルアドが正しく記載されてるので、ひとまず安心だ。

『でも…さ…』
とりあえずメルアドを確認し終わったところで、フェリが口を開く。

『こんな事件起こってるわけだし、ショウみたいにやめるっていうのも一つの選択だよねっ。
でさ、全然危なくなったら皆で遊園地とかショッピングとかしたら楽しくない?』

ああ、それは楽しそうだ…とアーサーも思う。
それよりなにより、ゲーム抜きでもフェリが自分と遊んでも良いと思ってくれているのが嬉しい。

思わず、それいいな、とキーボードで打ってEnterキーを押そうとした瞬間、ルートが大きくため息をついた。

『お前は…バ』
多分次に絶対”カか?”と続けたかったようだが、さすがに昨日の今日で反省はしてるのか、その言葉は飲み込んだらしい。

『残念だがそれは無駄だ。』
と、あらためて言った。

『なんで?やめちゃえば一億もらう権利もないわけだし殺す必要ないでしょ?』
『やめられれば…な。でもこれはある意味やめられないからな。』
『…?』

フェリもハテナマークを飛ばして首をかしげているが、アーサーも意味がわからない。
単にPCからゲーム削除してディスク捨ててしまえばいいのでは?と思っていたら、ルートがわかってないな、とまたため息をついた。

『最初の主催からの手紙であっただろう。
一度やめても再開可能でディスク紛失したり破損してもまた送ると。
つまり本人がやめたつもりでも実際はエントリーされてる状態なわけだ。
だから犯人から見るといつまたライバルになるかわからない相手なわけだ。消す対象からは外れない。』

そうか…そうだったっ!
その理屈を知ってガッカリはするものの、それでも恐ろしさは感じない。
そう、ギルが守ってくれるといったのだ。
安心感と共にこんな時に感じるべきではないが、少しの喜びを感じる。

『ヴぇー、どうすればいいの?』
逃げても逃げても逃げられない事に気付いてフェリがわたわたと慌てたように手を振って飛び跳ねるが、ルートは動じた様子もなく
『まあ…犯人が捕まるか誰かが魔王倒して一億手にするかだな。』
と、当たり前のように言う。

まあ彼にしてみればギルのように頼りになる兄がいるから何も恐ろしい事はないのだろうなと、アーサーは羨ましく思いながらも、それこそルートがいうような時が来た時には、フェリが言うように皆で会えれば嬉しいなと、脳内で楽しい想像を巡らせた。




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