オンラインゲーム殺人事件第二章_1_ネットは意外に怖いらしい (4日目)

昨日仲間が3人に増えて一気に賑やかになったパーティ。

フェリと二人でまったりと狩りをするのも楽しかったのだがゲームをやるからには少しは先のイベントも見たい。



そういう意味では昨日からパーティを共にする事になった二人組はいい。
レベルも倍でゲーム内の事も色々知っている。
彼らがいれば世界がかなり広がるだろう。

とりあえず今日はミッション1を手伝ってもらえることになっているから、楽しみだ。
アーサーはワクワクしながら夜を待ってゲームにアクセスした。

まだ8時を1,2分ほど回ったくらいだったのだが、ギルもルートももうインしていて、二人でしゃがみこんで何か手の先からパチパチと光のようなモノを出している。

「……?
二人とも何してるんだ?」
とアーサーが首をかしげると、ギルは光を出すのをやめて立ち上がった。

そしてルートに
「まあ今日はヒーラーいるから俺様はこのくらいにしておくわ。
ルッツはあとバード用の食べ物よろしくな」
と声を描けると、

「じゃ、お姫さんはこっちな~」
と、ちょいちょいとアーサーに手招きをする。

それに対してアーサーは
「お姫さんじゃないっ」
と駈け寄って行きつつ文句を言うが、ギルは気にする事なく
「はいはい。でもほら、あれだろ。
やっぱりお守りされてるっつ~と、なんかそんな感じじゃん?
まあ細けえ事は気にすんな」
と、けらけら笑いながらアーサーを城の外へと誘導した。

そしてアーサーが口を開く間を与えず
「あれだ、さっきのは合成。
素材手に入れてHP回復する薬作ったりパラメータ上げる食事作ったりしてたんだ。
特にヒーラーいねえパーティには薬は必須。
いちいち座って回復してたら時間かかるしな。
だから今まではインして10分は俺は薬、ルッツは食事を作ってから狩りに出てたんだが、今日からは非常時以外は薬要らねえって思ったら天国だぜ。
ヒーラー様々だ。」
と、説明し、手に胸を当てて恭しく礼をしてくるため、アーサーもそれ以上文句を言うに言えなくなってしまう。

そんな風に接して来られると気恥ずかしいが、でも少し嬉しい。
そして自分も少しはこのすごい冒険者達の役に立っているのかと思うとホッとする。

そうしてそのまま手を取られ、まるでギルにエスコートでもされるかのように広場の中央の噴水前へ。

普段はこんな時間に広場中央になど来ないため初めて知ったが、ここを待ち合わせ場所にしているプレイヤーもいるらしい。
ウォリアーらしき二人が仲間を待っているのだろう。
そこで雑談をしていた。

なんとなく聞くともなしに目の端に流れる会話。
男のウォリア、ゴッドセイバーがほぼ一方的に話してるようである。

「俺さぁ、今レベルトップだしー、ミッションもちょーやってるしー。
でもゲームだけじゃないしー。
リアルもマジパネェつーかー、俺、鈴木大輔って都立S高の2年なんだけどー、
ちょー背高いしー、ちょーイケメンだしー…」

延々と続く自慢話。
聞かされてるイヴって子も大変だよなぁ…と思わずアーサーも同情する。

しかしそこでふと気付いた。
そう言えばオンラインゲームでは一緒にいる相手も機械ではなくて自分と同じようにキャラを操ってる人間なわけで…この一見世慣れたベテラン冒険者なギルも、実はアーサーと同じ高校生のはずである。

「なあ、ギル…」
『…ん?』
「ギルもさ…高校生…なんだよな?」
『だな。このイベントの参加者全員そうだって主催言ってたしな。』
「ギルはさ、どんな感じなんだ?リアル。俺は…」
『あ~、ストップ!お姫さんっ!!黙っとけ』

アーサーの言葉をギルはいきなり強い口調でさえぎった。

え??何か怒らせたっ?!!
今まで飽くまで柔らかい口調だったギルのその勢いに硬直するアーサー。
せっかく仲良くなりかけていた気がしたのに、やっぱり何か自分はやらかしてしまったのか…と、リアルでジワリと涙が浮かびかけると、それが見えていたわけでもないはずなのだが、いきなりギルのキャラがワタワタと慌てたように腕を振り回す。

『わりっ!俺様の言い方きつかったか?!
ごめんな。ただあいつらみたいに誰にでも見える場所でリアル垂れ流すと危ねえからっ!
どうしても話したかったら、パーティ会話にしてくれっ』
と言われて、アーサーは嫌われたわけじゃなかった…と、心底ホッとすると同時に、なるほどと納得する。
そう言えばインしてすぐに移動を始めたから通常チャットのままだった。

『ごめん…。気付かなくて』
とパーティ会話に変更して言うと、ギルはポンポンとアーサーの頭を軽く撫でて微笑んだ。

『いや、先に俺様がパーティ会話にするように指摘すりゃあ良かったよな。ごめんな。
でも、マジ危ねえから。
ネット上だと相手も嘘つけるから。
下手に自分の個人情報漏らすと悪用される事あるしな。
キャラの性別イコールリアル性別とは限らねえから俺様はお姫さんが男か女か知らねえし、どちらの可能性も考えて話するけど、特に女は絶対にやばいからな?
実際騙されて呼び出されて乱暴されたりとか、ストーカーされたりとか結構あるから、マジ気をつけてくれよ?
ましてや誰が聞いてるともわかんない通常会話でリアル明かすなんて本気で自殺行為だからな?』

いつもの穏やかな口調に戻ってそう説明してくれるギルにうあぁぁ~と思う。
本気で優しい良い奴だ。
カッコいい、カッコいい、カッコいい!!
ほわぁぁぁ~と思わず見惚れていると、ギルはさらに追い打ちをかけてくる。

『まあ、驚かせたお詫びだ。俺様の事はちょっとだけな。
俺様とルッツは兄弟。
都内在住で俺様は高校2年でルッツは1年な。両方同じ男子校の男子高生。
ああ、でも俺様は絶対的に助け合える相手がいるから明かしてるけど、お姫さんは言うなよ?
自分のリアルの情報は何から身バレすっかわからねえから、絶対にお姫さん自身の事は内緒な?』
と、シィ~っと言うように人差し指を口に当ててウィンク。

それが妙に様になっていて、ちきしょ~、どこのイケメンだよっ!と思う。
大人びすぎていて本当に自分と同じ高校生には思えない。

まあ…ゲーム内ではアーサーと同じだけの時間を過ごしているのにここまで色々出来るのは、リアルでも頭の回転が速く色々出来る人間なんだろう。
きっと勉強もスポーツも出来て、友人も多く、可愛い彼女なんかもいるのかもしれない。

まるで少女漫画の主人公のような男なんだろう。

そんな事を考えながらアーサーがゲーム内で連れて行かれたのは商業地区にある装備屋。

『ギル、装備買うのか?』
と聞くと、当たり前に
『おう、お姫さんのな』
と返ってくる。

え?え?
言われてアーサーは慌てて財布を覗き込み、防具のリストと所持金を交互に見比べた。
買うと言っても…どう考えても足りない。

『あ、あの…俺、そんなに金持ってない』

恥ずかしい…が、無い袖はふれないのでそう言うと、ギルは当たり前に

『ああ、レベル高い敵に行くのは俺様達の都合だから当然俺様が出すから。
万が一にでもな、俺様が釣りに行ってる間に事故が起こってお姫さんが殴られたりしたら、今の装備じゃ危ねえから。
ま、自分がいたらぜってえ後衛殴らせたりはしねえけど、念のためな』
と、当たり前にぽいぽい籠に装備を放り込んで行く。

一体いくらになるんだ…と、ひたすら目をみはるアーサー。
なかにはそれはどう見たって必要じゃないよな?というようなオシャレ装備も入っていたりするのでそれを指摘すると、

『いやいや、必要だろっ。お守りする相手には綺麗でいて欲しいし?』
などと返されたあたりで、こいつ絶対にリアルでもモテルよな、リア充って奴だなと、アーサーはため息をついた。

こうしてギルが満足するまで買いまくって装備も一新。

ギルに何故こんな謎なレベルで金があるのか聞いてみると、ギルは隠すことなく教えてくれた。

ただペシペシ敵を叩くだけでは駄目らしい。
敵によって高額な金を落とす敵もいれば、何に使うかわからず捨てていたアイテムも雑貨屋に持って行けば金に替えてくれるので、まずはリサーチが大事とのことだ。

まあこれからはギル達と行動を共にするので、そのあたりはアーサーが調べる事はなさそうではあるのだが……。

その日はアーサーのと共に買ったフェリの装備も持ってルートが待つ待ち合わせ場所に戻り、すでにインしていたフェリも加えて、まずアーサーとフェリのミッション1,2をこなしたあと、昨日のように4人でレベル上げをして終わったのだった。




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