オンラインゲーム殺人事件第二章_2_パーティーは楽しい(6日目)

ギル達とはあれからいつも一緒で、同じ時間に同じ場所で待ち合わせて行動する仲間になっていて、アイテムなんかはお互い必要な物を融通しあったりなど協力するようになっていた。



戦闘の時の役割も決まっていて、まずアーサーが防御をあげるプロテクションを全員にかけ、フェリは能力アップの歌をかける。
その後ギルがブーメランで敵を一匹安全地帯までひっぱってきて、それにルートがプロヴォを入れて固定すると、フェリと短剣に持ち替えたギルも殴りに参加。
その間、アーサーは1人殴りには参加せずHPや毒を治しつつ、余裕があれば座ってMPを回復するのが常だ。

一人でやるより当然面白くて、レベルが上がるのも全然早い。
ギル達に付き合ってもらいミッションを二つほど終わらせたので、指定した口座には主催から20万円が振り込まれた。

アーサー達だけではなく、他の参加者もボチボチ仲間を見つけてパーティーを組んでいて、例のイヴはゴッドセイバーだけではなくて、もう一人ショウという名前の男のベルセルクも引き連れて、女王様状態のようだ。
男二人が競う様にイヴに膝まづいて何か言ったり渡したりしているのをしばしばみかける。

今日もそんな感じのイヴ達のパーティとたまたま狩り場は被ったが、あちらは前衛三人で弱めの敵をリンク狩り、こちらは回復や支援と共に強めの敵を一体一体倒す形で敵自体は違うので無問題…なはずだった。

が、数分後…

(アーサーって…寄生だよねぇ…)

それは突然イヴから届いた特定の個人にのみにあてた会話、ウィス。
はい?いきなりなんなんだ??
アーサー達はレベル上げをしているわけで、回復が遅れて大幅回復になればヘイトを稼いでしまうので、ヒーラーとしては戦闘が終わるまでは回復のタイミングを計るのに忙しい。
ゆえに即答どころか、深く意味を考える暇もない。
ただ、やはり近くでレベル上げをしているらしいイヴのパーティーにチラリとだけ目を向ける。
イヴもこちらをチラリと見るが、通常会話では無言。

(いったん組んじゃったから言えないんだろうけど、ギルとかルートとかはレベル高いしスキルもあるから、レベル低いしスキルも大したことないメンバーって実は足手まといよね…)

それはそうかもしれない…とは思う。
確かにただ回復するしか出来ないし、ゲームをよくわかってなかったため金も貯めていなかったし装備も初期装備のままだったので見かねたギルが全部揃えてくれた。
足手まといと言えばそうなのかもしれない。
だが…何が言いたいんだろう。

アーサーはなんだかすごく嫌な気分になってきた。
心臓がバクバクして、なんだか泣きそうだ。
だから何だ?どう答えてほしいんだ?俺にどうしろと?
返す事が出来ない言葉が頭の中でクルクル回る。
弱い涙腺がとうとう決壊して、潤んだ視界の向こうでディスプレイが滲み始めた。

と、その時だった。

いきなりパーン!!とゲーム内で驚いた時などに使う破裂音が鳴り響いた。

『ルートっ!ルートっ、俺足手まとい?!迷惑?!』
いきなりフェリがルートの周りをグルグルと回り始めた。

丁度敵を釣ろうとブーメランを構えかけていたギルもぴたりと手を止め、慌てて戻ってくる。

『何を言っているのだ。
俺はそんな事言った覚えはないぞ?
それよりとりあえずこいつを倒してしまうぞ。
フェリも殴れ』
と、おそらくオートに切り替えたのだろう。
若干攻撃が単調になったルートが不思議そうに言う。

『あ~、フェリちゃん、誰かに何か言われた?』
と、戻ってきて一緒に敵を殴りながらギルがそこに割って入ると、フェリはざ~っと文字を垂れ流した。

『イヴ:フェリって…寄生だよねぇ…。
イヴ:いったん組んじゃったから言えないんだろうけど、ギルとかルートとかはレベル高いしスキルもあるから、レベル低いしスキルも大したことないメンバーって実は足手まといよね…』

それはアーサーの所に送って来られたウィスと全く同じ物だった。
なるほど、フェリにも送っていたのか…と、そういう問題ではないのだが、自分だけではなかった事にアーサーは少し安心する。

しかしそこで心穏やかになったのはアーサーだけだったらしい。

『何故こんなことを言われなければならんのだっ!
苦情を言って間違いを正して来るっ!』
と、明らかに怒った様子でイヴ達のパーティの方へ行きかけるルートを、
『ルッツ、待て。見てみ?』
と、ギルが止める。

その言葉に一同そちらのパーティに目をやると……

そのパーティは女一人に男二人の不協和音。
ショウが敵を連れてくると、ゴッドセイバーがいきなり無言でダっとどこかに駆け出して行った。
それをスルーで二人はそのまま敵を叩いている。

「イヴ~!」
しかしやがてゴッドセイバーが戻って来た………張り合うようにでかい巨人を連れて…。

「俺の敵の方がでけえしー、やっぱ俺マジやばくねっ?」

えっと…お前の方が別の意味でやばくないか?
HP真っ赤なんだけど?
てか…倒せるのか?それ…
……と、落ち込んでいたはずのアーサーですら思った。

『脳みそに何かわいてるな……』
と、さきほどまで怒り狂っていたルートまで呆れ果てたように呟いた。

そしてアーサー達より少し遅れてゴッドセイバーの連れて来たモノに気付いたイヴとショウ。
まず叫んだのはイヴだ。

「ちょ、ちょっと信じらんないっ!何連れて来てんのよっ、あんたっ!!」
「一番強そうなの連れて来たしー。俺すごくねっ?」
「すごいわよっ!もう信じらんないくらいすごい馬鹿っ!!
倒せない敵連れて来てどうすんのよっ!!」

イヴの言葉にゴッドセイバーはポカンと立ちすくんだ。

「え~!マジっ?!ありえなくねっ?!」
「ありえないのはあんたよっ!それ連れて向こう行って死んどいてよっバカっ!
こっち連れて来ないでっ!!」
「まじすかっ!!」

『ほんと……ありえんな……』
あちらのドタバタを遠目で見ながらさらに呆れた息をつくルート。
しかしギルの方はそのまま後ろを振り返りフェリに声をかけた。

『フェリちゃん、わりーけど能力アップ一通りかけといてくれ。あとお姫さん、念のためプロテクトもかけなおしてくれるか?』

『兄さん、まさかあんな奴らを助けるのかっ?!』
と、ギルの言葉にルートは色をなして詰め寄るが、ギルはそれに憶することなく
『まあ俺様にも考えがあるから、黙ってみとけ、な?』
とルートを宥め、支援や強化を一通り受けるとイヴ達のパーティの方へと向かって行った。


こちらのパーティの側でそんなやりとりが繰り広げられてる間にも、イヴ達は修羅場を繰り広げてる。

「きゃあぁっ!ちょっと、どうすんのよ、これっ!」
悲鳴を上げるイヴの前に
「まかせろっ!」
と、立ちはだかるゴッドセイバー。

「暗黒に染まりし神の使徒、このゴッドセイバーの虚空より現れいでる刃の煌めき!
受けるがいいっ!!
ナイトメアスーパーメテオインパクト!!!」
そのまま巨人に特攻………スカっとかわされた。

「ムッ!貴様、やるなっ!!」
巨人の周りをそのままグルグル逃げ回りながら叫ぶゴッドセイバー。
呆れるイヴとショウ…。

「イヴ…この隙に離れようぜ」
もっともな提案だ。
うなづいてイヴはショウと共にジリジリと後ろに下がって距離を取り始める。

「ク、クソッ!お前は俺を怒らせた~!黒き業火がごとき俺の怒りを受けてみよっ!今燃え上がる漆黒の必殺技!ファイナルゴッドライトニングスラッシュ!!!」

………スカッとかわされる。
そうしてまたグルグル巨人の周りを回っているゴッドセイバーに、巨人が手に持った斧を容赦なく振り下ろしかけた時、赤く光る短剣が巨人の胴を斬りつけた。

「お~すげえ、当たるな」
とけらけら笑うギルに巨人の攻撃が向かう。
しかしその攻撃はスカっと外れ、巨人にサクサク斬りつけるギル。
それに気付いてゴッドセイバーはようやく逃げ回るのをやめ、巨人相手にスカスカと素振りを始める。
そしてギルはそのまま何度か攻撃を受けてHPを半分くらい減らしつつも巨人を倒した。

ズドン!と音をたてて倒れたあと、ス~っと地面に巨人が消えて行くのを確認するギルの背中に、ゴッドセイバーが声をかける。

「俺は暗黒神の使徒、黒い稲妻ゴッドセイバーだ。
共に強敵を倒した盟友のお前の名前を聞きたい」

ギルは無言で振り返る。そしてため息。
「…キャラ名…頭の上に出てんだろ。見えねえのか。」

まあ…そうである……。
そもそもゴッドセイバーの攻撃一発も当たってないので”共に”倒してはいないしな…と、アーサーは脳内で突っ込みをいれた。

「ギルすごいねっ♪マジかっこ良かった♪」
巨人が倒れて安全なのを確認してイヴが戻ってくる。
「今度リアルで会わない?名前教えてっ?」
ピタっと寄り添いかけるイヴからスっと距離を取るギル。
そしてにやりと笑って自分を指差した。

「俺様はただの非力なシーフにすぎねえよ。
うちの後衛ちゃん達が防御、攻撃、回避、命中、片っ端からパラメータUPする支援や防御魔法をかけてくれたおかげでそっちの勇者様でも倒せねえ敵倒せただけでな。
俺らのとこの愛しの後衛ちゃん達は足手まといなんかじゃねえ。覚えといてくれよ?」

それだけ言うと足取り軽くパーティに戻ってきた。


『悪い。待たせたな』
と、アーサー達に言うギルのはるか後方では
「もうっ!ギル行っちゃったじゃないっ!GSもショウもエンジェルウィング一つ取ってこれないくせにっ」
と、イヴが怒っていて、二人が必死にご機嫌を取っている。

それに構わずギルは
『ってことだ。普通ウォリアーに倒せねえような敵をシーフが倒せる事はねえけどな、二人のおかげで俺様最強状態だ。
足手まといなんかじゃねえよ。フェリちゃんもお姫さんも神だ』
とフェリとアーサーの頭を両手でくしゃくしゃと撫でまわす。

『そうだな、兄さんの言うとおりだ。二人がいるからこんなに速やかに敵が狩れているんだ。二人ともこれからも宜しく頼む』
と、さきほどまで怒っていたルートも溜飲を下げたようで、穏やかな調子で頭を下げた。

そしてアーサーもすっかり浮上して思う。
ギルはやっぱりすごい。
飽くまで冷静に喧嘩腰になるわけでもなく、全てを解決してしまうなんて…と。


そんな風に感動しつつも、その日はそのままお互いレベル上げに戻って、さらにレベルをあげて狩りを終了。

街へと帰る道々のこと

(あ~、あのさ、たぶんフェリちゃんだけじゃねえよな?
お姫さんのとこにも同じようなウィス来てたんじゃね?)
と、送られてくるギルからのウィス。

ギルのおかげですっかり立ち直って狩りをしていて忘れてたので、何故今頃?と思いつつも
(うん。確かに来てたけど…)
と、アーサーが返すと、即

(気づいてやれねえでごめんな?)
と、返ってきた。

いやいや、あれは気づきようがないだろうと思うが、続く言葉は

(お姫さんは言わねえからなぁ…心配になんだよ。
出来ればフェリちゃんみたいになんでも言ってくれよ。
お姫さんはたぶんフェリちゃんと二人でも楽しくやってくだろうところを無理に誘ったの俺らだからな?
お姫さん達に俺らが必要なわけじゃなくて、俺らにお姫さん達が必要なんだから、遠慮すんなよ?)

うわぁぁ~~~
アーサーはリアルで手で顔を覆った。
もう至れりつくせりすぎてどう反応して良いやらわからない。

アーサーの人生の中でこんなに誰かに大切にされたのは初めてなんじゃないだろうか…。


ゲームって…素晴らしい。
フェリと出会ってからほわほわと楽しかったが、今はプラスふわふわしている。

その日も城の中庭で花に囲まれてログアウト。
そして明日もきっと花の中から姿を現わせば、優しい頼れる相手が待っているのだろう。

そんな楽しく心浮き立つような日々が翌日になったら一転、緊張感漂う殺伐としたものになるとは、アーサーもこの時はまだ想像もしていなかった。


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