屋内駐車場に車をいれると、フランは苦笑した。
外はすごい豪雨だ。
「フランシス様、いらっしゃいませ。」
そのフランに深々とお辞儀をする初老の男性。
「別荘の管理人の松井だよ。料理も掃除も身の回りの事は全部やってくれるからなんでも言ってね。」
と、アントーニョ達に告げた後、フランは簡単に説明を始める。
「ダイニングは1F。食事はそこで。部屋の冷蔵庫にジュース各種いれてあるし、ポットとお茶各種のティーバッグも備え付けておいたから。ジュースの類いは足りなきゃキッチンのでかい冷蔵庫から勝手に取って。
ベルちゃんとトーニョ、アーサーの私室は2Fね。
ギルも他に知り合いいないし、部屋2Fにしてある。俺も2Fに自室あるから、何かあったら内線で。
んで、リサ達は3F。階はねぇ…悪いね、リサ達は古い知り合いだからここも何回か来てて、リサが3Fのジュリエット部屋がお気に入りだからさ…。そのかわり2Fには鍵付き露天風呂あるから、良かったら入って」
自分の荷物もカートに放り投げて淡々と説明するフランにベルが
「ジュリエット部屋?」
と首を傾げた。
それにフランは苦笑しつつうなづく。
「そそ。3Fに1室だけ白いバルコニー付きの部屋があるんだ。他の部屋は普通の窓なんだけどね。
部屋もちょっとだけ広いかな。まあほら、リサは浸るの好きだからさ、よくバルコニーに出て月観ながら浸ってたし、まあなんというか…冗談でね。」
そんな話をしながら、そのまま落ち着いたベージュの絨毯が敷き詰められた廊下を通って階段で2Fへ。
部屋に落ち着くとアントーニョは荷解きをする。
部屋自体は10畳くらいでクローゼットとベッド、応接セットがある。
このところずっとアーサーと一緒に寝ていたので、一人がどうも落ち着かない。
あとで部屋に行くか来てもらうか…どちらにしてもどちらかの部屋で一緒に寝よう、と、勝手に決める。
そんなことを考えつつ荷ほどきが終わった頃、夕食を告げる内線がなる。
アントーニョは途中はアーサーの部屋とベルの部屋によってダイニングへと降りて行った。
(このメンバーで食べんのかよ、ホント…)
フランに言われてギルベルトがダイニングに入ると、もうみんな席についている。
一つの大きなテーブルにずらりと並ぶ参加者達。
『自分で設定しておいてなんだけど、めちゃくちゃ消化に悪そうな夕食だよね…』
フランも同じ事を思ったのだろう、コソっとギルベルトに耳打ちする。
「ねえ、そちらは?紹介してくれないの?フラン」
リサがニコリとアーサーに、ついでアントーニョに目をやる。
「ああ、二人とも俺の友達。それぞれテニスとフェンシングに参戦するため来てる。」
「ふ~ん…」
ジ~っとアーサーを凝視するリサ。
視線に気付いたアーサーが逆に視線を向けると、リサはニッコリと微笑む。
「お名前伺っていいかしら?私はリサ・ラガンです♪聖星女子高の2年生です」
「アーサー・カークランド、海陽高校2年です。」
アーサーの言葉にリサがちょっと目を見開く。
「アーサー君て言うんですか。私の事は気軽にリサって呼んで下さいね♪これからもよろしく~。今回フェンシングでいらしたんですよね?秀才な上に運動神経良いなんて素敵ですねぇ♪」
にこやかなリサの賞讃にアーサーは冷ややかな目をむけた。
「失礼だが…親しくない相手に気軽に下の名前を呼ばれるのは好きではないので。同様の理由からこちらもラガンさんと呼ばせて頂く。」
一瞬シン…とする室内。
「…ひ…ひどい…」
と言うリサ。
『かな~り怒ってはるよね?アーサーさん』
ベルがコソコソっとつぶやくのに、そうやなとうなづくアントーニョ。
「それで?食事の後にチェスの試合の予定だったけど…そちらはどうするのかしら?見たところチェス要員がいるようには見えないんですけど?アントーニョさんが?」
さすがに少し不機嫌な表情でリサがそれでも気を取り直したように聞いてきた。
「いや俺やなくてアーサーが。ま、いきなり裏切り者が出た時点で別の人間呼んでも良かったんやけど、この程度の相手なら他の人間呼ぶまでもないかって事で。車の中でフランからチェスのルール教わってアーサーがやる事にしたんや。」
言われたリサは一瞬唖然とした。
「まさか…今日ルール知った程度の人間で氷川君に勝てるつもりでいるの?」
苦笑するリサに、アントーニョはクスリと笑みを漏らす。
「まあ…卑怯な手でしか人材かき集められないわけやないから、うちは。その程度のハンデあっての勝負でも余裕やで。」
「お前、リサに何失礼な事言ってんだよっ!ふざけんなっ!!」
立ち上がりかけるリサ側の男に、アントーニョはシレっと
「え?俺はラガンの名前なんてひとっことも出してへんで?自分はラガンが卑怯な手ぇつかっとるって思ったわけや」
と返して、相手を黙らせる。
「じゃ、まあ時間もあれだし食事にしよう」
と、そこでフランが呼び鈴を鳴らした。
そして運ばれる食事。
全員に給仕し終わると、使用人、松井は何かをフランに耳打ちした。
少し顔色を変えるフラン。
そして全部話を聞き終えると、あらためて松井を下がらせて、みんなを振り返った。
「えっと食事前にちょっと聞いて欲しい。実は今連絡がはいったんだけど、ここに来るまでの道が土砂崩れにあって通れなくなってるらしい。雨がやめばすぐ修復もさせるし、たぶん明後日帰る頃までには通れるようになると思うから無問題なんだけど、今日、明日はちょっと下に降りれないからそのつもりでね。
まあ…食料や雑貨とか必要な物はここに充分あるから不自由はないけど、頭来てここにいたくないから帰る~とかはできないからね」
フランは最後は少し冗談めかして言う。
それにリサをのぞく全員が苦笑した。
そして食事。
「とりあえずお互い知らない人もいるから紹介しておこうか。」
と、その合間にフランが言った。
「端から…、リサはわかるね?その隣がテニス担当の川本、で、その隣がチェス担当氷川、で、さらに隣がメイ・ロイド、これは俺達の幼馴染ね。
で、ベルちゃんの側はテニス担当のアントーニョはベルちゃんの実兄。で、アーサーはさっきも言った通りフェンシングとチェス担当。で、隣が一応こっちの友達だから食事はこっち側に来てるけど、リサの方のフェンシング担当のギルベルト。いじょっ」
淡々と説明をすると、フランはまた食事を続ける。
「あの…ね、男の人に失礼だったらごめんね。カークランドさんの髪の色や瞳の色って、ちょっとジャンヌに似てない?私なんだか懐かしくなっちゃった。」
シン…とした重い空気に耐えかねたのか、メイがオズオズと口を開いた。
気が弱そうな普通の女の子っぽいメイに、さすがにアーサーもきつい言葉をかけにくかったらしい。
「いえ。緑の瞳だったんですか?」
と普通に答える。
「ええ!それはそれは綺麗な…落ち着いた金色の髪に風に揺れる新緑のような瞳だったんです」
答えが返って来た事が嬉しかったのか、メイは胸の前で両手を重ねて微笑んだ。
「容姿だけじゃなくて声も仕草も雰囲気も性格も綺麗だったの。だから…」
「メイっ!うるさいっ!」
うっとりと視線を宙にさまよわせるように語るメイの言葉を、普段はあくまで女の子らしい態度を崩さないリサがきつい口調でさえぎった。
「リサ?」
不思議そうな目を向けるフランと川本に気付いてリサはあわてて
「ご、ごめんなさい。お食事中にするお話じゃない気がしたの…。」
と、ごまかす。
不思議そうな顔をする二人。
そして食後…全員場所をリビングへ移した。
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