オンラインゲーム殺人事件_Anasa_第二章_3

第二の殺人(11日目)


結局…実際のところバットマンがなんで殺されたのかなんて、確実なところはわからない。
ゲームが原因の可能性は高いが、リアルで何かやらかしてたとか通り魔とかいう可能性も0やないしなぁ…と、思いつつ、また何かあったらと、アントーニョが朝から普段見ないニュースなんてつけてみると、速報。
高校生がまた誰か殺されたとの事。

が、殺されたのは秋本翔太…今回のゲームの関係者とは限らないし、少なくとも悪友どもでもアーサーでもないので、気にしない。
一応名前だけは覚えておくか…と思いつつも席を立ち、アントーニョは時間を確認する。
殺人事件が起きようが雨が降ろうが槍が降ろうが今日はそれどころじゃない。

今日からアーサーが勉強をやる横で宿題を教えてもらう事になっているのだ。
しかも…なんとアーサーの自宅でっ!!

一昨日狩りをしながらアントーニョはアーサーとウィスで場所と時間を相談した。
元々は図書館でやろうかという話になっていたのだが、それでは話もできなくて面白くないとアントーニョが主張。
じゃあマックででもと言ったら、今度はアーサーが、夏休みで店も混んでいるだろうし、意味もなく居座ったら迷惑だと言う。

そしてアーサーからの提案。
(俺の家じゃ、やっぱりダメか?)
(ダメなわけないやん!ええの?!)
勢い込むアントーニョ。
ダメなわけない、ダメなわけない、ダメなわけない!!!
(ああ。普段家にはほとんど俺一人だから。)
その言葉にアントーニョの頭の中を色々がぐるぐる回る。
誰もいない家に二人きり?……いやいや、何考えてるんや、自分っ。
「あ~、あかんわ~。これじゃあフランの事言われへん…」
自分で自分につっこみを入れつつ、そのまま勢いで待ち合わせ時間を決めた。

そして当日…早々にニュースを消して洗濯などの家事を一通りこなす。
アントーニョの家は両親ともに仕事が忙しく帰宅が深夜になる事も多いので、基本的に自分の洗濯掃除は自分でやる事になってるのだ。
まあそうは言っても洗濯など乾燥まで自動なので洗剤と共に洗濯物を放り込むだけだが…。

そうして日課を終えると、軽く朝昼を兼ねた食事を取ってから庭に出る。
そこにはちょうど真っ赤に熟れた美味しそうなトマト。
その中でも一番つやつやと美味しそうなのを選んでもいで袋に入れた。

一応手土産だ。
本当はケーキか花でもと思ったが、ずいぶんとお育ちのよさそうなアーサーに似合いそうな高級洋菓子には馴染みがなかったし、花は一昨日会った時に庭で育てていると言っていたから、切り花を持っていくのもためらわれた。
結果…自分で育てている自慢のトマトを持って行こうと決めたのだ。

というわけでとりあえずトマトをもいだ後、小さな家庭菜園の世話をして家の中に戻り、汗と泥を落とすためにシャワーを浴びる。
そして風呂場から出て髪を乾かしていると、目の前にグイっと可愛らしくラッピングした袋がつきだされた。

「なんなん?ベル」
突き出しているのは1歳年下の妹、ベル。
目の前に立つ彼女に不思議そうな視線を向けると、ベルは眉をつりあげた。

「兄ちゃん、出来たての彼女さんの家に行くのに、手土産にトマトはあらへんわ。うちがワッフル焼いといたから、持ってき。」
何か勘違いをされているらしい。

「ベル…彼女とか、何か勘違いしてへん?友達んとこ勉強に行くだけやで?」
と、とりあえず訂正を試みるが、ベルは大きくため息をついた。
「ならなおさらやろ?まだ友達なんやったら、余計にポイント稼いでおかな。」
「いや、せやからちゃうって」

「……兄ちゃん……そんな事やから彼女できへんねん」
「………」
妹だけに容赦のない言葉だ。

「もしかして自覚もあらへんの?一昨日会った人やろ?兄ちゃん帰ってからもう思い切り浮かれ取ったで?」
「いや…せやから…」
「で、昨日からえらいそわそわしてる思うたら、朝からご機嫌で、普段は洗いっぱなしな髪にドライヤー使ったりしてるし…わかりやすすぎやわ」

…そんなにわかりやすく浮かれていたのか……。
いや、でもここは一応訂正は入れておかなければならない。

「ベル…あのな、相手男やねん」

妹がピキっと固まった。
言い方が悪かったのだろうか…。
なにかさらに大きな誤解を生んだようだ。

「兄ちゃんっ!」
ガシっと肩をつかまれる。
「な、なんですか?」
と、その勢いに思わず妹相手だと言うのに敬語になるアントーニョ。
「大丈夫やで。うち応援したるからなっ。お父ちゃんやお母ちゃんが反対しても、うちだけは兄ちゃんの味方になったるからな」
思い切り真剣な思い詰めた顔で言う妹に何も言えない…。

「お、おおきに。」
とソ~っとベルの手からラッピングしたワッフルを受け取ると、アントーニョは支度を続けた。
こうして…何故か決死隊のような顔をした妹に見送られ、アントーニョまでひどく緊張して自宅を後にする。


そして某高級住宅街。
豪邸の建ち並ぶ一角にその家はあった。
恐る恐るチャイムを鳴らす。
『はい』
とインターホンから聞こえるアーサーの声に少し安心して、それでも
「俺、トーニョやけど…」
と、心臓が口から飛び出すかと思うほど緊張して言うと、
『今開ける』
との言葉と共に門のロックが解除される。
『おじゃましま~す』
と中に入ると、綺麗に手入れされた花が咲き乱れる庭。
ドアの所まで辿り着いたとたん、ドアが開いた。

「よく来たな」
と照れたように笑う私服のアーサーに思わず見惚れ、ハッと我に返ったアントーニョは慌ててベルに持たされた袋と、トマトの袋をアーサーに手渡す。
「これ、うちで採れたトマトと、妹のベルが焼いたワッフル。お土産や」
「わざわざ、悪いな、ありがとう」
アーサーは中にアントーニョを中にうながすと、ドアを閉めて鍵をかける。

そのまま長い廊下を通って驚くほど広いリビングへ。

リビングはソファに囲まれた低いテーブルのエリアと、普通に椅子の並んだ高いテーブルのエリアに分かれていて、アーサーは
「とりあえずここでやるか。」
と、椅子の方へとアントーニョを促した。

そこにはすでにドン!と積まれた参考書の山。
仕方なく(?)アントーニョも宿題を始めた。

そうして二人してひたすら勉強に取り組む事2時間。
時折わからない所を聞くと、アーサーは自分の勉強の手を止めて丁寧に教えてくれる。
教え方も上手い。マンツーマンというのを差し引いても学校の先生の説明よりよほどわかりやすかった。

それでも根を上げたのはアントーニョの方だった。

「あ~ちゃん、ちょぃ休憩せえへん?」
鉛筆を放り投げて伸びをするアントーニョに、アーサーはふと顔を上げ
「そのあーちゃんて何だよ?」
と、少し眉を寄せる。
なんや、反応するのそっちかいな、と、少し笑いながら
「やって、俺はアントーニョでトーニョやろ?友達やったらあだ名で呼びたいやん。せやからあーちゃん。あかん?」
とアントーニョが聞くと、アーサーはうっと少し言葉に詰まって、それから
「まぁ…いいけどなっ。」
と赤くなって顔をそらす。

あ~照れてるわぁ…と微笑ましく思いながら見ていると、アーサーは立ちあがって
「休憩するならお茶淹れる」
と、キッチンへと消えていく。

やがてワゴンを押して戻ってくるアーサー。
「お持たせで悪いな」
と、立派なトレイに入れたワッフルをコトリとテーブルに置いた後、優雅な動作でこれも高級そうなティーカップに紅茶を注ぐ。
よほど高級な茶葉を使っているのだろうか…それはアントーニョがそれまで飲んだどんな紅茶よりも香り高く美味かった。

「休憩のうちに少し話そう」
美味しい紅茶とワッフルにアントーニョがなごんでいると、アーサーは一枚の紙を差し出した。

「なん?」
のぞきこむと、そこにはざ~っとキャラ名とジョブが書いてある。

「今日…秋本翔太って高校生が殺されたってニュース見たか?」
少し青い顔でアントーニョに視線を向けるアーサー。
「ああ、朝見たで。あれもこのゲームの関係者かいな?」
というアントーニョの言葉に、アーサーは紙面上をスッと指さす。
その指の先には、“ ショウ(ベルセルク)” の文字。

「あれってショウなんじゃないか?」
「言われてみれば名前似とるけど…」
「まあ…今日インしてみればわかる…かな」
アーサーは小さく息を吐き出した。

「あと個人的に気になるのがこいつかな」
と今度は“アゾット(プリースト)”を名前を指さすアーサー。

「アゾット?なんか変わった意味でもあるん?」
と、アントーニョは首をかしげる。

「ん。アゾットって名前のプリーストなのがな……」
「…?」
「短剣の名前なんだ。アゾットって。」
「そうなん?でもRPG好きでたまたま知ってる名前つけたんちゃう?」
「ん~その短剣なんだけどな、錬金術士が使ってた悪魔を封じ込めた短剣なんだ。
エクスカリバーとかファンタジー好きじゃなくても聞くような名前ならともかく、アゾットなんて名称知ってる奴はそういう意味も知ってるだろうし、なんでわざわざプリーストにそんな禍々しい名前つけるのかが、少しひっかかって…とりあえずバットマンを殺害した犯人は参加者の中にいる可能性が高いし、少しでも可能性のある者はチェックしておきたいと思って…」
「あ~、その手の事はギルちゃんにも教えたって。考えるの大好きっ子やねん」
正直…こいつが犯人と言われて張り倒しに行くのなら喜んでやるが、その手の推理はとても苦手だ。
おそらくフランシスも同類で…唯一その手の事が好きなのがギルベルトなのだ。

「まあ、あーちゃんは真面目に気を付け?俺おらんとこで他とあんま喋らん方がええで。自分結構無防備すぎやから、怖いわ」
「なんだよ、それ」
「やってなぁ…普通に最初の電話でフルネームポロっと言ってまうし…会ったばかりの男を二人きりの家にあげてまうし…」
「二人きりのって…女じゃあるまいしっ」
軽く吹きだすアーサーは可愛いが…笑い事じゃないやろ、自分…と、アントーニョは思う。
これ…男も女も気にしないフランやったら自分とっくに食われてるで…とも思う。
そして…ああ絶対にアーサーをフランに会わせられへんな…とも…
万が一フランが何かで見かけてもうたら…殺ってまうか、と、だんだん思考が危ない方向にいっている。
悪友達に引きずられるように始めたゲームが原因で…賞金一億のために動いている犯人の他に引きずりこんだ悪友にまでそんな事を思われている…フランシス・ボヌフォア…本当に不憫な男である。





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