本田の妄想・悪友の企み・ギルベルトの暴走 後編_5

「イギリスに会うの久々やん?
とうとう観念したんかいなぁ…」

約1年後の世界会議。
何故かあれからずっと兄達を代理に立てていたイギリスが久々に出席すると言う事で、各国はざわめき立っている。



「あーそうだよねぇ。
騙された意趣返しにプーちゃんと二人して子どもが出来たとか言ってたけど…」
「あれちゃうやん。最初はプーちゃんほんまにそう思うとったで?
親分とこに焦って電話してきとったもん」
「いやいや、そこでお前が面白がって、そのせいでプーちゃんに迷惑かけると思って坊ちゃんが逃げ回ってるとか言うからでしょ。
まあ…そこで仕返しに本当にそうだったなんてバレバレの嘘しかつけないあたりが、不器用なあの子達らしいけど…」
「せやかてそうでも言わんと、プーちゃんイギリスが自分と会いたないなら…とかヘタレるやん。
そんなことになったら、なんのために俺らお膳立てしたのかわからへんわ」
「いや、そうだけどさぁ…お兄さんおかげで1年も坊ちゃん家いれてもらえなくなったのよ?
訪ねていったら必ずドイツがいて追い返されるんだもん。参っちゃった」

と、隣の席に座ってフランスとスペインが話していると、ドアの方がざわついて

『ししょおぉぉーーーー!!!なんですか、これ、なんですか、これえええぇぇーーー!!!』
という、日本の凄まじい悲鳴が会議室に響き渡った。

へ??

そのあまりの勢いに顔を見合わせる二人。
そして二人してガタっと立ち上がると、ドアのあたりに出来た人ごみに飛び込む。

「ヴぇーー、可愛いなぁ。ね、この子女の子?」
ドアの所には久々にみるイギリス。
その横には会議には出ないはずのプロイセン。
そして、さらにプロイセンと共にイギリスをガードするように、もう片方の隣にはドイツが陣取っていて、イギリスの腕の中にはもう一人小さな生き物…。

おそらくイギリスのお手製なのだろう。
真っ白なおくるみに包まれた赤ん坊は頭も体も手も足も何もかもが感動するくらい小さくて、広い額や長い睫毛、そして少し吊り目がちな大きな目など顔のパーツは綺麗な三日月形の眉毛を除けばイギリスそっくりだが、さらさらの銀色の髪や珍しい真紅の目など、色合いはプロイセンとそっくりだ。

まぎれもなく二人が混ざり合ったようなその赤ん坊を皆が大騒ぎで覗きこんでいて、どうやらドイツのガード網の内側に入る事を許されているらしいイタリアのクルンがハート形を描いて揺れている。

「いや、イギリスに似て世界で一番美人だからそう思うのは無理もねえけど、これで男なんだぜ?」
と、それに得意げに答えるプロイセン。

スペインと一緒に色々聞かなければ…とさすがに思うフランスの横を、しかしそのスペインがすさまじい早さで通り越していった。

「かっわかわええええええーー!!!!親分にも抱っこさせたってぇぇ!!!」
鉄壁のムキムキ包囲網をすごい勢いで突破して手を伸ばす。

――ああ、そうだ…こいつ本能のままに生きるペドだった。事情きくどころじゃないわ。

スペインはもう小さな生き物の前には全てがどうでも良いらしいが、横でガードをたやすく突破されて茫然としていたドイツが我に返りこめかみに青筋をたてているので、大事になる前にとフランスは慌ててスペインを回収しに行った。

「んじゃ、そろそろ会議の時間だろ?
俺様はフリッツと控室で待ってるから。
あ、日本はあとで一緒に食事するか?」

イギリスから赤ん坊を受け取りながら、プロイセンはおそらくイギリスが今日一番子どもを見せたかったのであろうイギリスの最愛の親友で自分の元弟子の島国に声をかけると、日本はキラキラした目で大きく頷く。

イタリアがいいなぁ~~とそれとなくねだるようにドイツを見あげるので、それには
「イタリアちゃんはヴェストと一緒に今度家にゆっくり見に来な。
日本はほら、家遠いしな」
と苦笑して、赤ん坊を連れて会議室を出て行った。




こうして会議後、選ばれし国となった日本は混乱を避けるためにと退出順までしっかり管理したドイツのおかげで無事イギリスと共に一番に会議室を後にした。

そして向かうのは随行員用とは別に用意された控室。



「おう、会議終わったのか。ちょっと待ってな~。今フリッツのめしだから」

ドアを開けるとかつては剣や銃を握った、そして今も鍛練を欠かさないためゴツゴツとマメだらけの手に哺乳瓶を握り、しっかりともう片方の手に抱いた赤ん坊にミルクをやるプロイセンの姿。

なんとも手慣れたその様子に、日本が
「さすが子育て経験豊富な師匠ですねぇ…」
とほぅっとため息をつくが、プロイセンは赤ん坊からは目を離さずにその言葉に苦笑した。
「子育てって、ヴェストの事ならこんな時期から育ててねえよ」
「あ…そうでした」
「病院やってた頃だって診てたのは基本的には怪我した大人の野郎どもだしな」
そう言いながら赤ん坊が飲み終わった哺乳瓶をイギリスに手渡し、自分は赤ん坊を縦抱きにして器用にげっぷを出させている。

赤ん坊がぷふっと空気を吐きだすと、今度はおむつ替え。
こうしてみると元軍国というより、普通の若いイクメンだ。

「でも…驚きました。
本当の本当に師匠とイギリスさん双方にそっくりで」
「だろ?」
「国に子どもが出来るなんて事ってあるんですねぇ…」
「は?」

日本の呟きに、そこで初めてプロイセンが驚きの表情で手を止めた。
しかしすぐ、これ頼むわとおむつ替えをイギリスにバトンタッチして日本の方へ。

「ジジイ、お前が教えてくれたんじゃねえか。
1年前俺様が相談しに行った時に…」
「え?私が?!何をですっ?!!」
「なんだか世の中には3種類の人種がいて、αの俺様とΩのイギリスの間でやることやったら赤ん坊が出来るって……」
「えっ………」

日本の顔が驚きの表情のまま固まった。

「で、俺様が酔った勢いでイギリス襲っちまった事まで知ってて、それであいつに子ども出来た事まで…」
「ちょ、ちょっと待って下さい。ジイ、今混乱中です」
と、手を消毒しながら言うプロイセンを手で制して、日本は必死に当時を思い出す。

あの当時は師匠とイギリスさんをモデルにしたオメガバースネタを描いていた。
ああ、途中で師匠が訪ねて来たような?
私あの時何か口走ったんでしたっけ?
その時のネタの話?
え?え?え?





本来出来ないはずの国の子ども…
それが出来たのは誰にとっても想定外だ。

唯一事実を知っているイギリスだって、腹の中の子どもに盛大に内側から蹴りあげられるまでは、膨らんできた腹は単にプロイセンが一緒に住んで食事を用意し始めたため一気に良くなった食事状況によって太ったものだと信じ込んでいたのだ。

しかしぼこん!と内側から蹴られて何が起きたかわからず動揺のあまり泣き出して、さんざん医師にきちんと診せて検診を受けるべきだと常々説得中だったプロイセンに連れられて病院に行き、エコーでだいぶ大きく育った子どもを目視してその存在を知った。

もちろん帰宅してから妖精たちに、
『子どもなんて居ないって言ったじゃないか』と言えば、
彼女達は目を丸くして口々に言う。

『だって子どもが居なければ彼がいなくなるってイギリスが言ったから』
『私達の可愛いイギリスの望みだったから』
『私達、言ったでしょ?』
『私達がいるからって』
『私達ならあなたの願いを叶えてあげられるから…』



――大丈夫、私達がいるわ…

ああーーーー!!!!
思いだしてイギリスは頭を抱えた。

あれはてっきり自分達が居るから1人じゃないという意味だと思っていたが、私達がいるからイギリスの願いを叶えてあげられるという意味だったのか……


それでもどういう形で?と聞くのは怖くて、おそるおそる出産を迎える。

そして帝王切開で麻酔から覚めたイギリスの目の前には少し涙ぐんだプロイセンが小さな赤ん坊を抱いて立っていた。

さすがに自分の勝手で作ってしまったクローンを一緒に育てさせるのは悪い…と、まだそんな悲観的な考えが抜けきっていなかったイギリスは、自分にそっくりな顔立ちだが、髪と目の色はまぎれもないプロイセンの色で、どうやら赤ん坊が自分だけのクローンとかではなくプロイセンの血も引いている事にホッとする。

まあ、意識が戻った時の
『大怪我も切り傷もいい加減慣れてるはずだったんだけどな。
イギリスが腹切るとかすげえ緊張したし、意識が戻るまで本当に生きた心地しなかったぜ。
赤ん坊はすっげえ嬉しいけど、やっぱり大事な嫁さんの身が保証されてる前提だからな。
お前に何かあったら何の意味もねえ』
と言うプロイセンの言葉に、そんな悲観的な気持ちも吹っ飛んでしまったのだが……




子どもが産まれる前、1人の体じゃないのだからと色々うるさかったプロイセンは、産んだら産んだで、出産で身体が弱っているのだから大人しく休んでいろと、やはりうるさい。

家事だけじゃなく育児まで一手に引き受けて、特にミルク作りは絶対にやらせてくれない。

『イギリスの作ったモンを口にすんのは俺様だけで十分だ』
などと、しっかりしているくせに可愛い事を言ってくるから、まあやらせておいてやることにしているが…その話をする時のプロイセンの顔が何故か青いのは気のせいだろう。

プロイセンだけでなく、なんとドイツも暇さえあれば訪ねて来て、あれやこれやと世話を焼かれて不安を感じる暇もない。

ということで、本当は出産後、手術の傷がふさがり次第仕事に復帰したかったのだが、ムキムキ二人に最低1カ月は大人しくしておけと散々怒られて、2カ月たった今日、出産後初めての世界会議と相成ったわけである。



と、イギリスがそんな諸々を思いだしている間も、日本は混乱したような笑顔のまま固まっていた。

そこで、
「あー、もしかしてイギリスには相談受けた事口止めされてたとかか?
わりっ、ジジイに聞いたって俺様言っちまったけど、別に怒ってた様子もねえし、今こうやってうまくやってっから大丈夫」

と、固まったままの日本の肩をプロイセンがなだめるようにポンポンと叩く。
よくわからない…わからないがここはもうそういう事にしておこう…と、日本は
「え、ええ、まあ…」
と曖昧に笑ってごまかすことにした。

…お茶を濁す…それは日本がよく使う方法ではあるのだが……



「にほ~ん!!ね、俺も欲しいっ!!俺はどう?子ども産める?!」
「日本…私はどうだ?別に産むのは兄さんの方でも良いのだが。
隠しだてすると容赦しないぞ」
「日本君、お願い、やめてっ!僕については言わないでっ!!」
「日本ちゃん、親分も赤ん坊欲しいねんけど、誰やったら産んでもらえるん?
出来れば可愛え子ぉがええんやけど…」

今回に限っては後悔した。
世界会議中どころか世界会議後に帰国しても鳴りやまない電話、届き続けるメール、そして中には押しかけてくる輩まで続出で、日本は思いっきり後悔した。

「知~り~ま~せ~ん!!!!」
言っても今更信じてくれない国々に、今日も日本の悲鳴が響き渡るのだった。 






0 件のコメント :

コメントを投稿