と、兄は言った。
確かにその通りだ。
1ジョブにつき二人まで。
しかも俺のジョブはおそらく魔王を倒すのにはかなり適したベルセルクだ。
ウォーリアほどでないにしても狙っている者はそれなりにいると思って間違いない。
絶対に…絶対に他に遅れを取ってはならない。
兄の足を引っ張るような真似だけは許されない。
俺はそう心に固く誓って、8時前にはパソコンの前に座ってマウスを握り締めていた。
もちろんインストールなどの前準備は完璧だ。
カチ、カチ、と1秒の狂いもなく正確に時を刻む時計はすでに19時59分59秒。
それを瞬きもせずに睨みつけながら、カチ…と、時計が20時ぴったりを刻んだ時点で急ぎマウスをクリックして、キャラクタ選択の画面へ。
そして目を皿のようにしてベルセルクを探し、カーソルを合わせ、クリックっ!!!
よしっ!!!!
やったぞ!でかした俺っ!!!
目の前には黒い画面には白い文字で確かに
”あなたのジョブはベルセルクに確定しました”
のメッセージ。
思わず俺はこぶしを握り締めて歓声をあげた。
これで第一難関は突破した。
次に行くぞ。
ターゲットになるために、そしてターゲットになった人間に安心してもらうために、なるべく自分に近いキャラを作れと言う兄のアドバイス通りに、俺はキャラクタ制作に没頭する。
性別は男。これは当たり前だ。
体格も身長180cmなので画面上の身長も180cmにし、ディスプレイ上でサイズが9cmになるように画像を調整。
これでディスプレイ上は現実の俺の20分の1の身長になった。
そして胸囲、腹囲、その他諸々のサイズを現実の俺の20分の1にする。
よしっ!完璧だ!
あとは正面から写真を取る。
そして同じく輪郭から目や鼻、口などパーツの大きさや位置を決め、色調整をして決定だっ!
兄と違って美術的センスには自信はないのだが、これはかなり自分の容姿に近いキャラになった気がする。
名前はどうするか…。
さすがに本名はまずい。
特に名字はまずいだろう。
父に迷惑がかかる。
ではどうするか…ルートヴィヒ・バイルシュミットだから…略してルートがいいか。
よし、貴様はルートだ。
魔王を速やかに倒すのだぞ。
俺はそう心の中で話しかけながら、ディスプレイの中のキャラクタをルートと命名した。
これで完成だ。
全てに誤りがないかもう一度確認して完了ボタンを押すと、画面の中のルートが何故かクルクルと回りながら光の渦の中に消えていき、プロローグ画面になった。
舞台はイルヴィス王国。
光の神を奉るその国を滅ぼそうと闇の魔王がモンスターを送り込んできているという設定らしい。
参加者はその国お抱えの兵で、ミッションをクリアするごとにより重要なミッションを任せられ、最終的に魔王退治を命じられるということだ。
まずはレベル上げ、そしてミッションを着々とこなし、最終的には魔王を目指さねば。
プロローグが終わると、俺のキャラクタ、ルートは街の広場にたたずんでいた。
「おう、ルッツ、お前それすげえな。本当にそっくりに作りやがってww
とりあえずパーティ組むぞ、パーティ」
と、そこで即表示される
《ギルにパーティに誘われています。入りますか?Y/N》
のメッセージ。
もちろんここで断る理由など何もないので俺がYを選択すると、体力を示す自分のHPバーの下にギルという名前とHPバーが表示される。
どうやら兄はギルとつけたらしい。
こうして俺達兄弟は、無事揃ってイルヴィスの世界に降り立った。
これから魔王退治…そしてイルヴィスの治安の強化のため邁進する所存だ。
ベルセルク、ルート、いざ参る!
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