悩めるフラ兄
「坊ちゃん…上手くやってくれたかなぁ…」
普段ならホテルのラウンジ派なのだが、今日は聞かれたくない話と言うのもあってホテルでルームサービスの朝食。
愛の国を自称する世界のお兄さんの現在の心配事は悪友の1人の恋の行方である。
非常に愛に飢えた幼馴染の弟分イギリスに恋心を寄せる年下の悪友プロイセン。
もう何百年も一途に想いを寄せ続けている事でもあるし、ドイツが統一されたあたりで国家と言う枷から自由になって他の都合に左右される事なく愛情を注ぐことが出来る彼なら寂しがり屋の愛されたがり屋であるイギリスを幸せにしてくれるはず。
そんな双方を心配する兄心とは裏腹に、その恋はきっかけを掴む事ができないまま進展する様子がない。
そんな時、退屈していたらしいもう一人の悪友が言ったのだ。
「プーちゃんからきっかけ作れへんなら、イギリスの方から作らせたったらええやん」
それは悪魔の囁きだった。
決してその前日にアメリカから酷い事を言われて酔いつぶれた坊ちゃんを迎えに行って殴られて青あざを作って、
(これ…プーちゃんいたらプーちゃんなら喜んでお迎え役引き受けてくれるかも…いや、そもそもがプーちゃんがいたらアメリカに暴言吐かせる前になんとかしてくれるはず)
などと思ったからでは断じてない。
断じてそんな理由ではないのだっ!
スペインの言葉に乗ったのは、飽くまで愛の国のお兄さんの思いやりなのである。
ともあれ、作戦は決行された。
計画自体は単純だ。
イギリスをなんとか騙して謝罪にプロイセンを騙すようにそそのかす。
理由はスペインがプロイセンに夜遊びを注意されてプロイセンだって同じことをするはずだと思うので同じ状況においてみたい…くらいで良い。
もちろんプロイセンはずっとイギリスに片想い中というのを別にしても、性には真面目すぎるほど真面目な性格だ。
酔って記憶がないにしても万が一にでもイギリスと寝てしまったら当然責任を取るという方向に動くだろうし、その経過で実は…と告白は当然するだろう。
疑い深いイギリスの事だ。
これが相手が他の…それこそ自分やスペインなら疑ってもかかるだろうが、国だった頃から戦略以外ではプロイセンの誠実さ正直さはイギリスですら認めるところではあるし、方便という方法を使わない性格も熟知している。
そんなプロイセンに実はずっと好きだったと言われれば、それ自体は疑いはしないだろうし、最初はそんな気がなくとも愛に飢えたイギリスの事だ。
ずっと好きだった一緒になりたいと言われ続ければ絆される可能性は低くはない。
ようは…プロイセンの方にそこまで強引に迫る気があれば全てはハッピーエンドなのだ。
相手に迷惑なのでは?という、恋愛に関しては一歩引いてしまうプロイセンを動かす理由としては、責任を取らなくてはならない立場と言うのは実に有効なように思われる。
これで押して押してイギリスが絆されてくれれば……そう思って世界会議最終日。
予定通りプロイセンを酔いつぶしたイギリスが自分のホテルの部屋にプロイセンを運ぶのを手伝って、自主的に自室に戻る。
ここでフランスまで一緒にいたら意味がないからで、決してイギリスに蹴り飛ばされたのが原因ではない。
そうして待つ事一晩。
「ふ~らんす~!ぷーちゃん、やったでっ!!」
と、自分の携帯を振りかざしながらにこやかに部屋に入ってきたのは、言いだしっぺのスペインだ。
手にした携帯には
『おい、腐れトマト、お前の作戦は失敗だぞ。
お前の悪友はお前と違って間違いを犯したら償う気満々だ…。
どうするよ?俺このままだと一生かけて償われそうなんだが……』
とのイギリスのメール。
失敗ではない。ある意味成功なのだが当然イギリスはそれを知らない。
そうだ、プーちゃん頑張れプーちゃん、一生かけて償ってしまえっ!!
心の中で応援をするフランス。
「やっぱプーちゃん、やる時はやる子やんなっ」
「あ~まあ坊ちゃんもこんな事言ってるけど、騙されてるって心配がない相手から好意をぶつけられれば絆されちゃう可能性高いしね。
そのうち『こいつがどうしてもって言うから』とか可愛げのない事言いながら真っ赤な顔でお付き合い始めました報告が聞けるかな」
と、二人で祝杯をあげるフランスとスペイン。
しかしながら…それがヤッてしまった責任をはるか越え、とんでもない方向へと暴走していくことを、この時の二人はまだ知らない。
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