第4の殺人(24日目)
「エドガーが言う事…本当やと思う?ギルちゃん」
ノートPCを部屋に持ち込んだギルベルトも加えて、アントーニョの部屋に3人。
一人自宅のフランを放置でリアル会話を交わすアントーニョ。
「ん~、わかんねえなぁ…。何を根拠にそいつが犯人て思ったのか言ってねえし。とりあえず今日はでかけねえでエドガー待ちだな。」
「せやなぁ。それまでギルちゃん廊下出とる?エドガー来たら呼んだるから。」
「お前なぁっ」
「やって…俺デスクトップやねんもん。机のパソコンに向かってギルちゃんから目ぇ放しとると、ギルちゃんがあーちゃんに何かしたら困るやん?俺心配すぎて集中できへんやん」
「もしかして俺喧嘩売られてるのか」
「よぉわかったなぁ」
ガタっと椅子から立ち上がるアントーニョと床から立ち上がるギルベルト。
そんな二人を放置でアーサーはPCに向かっている。
画面の中には放置された二人のキャラに一生懸命話しかけているフラン。
二人が離席中だと言う事は当然知らない。
ぬけがらに一生懸命話しかけているフランに少し寂しい気分になったアーサーは
『フラン、二人は離席中だ』
と、教えてやる。
『一人で寂しいよな…。ごめんな』
よくはわからないが、いつも3人でいるらしいトーニョ、ギル、フランが、今日フランだけハブられているのは、どうやら自分のせいらしい。
自分はにぎやかな中にいて楽しいのだが、いつも一人の自分以上に、普段は友人に囲まれているフランは寂しいだろう。
そう思ってついでに謝っておく。
『ああ、離席なのね。了解。あと、アーサーが謝らないといけない事じゃないよ。あの馬鹿どもが面白がってるだけだから。ていうか、アーサー放置であの二人何してんの?』
『…じゃれてる?軽く殴り合ってるように見えるけど、きっかけが馬鹿らしい事だから冗談なんだと思う』
アーサーは開け放たれたドアからチラリと廊下に目をやる。
喧嘩…しているように見えなくはないが、きっかけがトーニョが言った、ギルが自分に変なちょっかいかけるから…という事なら冗談の延長線上のじゃれあいなのだろう。
『あ~、もうあいつらしかたねえなぁ。いつもの事だから気にしないでいいよ。アーサー。』
状況がわからないフランシスはその言葉をあっさり信じた。
トーニョは割合と直情型で自分達相手だとその馬鹿らしい事でも簡単に手が出る。
ギルは自分からは手は出さないが、売られたケンカは買うタイプだ。
これが一緒にいるのがフランなら売られたケンカは受け流して逃げるところなのだが…。
『ああ、でもお兄さんわかっちゃったなぁ…』
リアルでフランはくすりと笑った。
『なにが?』
『アーサーってさ、可愛いよね』
『はあ??』
『さっきさ、俺が一人でいることで少し自分も共感して落ち込んだりしちゃったでしょ?』
…見抜かれている。
全く正しいかは別にして落ち込んだのは事実だ。
一人は寂しい…それは常々アーサーが感じていた事で、今その状況に誰かがおかれているというと、なんとなく他人事のように思えない。
『最近の子ってさ、そういう優しくてウェットな子少ないからさ…なんか良いよね。可愛いっていうか癒されるっていうかさ、お兄さんそういう子好きだなぁ…。ね、今日エドガーが来て犯人捕まったらさ、本当にお兄さんと一度二人ででかけない?』
たぶん…というか絶対に同じ年だよな?同じ年でお兄さんてなんだ?とかいうあたりもつっこみたいところだが…とりあえず何か勘違いされてる気がする部分を訂正しておく。
『あのな…盛り上がってるとこ悪いんだけど…俺何度も言うけど男だぞ?』
女の子ならときめくところだろうが、男が男に言う言葉じゃないだろうと、そこのところに突っ込みをいれたわけだが…
『うん。わかってるけど?』
と、フランからあっさり返ってくる。
あまりに当たり前に返されて、自分がおかしいんだろうか…と、アーサーはそれでもおそるおそる言ってみる。
『お前さ…トーニョやギルにもそんな言い方してんのか?なんか女口説いてるみたいに聞こえる。』
『うん。口説いてるんだけど?…トーニョやギルにはこんな言い方しないって。アーサーだからだよ?』
ピキン!とアーサーは固まった。
え?ええ??
リアルと同じく固まるゲーム上のアーサーのキャラにチュッとキスするフランのキャラ。
「うぁああ~~っ!!!」
鳥肌がブワァ~っと鳥肌がたった。
ペタンと座ったまま後ろに後ずさるアーサー。
「どうしたん(だ)!!!」
開いたドアからトーニョとギルが駆け込んでくる。
「な…なんでもない…」
男に口説かれて動揺したなんて恥ずかしくて言えないと思っていると、トーニョとギルは有無を言わせずアーサーのPCを覗き込んだ。
そして…二人揃って無言で自分のPCに飛びつく。
『『死ねっ!!!!』』
二人揃って同じ言葉をフランに投げつけた。
『なんなのよ、お前達二人で仲良く喧嘩してたんじゃないのっ?!』
『仲良うないわっ!!でもちょっと目ぇ放した隙に油断も隙もあらへんわっ!』
『そうだっ!何どさくさにまぎれて漁夫の利狙ってんだよっ!』
「「とりあえず休戦だ(や)なっ!」」
と、リアルで声を揃える二人。
「アーサー、騙されんなよ?あいつは俺らん中で一番たらしだからなっ」
「しかもめっちゃコロコロ相手変えてんねんで」
二人に詰め寄られて、目を白黒させるアーサー。
「あのな…お前ら全員おかしいと思うんだ。」
「こいつらと一緒にしないでくれ」
「こいつらと一緒にせんといて」
と、答える言葉もいっしょなわけだが…
「とりあえず…なんか3人とも何か忘れてるようだから指摘しとく。俺は男だ」
「「だから?」」
と返されて、アーサーは返す言葉を失った。
意味がわからない…。
自分が今までプライベートな交友関係をあまり持ってこなかっただけで、普通はこんな感じなのだろうか…。
普通にジョークのネタにされている?
固まるアーサーにいち早く気付いたのはアントーニョの方だった。
とりあえず自分もアーサーの隣にペタリと座り込むと、ジッとアーサーの顔を覗き込んだ。
「あんな、俺、結構誰にでも人当たりええ言われてるけど、実は気にいる人間てそんなにおらんのや。で、たま~にめっちゃ気にいった人間とかできると構いたくなるねん。からかってるとかとちゃうで?上手い事言えんけど…アーサーの事は特別気にいったんや。せやから特別に心配もするし、アーサーの特別にもなりたいねん。 あかん?」
いつも元気なイメージのアントーニョがへにゃりと少し困ったような笑みを浮かべて問いかけてくる。
アーサーは好意を面と向かってぶつけられるのには慣れていないし、何よりも照れくさい。
まっすぐ視線を合わせてくる自分より少し濃い深緑の瞳から視線を外して、
「…別に…悪くはないけど」
と、答えるのがアーサーの精一杯だ。
「そっかっ。じゃ、俺が一番の特別やなっ。嬉しいわぁ~」
ぱ~っと太陽のような笑みが広がる。
そのアントーニョの頭に上からゴツン!とげんこつが落とされた。
「お前…休戦とか言っといて何一人で抜け駆けしてんだよ」
「いややなぁ…別に抜け駆けとかとちゃうで?アーサーかていきなり全員にワラワラ言われたら不安になるやん。まだ俺らに慣れてへんのに。」
「あ~…それはそうだけどよ…」
「せやろ?やから、ちょぉギルちゃん黙っといてくれへん?混乱させたら可哀想やん」
「しかたねえなぁ…」
ギルベルト・バイルシュミット…流されやすい男である。
結局そのあたりをうやむやにされたまま、半ば強引にアントーニョとPCをチェンジさせられたギルベルトはそのままアントーニョの机のデスクトップからゲームにインしなおす。
アントーニョの方は同じくアーサーの隣に座ってギルベルトのノートPCからゲームにつなぎなおした。
そのまま雑談しながら待つ事2時間ほど。
『…来ないな……』
アーサーがつぶやくのに、同意する3人。
結局そのまま0時がすぎる。
「どうしたんやろうなぁ…」
とつぶやくアントーニョの机に座ったギルは黙ってそのままPCに向かって何事かし始める。
「…やっぱりか……」
やがて何かを見つけたのか、ギルベルトはテレビのリモコンを取ると、ニュースを付けた。
そこでは高校生死亡のニュース…。
ニュース速報で高校生がまた殺されてる。芳賀耕助…エドガーだ。
「これって……」
さすがに青くなるアーサーをアントーニョが
「大丈夫やで。あーちゃんは俺が守ったるから」
と抱き寄せる。
「お~ま~え~は~~~!!!!」
ガタっと椅子から立ち上がるギルベルトに、アントーニョは
「せやから大声出さんときっ。あーちゃんびっくりするやんっ。ほんまギルちゃん無神経やわっ」
と、アーサーを抱きかかえたまま言う。
「わ、悪い…」
と、そこでつい謝ってしまうのがギルベルトだ。
当のアーサーはと言うと…硬直していた。
物ごころついてから、こんなに近くで他人を感じたのは初めてだ。
自分より少し高い体温…汗と…土と太陽の匂い。
頭を抱え込まれて押し付けられるように触れている健康的に日焼けした褐色の胸からはトクントクンと心臓の音が聞こえる。
青かった顔が一気に赤くなった。
どうしていいかわからない。
緊張しすぎたのかクラクラしてきた。
「お、おいっ!トーニョ、抱きつぶしてるっ!力緩めろっ!!」
慌てるギルベルトの声が遠くに聞こえる気がする。
それでも抱え込む手の力は緩む事はなく、ただ少しだけ身体が上に引き寄せられた。
そして額に柔らかな感触。
それが何かを想像した瞬間、アーサーは完全に意識を手放した。
「あ…気ぃ失ってしもた……。」
「失ってしもたじゃねえよ、お前何してんだよ」
「ん~ハグ&キス?」
「…この馬鹿力が…………」
無言で呆れた視線を送るギルベルトを完全にスルーして、アントーニョは腕の中で力を失っているアーサーを見降ろした。
ただ抱きしめただけだ…。
これくらい距離を縮める事はアントーニョにとっては珍しくはない。
ギルやフラン相手にだって抱きしめるという感じではないが、ヘッドロックをかましたりヘッドロックをかましたり、ヘッドロックをかましたり……とにかく悪ふざけの一環で距離を近くする事はある。
妹のベルにだって最近は、はいはい、とあしらわれたりもするが、普通にハグはするし、年下の幼馴染フェリシアーノは向こうからも今だ普通にハグしてくる。
ロヴィーノは…昔から照れやなので、嫌がるそぶりはするものの、それでも本気でこばみはしない。
アーサーは…と考えたとたん、アントーニョは柄にもなく無言で赤くなった。
人慣れないところがあるのは知っていたが…
(あれはあかんやろ……)
と、心の中でつぶやく。
半分ふざけて軽い気持ちで抱きよせたのだが…腕の中で真っ赤になって硬直されて、こちらまで赤くなってしまった。
大きな瞳を潤ませて手の中で緊張してふるえている様子に、何かが崩れ落ちた。
背に回したままの手で引き寄せて見ると、抵抗もできないまま簡単に引き寄せられてしまう頼りない身体…。
かろうじて唇を寄せるのを唇じゃなく額にしたのは、なけなしの理性の賜物だ。
「ギルちゃん…」
「ん?」
「もう認めるわ…」
「何を?」
「俺…フランと同じ趣味かもしれへん。」
「は?」
「冗談とかノリやのうて、結構本気でアーサーの事好きや。もう性別はおいとこと思うわ」
今まで認めてないつもりだったのか…と突っ込みたいところだが、ギルベルトは空気を読んで口をつぐんだ。
「せやから…殺し合うくらいの覚悟ないんやったらアーサーに下手にちょっかいかけるのやめたって。」
いや…そのセリフ、この状況だと洒落にならんから…と突っ込みたいところだが、こいつの場合洒落じゃない気がする…と、これも心の中でのみつぶやくギルベルト。
「今非常時だからな?俺様は仲間は守ろうと思うし世話も焼くぞ?アーサーにしたって自分一人他と違って妙に距離取られたら傷つくだろうしな。そのあたりは折り合いつけろよ?」
多少いいなと思っても、こういう展開になるとそういう風な方向に譲ってしまうのがギルベルトのギルベルトたる所以だ。
アントーニョもそれはわかっている。
「出来る限り我慢はするわ」
と渋々了承した。
とりあえずアントーニョはそのままアーサーをひょいっと抱き上げるとベッドに寝かせて、改めてギルベルトを振り返った。
「これ…同じ犯人やろ?」
「ああ。」
「ギルちゃん、犯人のめどついとるん?」
「アゾット一択だな」
「へ?なんで??」
断言するギルベルトにアントーニョは目を丸くした。
「ん~~」
ギルベルトは勉強机の椅子の背もたれに顎を乗せ、アントーニョに視線を向ける。
「メールの内容な…覚えてるか?犯人は誰かと一緒に行動してるって言ってただろ。俺達の他に固定パーティで行動してるのはアゾットとイヴだけだ。」
「ああ、せやったな。でもなんでアゾットの方なん?」
「ん。エドガーは犯人と一緒にいる奴に忠告しに行くって言って殺されただろ。
つまりエドガーが犯人と一緒にいる第三者だと思ってる奴=犯人て仮説が成り立つ。
そういう意味で言うと、エドガーはイヴの事は疑ってたから、善意の第三者だとは思わねえだろ」
「なるほど~。ギルちゃんめっちゃ頭ええなぁ」
「普通に考えりゃわかる範囲の事だろ。少しは頭使えよ」
「ん~。使っとるよ~。ただ一人寂しいギルちゃんと違って、俺はあーちゃんの事考えなならんから、他に使える容量少ないねん」
「………」
悪びれないアントーニョに内心ため息をつくギルベルト。
「とりあえず…フランにもメールしとくぞ。そういう方向で気をつけろって」
「そやな。フランがいっちゃん次の死体に近い男やしなぁ」
と、これも当たり前に言うアントーニョに、ギルベルトはこれも内心ひそかにフランに同情した。
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