つわものたちの夢の跡(27日目)
とりあえず…エンディングを見てアントーニョがまずしたのは24時間フリーダイヤルの主催への電話。
内容は自分の迎えはアーサーの家に来てほしいということ。
「別に一晩くらい一人でも大丈夫だから」
と、さすがに言うアーサーだが
「万が一があったら嫌やもん!明日迎えが来た時にあーちゃんに何かあったら俺三葉商事に爆弾でもしかけなあかんくなるし…」
とアントーニョは断固として譲らない。
まあ…これがあながち冗談ともいえないのが怖いところだが……
ギルベルトはエンディング後、PCに向かって資料作成だ。
“俺様の俺様によるフランのための注意事項”
と銘打った書類には、1億受けとったあとの税金関係から、よくある詐欺、起こりうる身の危険を避ける術まで事細かに記載されている。
自分の事でなくても、マメな男だ。
当事者のフランはというと、旅行サイトを物色中である。
「今から海外は無理だから…温泉で豪遊かねぇ…」
鼻歌まじりに旅館をサーチする。
オンラインゲームが届いて以来毎日ネットでは一緒だった分、リアルで会う機会がなかった悪友二人と、どうやらその悪友二人がずいぶんと惚れ込んだらしい自分だけネットでしか会ったことのなかったアーサーと4人で豪遊旅行したら楽しそうだ。
どうせ4人で取った賞金だし、思い切り使ってあとは寄付でもすればいい。
まあ…一応スポンサー特権で二人部屋とかだったらアーサーと同室にさせてもらおうかな…などと命知らずな妄想にふけって夜があけていった。
アーサーとアントーニョに知らされた迎えの予定時間は11時。
そして時間ぴったりにハイヤーがスッと自宅前に止まった。
「三葉商事からお迎えに上がりました。」
と、背広の男がお辞儀をして後部座席のドアを開ける。
そこにはすでにギルが乗ってて、二人の姿を見ると
「よぉ!」
と手を振った。
そのまま車は都心の某有名ホテルに入って行く。
背広の男に案内されてそのままエレベータで上に上がり、主催が用意してる広間についた。
中に入ると一番奥に壇上があって、広間の中央には丸テーブル。
それをグルっと囲む様に、食べきれないほどのごちそうの乗ったテーブルが並んでいる。
3人は一番乗りのようで、主催の会社の人間以外には誰もいない。
「中央テーブルにかけてお待ち下さい。」
と、背広の男はうやうやしくお辞儀をして下がって行った。
こうして待つ事10分。
広間のドアが開いて見慣れた顔が入ってくる。
妙に豪華なホテルにマッチした優雅な所作で、フランシスはまっすぐアーサーの前にくるとふわっと微笑んで優雅に一礼した。
「ネット以外でははじめましてだね?アーサー?」
女性なら一目でおちるようなとろけるような笑みのままぽか~んと立ち尽くすアーサーの手を取って口づけようとしたが、手に近付けた顔にアントーニョの膝がヒットする。
「ちょ、トーニョ、何すんの?!お兄さんの麗しい顔がゆがんだらどうすんのよ?!」
としたたかに打ったらしい鼻を押さえながら涙目で訴えるフランシスにアントーニョは絶対零度な笑みで
「遺体判別できんくなって好都合やんなぁ?」
と返し、フランシスはとっさにギルベルトの後ろに隠れる。
「やだ、何この子怖いっ?!」
と涙目なフランシスに
「あのな…俺様も殺し合いする覚悟ないならちょっかいかけるなって言われてるからな?覚悟ないならやめておけ」
と、ギルベルトはため息をついた。
そんな二人のやりとりを放置で、アントーニョは
「あーちゃん、疲れるやろ。アホは放っておいてええから座り?」
とにこやかに椅子を引いてやる。
「ああ、ありがとう。」
と、少し照れたように頬を染めるアーサーを遠目にフランシスは
「可愛いね…トーニョがついていなければ…」
とがっくりと肩を落とした。
「ほんとは旅行誘おうと思ったんだけど…」
「やめとけ。トーニョに殺されるぞ?」
「いや、4人でさ、賞金で豪遊しちゃおうかと…で、余ったら寄付とか?」
フランの発言にギルベルトは複雑な表情を見せる。
1億ってどれだけの金額だと思っているんだ。
悪気はない無欲な男だと思う…が、色々考えなしだ…。
「これ…読んどけ」
と、昨日まとめた資料を手渡す。
「何これ?」
ぺらぺらとそれをめくって、やがて青くなるフランシス。
「やだ、何?お兄さんまた命の危険?!」
「いや…だから気をつける部分気をつければ…」
「いやぁぁあああ~~!!」
今回は散々怖い思いをしたフランシスのトラウマをつついたらしい。
「ね、ギルちゃん、ギルちゃんがもらうってことでどう??」
「いや…魔王倒したのフランだし…。だから不用意な事しなければ…」
「あ、トーニョっ!お前どうよ?!1億よ?どう?!」
「え~。要らんわぁ。これからあーちゃんとラブラブ生活送らないかんのに、命の危険にさらされとうないやん?俺ら昨日言っとったんよ。下手に1億取ったって事が何かの記事にでもされて表沙汰になったら今度はゲームの参加者やなくて、不特定多数から命狙われたりしそうやし、俺らやなくて良かったなぁて。」
と、悪意があるのかないのかわからないが、にこやかに言うアントーニョに、フランシスは頭を抱えてしゃがみこんだ。
そんなやりとりを交わしていると、いきなりピカッっとフラッシュがたかれて、アーサー、アントーニョ、ギルベルトの3人はまぶしさに目を細め、フランシスは恐怖に悲鳴をあげた。
「失礼します。私、こういうものです」
と、いきなりアーサーの前にたたずんで名刺を差し出す黒髪の少年。
「あ…ご丁寧に?」
アーサーは反射的に両手でそれを受け取ると、
「ホンダ……キク?」
と不思議そうに少年を見上げた。
少年は名前を呼ばれて嬉しそうに、はい、と笑みを浮かべた後、
「ゲーム内ではヨイチというアーチャーを使用してました」
と、自己紹介をする。
「ヨイチ…?」
物静かな印象のキク。誰とも接触を持たずひっそりと狩りをしていたらしいヨイチだと言われれば、なるほど、と思う。
「大変ずうずうしいとは思うのですが、実はアーサーさんにお願いがあって…」
にこりと綺麗な笑みを浮かべるキクに、アーサーも釣られて笑みを浮かべた。
「実は…ですね、私趣味で小説を書いておりまして…ぜひ今回の出来事も文章に残したいと思って、このゲームに参加させていただいたんです。それで時折拝見するアーサーさんのパーティーについての記述もあるのですが、正確を期するために差し支えなければ今後、お時間を頂いてお話を伺えればと…」
思わぬ申し出にポカーンとするアーサー。
しかしそう言われてみれば、客観的に状況を把握するためにあえて他との接触をさけたのかなとも思う。
誠意と誠実…そんな空気を漂わせた物静かなキクの雰囲気に、アーサーは好意を持った。
「ああ、俺でよければ…。もしよければ他にも紹介しようか?」
アーサーが申し出ると、キクがふわりと嬉しそうにほほ笑む。
「よろしいですか?私はどうも口下手で、面識のない方にお声をかけるのにとても勇気がいるので」
と、少しうつむき加減に言う内気な様子が、非常に好感が持てる。
「できれば今アーサーさんが一番仲の良い方をご紹介頂ければ…本当に図々しいお願いなのですが」
「いや、構わない。」
遠慮がちに言うキクに気を使わせたら可哀想だとアーサーは笑顔で答える。
そしてちらりとアントーニョに目を向けると、ちょうど“偶然に”視線があったアントーニョが
「なん?」
と、笑顔で寄ってきた。
若干焦ったように急ぎ足で寄ってきたように見えたのはきっと気のせいだ。
「キク、こちらトーニョだ。ゲームではベルセルクだった」
「ええ。存じております。アーサーさんとは特別仲がおよろしい方ですよね?」
にこやかに応じるキクに、アントーニョは
「そうやでっ。いつもどっちかの家で隣でインしてたんや」
と、アーサーの肩を抱く。
『アンアサktkr』とキクの口から何か呪文のような言葉が出た気がするが、おそらく文章を書く上での用語か何かなのだろうと、アーサーはそのままスルーした。
「ぜひ近々その仲のよろしいところをお聞かせいただければ…。ああ、アントーニョさんも、こちら私の連絡先です。お二人でぜひ一緒にお話をお願いします。」
とアントーニョにも名刺を差し出した。
「歓談中ごめんなさいね。私もご一緒して良いかしら?」
3人で話してる中、この会場内でどうやら紅一点の少女が駆け寄ってきた。
背はすらりと高いが出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでて、薄茶の長い髪には花の髪飾りをさしている、スタイルの良い綺麗な少女だ。
「どうぞ」
と、アーサーが立ち上がって椅子を引くと
「ありがとう。」
と、少女はにっこりと笑みを浮かべて礼を言って座った。
その間アントーニョは複雑な顔をしていたが、アーサーがどういたしまして、と、にこやかに応えて自分も席に着くと、口を開いた。
「バットマン、ショウ、メグ、エドガー、アゾットが殺されてて、イヴが逮捕やろ。ヨイチがここにおって俺ら抜かすと…この子ってオスカーって事になるんちゃう?」
ひっ…とその名を聞いて、アーサーが身を浮かせかけた。
「ええ、彼女はオスカーです。私は後半はご一緒させていただいてたんですが…色々事情があるんです。聞いて差し上げて頂けませんか?」
そこでキクがそっと両手でアーサーの手を取って、少し悲しげな眼を向けると、
「あ、ああ。そうだろうな。こんな女性が何もなくてあんな態度は…」
と、アーサーが少し落ち着いてまた椅子に座りなおす。
するとオスカー、少女はありがとう、と笑みを浮かべた。
そして、エリザベータよ、エリザって呼んでねと自己紹介をすると、話し始める。
「私でおくれてお友達作れなかったから、あの全員集合した頃とにかく怖くて…。女だってわかったらターゲットになりやすいんじゃないかと思って、男性だと思われるように頑張ってみたんだけど…」
「ああ、それであのやりとりなのか。でもあれは逆効果だと…」
「そうなの、あとでキクちゃんに聞いて青くなっちゃった」
両手を組んで胸の前でうつむくエリザに気にしないようにと声をかけるアーサーから視線を外し、アントーニョは少し離れたところでブンブン首を横に振っている…なぜか頭にこぶを作っているギルベルトにメールする。
『ギルちゃん、何愉快な事してるん?ブンブン体操?』
それだけ打ってピッと送信を押すと、ついたらしい。
ギルベルトは自分の携帯をのぞいて肩を落とした。
そしてあちらも何か打っている。
『ブンブン体操ってなんだよ?ちげえよ、愉快じゃねえよ。あのな、本人には言うなよ、また俺様殴られるから。お前らといるその女、俺の従姉妹の凶暴女。』
ほ~とアントーニョはうなづいた。
確かギルから何度か聞いた事がある。
ギルの従姉妹は実家で男の子が欲しかったという事があって男の子のように育てられ、幼稚園入園までは他人どころか本人まで自分が男だと信じていたらしい。
入園と同時に恰好は女らしくなったものの性格は変わらず…新聞紙で作った剣を振り回していたのが、少し女の子らしく?おままごとのフライパンでギルベルトを殴るようになったくらいだと、何故かふてくされた風を装いながら言うギルベルトの中になんとなく幸せそうな空気を読み取って、こいつMちゃう?とアントーニョは秘かに思ったものだ。
「やっぱり…ここは殴らせてやるのが親切っちゅーもんやろな、うん」
とメールをのぞきこむアントーニョに、
「アントーニョさん、どうしたんですか?」
と、にこりと問いかけるエリザ。
「あ~、自分ギルちゃんの従姉妹なんやって?俺の事はトーニョって呼んだって?“さん”いらんし、敬語も使わんでええよ~」
と、アントーニョは黙ってメールをエリザの前に差し出した。
にこやかなエリザの笑顔が一瞬にしてひきつる。
「少し失礼しますね♪」
と、ぎりぎり笑顔で告げて、次の瞬間エリザはどこからか出したフライパンを手にギルベルトに突進していく。
「トーニョ、お前何してくれてんだ~~!!!」
という悲鳴とともにギルベルトは会場中を逃げまどった。
そんなこんなでギルベルトがほどよく半殺しにされた頃、主催の司会らしい人物が来て、祝賀パーティーが始まった。
通り一遍の挨拶のあと、配られたジュースで乾杯。
続いて1億円の授与にはいるところで、フランシスがシュタっと手をあげた。
普段ひょうひょうとしている彼にしては珍しく真剣に…ピシっとそれこそ軍隊のように姿勢を正してまっすぐに手を挙げて宣言した。
「1億…パーティーメンバー4人で分けるべきだと思いますっ!止めをさしたのは本当に偶然俺だったわけですが、全員を守って攻撃を受けたトーニョ、一番多くのHPを削ったアーサー、そしてプリーストのギルベルトの回復魔法がなければ魔王は倒せませんでしたっ!」
…とここまではなかなか感動モノのセリフなのだが、続く
「だから魔王の呪いは全員で負うべきだと思いますっ!」
がすべてを台無しにしている。
「「お前…なぁ」」
あきれた二人の悪友の視線に、てんぱりすぎて色々わからなくなっていたフランシスはようやく自分の失言に気付いて涙目になった。
「ま、間違いっ!魔王の呪いは間違いっ!勇者の栄誉でしたっ。」
「「………」」
「だ…だってお兄さんだけ今後も殺人事件の渦中に取り残されちゃうわけ?!お前ら愛が足りなすぎでしょっ」
フルフル首を振るフランシス。
そこで経過を静かに見守っていたアーサーが、静かに手をあげた。
「そこまでするなら…犯人だった二人以外全員にしないか?亡くなったバットマン、ショウ、メグ、エドガーも含めて10人で1000万ずつ。」
「あ~、そうだな。こんな殺人事件が起こったのに賞金出してるってイメージ的にもあれだし…ゲームのテスター報酬という名目で、犯罪に関わっていた人間以外の死亡した参加者の遺族にも届けるという形にしませんか?」
アーサーの意見をギルベルトが最終的にまとめて、主催者に提案する。
主催者はちらりと後ろのつい立ての影を振り返り、何かを相談していたようだが、結論が出たらしい。
「本来の権利者のフランシス・ボヌフォア君はそれでいいのかね?」
と念のため確認を取るが、フランシスは
「はいっ!それでお願いします。ほんっと~~~にそれがいいですっ!!」
とブンブンと首を縦に振った。
こうして実に平和的に賞金が授与された後、それぞれ帰路につく中、近くのファミレスによる男女の姿が。
「あ~あ、あのパーティのプリースト、やっぱりギルだったのねぇ。警戒されるし、連絡取るの難しいかなぁ…せっかく新刊の良いネタだと思ったのに」
チッと可愛らしい要望に似合わない舌打ちをするのはエリザ。その正面にはキクが座っている。
「ご安心ください。アーサーさんとアントーニョさんのご連絡先は聞き出しておきましたから。ギルベルトさんを通さないでお話を伺えばいいんです」
という笑みは黒い。
「え?!ほんと?!!さっすがキクちゃん!良い仕事するわね~」
「ふふっ。よもやあんなところで同好の志にお会いして合同誌のお誘いいただけるとは思いませんでしたし、テンションも上がりますよ」
「私も友達みんな地方でなかなか一緒に行動できる子いなくって。キクちゃんに会えて嬉しいわ~♪これからもよろしくねっ」
「こちらこそ。フランシスさんのおかげで当分活動費には困らなくなりましたしね」
ミッション達成金のために開設した、今回の賞金も振り込まれる口座の通帳の入ったバッグにちらりと視線を落として、にこやかに言うキク。
おかげで自分たちがネタの薄い本が大量に発行されることを他が知ったら一騒動…というか、フランシスは確実にタコ殴りになりそうだが、幸い二人のほかは知る者もいない。
「まあ…こちらから意識してご連絡しなくても、あの方々にはこの先もどこかでご縁があるような気もしないではないんですけどね…」
そうつぶやくキクの言葉は、奇しくもそう遠くない将来実現することとなるのだった。
Before <<<
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