オンラインゲーム殺人事件_Anasa_第一章_3

パーティー結成 (3日目)


40…50…59……よっしゃ8時っ!
アントーニョが時計とにらめっこしながら8時を待つようになって早3日。
すぐ飽きるかと思ったが意外に飽きてない。



時間になるのを待って即アクセスしてゲームの中のトーニョを呼び出す。
最初はもちろんレベル1。
街を出てすぐのスライムを倒すのにも死闘を繰り広げていたトーニョもいまではレベル4になり、敵をサクサク倒せるようになっていた。

このゲームでは何もせずに座っていれば徐々にHPとMPが回復していく。
で、レベル1では1戦するたび座って回復していたのが、今では5戦くらいなら連続して戦える。

今日は思い切って1ランク上の敵を倒してみようと、青いスライムにわずかに混じる黒いスライムに向かってを振り下ろした。

思ったより強い…。
というより攻撃が避けられてあたらない。
さらに…敵の攻撃が当たった時のダメージが青いスライムより数倍痛い。
一撃で見る見る間に減っていくトーニョのHP。

これ…死ぬなぁ…。
あと3~4撃で倒せそうやけど、こっちもあと1撃食らったらHPが尽きそうやしな。
と思いつつも今更逃げてもしかたないので、殴ってると、ピュルルンと音がして、淡い金色の光がトーニョの周りをクルクル回った。
見る見る間に全快するHP。
そしてトーニョの攻撃が3回ほど当たると、敵は水みたいになって地面へと消えていく。
ようやく落ち着いてみると、すぐ側に見慣れた悪友に似たキャラが立っていた。

『ギルちゃん、遅いわ。死ぬとこやったやん』
助けた挙句お礼の代わりに文句が返ってくるあたりで、ギルベルトの立ち位置がわかろうというものだが、本人は全く気にしてない…というか、この境遇に慣れている。

『一人で始めんなよ、まだフランも来てねえんだし…』
と、当たり前にスルーして、MP回復のために座り込むが、そこでギルベルトが来た事を良い事に、アントーニョはまた敵に殴りかかりに行った。

『なんや、これ。当たらへんなぁ』
と、またスカスカやっているうちに減るHP。
『お前…今に死ぬぞ。回復するにしたって俺様のMPだって無限じゃねぇ』
『そしたら次に殴られる敵はギルちゃんやで?』
『このゲームはプレイヤーキャラは攻撃できねえよ』
『ゲーム?何言うとるん?リアルでに決まっとるやん』
『なんだよ、それぇ?!』

そんな感じの会話を交わしながら、格上の敵相手に素振りをするアントーニョを必死に回復するギルベルト。

そこにポロリン!と竪琴がなって、音符がアントーニョの周りをクルクル回った。
途端に攻撃がガシガシ当たり始める。

『も~、二人ともちゃんと待ってなさいよ。みんな一緒にやらないとレベルに差がついてやりにくくなるでしょ?』
一応ネトゲ経験者のフランシスが、そう苦言を呈しながらパーティーに加わった。

攻撃力や命中率、防御をUPする音楽を奏でるフランシスが加わって、一気に強くなるパーティーに、ギルベルトは今日のためにたててきた計画を発表する。

『今日は、そろそろミッション1こなすぞ!』

ミッション1は簡単なお使いだ。
山の麓にいる兵隊に手紙を届けるだけ。

そう説明するギルベルトに
『お~、ついに10万かぁ』
『いいね。そろそろ単調な戦闘にも飽きてきたしね』
と、残り二人はもちろん賛成する。

こうして3人は遠く見える山のふもとまで足を伸ばす事にした。

山は街から遥か向こう。でもそこまで道が続いてるから道沿いに行けば迷わないはずだった。
しかし実際の道もそうなのだが、道はクネクネ曲がっていて道沿いに行くと遠回りになる。

『なんや、道沿いに行かんでも、この草原つっきったら早いやん』
道沿いに行くのが面倒になったアントーニョがいきなり暴走し始めた。
止める間もなく、草むらに突っこんでいく。

『待った~!道沿いに行かねえと敵出るぞ!』
慌てて後を追いかけるギルベルト。
『ちょ、お兄さん置いて行かないでよ!』
と、フランシスも後を追う。

そして…何故かその二人の方がいきなり、ズザザザザ~!!!と、草むらに隠れていた落とし穴に落っこちた。

『自分ら~何しとるん?』
しかたなしに自分も落ちるアントーニョ。

『誰のせいだと思ってんだ?』
『え~?ギルちゃんの?』
『お前だろ~!』
『やって…俺は落ちてへんで?ギルちゃん勝手に落ちたんやん』
『お前が勝手に先行くの追ったんだろうが』

『ねえ…ここどこだろ?』
そんな口論をする二人を放置でフランシスはあたりを見回した。
落ちた先は洞窟のようで、一応道は続いている。
どう考えても目的の山へではないのだろう…
しかも少し先に見えるコウモリのような敵は3人が倒してたスライムよりは絶対強いと思う。
自分で聞いておいてなんだが…二人とも絶対にこんな所まで来た事ないに違いないとフランシスは思う。
それを裏付けるように
『死んで戻るしか…ないかもな…』
と困った様に言うギルベルト。

そんなちょっと深刻になる二人を尻目に、アントーニョは
『ん~、でもさすらっとればいつかはどこかに辿り着くんちゃう?』
と例によって楽天的にして適当な発言を残して颯爽と歩き出した。

『うあああ~!!トーニョ、待ってっっ!!!』
慌てるフランシス。
当たり前に横を通り過ぎようとするアントーニョに襲いかかるコウモリ。
一撃で3分の1くらいに減るアントーニョのHPゲージ。
うあああぁぁ~~~~~

3人が戦ってたスライムはこちらが殴らない限り攻撃してこなかったが、このコウモリは近づくだけで襲ってくるアクティブモンスターだったらしい。
どう考えても格上すぎるモンスター相手にスカスカと素振りを繰り返しているアントーニョ。

『これ…無理だわ。とりあえず放置で次回のために道調べない?』
とりあえず回復魔法をかけて助けようとするギルベルトを止めて、冷淡だが賢明な発言をするネトゲ慣れをしたフランシスにギルベルトは足を止める。
『それもそうだな。どうせなら次回に少しでもつなげるか…』
と、効率厨なギルベルトも冷静さを取り戻して同意した。

『二人とも…あとで覚えておき!特にギルちゃん!』
『俺?なんで俺?!言いだしたのフランじゃんっ!!』

そんな会話をしながら、もう一匹湧いて出たモンスターからの攻撃もくらい、HPが赤く染まるアントーニョ。
だが、彼のHPはそれ以上減る事はなかった。
薄暗い洞窟の闇の中でオレンジの光が、アントーニョを襲ったコウモリを瞬殺したからだ。

「とりあえずこいつを回復しとけ」
とギルベルトに声をかけたあと、ローブを着こんだウィザード、アーサーはビシっとアントーニョを指差して叫んだ。

「自殺すんなら他でやれ!!俺の狩り場を荒らすなっ!!!」

減ったMPを回復すべくその場に座りこむアーサーにパチパチ拍手を送るフランシスとギルベルト。
ただ一人怒られたアントーニョだけがムッとする。

「なんなん?なんで初対面の人間にそこまで言われなあかんねん!!」
とポコポコ怒りだすが、フランシスがそこで慌てて相手にお辞儀をしてフォローを入れた。

「パーティーメンを助けてくれてありがとう。俺ら慣れてない上に、落とし穴に落ちてここにきちゃって戸惑ってるうちに絡まれちゃって…」

フランシスがそう言っている間にギルベルトの方はパーティー会話で
『お前な、とりあえず助けてもらったんだし礼が先だろ。例えネットを通してでも相手はNPCじゃなく普通の人間なんだからな。助けられて礼も言わないで相手に文句じゃ、お前ただの痛い礼義知らずだと思われて終わりだぞ。』
と、変なところで生真面目な彼らしい説教を始める。

ちなみに…会話方法は全員に伝わる通常会話「」の他にパーティーだけに伝わるパーティー会話『』、あとは特定の個人にだけ話すウィスモード()がある。

助けてくれなんて言うてへんやん…と、少し意地になって思うアントーニョだったが、暴言野郎に礼義知らずと思われるのはしゃくだ。

しかたなしに
「助けてくれておおきに。でも自分そんな言い方してたら友達できひんで?」
と、余計な一言を添えて謝意を述べる。

「ご、ごめん!この馬鹿、ちょっと礼儀知らずで。」
と、それに慌ててかぶせるフランシス。

『礼言ったんやから礼儀知らずちゃうわ。』
と、アントーニョがパーティーで文句を言うと、フランシスは
『いいからちょっと黙ってて!てかギルちゃんそいつなんとかしてよっ!無事帰れるかどうかの瀬戸際なんだからっ!!』
と、ギルベルトにふる。
『あ~、そういうことか。了解。』
そこで察するギルベルトに、一人かやの外なアントーニョがムッとした。
『何がそういうことなん?』
『あいつレベルも高いし俺らと違ってわざわざここに来たってことは、帰り道も知ってるんだろうから、お前が馬鹿な事言って怒らせなければ教えてもらえるだろ』

ギルベルトが説明している間に、フランシスは道を教えて欲しい旨を告げる。

「わかった、案内してやるからパーティーに入れろ」
と、アーサーから了承の旨を伝えられ、フランシスは
「え?案内までしてくれるんだ。助かるよ~」
と言うが、アントーニョの
「え~?パーティ入れるんが案内の条件かいな」
と言う言葉でまた慌てる。

「おまえは~~~!!わけわかんないなら、もう黙っててっ!」
フランシスは泣きそうだ。
ギルベルトも、ああ…もう終わったな…と遠い目になる。

…が、アーサーの方は意外に気にしなかったらしい。

「この先は敵多いから。ソロなら避けられるけど、慣れてない奴連れて絡まれないでいけねえし。3匹くらいまでなら対処するから、エンチャの回避UPの歌が欲しい。パーティ入ってないと歌かかんねえから。」

『ちょ、いいやつじゃん。わざわざリスク犯して案内してくれるみたいだし。お前反省しろ、トーニョ』
と言うギルベルトの言葉を華麗にスルーして、アントーニョは自分の疑問を優先する。

「で?3匹以上来たらどないするん?」
「…俺がタゲ引き受けてパーティー離脱して出口と反対方向に周りの敵も連れて走るから、お前らは逆方向に逃げろ。運良ければそのまま洞窟から出られる。」
「自分はどうするん?」
「死に戻りする」
「そんなん嫌や」
「…??…しかたねえだろ?お前らのレベルじゃここらの敵倒せねえし、全員そこで死んでも意味ねえし。」
「死ぬなら一緒に死のうや。」
「????」
盛大に頭にはてなマークを浮かべるアーサー。

「あ~の~な~~、トーニョ、お前の感覚変だからっ。普通理解されないからっ」
と、ギルベルトが、
「なんか…あれだよね、心中のお誘いみたいだよね…」
とフランシスがため息をつくのに、アントーニョはふくれた。
「やって、嫌やん。こいつ一人死なせるのなんて」

「ん~、普通さ、どうしても死なせるの嫌だったら、つきあわせるのやめるとかそういう方向に行くよね?」
というフランシスの言葉も当然スルーで、アントーニョは突然声を張り上げた。

「あ~、親分良い事思いついたで!ここでレベル上げればええんやん。
で、このあたりのコウモリ倒せるくらいになったら帰る!完璧やん!」

「……ごめん……お兄さんにはお前の日本語わかんないわ…」
「安心しろ、俺もだ」
悪友二人、さらにため息を深くする。

「なんでわからんねん。」
「お前の言ってる事を人間様の言葉に翻訳するとだな…
『俺達はこのへんの敵を倒せないので、レベル上げしたいから寄生させて下さい』
って言ってる事になるんだぞ。
どこの物好きが赤の他人のために自分には全然メリットないのに、ただでレベル上げ手伝ってやるなんて思うんだ?」

ギルベルトが説明する横で、フランシスが、もうお兄さんこの子の知り合いなの恥ずかしいわ…と嘆くが、とうのアーサーは
「別に俺はそれでもいいけど…」
とぼそりとつぶやく。
「経験値は変わんねえし、エンチャに歌かけてもらえば回避や防御あがるし、回復もありがたいしな…」
「俺は?」
「お前?」
「うん。俺」
「………」

無言だ。

「あのねぇ…前衛ってレベル低いと何も貢献できないのよ?攻撃当たんないし、盾にすらなれないし…」
悪友だけに容赦ない言葉を吐くフランシス。

「あ、でも枯れ木も山のにぎわいって言うしなっ!」
それに慌ててそう添えるアーサーはどうやら意地悪で無言だったわけではなく、本気でレベルの低い前衛のいるメリットを考えていてくれたらしい。

“枯れ木”と称してしまうのはどうかとは思うが、ずいぶんと良い奴らしいとアントーニョは判断した。

「よっしゃ。ま、フランの言い草はめっちゃ腹立つけど、後でリアルでボコるからまあええわ。」

アントーニョはパーティーの誘いをアーサーに送ると、アーサーがパーティーに入ってくる。
『親分今はこんなやけど、そのうち強くなって自分優先して守ったるから、よろしゅうな』

こうして4人、その日はその場でレベル上げをし、コウモリをなぎ倒せる強さまでレベルを上げ、その後も一緒にやる約束をして街に帰ったのだった。


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