「私の髪はくすんでてフランのみたいに綺麗じゃないから…それよりね、きらきら綺麗なフランの髪の毛を見てるのが好き♪」
と、自分はいくら言っても髪を伸ばそうとはしなかったくせに、フランには髪を伸ばす事を勧める困ったあの子とちょうど髪型も似たような感じで…振り向いた時に見えた瞳もあの子と同じ色だった。
あの子じゃない…もちろんそれはわかっていたが、もう一度あの子の不器用な微笑みがみたかった。
二度と見れなくなる覚悟もなく永遠に失ってしまったあの笑みを…。
なので意外にロマンティストなあの子が好きだったように、甘い笑みを浮かべつつ手を取ってその手に口づけをしようとしたら、恐ろしい形相をしたアントーニョに阻止されたわけで…。
それ以来アントーニョどころかギルベルトのガードも堅くて二人で話す事すらできなかった。
なので、実はお互いあまり友人と言うほど慣れていない。
フランにとってのアーサーは悪友のアントーニョの想い人。
そんな関係だった。
なのにこうしてあの子との思い出深い別荘で改めて対峙すると、近づいてみたい、親しく話してみたいと思ってしまう。
その一心で何を言おうかも決めてないのに思わずかけてしまった電話。
出た第一声が涙声で、ひどく心臓が痛んだ。
あの子が自殺したあの日…もし自分が電話をかけてたら、あの子は涙声で出たのだろうか…。
そうしたらあの子の悩みにも気付いて死なせずにすんだ?
大丈夫、何も要らないと強がって見せるのもあの子と一緒で…紅茶の茶葉を持って行くからと強引に電話を切った。
それから茶葉を慌ててかき集めて部屋に行くと、ベッドにこんもりと人の気配。
薬を持ってこようかという問いに対する要らないの答えも涙声で…人に弱みを見せたがらないのも、なんだかあの子と似ている気がする。
似ていると思えば思うほど切なさと焦燥が募る。
「お願いだから何かあるなら隠さないで。」
それは数年前、あの子に言いたかった…けれど言う事すらできなかった言葉。
気持ちを抑えることは得意なはずが、思いがけず泣きそうな声になり、自分でも驚く。
「…お願いだから…あ…そうだ、お兄さん紅茶いれてあげるよ。一緒に飲もう。」
こんな自分の気持ちを押しつけるような言い方をしていたら出てきにくいだろうと、フランはとっさに気持ちを切り替える。
少し声音を明るくして、フランはそう言って紅茶を入れようと壁際のベッドに向けていた視線を外した。
…え??
ふと途中で目に入った窓の外…白い物体が横切る。
えええ????!!!!
「うあぁああああ!!!!」
「なんだっ?!」
フランのいきなりの悲鳴に思わず布団をはねのけて身を起こすアーサー。
「お、お化けっ!!!」
とフランが思わずそれに抱きついた瞬間…
「「てめえ(自分)何してんだ(や)っ!!!!」」
かけつけてきたギルベルトとアントーニョのこぶしが左右から飛んできて、フランは壁にふっとばされる。
「あーちゃん、大丈夫か?なんもおかしなことされてへん?」
と今度は自分がぎゅうぎゅうアーサーの事を抱きしめるアントーニョ。
「フラン…てめえは節操のねえやつだが、無理やりどうこうなんてこたぁするとは思わなかったぜ」
と、フランの方を締め上げるギルベルト。
「「ち、違う…」」
二人それぞれに否定しようとするアーサーとフランだが、
「フランはただ紅茶を…」
「そんな口実で部屋に入り込んで、とんでもない奴やなぁ!」
「ご、誤解だって、俺はただ紅茶を…」
「ああぁ?!!じゃあなんでアーサー泣いてんだよっ?!お前に抱きつかれて!!!!」
と、頭に血が上ったアントーニョとギルベルトには聞いてもらえない。
そこでいきなりアントーニョの頭をすぱ~ん!とスリッパが襲う。
「二人とも違う言うてはるやないっ!!とりあえず話きいたりっ!!」
と、やはり悲鳴で駆けつけてきたベルが仁王立ちになって言った。
「紅茶持ってきてくれたんだけど、なんかいきなり何かに驚いたみたいで抱きついてきただけなんだ」
と、そのベルにホッとした様子で言うアーサー。
「で?何に驚きはったんです?フランシスさん」
と、ベルがそこで仕切る。
ようやく話を聞いてもらえそうな雰囲気にこちらもやはりホッとした様子で、フランは
「窓の外に…」
と、恐る恐る部屋の奥の窓を指差す。
そこでギルベルトも窓を振り返るが、変わった様子はない気がする。
「窓が…なんだって?」
「ゆ…幽霊がっ…」
「幽霊?」
ギルベルトは窓に駆け寄って外を見るが変わった様子はない。
念のためと窓を開けて上下も確認するがこれと言って何もない気がする。
「何も…ないぞ?」
「嘘っ!さっき窓の外に浮いてたんだもん、人みたいなのがっ」
その言葉にギルベルトは再度窓の外に目をやる。
幽霊というのはないにしても、泥棒という線もある。
…が、近くに飛び移れるような木もなければ、雨で濡れた土には、特に足跡がついている様子もない。
「やっぱり何もないんだが…」
ギルベルトの言葉に恐る恐る窓際によるフラン。
自身の目で確認してようやく納得したらしい。
「まあ…フランも疲れてたんだろ」
とアーサーがフォローを入れ、ギルベルトは納得するが、アントーニョはいまだアーサーを抱きしめたままだ。
「お前…いい加減離せ」
と、アーサーがさすがに言うが、
「あかん!あーちゃんやっぱり一人にしといたら危ないわ。今日は俺の部屋に泊まり」
と、ずるずると布団から引っ張り出し引きずっていった。
「…まあ…俺らも寝るか」
それを見送ってギルベルトはベルを部屋の外へと促した。
「フラン?」
と、ギルベルトは最後にまだ窓の外を見ているフランに声をかける。
慌ててかけよってくるフランの胸に軽くこぶしをトンと押しつけ、
「俺らが争ったら傷つくのは誰だかわかってるよな?アーサーの気持ちが向いている以上あいつはアントーニョのモンだ。色々あんのはわかるが自重しろよ?」
と、念押しをすると、ギルベルトはクルリと反転して部屋を出る。
「…わかってるよ、ちゃんとわかってる。お兄さんあの子が笑顔でいてくれればそれでいいだけ。幸せに笑ってて欲しいだけなんだよ。」
一人残された部屋の中で、フランはぽつりとそうつぶやいた。
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