本田の妄想・悪友の企み・ギルベルトの暴走 後編_3

プロイセン、さらなる暴走



国ではないので会議自体には出席しないため他国は知らないかもしれないが、世界会議はもちろんの事、欧州会議などある程度の規模の会議には大抵プロイセンはドイツの職員として随行している。



そんなわけで職員用の部屋で待機なのは今回だけではないのだが、今回ほど随行したかった会議はない。
そう、今日はあの日から初めてのイギリスが出席する会議なのだ。

出来れば直接話をしたい。
だがもしそれが嫌ならせめてドイツ伝てで良いから何か手助けがいるようなら何でも言って欲しいし、出来る限りの事をする気持ちがある事を伝えたい。

イギリスが着信拒否にするくらい自分の声を聞きたくないなら、胎教に悪そうだし会わない方が良いのだろうと思いつつ、それでもやっぱり会いたいと想いが募る。

そんな気持ちでジリジリと待機していたプロイセンのところにそろそろ会議の時間のはずなのにドイツから電話がかかってきた。

なんとイギリスが自分に直接話を聞きたいと言っていると言うのだ。

どうする?と聞かれても否と答えるわけがない。
プロイセンは電話を握り締めたまま部屋を出て廊下をダッシュした。

本当にこんなに必死に走ったのはどのくらいぶりだろうか…。
2階ほど上の階にある医務室にいると言うのでエレベータを待てずに非常階段をかけあがり、さらに廊下を必死に駆け抜け、一路医務室へ。

バン!とドアを開けると愛しのイギリスはベッドの上で半身を起している。
顔色が悪いので体調不良で運ばれたのだろうか…。
それについて尋ねるのが先か、まず再度の謝罪が先かと、即断即決のプロイセンにしては珍しく何か言おうと口を開いたまま迷っていると、イギリスの方がいきなり頭を下げた。

「お前をこんな風に巻き込む事になるとか考えてもみなかったんだ!
迷惑かけて悪いっ!!」
と言う声は震えていて顔色も相変わらず真っ青なため、これは迷うことなく
「とにかく横になれっ!お前真っ青だぞ。普通の体じゃないだから」
と、プロイセンは駈け寄ってやや強引に、それでもゆっくりとイギリスを横たわらせた。

そうしながら考える。
巻き込む?迷惑?何が?子どもの事か?
もしかして自分が子どもが出来た事を迷惑に思っているように思われているのか?!

自分がそんないい加減な奴だと思われていたのか?と少なからずショックを受けながらも、しかしあの状況では悲観主義なイギリスにそう思われてもしかたないのかも…と思いなおす。

そうしてプロイセンは横たわらせたイギリスと視線が合うように、自分はベッドの横に膝まづいた。
そして出来る限り優しい声でもしかして伝え損ねていたかもしれない事を伝える事にする。

「…ごめんな。俺様動揺しすぎてて伝えてなかったか?
確かに酔ってタガがはずれてたかもしれねえけど、俺様はいくら酔っ払ってても好きでもねえ奴抱いたりはしねえ。
ずっとお前の事好きだったんだ。
だから少しずつ段階を踏んで関係を深めていくつもりだったんだけど、酔ってやらかしちまって…本当に悪い!
好きな奴の気持ち踏みにじって強姦とか最低だよな。
軽蔑されても仕方ねえ。
最低なのは俺様でイギリスは何も悪くねえから。
巻き込んだのは俺様の方でイギリスじゃねえ。
子どもの事だって…順番は間違っちまったけど俺様はすげえ嬉しいし、責任とか言っちまったけど別にそんなのなくたって育ててえんだよ。
出来ればちゃんと籍を入れてお前と二人で育てていきたいけど、お前が俺様の顔なんてもう見たくねえって言うならそれでもいい。
金でも雑用でもその他何でも良い。
出産、育児に関しては俺様にも協力させてくれ。
もちろんお前が育てたくねえっつ~んなら、俺様が手元に引き取ってちゃんと可愛がって育てるし……」
「ちょっと待てっ!!」
と、そこでイギリスがプロイセンの言葉を遮った。

「ちょっと待ってくれ…」
とプロイセンよりは一回り細くて繊細な手がプロイセンの唇を押さえる。
ぎゅっと目をつぶってそういうイギリスの顔は真っ青だったさきほどまでとは違って真っ赤だ。

もしかして…これ、脈ありか?
俺様まだ嫌われてない?
頑なに避けられていたのは、もしかしてプロイセンが酒に酔って気持ちがないのに抱いたと思っていて、子どもが出来た事を迷惑がられると思ったからか?

プロイセンは一気に舞い上がった。

そしてさらに
「イギリス、俺本当にお前の事ずっと好きで…」
と言い募るのを真っ赤なイギリスに
「だ~か~ら!!ちょっと待てっ!!話を聞けっ!で、確認させろっ!!」
と、押しとどめられた。

「…わかった。なんでも聞いてくれ」
と、少しじれったく思いながらも、イギリスは何でも悲観的に取って斜め上の方向に暴走する性質なのも知っているので、いったん譲ることにして押し黙る。
それでも嬉しくて愛おしくて、手でその黄色い小さな頭を撫でた。

「お前…俺のメール見たか?
俺はスペインに言われてお前をひっかけただけだから文句はスペインに言ってくれっていうやつ」
「ああ、見た。
で、あいつにメール送った。
ホテルに帰ってお前がチェックアウトしたってわかって、そのまま俺様もロンドンに飛ぼうと思って空港着いたらメール来てたんで読んだ。
で、まずお前に話をと思ったら着信拒否になってたから、スペインの方に電話して事情を聞いたけどそんな事言った覚えはねえって。たぶんイギリスが俺様避けるために言ってるんだと思うって言われたんだけど?」

…あのクソトマトーーー!!!!!!
もしかしてここまで込みでの埋め合わせかっ?!
落ち込んでいるだけと思っていたが、実は怒っていたのか?!

ピキっと来つつも先にやらかしたのは自分の方なので文句も言えない。
イギリスはそう思ったが、続くプロイセンの

「でもだからと言って俺様が腹の子の父親なのは変わりねえんだから、きっちり責任は取って来いって言ってて…」
の言葉には、さすがに物申したくなった。

やりすぎだ。
やらかした自分にはとにかくとして、とりあえず間違いを起こしても真面目に対処するとわかったプロイセンをそれ以上何かに巻き込むのはいかんだろうと思う。

「そのデマの出元…スペインだったのかっ!」
といきり立つと、なんとプロイセンはあっさりそれを否定し、驚くべき事実を口にした。

「デマ?子どものことか?
いや、子どもに関して教えてくれたのは日本だ。
俺様ホテル出てお前が好きそうなデートコースとかの相談に日本宅に駆け込んだから」
「にほんーーーー?!!!!」

あまりに意外な人物すぎて、そのあと言葉が出てこない。

「あーなんだかよ、世の中にはαとβとΩって3種類の人種がいて、Ωの発情期にαと性交渉を持つと同性でも子どもが出来るんだと。
で、お前はΩでちょうどそういう時期だったからαの俺様の理性がちっとばかり揺るぎやすくなってたらしい」

え?ええ???ええええ???!!!!
イギリスはパニックに陥った。
いやいや、ないだろ、俺らは国だし…という心の声を拾ったかのように、プロイセンは

「実際ローマの爺にはイタリアちゃんとお兄様って孫がいるわけだしな?
俺らは女と寝ても出来ねえからそうだって思ってたけどよ、すげえレアな条件下でしか生まれないって事なら、単にその稀なケースを見逃してて、国なら子どもは出来ねえって思ってたんだろうな」
と、持論を展開してくれる。

そこに追いうちをかけるように今度はドイツが
「今日イギリスが体調が悪かったり、さきほど戻したりしていたのは、いわゆるつわりというやつなのではないのか?」
などと言うので、イギリスはさらにパニックを起こした。

そして動揺しすぎて《実はプロイセンと性交渉を持ったと言う事自体が誤解である》という事実がとうとう抜けおちる。

え?ほんとに?え?まじで??
と段々芋兄弟の思い込みに洗脳されて行くイギリス。

「そう…なのか?」
と見あげると、思い切りきっぱりはっきりと自信を持って頷く二人。

ここにもう少し知識のある人間がいるならば、性交渉を持って1週間もしないうちにつわりなんて起こらないと指摘してくれるのだろうが、あいにく医務室の人間はさきほどから席を外している。

こうして3人の人間が日本の原稿のネタから生じた誤解にどっぷりつかって行くのであった。




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