メグのメッセージ(9~10日目)
自宅に帰ったアントーニョがまずしたのはアーサーへのメール。
携帯のメルアドは昨日、今日の連絡用にと聞いておいたのだ。
『無事家ついた?今日は楽しかったで。ありがとさん。
今度はちゃんと計画たててアーサーの好きな所へ行こうな。
アントーニョ』
と打ってピッっと送信を押す。
そして待つ事数分。メールの着信音に携帯をのぞくと見知らぬアドレス。
不思議に思うがとりあえず、と、メールを開く。
『こちらこそ、楽しかった。ありがとう。
このアドレスはPCのメルアドだ。
普段あまり携帯を使わないから慣れてなくて
今PCのメルアドからメール打ってる。
たぶんPCある場所にいる時はこちらから
メール送ると思うから、覚えておいてくれ。
そちらからのメールは随時携帯に転送を
するから、普通に送ってもらって大丈夫だ。
アーサー』
礼と連絡…たったそれだけのメールなのだが、嬉しくてにんまりする。
こんなに浮かれた気分は久々だ。
しかし浮かれてばかりもいられない。
帰宅が夕方だったので、食事や風呂を急がないと、ゲームの時間になってしまう。
いつもギルが時間きっかりにきて待っているので、あまり遅れると自分以外とアーサーが二人きりになる。
それはなんだか面白くない。
アントーニョは慌てて風呂に入り、食事をかきこんで、自室のPCの前に座った。
そしていつもなら若干…といっても、このゲームは気にいっているのでせいぜい5分ほどだが、遅れてインするアントーニョは、今日は時計の針とにらめっこをしながら、8時きっかりにインした。
なのに何故かいるギルベルト。
どうしてこんなに早いのか不思議だ。
まあ…アントーニョが知らないだけで、PCの性能と通信環境の違いだったりするのだが…。
それはさておき、いつものようにインしてきたアントーニョにパーティの誘いをかけてくるギルベルト。
今日はアントーニョも拒否せず入る。
『機嫌直ったみてえだな。』
意外に気にする性質のギルベルトの事だ。おそらくあれからずっと気にしていたのだろう。
パーティーに入るなりそんな言葉を投げかけてくる。
『いつまでも気にしててもしゃあないやん。自分が用心したい言うんなら放置したるけど、それ表にはだすんやないで?』
『そりゃあ俺だってわかってるぜ。リアルとは切り離して考えるってだけで、ネット上の友人には違いねえしな。』
『ならええわ。』
昨日は腹がたったギルベルトのアーサーに対する認識も、その理由でギルベルトが必要以上にアーサーにちょっかいかける事はないだろうと思うと、今はなんだかホッとする。
現金なモノだ。
そうこうしているうちにアーサーとフランシスもインしてパーティに加わり、挨拶を交わす。
その裏でアントーニョは
(さっきぶりやな。今度はいつくらいに会えそう?)
とアーサーにウィスを送った。
ギルもフランシスも知らない二人だけの秘密だと思うと、気分が高揚する。
(え~と…月曜は午前中生徒会の仕事で…あとはだいたい大丈夫だ)
(進学校やと塾行ったりせえへんの)
(俺はだいたい自主学習してるから。で、どうしてもわからない事は月曜に学校行った時についでに顧問の先生に聞く事にしてるけど、あまりないな。)
(へ~、それで成績下がったりせえへんの)
(ああ。とりあえず小学校からずっと主席を落ちた事ないな)
うっわ~、何それ?めっちゃ頭ええんやんと言おうとした瞬間、アントーニョは閃いた。
(せや、じゃあ俺に勉強教えたって?宿題とかめっちゃ残っとるんやけど、これが全然わからんねん)
出来る限りの時間を一緒に過ごしたいところだが、そこは悲しい高校生。
宿題が山とある。
それをこなしながら一緒にいられる、とても良いアイディアに思えた。
(アーサーの勉強してる端で俺も宿題やって、わからんとこがあったら教えてもろうてってできればありがたいんやけど…)
一応進学校で勉強も忙しいであろうアーサーに了承してもらえるかだけが問題だったわけだが、
(俺はいいけど…)
と、あっさりOKが出て、アントーニョはリアルでよっしゃあ!とガッツポーズを決める。
そんな会話を交わしているうちに、いきなりゲーム内だけで見られるメールにあたる物、メッセージが来て、いったん会話は中断された。
送信者は…メグ。どんな奴だったかアントーニョは思い出せない。
なのでとりあえず開いてみる
『こんばんは。参加者の一人、エンチャンターのメグです。
このメッセージは全員に送っています。
知らない方もいるかもしれませんが、今日同じく参加者の一人だったバットマン君が誰かに殺されました。早朝にその場を立ち去る怪しい男を見たと言う目撃証言はあるものの、犯人はまだ特定されてないそうです。
原因は断言はできませんけど、このゲーム絡みの可能性が高いと思います。
もしそうだとすると今後残った参加者にも危険が及ぶ可能性は充分あると思います。
そこで皆さん、20時~24時以外でも情報交換等ができるようにメールアドレスを交換しあいませんか?
了承して下さる方は私までメッセージでメルアドを送って下さい。
一応明日21時までにメルアドを教えて下さった方には、私を含めた送って下さった方々全員のメルアドをお送りします。』
『メッセ…来たか?』
しばらく全員メッセージに目を通してたらしく無言だったが、ギルベルトが最初に沈黙を破った。
『うん、俺んとこは来てるわ』
『お兄さんのとこにも来てるよ。』
『俺のとこも…』
全員に送ってると言うのはホントらしい。
『やっぱ…これもダメ…なの?』
おそらく昨日ギルベルトと二人の時にリアルを一切明かすな、リアルで一切連絡を取るなとでも言われたのだろう。
フランシスがギルベルトにお伺いをたてる。
個人情報は教えるなと言うギルベルトの事だから、反対なんだろう。
そう思うものの、もう一番欲しい相手の連絡先は手に入れてあるわけだから、アントーニョは正直どうでもいい。なので黙っておく。
ところがてっきりやめとけって答えを返してくると思ってたギルベルトは、あっさり期待を裏切ってくれた。
『ん~、これはいい。』
『ええ??昨日は個人情報駄目っていってたじゃん』
思わず言い返すフランシスに、ギルベルトはただし…と付け足した。
『携帯とか普段使ってるメルアドは教えるなよ。適当なフリーメールとかでこのゲーム関係の連絡用にしか使わないいつでも捨てられるようなメルアド取っておけ。いわゆる捨てアドって奴な。
情報交換や連絡だけならこのゲームやってる間だけだし、それで充分。
あ、当たり前だけどメルアドに自分の名前もじっていれるような真似はするなよ。』
なるほど…。
ギルベルトらしい提案だ。
『って事で今日ログアウトしたら全員捨てアド用意して、明日こいつのところに連絡な。
で、一応こいつからメルアド書いたメッセきたら、ちゃんとホントにメルアド配ってんのか4人で自分のメルアド言って確認するぞ。』
その日はそれから普通に狩りをしてログアウトすると、すぐ適当なフリーメールのメルアドを取った。
もちろんアーサーとの約束を具体的に交わすのも忘れない。
今日会って明日というのもなんなので、明後日の水曜日からということにした。
そして翌日、そのメルアドをメグの所に送る。
そして4人でレベルあげには出かけずに締め切りの21時を待った。
30分後…メグからまたメッセージが送られてくる。
それを開くと、9人分のメルアドと共にメグからの結果報告。
『こんばんは。今回は私の提案に賛同して頂いてありがとうございます。
8人の皆さんが送って下さったので、私のを合わせて9人分のメルアドを送らせてもらいます。
一応21時を待って返答の無かったショウさん、ヨイチさんに声をかけてみたのですが、ショウさんは今回の事で怖くなったのでゲーム自体をやめるから参加しないとの事でヨイチさんは全く無反応なので、参加の意志なしと考えさせてもらうことにしました。
一応間違いないとは思うのですが、各自ご自身のメルアドを確認の上、間違いがありましたらメグまでまたメッセージをお願いします。』
とりあえずメグのメッセージに目を通して、4人でそれぞれ自分のメルアドを確認した。
アントーニョ達4人に関しては確かに全員のメルアドが正しく記載されてるので、ひとまずOKだ。
『でも…さ…』
とりあえずメルアドを確認し終わったところで、フランシスがぽつりと言った。
『ショウは気付いてないみたいだけど、ギルが一昨日言ったみたいにやめても無駄なんだよね?とりあえずどうすればいいのかな?』
『まあ…犯人が捕まるか誰かが魔王倒して一億手にするかだな。
とりあえず騙されて自分のリアル明かしたり誘い出されたりしないように気をつけてれば大丈夫だろ。』
不安げに尋ねるフランシスに、ギルベルトはあっさり言った。
まあそれは正しい主張なのだが…騙されない…それが意外に難しい。
その事を4人はのちほど知る事になるのだが、この時はまだそんな事はおもってもみなかった。
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