服装もゆったりとした白い長衣なので、まるで花嫁のようだ…と、アーサーはディスプレイの中の自分のキャラの姿に、少し苦笑した。
一応自分を模して作ったはずのキャラはその格好のせいか存外に可愛らしく感じる。
実際は貧相で冴えないDKなのだけど…まあゲーム内くらい可愛らしくても良いか、と、少し浮かれた気分でウォンドを軽く振ってみれば、ぴゅるるんとなんとも可愛らしい音と共に光が舞う。
正直楽しい。
フリルにリボンにティディベア…実は可愛い物は大好きだ。
娯楽なら可愛い方がいいじゃないか。
これはこれで正解だった。
そんな風に思って、長衣の裾を翻しながら、噴水の周りをかけ回る。
そのうちふと思い立って噴水の中にぱしゃんと入ってみると、なんと水しぶきまであがるではないか。
本当によく出来たゲームだと感心した。
ゲームディスクが届いたのは昨日の事だった。
本当に突然の事でしかも大手企業からだったので驚いて、思わずその会社に本当に?と問い合わせたら、本当にその会社でやっているものだから安心して欲しいと言われて、やってみることにした。
剣と魔法の世界…ファンタジーは大好きだ。
ゲームの類はあまりやったことはないのだが、本はやまと読んでいる。
悲しい事にリアルでは人づきあいがうまくない事もあって友人もいないし、家族は海外なので1人暮らし。
学校がなければほとんど誰とも話す機会などないので、ディスプレイの向こうで一日数時間のみとは言っても、誰かがいるのを感じるのは楽しいだろう。
もちろん…もし仲間なんて出来ればもっと嬉しい。
このゲームをやろうと思ったのはそんな理由だ。
とりあえず学校と同様、友人知人が出来ない可能性もあるので、ソロが出来た方が良い。
それなら回復魔法があるプリーストが良いだろうか。
一応神聖魔法という光系の攻撃魔法も使えるらしいし、別に魔王を倒したいと言うのでもないので、少しずつ進んで少しでもイベントを見られれば良い。
そんな考えで選んだプリーストだったが、こうして見ると本当に正解だと思う。
とにかく可愛い、癒される。
そんな事を考えながら噴水の中で光と水しぶきをとばしていると、ぽろろ~んと可愛らしい音が聞こえて来た。
「こんばんは~♪1人?俺も1人なんだっ。
良かったら一緒にパーティ組みませんか?」
流れて来る文字にそちらに視点を向けると、こちらもプリーストに負けず劣らぬ可愛らしさの羽つき帽をかぶったキャラ。
手に持つのは素朴な感じの竪琴。
ということはバードだろう。
サラサラの薄茶の髪の毛が一筋だけくるんとカーブを描いているのが愛らしい。
みかけは男か女か迷うところではあるが、俺と言うからには男なのだろうと判断して、自分も同様に見えているのだろうからと、アーサーは敢えて
「喜んで。俺も1人だったから誰かいたら嬉しいと思ってたんだ」
と、あえて俺と一人称を使ってみた。
「そっかぁ~よかった♪じゃあ誘いを送るね(^-^)」
と、そのバード、フェリはパーティの誘いを送ってくる。
《フェリにパーティに誘われています。入りますか?Y/N》
表示されたメッセージに迷わずYを選択すると、自分のHPバーの下にフェリの名前とHPバーが表示された。
『よろしくな』
と、昨日から熟読したマニュアルに従って、会話モードを通常会話からパーティ会話に切り替えてみると、文字が白からブルーに変わる。
もちろんアーサーもパーティを組むのは初めてなので、その変化に(おお~~!!)と思っていると、驚いたのはアーサーだけじゃなかったらしい。
「え?ええ??なんで?なんでアーサーの文字青に変わったの?どうやったの??」
と、目の前のバードの少年はぴょんぴょんと飛び跳ねて驚きを全身で表現した。
なんだか可愛い。
『ああ、マニュアルにあったんだ。
Alt+pで会話モードがパーティ用に切り替わるんだそうだ』
『あ~、ほんとだぁ~♪すごい、すごいっ!』
と、自分もパーティ会話に切り替えて、またぴょんぴょん飛び跳ねるフェリ。
なんだか全てのリアクションが無邪気で可愛らしくて、キャラは男だが中身は実は女の子なのかもしれないなとアーサーは思ったが、ネットゲームでリアルを聞くのは好ましくないとマニュアルの最後の注意書きに書いてあったため、それは聞かない事にした。
『じゃあ街の外に出てみようかっ』
と、差し出された手を取ると、繋いだ手をぶんぶんふりながら足取り軽く進むフェリ。
二人ともキャラは男なのにジョブ装束のせいでどこか可愛らしく、はた目から見ると仲良しな女の子二人に見えなくもない。
フェリもそう思ったらしくふと足を止めて
「ねえ?アーサーのキャラって女の子?」
と、コテンと首を傾けて聞いてきたが、
「男だけど…」
と答えると
「えー、そうなんだ。なんだか花嫁さんみたいで可愛いから、俺、女の子かと思ったよ」
と、可愛らしく微笑んだ。
そんな感じで終始和やかに進むゲーム。
自キャラもお花畑なら出来た友達もお花畑で…
こうして楽しい時がすぎ、最後にログインの制限時間の0時を前に大急ぎで戻った城の中庭のローズガーデンで
「ね、ここ。ここで一緒にログアウトして明日もまた遊ぼうね?
ログインしたら花に囲まれた可愛いキャラが待っててくれるって思ったら楽しくない?」
と、フェリが言った。
本当に何故何から何までこんなにふわふわと楽しいのだろう…。
まるでアーサーの好みに合わせたような展開に、異論があろうはずもない。
それはとても素敵で楽しいと思うと、アーサーもその提案にはおおいに同意する。
――今日は一緒に遊べて楽しかったよ。アーサー大好きだよ♪また明日ね(=´∇`=)し
最後にフェリはそう優しい余韻を残してログアウトしていった。
まるでまさにおとぎ話のような数時間……
現実ではありえない優しく柔らかい空間となごやかで天使のような友人に、アーサーは本当にこのゲームを始めて良かったと、しみじみ思ったのであった。
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