そういえばこのところずっと自分の家にアントーニョが来るかその逆か、とにかく必ずと言っていいほどアントーニョがいたから、一人になるのは久々だ。
夏休みまでは当たり前に一人だったのに、誰かがいるのに慣れてしまうと、一人でいるのが妙に心細くさみしい気分になった。
部屋に行っていいかとアントーニョに電話をかけようと思ったが、さすがにこれ以上べたべたとひっついて回ったら迷惑だろうと思いとどまった。
ため息をつく。
嫌われてまた完全に一人になるくらいなら、今寂しさを我慢した方がましだ。
ああ…女々しいな…こんなところを知られたら嫌われるかも…と、ごろんとベッドに身を投げ出してアーサーは携帯を抱きしめた。
…寂しい……どうしてか涙が止まらない。
そんな時携帯が鳴った。
「もしもしっ!」
慌てて出たものの、声を出してみて涙声になっている事に気づいて慌てて口をつぐんだ。
『アーサー?何?気分悪いの?』
てっきりアントーニョかと思ったら、電話の向こうから聞こえるのはフランの声だった。
少しがっかりして、しかし大きく安堵する。
こんなうっとおしいところをアントーニョに見せて嫌われたくない。
『薬もってこうか?風邪薬?それとも頭痛か何か痛み抑える系?』
「いや…別に…大丈夫。要らない」
アーサーが言うと、少し間があく。そして
『じゃあさ、茶葉いくつか持っていくね。アーサーは紅茶派だってトーニョから聞いてたのに部屋に最低限の種類以外備え付けるの忘れてたから。』
と言うと、返事をする前に電話を切られた。
とりあえず…泣いていた顔をなんとかしないととは思い鏡に向かうものの、思い切り目が腫れて鼻も赤くなっているのはいかんともしがたい。
仕方ない…紳士としては失格だが、この顔を見られるよりはましかもしれない…。
アーサーはベッドにもぐりこんで布団をかぶった。
眠い…それで通そう。
やがてコンコンとノックの音。
「あいてる」
と言うとフランが入ってきた。
茶葉、棚に追加して置いておくね、と、言って棚にいくつか置いた後、フランはベッドに近づいてきた。
「ね、やっぱり気分悪いの?薬持ってこようか?遠慮しないで?」
純粋に気遣っている声音に悪い気になってくるが、譲れない。
「…本当に何でもないから…」
と布団をかぶったまま答えると、
「お願いだから何かあるなら隠さないで。」
と泣きそうな懇願の声が聞こえてきて、そこでさきほどの話を思い出した。
おそらく自殺した友人の事がトラウマになっているのだろう…どうしようか…
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