続 聖夜の贈り物 - 大陸編 6章_2

そして島へ向かう空飛ぶ絨毯の上…

「うぁ~~もう来月にはスコ兄に北の国滅ぼされてるね……」
フェリシアーノからアーサーが南に拉致された事を聞いたウィリアムはそう軽口をたたくが、顔からは血の気が引いている。


「そんなに強いならさ、お兄さん達には助けてもらえない?」
フェリシアーノにしては的を得た質問だったが、ウィルは
「無理。」
と小さく首を横に振った。

「さっきも言ったけどさ…あそこは磁場が強くて、魔法に対しては自然の要塞みたいになってるんだ。だからあそこに行っちゃうと魔術師はただの人以下。逆に向こうもあの地域にいる限り安全だから出てこないんだけどね…。お互い不可侵て感じの関係なんだよ。」

「じゃあ…助けられないの?」
肩を落とすフェリシアーノだったが、ウィリアムはそれには答えず、チラリとフェリシアーノの向こうで前を向いたまま黙りこんでいるアントーニョに目を向けた。

「炎の力…手にいれたんだ?」
「こんなんあっても、簡単に誘拐させてたんじゃなんの意味もあらへんわ」
唇をかみしめて拳を震わせるアントーニョだが、それにウィリアムは
「意味なくないよ」
と、答える。

「え?」
と聞き返すのはフェリシアーノ。

「さっき磁場の関係で魔法効かないって言ったけど、正確には効きにくいってだけなのね。ついでにいうとコントロールしようにも磁場が邪魔してできないんだけどさ、唯一の例外が身の内に入れた宝玉。
本体である人間と同化してるから、磁場の影響受けないんだ。
特に炎は攻撃に特化した性質を持ってるから、本体がきちんと御し方覚えればあの地方では最強の武器になるよ」
「ほんま?!」
「嘘言っても仕方ないじゃん。南に着くまでどうせ時間あるし訓練してみる?」
「当たり前やんっ!」

「そうか…元々宝玉の守人だったんだもんな、そりゃあ詳しいわ。」
感心したように言うギルベルト。
「ああ、今のうちお前、他の欠片の情報もきいておけよ。」
とロマーノがそれにうなづく。

「ん~とりあえず…シンクロ率めちゃくちゃ高くない?君」
ウィリアムは腕組みをしてアントーニョをジロリと見ると、呆れたように言う。
「そうなん?自分じゃわからんわ。」
「あ~、まあ考えたら負けなNOUKINストーンだもんね、炎って。いいや、深く考えずにまず身体の中の炎の石を意識してみて?」
「ん…」
言われるまま、アントーニョは石のある腹のあたりに意識を向ける。
するとどんどん身体が熱くなるのがわかる。

「うわ~光るんだねぇ」
フェリシアーノが感心したように言うと、ウィリアムがやっぱり呆れたように言った。

「普通は光るまで行かない…ってかシンクロしすぎ。“選ばれし者”を介在しないで石に即選ばれる事もレアなのに、出会って数日で光るまでいくってありえない。でたらめだよ、この男」

そう言えば自分がアーサーを連れ帰った時もカークランド有数の魔術コントロールを誇る自分の呪縛を一部とはいえ破ったのはこの男だった…とウィリアムは思い出した。
そんな常にはない何ががあるこの男が“選ばれし者”であるアーサーと出会ったのはただの偶然ではなく必然だったのかもしれない…。

「で?次どうすればええん?」
考え込んでいたウィリアムはそういうアントーニョの言葉でハッと我に返った。

「ああ、うん。じゃあさ、無理だとは思うけど武器の具現化行ってみようか。」
ウィリアムの言葉にアントーニョは黙ってうなづく。
「そのまま石を意識した状態で、なんでもいいや、自分に一番なじみのある武器を思い浮かべて見て?」

魔法の訓練を受けた自分達でさえ、イメージの具現化などそうそうできるものではない。
半分以上期待しないで言ったウィリアムだったが、次の瞬間、アントーニョが手にした紅いハルバードを前に目を丸くした。

「ええ?なんでぇ?!」
「ハルバード、あかん?」
驚いて叫ぶウィリアムにぽかんと首をかしげるアントーニョ。
「そっちじゃなくて…なんで武器出しちゃってるの?」
「いや、自分が言う通りにしてみただけやん」

でたらめだ…とウィリアムは心の中でつぶやく。

「君さ…魔法とか何かの訓練受けて育ったの?」
「いや?なあんもしてへんで?うち貧乏やったさかい、そんな余裕あるわけないやん」
「……」

目を丸くして言葉をなくすウィリアム。

「で?これどないしたらええん?」
ぶんぶんとハルバードを振り回すアントーニョ。
「うん。扱った感じは普通のハルバードと違えへんなぁ」

全然ちげえよ…とウィリアムは心の中でつぶやいたあと、
「もう…いいや。うん。NOUKINだもんね。考えたら負けだよね。」
と、大きく息を吐き出した。

「それ、冷めない高熱の武器だと思ってよ。だから切る力とか突く力とか、本来武器が持っている武器の力の他に高熱で熔解させるって力を秘めてるから、熱で加工する鉄とか金属も切り裂くんだ。ようは…通常の武器と打ちあった場合はほぼ打ち勝てる。」

「ほぉぉ~~それ最強じゃん。」
反応したのはギルベルトだ。
「他も何かそんな武器になるのか?」

ギルベルトの言葉にウィリアムは肩をすくめる。
「武器になるのは炎だけ。炎は攻撃を司ってるから。
水は癒しを司ってるから傷や病気とかの相手の生命力を高めて活性化させる…君の小鳥さんみたいなもの。
風は自由の石。僕の絨毯よりも高速に人や物を運ぶ。
土は防御。自らを固くして攻撃を防ぐ。
ただし…その力は身の内に入れた人間とのシンクロ率と比例するからね。
そこのお日様王子みたいに馬鹿みたいにシンクロする事まずないから。」
ウィリアムはちらりと物珍しげにハルバードを振り回すアントーニョに目をやった。

視線に気づいたアントーニョはいったん武器を解除して、ウィリアムを見返した。
「なあ…」
「なに?」
「もうちょっと低くは飛べへんの?」

遠く下に目をやるアントーニョの言葉の言外の意味を察してウィリアムは答える。
「低く飛びすぎたら視界がかえって悪くなるし、何かにぶつかる可能性考えたらこんなスピードじゃ飛べないよ。
向こうも追われる事を想定して簡単にみつからない航路で向かってると思うしね。」

「…そっか……」
がっくりと肩を落とすアントーニョ。

「今回は…完全に俺のミスやねん。ずぅっと一日24時間抱え込んでたのに、肝心な時に目…離してしもうたから…。アーサーに何かあったらスコ兄んとこ突撃して殺されてくるわ…」
「それ…笑えない。」
本人はいたって真面目なのだろうが、一日24時間抱え込んでるとかはねえよ…とウィリアムは顔をひきつらせた。

チビちゃん…なんかこういうタイプに愛されるよなぁ…。
消沈して遠く島の方角に目を向けるアントーニョの姿に、アーサーが大陸に行って以来、幾度となく塔の一番上にある元アーサーの部屋に足を運んで大陸の方を眺めていた長兄の姿が重なって見える。

思えばいつでも長兄の目は末の弟にむけられてた。
自分達に情を向けさせないため…と、昼につけた傷を夜にこっそりと癒しに通っていたのをウィリアムは知っている。
ざっくりと付いた切り傷が翌朝に跡形もなく治っている事に全く疑問を持たないような人間に育ててしまっていいものなんだろうか…とか、常々思っていたのは秘密だ。

情を向けさせない、依存させないと言いつつ、実は何もさせず、疑う事も教えず、大人になる事もさせないで、結局自分の檻の中でしか暮らしていけないように育てている事に気づいてないのだろうか…と、他人事ながら真綿で縛るような独占欲の中で育てられているアーサーを気の毒に思っていた。

だがその檻を抜け出したアーサーが選んだ相手がまた似たようなタイプだったりするあたりが、実はあれ共生依存だったんじゃない?もう宝玉探しなんて始めから考えないで家に抱え込んでベタベタに甘やかしてれば面倒なかったんじゃない?と、ウィリアムは呆れつつも思う。

そうしたら南の国なんて面倒な人種に関わらないでもすんだのに……


快楽主義…それがウィリアムの持っている南の国のイメージだ。
しかし快楽主義と言ってもフランシスのようなあけっぴろげなものではなく、ともすれば禁欲主義とすら思えるようなストイックな雰囲気があり、薄暗くわかりにくい。
呪術と麻薬を多く用いる彼らは、理路整然とした魔法論理を学ぶ事から始める自分達には理解しにくい、得体のしれないモノになのだ。

磁場の関係で魔法コントロールも乱れることから、あちらの方角は本当に鬼門だ。
まあ…魔法のコントロールなんてする気もないNOUKINの次兄アイルあたりなら、あの気味の悪い磁場や呪術にまみれたあの薄暗い空気の影響も受けずにいられるのかもしれないが……。

ある意味長兄が真っ白に育てすぎてしまったアーサーが、あの複雑にゆがんだ空気に取りこまれてしまったら、かなり危険なのではないだろうか…。
きちんと理論に基づいて作られる魔法の影響なら、きちんと理論を追って取り除いていく事は可能だが、あそこの空気は混沌としすぎている。


「とりあえず…最強の武器あることやし、アーサーになんかあったら南の国も道連れや!」
ぶつぶつと怖い事をつぶやくアントーニョの姿は、ウィリアムが真面目に関わりたくないと思っている某人物の行動を彷彿とさせる。

ああ、これで残るのは東西の国だけかも…
ウィリアムは遠い眼をして島の将来を思いやった。






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