ジュリエット殺人事件A_10

氷川を殺したのはメイらしい…そんな結論に至って、ギルベルトはフランを伴ってメイがいる川本の部屋へと急ぐ。

「川本、開けて?」
川本の部屋のドアは鍵が閉まっていたのでフランはノックした。
「ちょっと待ってくれ」
すぐ中から返答はあるものの、なかなかドアは開かない。

「ちょっと!川本開けてよっ!何かあったの?!」
痺れを切らしたフランはドンドン!とドアを乱暴に叩くが、相変わらず
「ちょっと待ってくれ」
の一点張りだ。

「これ…何かあったな。ちょいマスター取ってくるからギルちゃん見張ってて」
フランは言って踵を返した。

「川本…何かドアを開けられない理由でもあるのか?」
ギルベルトはフランを待っている間も一応声をかけてみるが、返答がない。

「取って来たっ」
やがてフランが帰ってきて、マスターキーで鍵を開けるが、いざドアを開けようとすると開かない。
向こうからつっかい棒か何かをしているらしくギルベルトとフランだけでは開かない。
「ダメだ、開かねえ!フラン…2F組呼んで来い。開けるのは男だけでいいが、ベルちゃんだけにするのは怖えから」
ギルベルトが言うと、
「了解っ」
と、またフランが走って行く。
やがて2F組を連れてフランがまた戻って来た。

「理由はわからねえんだが、何故かドア開けたくないらしくて向こうからドアにつっかい棒か何かしてるっぽいから、男全員でちとこじあけっぞ」
と、ギルベルトが説明して男3人でドアを引っ張る。
今度はさすがに押し切ってドアが開いた。
ドアが開いた瞬間、いきなり何かが光る。
丁度ドアの開いた所にいたフランをギルベルトが突き飛ばした。
血飛沫が飛び、ベルの悲鳴が上がる中、ギルベルトはナイフを持った川本の腕をつかんでそのまま投げ飛ばし、ナイフを叩き落とす。

「おい…冗談じゃすまないぞ…これ。」
ギルベルトは有無を言わさずフランのカーディガンを取り上げると、それで川本の手を固定して、足元に転がる川本を睨みつけた。
「ご、ごめん!ギルちゃん!」
フランがさすがに青ざめるが、それには
「ああ、腕だし皮一枚だから大丈夫だ。お前のせいじゃないから。」
と、厳しい表情のまま言うと、自分でちゃっちゃとハンカチを出して止血し始める。
他は本当に呆然だ。
「ねっ救急車…」
思わず言うベルに
「だから…土砂崩れで…」
と青ざめたまま言うフラン。

「俺が止めなければ…お前今頃殺人犯だぞ。下手すればフランの肺とか心臓とか刺してた。」
思わず凍り付く様な怒りきった目でギルベルトが低く川本につぶやく。
川本は青ざめて震え始めた。
「何のつもりだ?」
さらに低く殺気立つギルベルトの声。
そのままゆっくり屈むとギルベルトはたたき落とした川本のナイフを拾い上げた。

「で?どうして閉じこもってたかと思ったらいきなりナイフなんだ?言えっ!」
全員がドッと冷や汗をかく中、ギルベルトが川本を睨みつける。
「フランシスが氷川…殺した犯人で、今度はリサを狙ってるっていうから…」
川本の言葉に少しフランが表情を硬くする。
それに気付いてアーサーが一歩前に出た。
「お前ただの筋肉馬鹿だな。ギルいきなり刺して捕まるのはお前の方だ。警察に聞かれたら思いっきり証言してやる。」
アーサーの言葉に青ざめる川本。
それでも
「リサが人殺しなんてするはずないし…あの部屋中から鍵かかってたってことは、合鍵持ってるフランしかいないだろ、犯人は」
と言う川本の言葉に、ギルベルトはスイっとさきほどのナイフから手を離した。
そして…それは本当に川本の耳からわずか2mmくらいの所の絨毯につきささって、川本にヒッと引きつった声をあげさせる。
「ああ、わりい。手。滑ったわ。フランは昨日あれから10時半くらいまで俺とトーニョとアーサーと4人で露天風呂入ってて、その後はアーサーの部屋行って、そこで犯人らしい人影を目撃してる。で、それからは3時まで俺の部屋でだべってたんだが…」
ニコリと口元だけ笑みの形で言うギルベルトの紅い目は笑ってない。
「死体見つかったの6時くらいなんだから3時間あるだろっ!」
それに対して川本が言うが、
「それはない。」
と、ギルベルトはきっぱりと断言した。

「遺体発見時刻が5時47分。で、遺体の状態から推測するに発見時に死後5~8時間くらいはたってたから。
以上の事から犯行推定時間はおおよそ昨夜10時から今朝1時前くらいだな。
更に言うなら…昨日の夜11時頃フランが見た影っていうのが犯人の可能性高いから多分11時前後か、殺されたのは」
ギルベルトの説明にアントーニョとフラン以外の残り3名はぽか~ん。

「なんやギルベルトさん、名探偵みたいやね?」
コソコソっとつぶやくベルに、
「ギルちゃんのお父ちゃん警察関係者で、その手の知識も叩き込んどるらしいで」
と、アントーニョがやっぱり小声で補足する。

二人がコソコソそんな会話を交わしてるうちに、ギルベルトがさっきフランにした密室トリックを説明した。
「…というわけで、だ」
一通り説明してギルベルトは息を吐く。
「合鍵持ってるならこんな面倒なトリックなんか使わねえから。フランはまず犯人じゃねえ。
というか…証拠集めに犯人の可能性のある人間なんか使うほど酔狂じゃない、俺様も」
「まあ…確かにそうやね」
とベルも真面目な顔でうなづいた。
「んじゃ、そういうわけで部屋いれろ。そっちの女性陣に聞きたい事があるから」
ギルベルトが言うと、川本とは少し焦る。

「あの…フランが犯人だと思ってたから…リサ逃がさないとと思って俺が囮になってなるべく引きつけるって事でメイと外に…」
おずおずと言う川本に
「こっ…の馬鹿野郎があぁぁっっ!!!!!!」
とギルベルトがキレた。
「殺人犯とそいつが殺したいと思ってる奴セットで逃がす馬鹿がどこにいるんだっ!!!」
ギルベルトの怒声に川本以外の面々もすくみあがる。。

「とにかく探すぞっ!雨で地盤緩んでて危ないからベルちゃんは松井さんと留守番っ。
そこの馬鹿は勝手に探せっ!フランはこの辺り詳しいし来い!アーサーは…」
「俺は行くぞ。そこの馬鹿二人よりはよっぽど役に立つから。ギルこそ休んでなくて平気か?」
アーサーは川本にチラリと目を向けたあと、ギルベルトに申し出る。
「さんきゅ。助かる。
俺様はまあ…怪我はたいしたことないし同じく馬鹿よりは役に立てると思うから。」
ギルベルトは言って、今度はちらりとアントーニョに視線をむけた。
それに気付いてアントーニョは肩をすくめる。
「あーちゃんが行くのに俺が行かんわけないやん。同じく馬鹿二人よりは…略ってことでっ」
と、アントーニョもにやりと笑って言った。
一応ギルベルトの腕の応急手当だけすませて探しに出る事にする。
川本は家の周りを探すという事で、他4人はとりあえず土砂崩れの所まで行ってみる事にした。





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