オンラインゲーム殺人事件_Anasa_第二章_5

なりすましメール(12日目)


昼…アントーニョは何故かアーサーの家のキッチンで昼食を作っていた。
きっかけは昨日の手土産のトマト。


「これ…このまま洗って食べれば良いんだよな?量多いからホントは料理でもできれば良いんだけど」
と、言うアーサーに食生活を聞いてみれば、ご立派な大きな冷蔵庫の冷凍庫部分にずら~っと詰め込まれているレンジでできるプレートの山。
毎日これのバリエーションだと聞いて、アントーニョは夜はゲームのため自宅に帰らないとならないので、これからアーサーの家に来ている日の昼は自分が作ると主張した。

幸い、仕事で忙しい両親の元育ったアントーニョ兄妹は、どちらも普通に料理はできる。
昨日は昼すぎからだったのだが昼食をはさめば朝から一緒にいられるし、勉強を教えてもらうどころか、場所まで提供してもらっている礼にもなるので一石二鳥だ。

朝来て一番にカレーを煮込んでおいたので、あとは簡単にトマトとモツァレラのサラダ。
飾りつけのためのオレンジの皮をクルクル向いていると、
「すごいなっ、トーニョ、シェフみたいだ」
と、物珍しげにその様子を見ていたアーサーが子供のような歓声をあげる。

「うちも親仕事忙しかったから自炊歴長いだけやで。自分の方が頭ええし、すごいやん」
アントーニョが薄皮に添って切ったオレンジをサラダの皿に並べながらそう返すと、アーサーは
「それこそ、家に誰もいねえから他人より長く勉強してただけだから」
と言った。

「お待たせ~」
と、カレーの皿とサラダ、スープを並べる。

それだけで目を輝かせるアーサーに
「なんなら今度ケーキでも焼いたろか?」
とアントーニョが思わず言うと、
「いいのかっ?!」
とはずんだ声で言われて、餌付けしたくなった。

そんな和やかな空気の中、またピコンピコンTVのニュースの速報がなる。
また誰かが殺されたらしい。
赤坂めぐみ…まさかメグか?
アントーニョとアーサーはさすがに顔を見合わせた。

しかしアントーニョ的には最初の一件こそマジかと思ったのだが、これだけ続くとなんだかかえって現実感がない。
殺人現場みたわけでも遺体みたわけでもなし、普通の日常を考えるとこれだけ短期間に3人とか死んでいるともうネタなんじゃないだろうかと疑ってみたくもなる。

まあ、悪友達はそれぞれ男だとわかっているし、アーサーも今こうして目の前にいるので、これが本当にあのメグだとしても他人事確定なわけだが…

リアル明かさず呼び出されず。リアル周りに今回のゲームの参加者だと言う事ももらさない。
これで魔王倒されるの待つのが一番安全。
そうしてればとりあえず殺されるとかいう事態に陥る事ないだろう。


今まで殺されてるのはウォーリアーのバットマンにベルセルクのショウにエンチャのメグ。
最後のメグだけは巻き込まれの可能性が高いが、あとの二人は火力ある…ということは魔王倒せる可能性があるジョブだ。

逆説的に考えると次危険なのはエドガー、イヴ、オスカー、ヨイチ、そして…自分とアーサー。
同時に賞金1億が原因だとすると、アーサーは1億狙っているのならあの時アントーニョ達を助けてそのまま色々教えて構ってたりしてないだろうし、犯人はその中で自分とアーサーをのぞいた誰か。

とりあえずあとの4人は要注意だ。

その日もその後は二人して勉強をして夕方にアントーニョが軽くサラダとフルーツゼリーを作り、
「カレー温めて食べてな」
と、言い置いて帰って行く。

そして夜…いつものようにインをするとやはり待っているギルベルト。
そのギルベルトに誘われてパーティーへ入る。
そうこうしているうちにアーサーもインしてきてパーティーへ。
最後にフランシスがパーティーに入って来た。

しかし、パーティーに入るなり、いきなりフランシスが言う。
『アーサー、身体もう大丈夫?無理しないで休んでた方が良くない?』
へ?
その言葉に、アントーニョはぴきっとリアルで青筋をたてた。
そのままの勢いで机の上の携帯を取るとアーサーに電話をかける。

「あーちゃん、どういうこと?フランにも会っとるん?」
電話が通じるなり相手も確認せずそう詰め寄るアントーニョ。
その勢いに押されながらもアーサーは
『し、知らねえよ。さっきまでお前一緒にいたじゃん。』
と、答えた。


『一体なんのことだ?』
ゲーム内でフランシスにパーティ会話で聞くアーサーに、フランシスから
(あ、ごめん。他には内緒だったんだよね。でも今日はホント寝ておけば?レベル差つくの嫌ならレベル上げ行かないで金策でもしようって言っておくからさ)
とウィスが来た。

それを電話でアントーニョに告げるアーサー。
同時にゲーム内では
(言っている意味が全くわからないんだが?内緒って何がだ?人違いじゃないか?)
とフランシスにウィス、
『なんでそういう話になっているのかわからないんだが?』
とパーティ会話でそれぞれ言う。

そこでどうも様子がおかしいと察したギルベルトが
『…おい…フラン、どうなってるんだ?全部話せ』
と、うながした。

(え~っと、話しちゃっていい?)
とまたフランシスからアーサーへウィス。
そう言われてもアーサーも何が起こっているのかわからない。
(ああ、どうなってるのか俺にもわからない。話してくれ)
と返した。

そこでフランシスが話し始める。
『今朝さ、俺んとこにアーサーからメールきたのよ。みんなリア友だっていうから、自分だけ誰も知らないから寂しいし会ってみたいって。で、お兄さんもまあなんていうか…それもそうだよねって思っちゃったのね。でも約束の時間12時を10分ほど過ぎた頃に体調崩しちゃったからキャンセルさせてくれってメールもらったんだけど?』


「アーサー…送ってへんやんな?」
昼前後はずっとキッチンでアントーニョが昼食を作るのを眺めていたアーサーが、メールを送れるはずもない。
『ああ。送ってねえ。つか一緒にいただろ』
「そうやんなぁ…」
二人で携帯でそんなやりとりを交わし、オンライン上ではアーサーが

『俺…メールなんて送ってないんだが?』
とパーティー会話で言う。

『双方証拠は?』
どちらかが嘘を言っている事になる。
普通に考えればフランシスがそんな嘘をつく必要もないはずだが、と、思いつつも、ギルベルトは公平に双方に尋ねた。

『俺は…送られてきたメール残ってるから今度見せても良いけど?』
とフランシス。

一方アーサーは言葉がでない。
“送った”と証明するのは送られた物を見せれば良いので簡単だが、“送ってない”ということを証明するのは難しい。
しかも…彼らはリア友でネット上だけのつきあいの自分とは信用度が違う。
じわりと目が潤み始めた時、パーティーにまた文字が流れた。

『あーちゃん、今日朝9時から17時までずっと俺と一緒やったし、昼の前後は二人でキッチンいて飯作って食ってってやっとってPCはもちろん携帯もいじってへんから、メール送れへんよ』
『へ??』
ぽかんとするギルベルトとフランシス。


アーサーは携帯で
『秘密にしとくんじゃなかったのかよ?』
とアントーニョに言うが、
「ええねん。ほんまの事やし。俺が説明するさかい、あーちゃんは心配せんでええよ」
と、アントーニョは請け負った。


『おい…どっちが本当だよ?』
正直一人部外者なギルベルトは混乱している。

『俺の方。な、あーちゃん』
『ああ…。黙ってて悪い。』
『悪いって言うか…』
というギルベルトの言葉を遮ってアントーニョが始める。

『あーちゃんは悪くないねん。
俺、どうしてもあーちゃんと遊んでみたくなって、俺の方から携番聞きだして、俺の方から誘ってん。
その頃はギルちゃんあーちゃんにはリアル教えるなとか注意してへんかったし、俺は二対二に分かれたあの日に、注意せえへんかった。
で、あーちゃん連れまわして、最終的に勉強教えたってって頼みこんで、あーちゃんの家で勉強見てもろうてるねん。もちろん昨日もやで。』

ギルベルトはリアルでため息をついた。
悪友達二人とも、揃って自分の注意なんて聞く気はなかったらしい。
そう言えば、いつのまにかアントーニョのアーサーに対する呼び方があーちゃんに変わっていたな、と、今更ながら気付いた。

まあ…こっちはとりあえず置いておくとして…問題はフランシスの方だ。
アントーニョとアーサーの話はアントーニョの性格から言っても嘘ではないだろうし、そうなると、アーサーは送っていないのにアーサーのメルアドからフランシスにメールを送った奴がいると言う事になる。

『なりすましメールか…』
ギルベルトは総結論付けた。

『なりすましメール??』
フランシスは聞き慣れない言葉に首をかしげた。

『えとな…最近詐欺とかでよく使われるんだけどな…他の人間のメルアドでメールを送れる方法があるんだ。
例えば…実際は俺が送ったのに、送られた側の方にはトーニョのメルアドから送られたように表示されるみたいな感じだな。
本当のトーニョのメールを使ったわけじゃなくてあくまで偽装だから、トーニョの側のメールには送信履歴とかも残らない。』

『え~っと…つまり…』
そこで一旦言葉を切るギルベルトをうながすフランシス。
『今回で言えば…誰かわからない第三者がアーサーのアドレスを使ってアーサーになりすましてフランにメールを送ったってことだ。
で、そこで問題だ。
二人とも今回のためにメルアドを”新しく取った”という事は…二人のメルアドを知ってるのは今回メルアド交換をしたこのゲームの参加者だけって事だ。
いいか?このゲームの参加者だけって事なんだぞ?!
ここまで言えば…いくらなんでも何を言いたいのかわかるな?』

『うあああ~~~~それって…やばいんだよね?!絶対犯人だよね?!お兄さんめちゃピンチ?!』

『またなりすましが発生する可能性は充分あるからこれからは仲間3人にメール送る時、合い言葉というか本人同士しかわからない暗号みたいなものをいれる事にするぞ。
例えば…文章の3行目の終わりに必ず@いれるとか…そういうのをそれぞれ特定の相手ごとに作る。
だから…一人につき3種類な。
お互いしか知らなければ、誰かが暗号もらしてもあとの二人に被害が及ばないからな。』
フランシスの動揺をよそにギルベルトは淡々と続けた。
まあ…確かにこうなるとなりすまし対策は必要なのだが…。

とりあえず言うべき事の説明を終えてすっきりした口調でギルベルトはフランシスを振り返った。
『じゃ、成り済まし対策はこれで良いとして…終了っ。
んで、フラン…あれほど注意したんだから、よもやお前それでノコノコでかけて行ったりはしてないよな?』

とりあえずメールは全員交換してるわけだし、それが知られてること自体は問題ない。
ギルベルトの言葉にフランシスは一瞬言葉に詰まった。

『あ…あの、さ…、お兄さんてほら、優しいから?一応人通りの多い時間に人通りの多い場所だったから……人目いっぱいだったから…殺されないで良かったなって事で……あはは……次からは気をつけます……』

『行ったのかっ!この馬鹿野郎っ!!!』
ギルベルトの怒声。
『ごめんっ!』
叫ぶフランシスにギルベルトは沈黙した。

やばい…よな。殺されなかったのは幸いと言えば幸いだけど、たぶん顔見られてる。
と、ギルベルトはちょっと無言で考え込む。
そしてまた口を開いた。

『フラン、確認』
『なにっ?』
『今ちゃんと窓の鍵かかってるな?自宅のドアの鍵も。あと窓のカーテン開いてたら閉めろ。』
『らじゃっ!』
確認に行ったらしくしばらく動かなくなるフランシス。
やがて
『大丈夫だったっ』
と言って動き出すフランシスにギルベルトは、
『よしっ』
と短くうなづいたあと続けた。

『携帯は常に充電して、手元においておけ。何かあったらすぐ110番できるようにな。
あと…持ってなければ早急に防犯ベル買って来い。
買いに行く際に人通りない所通るようなら、一人で行くな。誰かについて行ってもらうか、それが無理ならタクシー使え。命には変えられねえだろ。』

『てか…当分家からでない様にするから…』
外歩いてる時に犯人と鉢合わせする可能性だってあるし、それが一番とフランシスが思ってると、ギルベルトはまた今日何度目かのため息をついた。

『お前…全然わかってないだろ…』
『え?』
『今回な、犯人がなんで状況的に殺せないのにわざわざお前を呼び出したと思う?』
『え~っと……?』
『犯人の目的は今日呼び出した場所でお前を殺す事じゃない。
待ち合わせ場所にきたお前の後を尾行してお前の身元や家を確認して、確実に殺せる時を伺いたかったんだ。』

さすがに言葉が出ないらしいフランシスにギルベルトがとどめをさす。

『要は……家にいても安全じゃない。
お前には安全地帯がなくなったってことだ』

『うああ~~~~!!!!そういう事だったのか~~!!!!
つか、マジどうするよっ!!今この瞬間だってヤバいかもじゃん!
警察っ、警察行くよっ!』
と、わたわたと慌てるフランシスをギルベルトはさらに突き落とす。
『今回の一連の殺人がこのゲームのせいだって証明できたうえで、そのメールがお前を狙っている犯人から送られたモノだって証明できない限り、警察は動いてはくれねえぞ?ただでさえ大企業が主催しているイベントだ。警察だって変に睨まれたくはねえだろうし。』
ギルベルトの言葉にフランシスはリアルで涙目だ。


『とりあえずレベル上げ行くか…』
『…へ?』
冷静にそう告げるギルベルトに、パニック起こしてるフランシスは思わずぽか~んとしてそう返す。

それに対してギルベルトはまた至極冷静に言った。
『注意すべき点は注意したし、今はこれ以上何もできないだろ。
あとできる事といったら、少しでも早くこのゲームクリアするくらいじゃないか?』

『いや…そうなんだけど……無理っ。お兄さんには無理っ!とてもじゃないけどそんな冷静に割り切れないよっ』
『無理でもやれ。ひとの忠告きかなかったお前が悪い』
ギルベルトはこれで終わりだとばかりに言いきると、先に立って歩き始めた。


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