オンラインゲーム殺人事件_Anasa_第六章_2

魔王倒れる(26日目)


その日はいったん二人でアントーニョの家に着替えを取りに戻って、そのまま食材などを買ってアーサーの自宅に帰った。
そのほかはいつものように二人並んで勉強をして、夜はアントーニョの作った夕食を食べ、二人でアーサーの部屋でデスクトップとノートPCでそれぞれゲームにインする。

ギルベルトはどこからなのかはわからないが、二人がインをした時には当たり前にいつもの通り待っていて、二人をパーティーに誘った。
今日は最後に来たのはフランシスで、パーティーに入ってくるなり
『ね、昨日はお前らそろってどうしたのよ?3人そろってこないし、メール入れても返事こないし…』
と言う。

そこで全員が思い出した。

あ~、フランの存在忘れてたな…と。

それぞれなんと言おうか悩んでいると、フランシスが
『あ~そういえば昨日はアゾットとイヴちゃんも来なかったんだよねぇ。いつも仲良くこの辺で一緒にインしてくんのに。てかあの二人あの事件をきっかけに出来ちゃったりしたのかなぁ?ほぼ同時にインしてくるし…あ~お兄さんも可愛い子と知り合ってリアル隣とかでインしたいわ~』
と、続ける。

『あのな、フラン…』
最初に口を開いたのはギルベルトだ。
『アゾットとイヴな…今回の一連の事件の犯人だ。』
『え??』
『実は昨日……』

『なに?なんでお兄さんにだけ連絡ないわけ?』
ギルベルトが昨日の出来事をざ~っと説明すると、フランシスはがっくりと肩を落とした。
『フラン、ごめん』
『いや、アーサーは誘拐されてるわけだから、普通に連絡無理だから。全然悪くないよ、気にしないで』
というフランシスに続いて、
『うん。あーちゃんはかけらも悪くないで。悪いのは俺やんな』
と、珍しくフォローを入れるアントーニョにギルベルトとフランシスは一瞬感動するが、続く
『ちゃんとフラン生贄にあーちゃん救出したったら手っ取り早かったやんな?救出する手間も省けるし』
という言葉に、やっぱりこいつはそういう奴だ…と、ため息をつく。

『ま、知ってる奴は少ない方が人質の安全のためにはいいしな。トーニョと俺は居合わせちまったから。インできねえって連絡いれんの忘れてたのは悪かった』
と最終的にギルベルトが〆る。

『ま…その状況だったらしかたないよね。お兄さんいてもそういう場面だとあんま役に立てる事なさそうだしね。』
と納得し、フランシスはさらっと話題を変えた。

『そういえばさ、前に魔王ミッション敗退したじゃない?。あれからエドガーの件とかもろもろで流れてたけど、今日あたり再戦行かない?』
『お~、いいな。行ってみるか。』
『ま、ちょうどええ頃かもな』
『じゃ、俺非常時用の薬品買い足しに行ってくる』
『そうだな~、じゃ、それぞれ買い物して城の門前に集合な』
ギルベルトの一言で、それぞれ目的地に散っていく。

魔王退治のミッションは城で受けた後に教会に行く様に言われ、教会で聖痕をつけてもらう。
それがついていると城の裏にある湖から魔王の城のある世界に行けるのだ。
全員城前に集まると、裏にある湖に向かう。

『なんだかドキドキするな。今度こそ倒せるといいなっ。』
リアルで頬を紅潮させながら目を輝かせるアーサーに思わず笑みを浮かべるアントーニョ。
「あーちゃんは俺が守ったるから後ろから離れんといてな」
と、こちらはリアルで声をかけた。
そこで初めて隣の存在に気付いたかのように、さらに赤くなるアーサー。
「ゲームなんだからリアルで話すなよ」
と照れてプイっとそっぽをむくのも可愛くて、もう魔王よりこちらを攻略したいくらいだ。

『じゃ、そういう事で行くぞ!』
と、ギルベルトの合図で全員が湖に降り立った。

全員が水上に浮かぶと、水が波紋を描き、次の瞬間景色が変わる。
今までいた世界が水底に見えて、目の前に魔王の城が見えていた。

魔王の部屋への道は、前回のチャレンジでアーサーがマッピングして図解して全員にメールで回している。なので、道をきちんと把握している分、余計な戦闘が省けて魔王の間までは余裕を持ってつく。
広間にはいると即イベント&戦闘になるので、その前にそれぞれ作戦と持物を確認。
万全を期してドアを開けた。

入ってイベントが終わると即ギルが全員に防御UPの魔法を唱え、フランが命中率UPと防御UPの歌をアントーニョにかけてアントーニョは魔王に向かう。
魔王と雑魚敵3匹がアントーニョに襲いかかるが、それを放置でフランは続いてギルとアーサーのために魔力自動回復の歌をかけ、ギルベルトは即アントーニョのもとへ。
歌は2曲までしかかけられないので、これでアントーニョは命中率&防御、ギルベルトは防御&魔力自動回復がかかっていることになる。
さらにフランはもう1曲、アーサーに攻撃魔法UPの歌をかける。
これでアーサーには魔力自動回復と攻撃魔法UPがかかり、アーサーも魔法の攻撃範囲内へと走って行った。
そして最後にフランは自分のために攻撃力UPと命中率UPの歌をかけて、最後に敵に向かっていった。

最初にアントーニョが魔王を殴ってタゲをひきつけ、雑魚はアーサーが魔法で一掃し、しばらく待機。アントーニョが殴りである程度ヘイト稼いだ頃に、タゲを取らない程度に魔法で削りの補助をする。
ギルはひたすら回復し、フランは殴りつつ雑魚が再生した時のタゲ取りと効果時間が切れそうになった時に歌のかけなおしといった感じで戦闘を進めていく。

『あと30秒で雑魚がまた沸くぞ』
雑魚の再生時間を測っていたギルがそう告げた時、ちょうどフランは歌の最中だった。
1曲歌うのに約30秒、2曲で1分。
今必要な分を歌い終わるにはあと40秒ほどかかりそうだな、と、フランは
『じゃ、とりあえず10秒だけトーニョ、タゲ取りよろしく。』
と、ギルとアーサーのための歌を歌いながら言う。
『ちゃんと再生時間考えて歌わんかいっ』
と文句を言いつつも、再生した雑魚が向かう先はおそらく雑魚を倒したアーサーなので、アントーニョはおとなしく魔王を引き連れながらもアーサーの側の後衛側に走った。
『ちょおここで殴っとるさかい、万が一タゲ向いたら取り返せへんし、あーちゃんは攻撃控えてや』
と、注意をうながしつつ、魔王を殴るのをやめて雑魚の再生を待つ。

やがて雑魚が再生したのでアントーニョがとりあえず急いで全部順番に殴っていく。
ギルはアントーニョがタゲを取りきるまで雑魚がアーサーに向かうので、防御力の低いアーサーの回復に専念する。

そうして全部の雑魚のタゲを取ったアントーニョが再び魔王も引き連れて、後衛にとばっちりの行かない少し離れたあたりまで戻った頃に歌い終わったフランシスが同じく前衛の位置に向かいつつ、後ろからプスプスとサーベルでつついていた…その瞬間!!!
ピカ~っと光を放って魔王の身体が霧散した。
え??えええ????
なんだかめでたそうな音楽がなっている!コングラッチュエーションだ!
どうやら…フランシスのプスっと刺した一撃…というより一針と言った方が良いかもしれない攻撃が最後のとどめになったらしい。

呆然とディスプレイを眺める4人をよそに、なんだか魔王を倒した祝いみたいな画面が流れて、ストーリーが進んで行く。
そして有無を言わせず終了画面。
めでたそうに平和が戻った事を喜ぶお城の面々の画面のまま、テロップが流れた。

『魔王討伐お疲れさまでした。
今回参加して頂いた皆様には当企業の側でささやかながら祝宴と粗品をご用意しております。
また、その場で一億円の授与式も予定しております。
明日午前中、それぞれのご自宅にお迎えにあがりますのでご自宅前でお待ち下さい。
なお、お迎えに上がる時間には多少差がございますので、別個メールにてお知らせいたします。』

なんだかあっけない終了宣言だ。

「なんやこれ…ほとんど削ってへんのに、フランが魔王倒した事になるんかい」
リアルで少し不満げなアントーニョ。
しかしアーサーは真面目な顔で
「う~ん…でも1億取ったって事が何かの記事にでもされて表沙汰になれば、今度はゲームの参加者じゃなく、不特定多数から命狙われたりしそうだしな…。下手に取らない方が安全で良い気がするな。」
と、すっかり他人事発言をすると、
「あ~、それもそうやな。ミッション達成金だけで100万近くになるし、それで十分か。まあそう考えれば俺らやなくて、取ったのフランで良かったわ。またあーちゃんが狙われたりしたら、ほんま生きた心地せえへんし」
と、アントーニョがまた薄情な事をつぶやいた。


Before <<<      >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿