続 聖夜の贈り物 - 大陸編 7章_2

「じゃ~ん♪見て見て♪フェリ特製らぶらぶサンド♪」
翌日、アントーニョ、フェリシアーノ、ギルベルトの3人は朝からキッチンへこもってランチボックス作りに励み、アーサー、ルート、ロマーノ、マシューを加えた7人で街外れの丘へピクニックへ。


ちょうど咲き誇るシロツメクサで花冠を作るアーサー、フェリシアーノ、マシュー。
それに飽きたら小川で水遊びに興じたりと、それぞれ楽しく過ごしてのお昼時。

まずランチボックスを開けたのはフェリシアーノだ。
ハート型のパンの中にピンク色のハムが見えるサンドイッチに薄いピンクのハート型のリンゴのコンポート。卵焼きはさすがに黄色いものの、やっぱりハート型。もう色々がハートで、それをニコニコとルートヴィヒに差し出す。

「可愛いのはわかったけど…それじゃあ腹ふくれねえよ…」
と、一部が思っていたであろう事を遠慮なく代弁するロマーノ。

「あ~、それなら親分の食べ。」
と、アントーニョが取りだすランチは色々な具材の入ったエンパナーダ、パエリア、その場で作るパン・コン・トマテにデザートのチュロス。
「なんだか懐かしいメニューだな」
と、ロマーノは目を細めた。

「おい、俺様のランチ、見て驚くなよっ!」
と最後に取りだしたのはギルベルト。
「どうせあげた芋とか茹でたヴルストだろ?」
と言うロマーノに、ちげーよ、と返したギルベルトが掲げたボックスの中身を見て、マシューとフェリシアーノ、そしてアーサーが歓声をあげた。

「なにこれなにこれ?!ギルすご~~い!!!」
歓声を上げるフェリシアーノ。
「うん、可愛いな。」
「可愛いですぅ~」
と、アーサーとマシューも目を輝かせるそのランチボックスの中身は、確かにウィンナーが中心なわけだが…花やタコ、ウサギにヒヨコと、見事な飾り切りのオンパレードだ。

「お前…無駄に器用だな」
とロマーノも覗きこんで、言葉は悪い物の感嘆の声をあげ、ミニトマトとウズラ卵でできたキノコをひょいっとつまんで口に放り込む。

全員がその可愛らしいランチボックスに注目をしている中で、背にした木の影からソロ~っと手が伸びてきた事に気付いたのはマシューだった。

「君はいきなり現れたと思ったら何してんのさっ?!」
ピシっと珍しく強気に伸びてきた手を叩く。

へ?全員が普段のマシューらしからぬ強気な行動に注目する中、
「君がおっかけてくるからわざわざ迎えにきてあげたんだぞっ。パンの一つくらいいいじゃないかっ」
と、悪びれず木の影から出てくるのはマシューくらいの小さな子供。
マシューより少し濃い金色の髪と空色の瞳の可愛い子供である。

「あ~、もしかして双子の?」
ギルベルトの言葉に、はい、とうなづくマシュー。

全員がまたホ~っと注目する中、子供、アルはジ~っとアーサーに注目している。
そして、おもむろに肩からかけていたバッグの中から何やら茶褐色の液体を取りだすと、グビグビと飲みほした。

とたん…いきなり背がニョキニョキ伸びる。
何故か服も一緒に伸びて行くのはマジックドールだからか。
そうこうしているうちに推定年齢10代後半くらいにまで伸びて止まった。

「あ~~~!!!」
何かを察して慌ててかけよるマシューを
「君、もう戻っていいんだぞ。」
と軽く手でこづいて転がすと、アルはひょいっと軽々アーサーを抱えあげた。

「何やっとるん!!」
そこでようやく我に返ったアントーニョが、慌ててアーサーをその手から取り戻す。
「何って…この人は俺のものなんだぞっ。返してくれよっ」
とアルはプク~っと頬を膨らませた。

「何言うてんのん!アーサーは親分のモンやでっ。気易く触らんといてっ!」
「君こそ何言ってるんだい?アルトゥールは300年も前から俺だけのものなんだぞっ。君こそきやすく触らないでくれよっ!」
「アルトゥールやないっ!アーサーやっ!」
「違うっ!アルトゥールだっ!ね、俺の事忘れちゃったのかい?アルトゥール。俺280年も君を待ってたんだぞっ。どうせ鈍くさい君の事だから一人じゃ戻ってこれなくなってるんだろうって思って、迎えにきてあげたんだぞっ。俺も欠片探してあげるから、一緒に行こう?」
と、アルは今度はいきなりの展開に呆然としているアーサーに手を伸ばす。

当のアーサーはと言うと、今の状況に全くついていけてない。
ただ知らない人間にいきなり手を伸ばされて、思わず自分を抱え込んでいるアントーニョにしがみつく。
それにアルは少し傷ついた目を向けた。
「俺の事…忘れちゃったんだね…。」
と言う言葉には少し可哀想な気になるが、覚えていないと言うより、会った事がないと断言できる。しかたない。

「アル、違うんだ。この人は…」
マシューの言葉も
「違わないんだぞ!」
とアルは遮る。
「どんなに時がたったって、アルトゥールが俺を忘れちゃったって、俺は絶対にアルトゥールを忘れないんだぞっ!忘れちゃったんならまた思い出してもらえばいいんだっ。280年もずっとずっと待ったんだっ。思いだすまで何年かかったってたいした時間じゃないんだぞ!」
「ええ加減にしいやっ!」
「いい加減にするのは君の方なんだぞっ!あくまでアルトゥールを返さないなら、俺は君を退治しないといけなくなるぞっ!」
「おお、上等やっ!退治されんのは自分の方やでっ!」

昨日想像した悪夢が実際に繰り広げられようとしている事に、マシューは頭を抱えた。

すでに自分の備え付けられているマグナムを構えてるアルと、紅のハルバードを振りかざすアントーニョ。

「お前はこっちっ!」
と、すかさずロマーノが呆然と立ちすくむアーサーの腕を取って自分の側に避難させ、それをかばうようにギルベルトがその前に立つ。

なごやかなピクニックが一転、バトル会場へと変化した。

「なぁ、なんでお前の弟伸縮自由なんだ?」
一応警戒はしながらも観戦モードに入ったギルベルトは好奇心をそそられたらしく、マシューに聞いてくる。
「えっと…アルは元々は戦闘タイプのマジックドールなので、普段は子供の姿でも必要な時は戦えるように、コーラ飲むとああいう戦闘形態になるんです。」
「へ~、よくできてんなぁ…」
ぴゅ~っと感心したように口笛を吹くギルベルト。

「ちなみに…お前も作れんの?」
と、今度はアーサーに振るが、アーサーは無理だ、と即答した。
おそらくマシュー達のマスターは自分などよりよほど才能のある魔術師だったのだろう。
魔法工学は得意な方だがここまで精密なマジックドールは絶対に作れない。
せいぜいゴーレムが良いところだ。
というか…こんな精密なマジックドールを作れる技術があったなど、カークランドの書庫に連なるどの本にも書いてなかった。
今まで当たり前に受け入れてきたが、そう考えるとマシューやその弟アルの存在は随分と不思議だ。
そもそも…そんな優秀な魔術師が何故途中で宝玉の欠片集めを投げ出して森の奥で隠遁生活を送る事にしたのだろうか……
考えれば考えるほどわからない。

そんな事を考えている傍らでアルとアントーニョの戦闘は続いている。
とりあえず…アルの飛ばしてくる弾丸はハルバードを振り回しているだけで、ハルバードの高熱の炎が溶かしてくれる。
ただ、不思議な事に何度かハルバードがアルに傷を追わせているはずなのに、傷を負わせる端からふさがって行くのだ。

これキリないなぁ…
とアントーニョは心の中で舌打ちをする。
相棒…どないする?
なんとなく最近よくそうしているように、今は紅のハルバードと化している炎の石に問いかけて見ると、炎の石は応えるように輝き、その輝きの中で一か所、アルの中で光らない場所が浮かび上がった。
なん?ここ攻撃せいって?
と再度語りかけると、肯定するような意志がアントーニョの中に流れ込んでくる。

よっしゃ、やってみるわ。
アントーニョは炎の石が示したアルの背中、葉の形に浮かび上がった場所に向けてハルバードを投げつけた。

飛んでいったハルバードがアルの背中にあたると、触れた瞬間に何か輝くモノにハルバードは弾かれてアントーニョの手に戻り、輝く何かが同じくアントーニョの手元に飛んでくる。

それを確認するのは後回しにして、アントーニョが再びハルバードを構えてアルに向かおうとすると、いつのまに近づいたのか、アーサーがかばうように立ちふさがる。

「もう勝負はついたから。やめてくれ。」
そう言うアーサーの向こうではマシューが膝をついているアルの一房跳ねた金色の毛をギュっとつかみ、それと同時にアルはシュルシュルとちぢんで元の子供に戻った。
どうやらその一房の跳ねた毛をつかむと元に戻るらしい。

「何するんだいっ、マシュー!」
小さくなったアルがプンプン怒って言うのに、マシューは腕を組んでやはり少し怒った口調で答える。
「いい加減にしなよ、アルっ!君ときたらいつもいつもいつも自分勝手で一人で突っ走って、だいたいいきなり連れに喧嘩ふっかけられたマスターの迷惑とか考えた事あるの?少しは協調性ってモノを学んだらどうなのさっ…ほんとに君はいつも我儘で他に迷惑かけて………」
長々と続くマシューのお説教。
だんだんアルが涙目になっていく。
こうしているとなるほどお兄ちゃんらしい。

「まあその辺にしといてやれ。ほら、手当てしてやるからお前こっちに来いよ」
さすがに気の毒になって来たのか、ギルベルトが間に入って手まねきをする。

「え?怪我??」
その時初めて背中に薄く出来た傷に気がついたらしい。
アルとマシューはぽか~んと呆けた。
「なんだよ、いくらお前らだって切られたら傷くらいできるだろうよ。」
当たり前に言うギルベルトに二人揃ってフルフルと首を横に振る。

「な…なんだよ。こんなん変なんだぞ!こんなんおかしいんだぞ!」
アルはパニックになったように叫ぶと、止める間もなくぴゅ~ん!と飛んで行った。
マシューもオロオロしたままだ。

そんな中、ハルバードを収めたアントーニョが駆け寄ってくる。
「なあ…あいつからこんなん飛んできてんけど…」
手の中には半円の水晶。中には水がクルクル渦巻いている。
「これ…もしかして欠片なんじゃないの?」
フェリシアーノがヴェーと首を傾けながら言う。それに対して
「しかし…半円だぞ?アントーニョの炎の石にしても、南の王から手に入れた風の石にしても球体ではなかったか?」
と、ルートヴィヒが眉を寄せた。

「もしかして…」
少し時間をおいたことで落ち着いたのか、マシューが思いついたように口を開いた。
「それ癒しを司る水の石なんじゃないでしょうか?僕達今まで怪我するような事があっても一瞬で治ってしまってたんですけど、それはその石の影響で……それが半円なのはたぶん……」
「半分はお前の中にある…ってことか?」
と言うギルベルトの言葉に、マシューはうなづいた。
「だと思います。どうしてマスターがそんな事したのかは謎なんですが…マスターはすでに水の石だけは手にいれていて、それを僕とアルに組み込んだんですね。」

「あ~ちょっと待った。てことは?結局どうすればいいんだ?」
くしゃくしゃと頭を掻いて言うギルベルトに、マシューはきっぱりと言う。
「取りだしましょう!」

「…って言っても…どうやって?取りだす事でマシューに危険はないのか?」
そこでアーサーが少し気遣わしげに言うが、マシューは
「大丈夫。僕は人間じゃありませんから」
と微笑んだ。

「それ違うだろっ!お前はもう俺の仲間で、家族みたいなもんで…それを犠牲にして石集めるなんて俺は皇太子として許さねえぞ!」
マシューの言葉にロマーノが声を荒げた。
「あ~、まあ落ちつけよ、お兄さま」
そのロマーノの肩をギルベルトがなだめるようにポンポンと軽く叩く。
「弟の方からはちゃんと取りだせたわけだしよ、マシューからだって取りだせるんじゃね?」
「でも素人が下手にやって、マシューになんかあったらどうすんだよっ!」
半分涙目で詰め寄るロマーノにギルベルトがケセセっと笑いながら言った。
「俺様だってんな危険な事しろたぁ言わねえって。でも丁度良いところにプロがいんだろ。ちょうど風の石もあることだし、それ使って島戻ろうぜ」

「あ…カークランド本家か…」
「ああ。元々こいつらのマスターってのもあそこん家の魔術師だったみてえだし、あそこの頭領ならなんとかなんじゃねえの?」
「そっか…そうだよな…」
ロマーノが心底ほっとしたように息を吐き出した。

「フェリシアーノ、お前石今持ってんだよな?」
「うん♪これ俺のだもん♪」
すっかり自分がもらったつもりで袋にいれて首からぶら下げているフェリシアーノ。
「ね、これ俺に取りこんでよっ!」
とぴょんぴょん飛び跳ねてアーサーに迫る。

「え…でも……」
「ちょっと待てっ。お前が取りこむくらいなら俺がっ」
と、ためらうアーサーと止めるルートヴィヒだったが、フェリシアーノは
「石集めたいって言いだしたのは俺なんだから、俺に権利があるんだよ~!」
と、ぷぅっと頬を膨らませた。

「ま、ええやん。どうせ一緒にいるだけで狙われるんはこの前の誘拐でわかったんやし、逃げる手段もっといた方がまだマシやんか。」
と唯一アントーニョだけが気楽に賛同する。

「まあ…そう言われればそうだな。」
と、実兄のロマーノも賛同した時点で、アーサーが渋々了承した。

こうしてフェリシアーノに吸い込まれて行く風の石。

「移動する人は全員手をつないで、シンクロはマスターに任せて、フェリシアーノさんは強く行きたい場所をイメージして念じて下さい。」
とのマシューの言葉に全員手をつなぎ、
「おっけぃ♪やってみるよっ」
とフェリシアーノはにこやかに答えて目をつぶると、つい先日に行ったカークランド本家を思い浮かべた。

シュン!と周りの空気が一瞬で変わり、目を開けた時にはもうついている。
「すご~い!俺すごいよねっ!」
フェリシアーノはその能力におおはしゃぎだ。

「今みたいに一度行った事がある場所はイメージすれば一瞬でいけますけど、行った事ない場所は空飛ぶ絨毯の要領で何か媒体を用意して現地まで飛ぶ事になります。」
と、それにマシューが説明を付け加える。


「い、いきなり来たのは良いけど…兄さんになんて言えばいいんだろう…」
ああ、ウィル兄さんを通せばよかった…と今更ながら後悔するアーサー。
「お兄ちゃんなんだから、普通にお願いすればいいんだよっ♪」
と、それに対してフェリシアーノは飽くまで前向きだ。

そして…
「アーサーのお兄さ~ん!!こんにちは~~!!!お願いがあってきましたぁ~~!!!」
と塔の前で大声で叫んだ。







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