ジュリエット殺人事件A_3

ニッコリと声をかけて来たのは、同年代くらいのまあ美人の部類に入る少女。
(あ~、こいつが噂の~)
その言葉と少し強ばるベルの表情でアントーニョは察した。

「ん。なんだか箱根方面じきに雨くるらしい。」
フランがそう言って一歩前に出て、それから少し驚いたように目を見開いてピタっと足を止める。
そのフランの視線を追うアントーニョも凍り付いた。

「ああ、彼?教会が一緒なのよ。なんだかクラスメートに無理やり連れてこられそうになってたんだけど、どうせチェス打つなら私のために打ちたいって言うからっ。」
3人の視線の先でオドオドしているのは、こちらの側でチェスを打つはずだった氷川だ。

「…信じられへん事するわ…自分そんな卑怯な手使ってまで勝ちたいん?」
とアントーニョが言うのに、
「あら、彼が私の側に来たいって言ったのよ?私はなんにもしてないわよ。言いがかりはやめて頂戴」
とリサはふふんと鼻で笑う。
フランもさすがにこれは…と思ったのか
「リサ…ちとやりすぎじゃない?」
と眉をひそめるが、リサは 
「やだぁ…私が言いだした事じゃないし~。」
と、平然と言い放つ。

「あ、あの、ごめんなさいねっ。こんなんで勝ってもホントに違うからっ。気にしないでねっ。」
向こうの側から一人の女の子が走ってくる。
極々普通な感じの良くも悪くも目立たない子だ。
コソコソっと謝ってくるが、ベルはさすがに無言。
「メイ…なんでこういう事黙ってやらせておくかな?せめてメールで知らせるとかなかった?」
と、フランがその女の子、メイに小声で批難を送っている。
「ご、ごめんっ。私、フランにも言っちゃダメって止められてて…。ごめんねっ、嫌わないで、フランっ。」
そのまま嗚咽をあげるメイに、フランが大きくため息をついた。
「あ~、もう謝る相手違うし…。まあ後の2戦で勝てばいいわけなんだけど…」
フランは頭に手をやってチラリとアントーニョとアーサーに視線を向ける。
その視線に気付いて、アーサーは厳しい表情で相手方の面々に目をむけた。

「こういうやり方は…嫌いだ。」
「ん、まあ好きな奴はいないだろうねぇ…やってる当人達以外は…」
「フラン、チェスはわかるか?」
アーサーの言葉にフランはちょっと考え込む。
「俺はできるけど…でも第三者だから参戦はダメだよ?」
「ルール知ってればいい。宿泊先着くまでに教えてくれ。」
「は?」
「俺がやるから。」
きっぱりと断言するアーサーにフランは苦笑した。

「ん~、気持ちはわかるけどね…氷川は他に取り柄ないけどチェスだけはハンパないよ?関連校全部含めたチェス大会の優勝者だし。」
「将棋と碁ならやるから。それに…あんな卑怯者に負ける気はないっ」
言ってアーサーはアントーニョを振り返った。
「絶対に勝つからやらせてくれ。」
一瞬ぽか~んとしていたアントーニョだったが、その言葉に笑って言う。
「ベルどっちにしても誰かやらなきゃなんないんや。アーサーにやらせたって」
兄の言葉に少し涙目で硬直してたベルは少し笑みを見せた。
「まあ…お兄ちゃんがやるよりはマシやね。ごめんね、アーサーさんお願いします」
と、頭を下げる。

そうして車に戻ってルール等を教わる事20分。
どうやらフランとアーサーのやりとりが終わったようだ。
「もう教えへんの?」
アントーニョが言うと、フランは苦笑した。
「俺がいても邪魔だから。すごいね、さすがに海陽トップだけあるよ。飲み込みの早さと集中力が全然違う。もう基本概念やルールはある程度頭に入ってノートPCで実戦段階。
あれ…下手すると本当に勝つかもよ?」
「ギルちゃんより賢い感じ?」
アントーニョの言葉にフランは手を顔の前で振った。
「いくらギルでも一緒にしちゃだめだって。海陽って日本でたぶん東大進学率一番高い学校だよ?
そこのトップって…いうなれば日本一賢い高校生だよ?」
「うあ…そうなんですか~!」
ベルが驚きの声をあげる。
「そんなの引っ張ってこれるんだから、人材対決では今回の結果がどうであろうとベルちゃんの勝ちだよ。氷川ごときチェス馬鹿引っ張られたくらいじゃ全然揺るがないって」
元気づける様に言うフランの言葉にベルが笑顔をみせた。

「しっかし…この段階で寝返るって相手がえげつないのはしかたないけど、氷川も許せんわ」
そこでアントーニョは氷川に怒りを向ける。
「ん~ごめんな。あいつ教会でもリサは苦手だから近寄りたくないって言ってたんだけどな…」
それにフランが言う。
「氷川はあいつあれでロマンチストだからリサにだまされて夢みて良識とんだとかかなぁ…」
「ロマンチストって…あのツラでかっ?」
フランの言葉にアントーニョが吹き出した。
しかしフランは、男は女よりロマンチストよ?と、続ける。
「特に氷川は四葉のクローバーを天使からの授かり物だって押し花にしてお守りに肌身離さずに持ち歩いてるような男だし」
「へ~。まあ勝負師は何かしらジンクス信じてたりとかはするみたいやけどな。あいつもそのクチか。」
そんな事を話しているうちに車は一路箱根へ…。

そして箱根の山奥の別荘に着く。


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