第一の殺人 (7~8日目)
今日でゲームを始めて一週間。
最近昼間から夜を心待ちにしてる自分がいる。
8時から0時なんてケチくさい制限つけないで、昼からやらせてくれればええのに~などと考えつつ、テレビを流しながらボ~っと雑誌をめくってたアントーニョは、特報のピンコンピンコ~ンと言う音で、視線をテレビに移した。
『臨時ニュースをお知らせします。本日午前5時過ぎ、東京都○○区のマンション駐車場で刺殺された男性の遺体が発見されました。
殺された男性は都内在住の高校生、アルフレッド・F・ジョーンズさん17歳………』
え??どっかで聞いた名前ちゃう?
さすがにアントーニョも青くなる。
これってバットマンやんかっ!
うそやろぉっ!!!
今まで当たり前だが殺人の犠牲者になった友人知人などいない。
(えらい偶然やんなぁ…)
と、アントーニョはここにきてもまだ、それと今回のゲームが結び付かず、ただ
(これ、今日インしたら皆に教えたろ、びっくりするで~)
と、呑気に思っていた。
しかしインして相変わらず生真面目に一番最初に待っていたギルベルトから話を聞いて、それが他人事じゃない事を知る。
『あんな、ギルちゃん、知っとった?バットマン言うけったいな奴おったやん?あいつなんか殺されたらしいで?リアルでもなんかやらかしとったんかいな?』
呑気に他人事なアントーニョの物言いに、ギルベルトは深く深くため息をついた。
『お前…全然理解してないな?今まで気付かなかった俺様も俺様だが、このゲームやばいぞ』
『へ?なんでそこでゲームの話になるん?』
『お前さ…もしかして説明書きとか全然読んでねえだろ。』
『失礼な!読んどるよ!全員高校生で12人に送っとって、あとはなんやっけ…ミッションこなすごとに10万もらえて、魔王倒すと賞金1億!』
『それだよ、それ、原因は。』
『全員高校生?』
『なんでそこだよっ!そうじゃなくて賞金1億の方だ!そいつ狙いで取れそうな奴殺してるとかいう可能性あるぞ。』
『まさか~。金で殺人なんてありえへんわ』
『いや、今10万くらいで殺人起きる時代だぞ?1億だったら十分人殺すやつでるぞ』
『そんなん…最後に残った奴が犯人やってわかるやん』
『だから、全員じゃなくて取れそうな奴だけ殺すんだろ?』
『やったら…1億取った奴が犯人てわかるやん?』
『とは限らねえぞ。そいつに取れると思わなくて殺さなかった奴がたまたま取る可能性もある。』
『じゃ、取れそうなジョブの奴が犯人?』
『そうとも限らねえぞ。1ジョブ二人までだから、犯人が良いジョブ取り損ねた可能性もあるし…』
『とりあえず…どないしよ?』
『どうしようもねえだろ、もう』
『なんで?みんなでこのゲームやめたらええやん。ミッション達成した10万もあるし、それでアーサーも誘ってみんなで残りの夏休み遊ぼうや』
『お前…やっぱりなんにも考えてねえな。』
『さっきからなんやの、失礼なやっちゃな。』
『説明にあったろ。誰かが魔王倒すまではディスク捨てようがやめる宣言しようが、データ保存しておくから復帰可能って。だから自分からやめるっていってもいつ復帰するかわかんねえから、魔王倒せる奴の候補からは抜けられねえんだよ。』
『え~、そんなんで殺されるなんて勘弁やわ~。』
『とにかく、今回バットマンが殺されたのはペラペラリアルを話してたからだからな。お前絶対にやるなよ。マジやりそうで怖い』
『そんなん話す相手おらんやん。パーティーの人間以外と話す機会あらへんし、大抵会話はパーティ会話やん。自分ら今更やし』
『アーサーいるだろ。あいつだってわかんねえし。』
ギルベルトのその言葉で、アントーニョはぴきっときた。
『なん?アーサー疑っとるん?レベル低いうちにあんなに色々してもろうてて自分最低やなっ。』
『だからだろ。なんの見返りもなく賞金1億かかってんのに他人助けるか?もしかしたらただのおひとよしかもしれねえけど、こういう状況になった以上、少しでも疑いのあるやつには気をつけろって事だよ。別に距離おけってんじゃなくて、今まで通りリアルもらすなってだけだ。』
『もうええわっ!今日はちょぉ別行動しよっ』
アントーニョはパーティを離脱した。
(おい、何してんだよっ!)
というウィスと共に、何度かギルベルトからパーティーの誘いが来るが無視だ。
(アーサーには今日の事件の事俺から話しとくから、自分フランに言うといてや。信用おける人間とおけへん人間とで言う事わけなあかんのやろっ)
完全すねたようなアントーニョの物言いに少し引っかかるところはあるものの、普段流す分一度こうと思うと意外に頑固なアントーニョが考えを変えるとは思えない。
(ああ、じゃあ今日はそうするか)
若干不安は残るモノの、ギルベルトは了承した。
そうしているうちまずインしてきたアーサーをアントーニョが誘う。
パーティーに入って来たアーサーは
『ギルベルトは?誘わないのか?』
と、当たり前に聞いてきた。
『ああ、今日ちょぉ色々話さないかん事あってな。込み入った事やから俺とギルちゃんでそれぞれ二人ずつ話そうかって事になってん。』
『そうなのか…』
ちょっと不思議に思うものの納得するアーサー。
『じゃ、話長くなるさかい、どっか移動しよか。』
『どこに?』
『アーサーの好きなとこでええで~』
『わかった。』
うなづいて歩き始めるアーサー。
そして…
連れて行かれた場所は城の庭園。
花咲き乱れる庭の花に囲まれたベンチに座るアーサー。
確かに…他に人が来るような場所ではないのだが、男キャラ二人で話すにはこれほど不似合いな場所はないのではないだろうか…
それでも好きな所で良いと言ったのはじぶんなので、アントーニョはアーサーの横に座った。
『ここ、たまに早くインして誰もいない時は来てるんだ』
楽しげに語るアーサー。
男キャラと言っても男も女も長いローブを着たウィザードは他のジョブに比べて性差は感じないので、なんとなく可愛いなと思う。
『で?話って?』
妙に和やかな空気を壊しにくくてアントーニョがなかなか切り出せないでいると、アーサーの方から切り出された。
しかたないので、バットマンの中の人間が殺された事と共に、ギルベルトが話していたような、このゲームの賞金が原因ではないかということ、ゲームをやめようにもやめられない仕組みになっている事などを説明する。
その上でアントーニョはギルベルトとの会話ではなかった事を付け加えた。
『アーサーも気づいてるとは思うんやけど、俺ら3人リア友やねん。せやからお互いなんかあれば連絡取れるんやけど、アーサーはちゃうやん?』
『信用…できねえよな』
奇しくもアーサーもギルベルトと同じ事を思ったらしく、そう言うのをアントーニョは慌てて否定する。
『何言うてんのっ。疑っててはぶろう思ってるんやったらこんな話せえへんわ。
そうやなくて…このゲームって夜しかできひんし、昼に何かあってもアーサーは連絡つかんやん?
それが心配やねん。せやから…携帯交換せえへん?』
『え?』
『俺個人はほんまはリアルで会って遊んでみたかったんやけど、こんなんあったら、アーサーの方が怖いやろ。せやからせめて携帯』
『俺は…いいけど…』
『じゃ、俺の先教えたるわ。そっちからかけたって?携番知れるの嫌やったら番号の前に184ってつけてから番号いれると、俺の側にはアーサーの番号が表示されない非通知設定になるからそれでもええで。』
そう言ってアントーニョはウィスモードで携帯番号を送った。
そしてリアルで携帯を握りしめて着信音がなるのを待つ。
やがて鳴る着メロに、携帯を見ると、しっかり番号が表示されていて、自分で非通知でもいいと言ったのだがやはり嬉しい気分になる。
「もしもし、トーニョやで。アーサー?」
はずんだ声で電話に出ると、一瞬電話の向こうで戸惑うような気配がして、それから
『ああ、アーサーだ。本当に…なんかこうして話すのって不思議な気分だな』
と少し笑みを含んだはにかんだような声が返ってくる。
悪い人間には思えない。
まあ…悪人が必ずしも悪人のような外見をしてるとは限らないのだが…。
「俺本名はアントーニョで、トーニョってのはあだ名なんやけど、アーサーは本名なん?」
『ああ、本名だ。アーサー・カークランド』
当たり前にさらっと本名をもらしてしまうあたり、もしこれがリア友ならギルベルトが眉を吊り上げて怒りそうだ。
アントーニョですら少し大丈夫か?と思ってしまう。
「あのな、俺はええんやけどな、自分ちょっと無防備かもしれへんで?気を付け?もう俺以外に本名言うたらあかんよ?下手すると自宅とか嗅ぎつけられかねへんで?」
『あ……』
電話の向こうで若干焦っている様子がうかがえて、なんだか可愛ええ奴やな、と、アントーニョは小さく笑う。
「俺の方も教えたるわ。アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドな、フルネーム。自分には教えてもろたから。な、もうここまで晒したなら、いっそのこと会ってみぃひん?」
『あ…ああ、俺は構わないけど…』
「じゃ、きまりやなっ!明日どない?」
『ああ、大丈夫だ。』
「じゃあ待ち合わせは……」
とんとん拍子で話が進んで、アーサーと会う約束をするアントーニョ。
ギルベルトの忠告などもちろんガン無視だ。フランシスの存在もガン無視だ。
これが吉と出るか凶と出るか…。
それは神のみぞ知る…。
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